クジョウノ・白夜とゴジョウノ・輝夜が戦闘を開始している中、ゼオン・アストラはアリーゼたちと戦っている。
最初、アリーゼはゼオンと戦うとなった時、かなりの苦戦を強いられると思っていた。
だが、実際にはそこまで苦戦していない。無論、今も倒すことは出来ていないが、ゼオン相手にLv.7という脅威を感じていないでいた。
「あなた、本当に【九魔姫】やガレスのおじさまを倒したの?あなたからその強さを感じないんだけど」
「……面倒で煩い雑音だな」
「面倒でも、煩くても、雑音でも、私は止めないわよ!!むしろ、嫌そうにしてくれてありがとう!!!だって、それは私があなたにダメージを与えている事に他ならないのだから!!ふふーん!!私って最高ね!!」
「本当に煩い奴だ」
ゼオンはアリーゼとタイマンを勝負をしているわけではない。白夜と戦っている輝夜を除くアストレア・ファミリアと戦っているのだ。連携がとても上手なアリーゼたちとの戦闘は
「………」
(確かに白夜って奴ほど圧倒的な力の差を感じねぇ。けど、アタシ達も輝夜や【九魔姫】たちの増援に行くことが出来ていない。悔しいが、足止めされているみたいだ。邪魔するなと言わんばかりにな…)
ライラはこの状況が自分たちにとって、決して良いとは思っていない。むしろ、何処かが崩れて瞬間に負けると客観的に理解していた。
「おまえ、本当にゼオン・アストラなのか?」
「何?」
「「「「「「「ッッ!!!?」」」」」」」
そのライラの問いに、問われたゼオンとそれを聞いていたアリーゼたちは動揺する。
「何を隠してるんだ?」
「オレから逃げおおせることが出来て調子に乗っているのか?だとしたら、あまりにも不愉快だ」
「アタシが根拠も無しに言ってると思ってんのか?【九魔姫】から聞いた恐ろしい武器は持っていない。アタシらとの戦闘時の力、…おまえ、
「………」
その問いにゼオンは答えない。だが、少し間を置くと、彼は考え深く口から言葉を紡ぐ。
「───────頭の良い奴は人を救える」
「???」
「だが、人というのは救うより見捨てる選択肢を取る。人は何処までも醜く愚かだ。──故に正義を掲げ、理想を追い求めるお前たち──アストレア・ファミリアの存在がオラリオを救っている」
「何が言いたいんだ?」
「さぁ、何だろうな。これは単なる独り言。…お前たちに示す言葉を述べるなら、試練を乗り越えろ。オレたちを否定しろ。悪を倒せ。───英雄となれ」
「「「「「…英雄」」」」」
「話は終わりだ。これより今のオレが出来る殲滅を開始する」
言葉を述べ終えたゼオンは、腰に巻いている魔道具のポーチから大量の光った石を取り出した。
そして、それらをアリーゼたちに投げつける。
「嫌な予感がするぜ」
「同感ね」
ライラやアリーゼの予感は当たっている。ゼオンが投げた光る石の正体は彼が作った魔道具に他ならない。
「“爆ぜろ”」
ゼオンの一言と共に、光る石は大きく爆発した。直感的にヤバいと感じていたアリーゼたちは、マトモに爆発を受ける事は無かったが、それでもダメージを負ってしまう。
「かなり強力な魔道具ね」
「フィンの奴が言っていた通りだな。【
「懐かしい呼び名だ。しかし、オレは治療師。魔道具作りはついでに過ぎない。人を助ける物も人を傷つける物も両方作り続けた。“治す”と“傷つける”は表裏一体だからな。褒められた物ではないものも多く作ってしまったよ」
「ねぇ、ゼオン。貴方は治療師。多くを救い続けた人。もうこんな事をするのは止めてくれないかしら?これが貴方の本望ではないでしょう?」
「ッ!!?」
アリーゼの真っ直ぐな問いは、ゼオンの意表を突く。
だが、その問いを聞いたところで、彼の行う事は変わらない。
「甘い事を言うな。オレたちは覚悟を決めた身。今更止まる気はない。…だから、お前たちも覚悟を決めろ」
誰よりも治療師として、才能と努力を費やして来たゼオン。その道が正しいと信じて来たからこそ、彼は絶望を受け、覚悟を決めた。
ゼオンは待っている。英雄となる存在を…。
アリーゼたちとゼオンの戦い。内容的には互角だったが、ゼオンが多くの魔道具を使い出すと、均衡されていた戦力が僅かに傾いていく。爆発、炎、雷、光、氷、岩など多くの力を持った魔道具が縦横無尽にアリーゼたちを翻弄している。
「あの魔道具のバーゲンセール男を止める良いアイデア、誰か持ってないか?」
「それがあれば、既に行っているぞライラ」
「だよな。……アタシに考えがある。皆は少しだけ時間稼ぎしてくれないか?」
「何か考えがあるのね。オッケー!!何時間でも時間稼ぎしてあげるわ!!」
「へっ…、それは頼もしいな」
ライラが一旦後方に下がると、彼女のためにアリーゼたちは時間稼ぎを開始する。
「何をする気かは知らないが、お前たちではオレに勝つ事は不可能だ。散れ、正義の眷属たち!!」
ゼオンは複数の魔道具を使い、アリーゼたちを追い詰める。
「ッ!?」
だが、次の瞬間にゼオンの魔道具の機能が停止していく。何が起きたのか理解出来ないゼオンは困惑する。
そして、それはアリーゼたちも同じだ。一体何が起きたのか何とか状況を理解しようとしている。
「流石は【万能者】と【単眼の巨師】の傑作だぜ」
うっすらと笑みを浮かべていたのは、先程後方に下がったライラだ。彼女の手には彼女と同じぐらいの杖が握りしめられていた。
「何をした、小人族…」
「単純に魔道具を停止させる魔道具を使っただけさ」
「魔道具を停止させるだとッ!?そんなものを作れる者が…」
「これがいるんだよなぁ。おまえが魔道具作りの天才と聞いて、【万能者】の奴は特に張り切っていたぜ」
「オレの魔道具を止めたか…」
「魔道具無しのおまえが、アタシらの攻撃を防げるか?」
魔道具無しの状態では、アストレア・ファミリアに勝てないとゼオンは理解している。
ゼオンたちの間に一瞬の静けさが出来るが、先に動いたのはアリーゼとリューだ。
「ッ!?」
「隙ありよ!!」
「アリーゼ、貴方に合わせます!!」
一瞬の隙を突いて、ゼオンの懐へと入った二人。
「『“
「『“ルミノス・ウィンド”』!!!」
炎と風の強力な一撃が、ゼオンの身体を後方へと吹き飛ばした。致命傷を負ったゼオンは己の敗北を知る。
そして、それは奇しくもクジョウノ・白夜がゴジョウノ・輝夜に敗北した瞬間と同時であった。
「ガハッ!………油断大敵か。ふっ…、ちょうど
「本体?それはどういう…」
「これからの未来はどうなるのだろうな」
ゼオンがその言葉を言い終えた瞬間、彼の身体は一瞬だけ消えた。
そして、次の瞬間には彼がそこにいる。アリーゼたちが先程まで見ていたゼオンよりも傷だらけのゼオンがそこにいたのだ。
「…、予想では、もう少しマシな状態を想定した。だが、オレも、分身も、ここまで傷だらけになるとは想定外だ」
『聖槍ロンギヌス』をその手に持つ傷だらけのゼオンは、間違いなくゼオン・アストラ当人だとアリーゼたちは理解する。
「「「「「「「ゼオン・アストラッ!!」」」」」」」
「分身とはいえ、オレを倒すとはな…」
「やっぱり、さっきのお前は本物じゃなかったんだな。その槍を持っているお前が本物か」
「肯定しよう。この槍は
かなりのダメージを受けている今のゼオンに、アリーゼたちを相手にする事は出来ないだろう。
だが、今のゼオンはアリーゼたちを倒すためにいるわけではない。彼の目的は、今も命の灯火が消えかけている仲間の命を
「お前たちの相手をするつもりはない。『聖槍ロンギヌス──解放』」
「何かするつもりよ!!」
「『炎王の怒号、万に解き放て──“イグニス”』」
『聖槍ロンギヌス』から解き放たれた魔法。それは辺りを一瞬で燃やす業火の炎。今回はオッタルの時のように敵を倒すために使われたのではない。ゼオンが離脱するために、この魔法を陽動として使ったのだ。
「白夜ッ!!」
ゼオンは倒れている白夜の元に駆け寄ると、彼の身体に回復薬を数本かけた。
しかし、白夜の身体が治癒することは無い。
「……ッ」
(ここまで蝕まれているのか…)
「────クジョウノ・白夜は何かの病なのか?」
その言葉を発したのは、先程まで白夜と死闘をしていた輝夜だ。彼女もかなりのダメージを受けているが、何とかその足で地に立っていた。
「そいつが万全なら、私など足元にも及ばなかった」
「──白夜の身体は毒で蝕まれている。当時の万全なオレですら、その毒を治癒する事は出来なかった。───だが、今のオレなら救えるッ」
ゼオンは魔道具のポーチから一つのフラスコを取り出した。そして、それを白夜に無理矢理飲ませる。
「ぐっ…ガハッ…!!ぐぁぁぁあぁあぁあぁあぁ!!」
痛みで叫ぶ白夜を何とか押さえつけるゼオン。
約一分ほど叫んだ白夜は、まるで死んでいるかのように眠っている。それを確認したゼオンは、白夜の身体に万能薬を数本かけた。
「……」
(脈拍異常なし、呼吸も安定している。予想通りの状態だ。これならオレがいなくても問題無いな。白夜、ちゃんと薬を飲んでくれ。──ここからが
「悪いが、ここから先は治療師として勝ちに行く」
回復薬を一本自身の身体に振りかけたゼオン。身体はボロボロで、その行為は応急処置のようなものだ。
「ッ!!?」
ドンッ!!と蹴りを入れ、輝夜を吹き飛ばしたゼオン。
そして、次に彼が行うのは魔法の詠唱だ。
「『届け、届け、我が行く末、天秤の世を羽ばたけ──“ハーフ・ドッペルゲンガー”』」
ゼオンには魔法が3つ発現しており、一つは最上位の全癒魔法。彼が最高峰の治療師と呼ばれる所以の魔法。
そして、2つ目の魔法は彼が今使った分身魔法だ。分身魔法にも制限は多々あるが、それでも強力な魔法に変わりはない。
「さてと、分身体は白夜を連れて、例の場所に退避しろ。オレは成すべきことを行う」
ゼオンの分身魔法により作り出された分身のゼオンは、気絶している白夜を担ぐとそのまま何処かへと走って行った。
この場に残ったのは本体のゼオンだ。
「オレたち二人がこのままお前たちから逃げおおせる事は出来るだろう。だが、それはあまりにも理屈が通らない。ふっ…、悪となった時から、
「…ッ!」
一連の流れを見ていた輝夜。そんなかの氏の元に、アリーゼたちアストレア・ファミリアは集結した。
「「「「「輝夜ッ!!」」」」」
「団長ッ!!皆ッ!!」
アストレア・ファミリア団員が全員集結した。敵は歴代最高峰の治療師ゼオン・アストラとなる。
今のゼオンはとても万全な状態とは言えない。アリーゼたち総掛かりなら勝てるだろう。
だが、対峙しているアリーゼたちから余裕は出ていない。
「向こうもボロボロだが、こっちもボロボロだ」
「ゼオン、止まる気はないの?」
「無いッ!オレの残りの命を燃やしつくそうッ!!」
ゼオン・アストラ対アストレア・ファミリアの最終決戦が開戦した。