ヒーラー・ステップ   作:クロノスター

11 / 12
10.大抗争『DAY7』side“18階層”前編

 

 時はオッタルとゼオンの戦闘が始まる前にまで遡る。

 

 場所は決戦の地である18階層。別名『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』。

 ダンジョンから這い上がって来るであろう【大最悪】。それを討伐する部隊がこの場所にたどり着いていた。

 

「今のうちに陣形を組むぞ!」

 

 リヴェリアの言葉を聞き、アリーゼたちは陣形を組もうとする。もうすぐ訪れる【大最悪】を討伐するために…。

 しかし、アリーゼたちが動こうとした瞬間に彼等(・・)は現れた。

 

「お前たちがここに来る事は想定していたぞ。そして、会うのは2度目だな、ゴジョウノ・輝夜」

 

 その言葉を発したのは、クジョウノ・白夜。彼は討伐部隊の中に目当ての人物がいるのをいち早く確認した。

 

「輝夜、あいつと知り合いなのか?」

 

「……少しだけな。まさか、このような場所、経緯で会うとは思ってもいなかった。驚きは驚きだが、それよりも…」

 

「どうしてダンジョンに入れたのか気になるか?」

 

「ッ!?」

 

 輝夜たちが何を疑問に思っていたのか察した白夜は、彼女たちがその疑問を口にする前に自身の口からその言葉を出した。

 

「当然の疑問だ。答えるつもりはないが、そこのハイエルフとドワーフは驚いていないな。まさか、想定していたのか?」

 

「フィンの奴が示唆していたからな」

 

「そうでなければ、儂らはここにいない。儂らの驚きがあるとすれば、それは闇派閥最高戦力のお前たち二人(・・・・・・)がこの場に来ていることだ」

 

 闇派閥最高戦力と言うのは、クジョウノ・白夜とゼオン・アストラに他ならない。

 そう、彼等はガレス達の前に現れていた(・・・・・)

 

「まさか、こちらに戦力を偏らせるとは…」

 

 リヴェリアも驚いている。作戦を立てるのなら、白夜とゼオンは分けるべきだ。【大抗争】を始めた時のように…。

 しかし、彼等はリヴェリアたちの前にいる。これは今の自分たちにとって、とても不利な状況だと敵の力の一端を知るリヴェリアは理解させられていた。

 

「ゼオン・アストラ。最強の治療師…」 

 

 リヴェリア達の前にいるのは、間違いなくゼオン・アストラ本人だ。しかし、今の彼の手に武器(・・)は握られていない。彼の使う武器『聖槍ロンギヌス』がその手には無いのだ。

 

「さて、這い上がってくる化け物がこの場に来るまで、お前たちの相手をしてやろう。まずは…、」

 

 白夜は標的を決めるため、全員を一瞥する。

 そして、彼は一呼吸すると、腰に携える刀を引き抜いた。

 

「まずは、ロキ・ファミリア。そして、その次にゴジョウノ・輝夜を殺す。ゼオン、お前はその他の者たちの相手をしてくれ」

 

「承知した」

 

 ゼオンの了承を得た白夜は、目にも留まらぬ速さでガレス、リヴェリア、アイズとの距離を縮める。

 そして、次の瞬間にガレスたちは斬られるのであった。

 

「ぬっ!?」

 

「ッ!!」

 

「ッ!!?」 

 

 何が起きたのか分からないガレスたちだが、白夜は魔法を使ったわけでも、特別何かしたわけではない。シンプルに速く動き、シンプルに速く斬っただけだ。

 

「全く、手応えの無い連中だ。これで都市最高の戦力の一角なのだから、嘆かわしいものだな。さて、トドメを刺すか」

 

 白夜が剣を振り下ろそうとした瞬間、輝夜は自身の刀でそれを受け止めた。

 

「受け止めるとは、意外とやるな」

 

「クジョウノ・白夜。名家殺し(・・・・)と呼ばれた大罪人。かつて会合でお前と目を合わせた時、私は戦慄した。お前の冷徹なまでの殺気にな」

 

「懐かしいな。罪人と呼ばれるのは結構な事だが、お前たちゴジョウノ家の者たちこそ罪人だろう?国家の犬であり、国家の懐刀。当時の俺が殺すべき予定だった者たち」

 

 輝夜は全力で刀を握る手に力を込めているが、白夜はそこまで力を入れていない。その気になれば、格下の輝夜など一瞬で斬り伏せることが出来る。

 だが、白夜はそのような事をしないでいる。理由は試したいからだ。正義という名の理想を今も心の奥に秘めている少女の強さを…。

 

「ゴジョウノ・輝夜。お前は何処まで舞える?」

 

「何?」

 

「『天上の流水、永遠に誘う世界、無限の夜──“インフィニタス・レゾナンティア”』」

 

 インフィニタス・レゾナンティア。それは白夜が使う魔法の中で最も強く、最も対処する事が難しい最高峰の魔法。

 

 輝夜は距離を取ろうと後退するが、彼女が動こうとした瞬間に彼女の腹部から血が飛び出す。

 何が起きたのか分からない輝夜だったが、その傷跡と痛み具合から斬られた(・・・・)のだと理解する。

 

「…ガハッ!…いつの間にッ!?」

 

「避ける事の出来ない不可視の斬撃。そして、それに怯んだ相手の首を斬るというのが俺のいつもの戦術だ」

 

「…ならば、何故それをしない…?私を殺そうと思えば、いつでも殺せた筈だ。…力量差は…明白なのだから」

 

「せっかくの宴だぞ。そこに転がっている奴らのように即退場されてはつまらないからな」

 

 白夜は倒れているガレスたちの事を一瞥した後、つまらなそうに彼等を侮蔑した。

 ガレス達は決して弱いわけではない。だが、それ以上の力を有している者からの選定。現実はとても残酷だ。

   

 痛む傷口を押さえながらも何とか立ち上がるガレスたちだが、その瞬間に声が響き渡る。

 

 

────ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 階層の隅々まで響き渡る咆哮に、冒険者たちは咄嗟に耳を塞いだ。白夜とゼオンすら、その存在に眉をひそめた。

 彼等をその存在(・・・・)を確認する。翼を持った蛇のような漆黒の歪な竜。それを呼び寄せた本人エレボスは、【神獣の触手(デルピュネ)】と名付けた。

 

「とても醜悪だな」

 

 白夜がそれを見た感想を述べると共に、アイズは神獣の触手を見て、我を見失うという事象に陥る。

 

「うあああああああああああああああああああっ!!!」

 

 アイズは風を纏い、何かに取り憑かれるかのように神獣の触手目掛けて猛進する。

 辺りにいるモンスターたちは、瞬殺されていく。

 

「身の丈にあっていない力。あのまま放置すれば、あの娘は間違いなく死ぬぞ?」

 

「黙れッ!!お前に言われなくても分かっている!!ガレスッ!!ここを任せるッ!!私はアイズを止めに行くッ!!」

 

 重症にも関わらず、リヴェリアはアイズのために駆け抜けた。それを邪魔されないためにガレスは白夜の前に立ち塞がろうとするが、輝夜の言葉によって阻止させる。

 

「【重傑(エルガルム)】、お前もあの怪物の元へ行け。【九魔姫(ナイン・ヘル)】だけでは無理だろう」

 

「何を言っておる!お主一人では、瞬殺されるぞ!!」

 

「二人とて同じだ。安心しろ、時間稼ぎくらい出来る。何故なら、私と奴には面倒な因縁があるからな」

 

「そんなもの何の根拠にもならん。だが、ここで儂が余計な世話をかけるのも格好がつかんな。……死ぬなよ」

 

 ガレスはリヴェリアとアイズの元へ向かった。それを白夜は追撃する気が起きていない。今の彼は目の前の敵であるゴジョウノ・輝夜という存在にしか興味が無くなっていた。

 

「極東という国家で殺し合う事があっても、オラリオという英雄の地でこのような巡り合わせが来るとは思いもしなかった。クジョウノ・白夜ッ!お前はどれだけの人を殺す気なんだッ!」

 

「その答えは持ち合わせているが、今のお前に話すつもりはない。……これもまた数奇なる巡り合わせだ。ゴジョウノ家、反逆者たる俺の手でその命を絶つ!!──『“斬王剣”』」

 

 巨大な一筋の斬撃が輝夜の頬を掠めた。輝夜は驚く。何しろそれは斬撃自体が真っ直ぐ飛んできたのだから。

 

「飛ぶ斬撃ッ!?」

 

「剣士として鍛えた結果だ。言っておくが、魔法ではないぞ。そもそも剣士を名乗る者たちはこのぐらい出来て当然だ。お前は出来ないのか?ゴジョウノ・輝夜?」

 

「……どうだろうな」

 

 輝夜は一対一で白夜に勝てるなどとは微塵も思っていない。

むしろ、いつ殺されてもおかしくない状況だ。未だに殺されていないのは、白夜の単なる気まぐれ。もしくは試練なのかもしれない。

 

 クジョウノ・白夜とゴジョウノ・輝夜。極東で多くの痛みを受け、一族というものに苦しめられた者たち。

 当人たちがどう思うかは分からないが、二人は何処か考え方が似ている。

 

「どうした?それがゴジョウノ家の限界かッ!!」

 

「私はゴジョウノ家の輝夜ではない!!私はアストレア・ファミリアの輝夜だ!!」

 

「ッ!!?……なるほど、そうか…。それを聞けて安心した。やはり、家名だけで判断するのは愚者のすることだな。──俺も最後の砦として戦う準備が出来たよ」

 

「ッ!?それはどういう…」

 

「─『“斬”』!」

 

「また飛ぶ斬撃ッ!?」

 

 白夜のボルテージが上がるに連れ、何とか剣技で保たせていた輝夜の均衡が崩れていく。無論、白夜が輝夜を試しているということもあり、輝夜が殺される事は無い。

 だが、それでも油断すれば斬られると言う極限状態に変わりはない。余裕を持つ事など、輝夜には不可能だ。

 

「どうした?それがお前の限界か!!闇の暗殺者たるゴジョウノ家ではなく、正義の眷属アストレア・ファミリアだろう!!ならば、悪となった“過去の英雄()”を斬ってみろッ!!」

 

 白夜の猛攻が輝夜を襲う中、輝夜の目に静かな闘志が灯る。

 

「─────『“星斬”』」

 

 その瞬間、白夜の頬を輝夜の放った斬撃が掠めた。

 白夜はそれを僅かに受けて確信する。もし、少しでも斬撃の位置がズレていれば、自身は致命傷を負っていただろうと…。

 

「飛ぶ斬撃…、お前も習得していたか…」

 

「ここまでの完成度は初めてだ。お前の技を見て、学んだに過ぎない。そして、掴んだ!!飛ぶ斬撃の真骨頂をッ!!」

 

「才能とは恐ろしい。土壇場で届いたか…。──俺が蝕まれる前に剣士として殺し合いたかったよ」

 

「クジョウノ・白夜ッ!私がお前を斬るッ!!」

 

「良いだろう。ここから先は剣士としての頂を見せよう」

 

 まるでリミットが外れたかのように二人の攻撃は加速する。

 白夜はLv.7に対して、輝夜はLv.3。その事実に基づけば、輝夜が白夜に勝てる可能性など無いに等しい。

 だが、白夜が魔法を使わず剣技だけで勝負していること、彼の本来の力が出せない原因(・・)があること。その二点があり、二人の戦いが成立している。

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ……」

 

「……ッ、最後にこれだけの斬り合いが出来るとはな。感謝するぞ、ゴジョウノ・輝夜。だが、次で終わらせる」

 

 クジョウノ・白夜は、居合の構えを取る。極東で得た彼が最も殺しに特化した技。彼がこの技を使う時は、相手を認めた時だけだ。

 

「覚悟は出来ているか?」

 

「それは私のセリフだ!!」

 

(あの構え…、敵を殺す構えだ。…一度だけ見たことがある。奴の居合切りを…。ふっ…、出方を誤れば死ぬな…。覚悟を決めるしかない)

 

「ッ!?その構えは何のつもりだ?」

 

 白夜は驚いた。何故なら、輝夜の剣を持つ構えが極東由来のものではなく、外来由来のものだからだ。

 

「私が認めた団長殿の構えだ。極東の構えなど、お前相手では敵わない。ならば、私はオラリオで学んだ力を振るう!!」

 

「…そうか。後悔するなよ!!」

 

「後悔などしない!!何故なら、私はアストレア様の眷属となり、仲間たちと出会った事を生涯の幸せだと理解っているからな!!」

 

「──『“居合・刹那”』」

 

「──『“ノヴァ・アストレア”』」

 

 互いに渾身の一撃を振るった。一瞬の時と共に、血しぶきが舞う。

 輝夜の左肩から血が流れ出ており、彼女は左肩を抑えながらしゃがみ込んだ。

 

「……ッ」

 

「………ふっ」

 

 一方の白夜は笑みを浮かべながら、しゃがみ込む輝夜を見下ろした。

 

「…見事だ、流石は────正義の眷属」

 

 バタンッ!!と白夜は後ろに倒れた。彼の腹部からは血が流れ出ており、それが致命傷になったのだろう。

  

 この瞬間、クジョウノ・白夜の敗北が決定した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。