【翌日】─────────────────────
ロキ・ファミリア、フレイヤ・ファミリア、アストレア・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア、ヘルメス・ファミリア、名だたるファミリアの中でも上位の実力を持つ者たちが、闇派閥三拠点の同時突入作戦に参加している。
個人の戦力が乏しいアストレア・ファミリア、ガネーシャ・ファミリアのところには、ディアンケヒト・ファミリア団長セリカが参戦していた。
過剰とも呼べる戦力に違いないが、作戦の指揮を執っているロキ・ファミリア団長フィン・ディムナは、嫌な予感がしていた。その証拠に、彼の親指は疼きっぱなしだ。
「親指の疼きが止まらない。いや、むしろ…より強くなっている」
「フィン…どうする?」
「行くしかないだろう。先延ばしにしたところで意味はない。万全の準備を済ませた。後は乗り越えるか、砕け散るかだ」
決意を胸に、フィン・ディムナは開戦の言葉を口にする。
「突入」
この瞬間から、【大抗争】が始まった─────。
時は来たと、
闇派閥の拠点を襲撃した各々は、とてもシンプルに作戦通り、事が進んでいた。それ即ち、作戦が上手く行っているという事なのだが、歴戦の猛者達は感じてしまう。
────
「だからと言って、この足を止めるわけにいかないな!!シャクティ、その他の者たちよ!!前進するぞ!!」
アストレア・ファミリア、ガネーシャ・ファミリアと行動を共にしているセリカは、元気よく前へと進んでいる。
一気に開ける通路にたどり着いた一同は、周囲の警戒をしつつ、奥に広がる空間へと飛び込んだ。
「ここは…」
「なんだ、フィンがいねぇのか!!クソッ!!」
フィン・ディムナがいないことを知ると、たちまち不機嫌な顔をする女性。彼女の名はヴァレッタ・グレーテ。闇派閥主要幹部の一人だ。
「相変わらず下品だな、ヴァレッタ・グレーテ」
「てめぇこそ、いつまでバカ元気に生きている?セリカ・スターヴァル!!」
ヴァレッタは紅の長剣を構えると、真っ直ぐセリカに斬りかかる。それをセリカは、手に持っていた斧で弾き返した。
「チッ!!相変わらず、治療師の癖にLv.5の私とタメを張るとか、うぜぇな!!」
「私はまだまださ。
ザシュッ!!とヴァレッタの腹を斧で斬り払ったセリカは、続け様にヴァレッタの顔面に拳をめり込ませる。
「ガハッ!!…クソッ!!てめぇ等ぁ!!出ろぉ!!!」
ヴァレッタが大声を出すと、辺りから伏兵が現れる。伏兵たちは敵を排除するために動いていく。
その場はまさしく乱戦。殺すか殺されるかの場所となる。そんなところで、一人の小さな少女の姿を、アーディたちは目撃してしまう。ヒューマンと思われる少女は、その手にナイフを持っており、瞳に涙を浮かべていた。
「こんな幼い子まで巻き込んで!!」
普段温厚なアーディが宿すことのない怒り。それがはっきりと浮かんでいた。
「ナイフを捨てて、戦ってはダメ」
アーディは優しく声をかけると、その手に持っていた剣を下ろして、もう一方の手を少女に差し伸べる。
その行為がどれほど愚かな行動なのか、彼女は分かっていなかった。否、闇派閥の残忍さを甘く見ていたのだ。
「………かみさま。……おとうさんとおかあさんに、あわせてください」
既にこの世にはいない父と母の姿を思い浮かべて、少女は胸に隠していた装置を起動させる。
「【
この場にいる者の中で、ただ一人…。セリカだけは、その少女が何をしようとしているのかを悟った。彼女は出来る限りの行動を取り、アーディの近くへ行こうとする。
だが、次の瞬間、ナイフを持っていた少女はアーディとアーディを助けようと駆けつけたセリカを巻き込む形で爆発した。
「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」
大きな爆発と共に、爆風に吹き飛ばされた一同。
次に見た光景は、恐ろしいものだ。先程まで彼女たちがいた場所は跡形もなく、少女たちごと消えていた。
「セリカッ!!?」
「……うそだ…うそだ…うそだ…。……アーディ!!」
リューは悲しみと喪失感に支配されるが、今は悲しんでいる暇はない。何故なら、少女の爆発をきっかけに、多くの者たちが自爆を開始したからだ。
「ヒャハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」
ヴァレッタの笑いは止まらない。最早この場所は、とてつもない爆発が常に起き続けている最悪の戦場。
「クソッ!」
一同は退避するしかなかった。その道中、何人も爆発に巻き込まれていく。何人死んだ事だろうか…。
「何とか脱出出来たが…、何人死んだ?」
「多数だ。……アーディも…、セリカも…」
ディアンケヒト・ファミリア団長セリカ・スターヴァルすらも、無事に生還する事は出来なかった。その事実は、とてつもなく重いものとして、彼女たちに重く伸し掛かる。
しかし、彼女たちは悲しんでいる場合では無い。何故なら、最悪の始まりはまだまだ序章に過ぎないのだから。
「始まったか…」
闇派閥の拠点から爆発が始まると同時に、オラリオの各地で爆発が連鎖の如く続いていく。
いつまで続くのだと、各々が緊張に支配されていく。
────都市が燃えている。
────これから始まるのだ。
────【悪の宴】が……。
人々の命が簡単に消えていく。
『うわあああああああああああああああッ!!』
『誰かッ!誰かぁッ!!……』
『助けてッ!!助けてぇッ!!』
人々の憐れな悲鳴が、あちらこちらで鳴り響く。爆発は止まらない。むしろ、強く連鎖している。
そして、その状況を待ち侘びていた闇派閥の者たちは、ここぞとばかりに襲撃を始めていく。
「ここは迷宮都市オラリオだ。都市全土を巻き込もうと、総力戦になれば、敵う勢力は存在しない。闇派閥も分かっているはずだ…」
その事実を誰よりも分かっているこそ、フィンは闇派閥の強襲がこのままで終わるわけはないと直感していた。
「何が起きようとしている…?」
「団長ッ!!大変です!!」
「どうした!」
「大変なことに…」
ラウルからの知らせを受けたフィンは、顔色が真っ青と化す。
何故なら、このオラリオにおいて、オッタル同様に、フィンは
「何故だッ!!」
いつものように冷静ではいられない。それ程までに、
「【
炎に包まれたオラリオ。その一角では、一瞬で冒険者たちの首と胴体が分かれるという悲惨な出来事が起きていた。
「足りないぞ、オラリオ。俺を失望させるな」
冒険者たちの首が無惨に斬られていく中、果敢に一人の猫人がその手に持つ槍を男に突き刺す。
だが、その一撃も男には通じない。いとも簡単にその槍を三等分に斬ったのだ。
「なっ!?」
「今の一撃は悪くなかった」
一瞬で冒険者たちの首を斬り、前へ足を進めていた男が、この瞬間、足を止め、首を斬る事がなかった。
「中々だ。しかし、足りない」
「テメェ、一体…何…」
猫人が言葉を言い終える前に、男はその手に持つ刀で猫人の胴体に十字架の斬撃を食らわせた。
「ーーーーーッ!!?」
「それで死ねば、お前はそこまでだっただけの話だ。短い時だが、せいぜいリベンジしてくるのを楽しみにしているぞ」
猫人がその場に倒れると、男は前へと足を進める。
「何故、お前が───」
この場に現れた第三者の声。たった一人の進軍を止められない大通りに駆けつけたのは、フレイヤ・ファミリア団長、現オラリオにおいて、最強と呼ばれる男オッタルだ。
「久しいな、猪」
「何故、お前がここにいるッ!──クジョウノ・白夜ッッ!!」
「俺が何故ここにいるか?理由など、シンプルだ。人を斬りたかった。ただそれだけだ」
「なっ!?」
白夜が一歩進むたびに、オッタルは一歩後退してしまう。それ程までの圧倒的力量差…。現オラリオにおいて最強と称される【猛者】であったも、【刹那】の前では弱者になってしまう。
「亡霊ではないぞ。ちゃんと生きている。──猪、剣を構えろ。貴様がオラリオ最強に居続ける為には、俺と斬り合うしかない」
「…分からない。何故だ!!かつては隆盛を極め、都市を守って来た最強の一員であるお前が、何故、闇派閥につき、オラリオを脅かすのか!!」
八年前まで、否、一千年間の間、オラリオの守護者として君臨し続けていたのは、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアに他ならない。
かつての守護者が侵略者となった。その事実がオッタルを混乱に陥れている。
「最強として君臨し続けていた。だが、残ったのは弱者ばかり。ならば、一度更地にしなければならない。さすれば、人はまた強くなるだろう。そして、人を斬りたいという俺の欲も満たされる。全て良い結果となる」
「違う、お前はそう言う人間ではない!!」
「昔から言っていただろう、現実を見ろと…。さて、語るのはそろそろ止めよう。ゼオンも始めているだろうからな」
「ゼオンだとッ!!?奴までいるのかッ!?」
「──構えろ。ここは
「ッ!!?────オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
猪突の雄叫び。大剣を引き抜き、構え、目の前の剣士に突進する。
「──甘いな」
「ッ!?」
最初、オッタルは何が起きたのか分からなかった。ただ、目の前の男が刀を鞘に戻す。その時、微かに鳴ったカチンッ!という硬質な音が聞こえただけだった。
彼はふと自分の胸元を見る。そして、気づく。自身が斬られたことに…。血がドクドクっと傷口から止まることなく流れ出ている。
オッタルが斬られた事に気づいてから数秒後…。ゆっくりと目の前が霞んでいく。意識が朦朧とする中、次の瞬間には意識が無くなる。
「弱過ぎる」
────【猛者】オッタルは倒された。
また、別の一角では、最早動くことの出来ない、大量の死した冒険者たちの亡骸が地面に転がっている。
その近くには、頭からフードを被り、顔を隠す、銀の槍をその手に持つ男が佇んでいた。
「何をしている?」
街が破壊され、周囲に瓦礫が散乱している場所にやって来たのは、ロキ・ファミリア副団長リヴェリアとロキ・ファミリア幹部ガレスだ。
「力を振るい、その結果を確認していた。やはり、オレの力はとてつもなく強いようだ。良い
「実験だとッ!それが人のする事かッ!!─己の命をもって、その非道を償え!!」
ハイエルフは長杖を構え、瞬時に詠唱を唱える。
「『吹雪け、三度の厳冬──我が名はアールヴ』!!」
込められた膨大な精神力と展開する輝かしい魔法円。
そして、震え上がるような強力な魔力の余波。
「『“ウィン・フィンブルヴェトル”』!!」
放たれる三条の吹雪。全てを凍てつかせる猛烈な氷波に、男はその手に持つ銀の槍に力を込める。
「『聖槍ロンギヌス──解放』」
男の手に持つ銀の槍は、凄まじい魔力と輝かしい光を放つ。
そして、次の瞬間には、リヴェリアが放った強力な魔法が跡形もなく消失したのだ。
「なっ!?」
「無効化!?」
「違う。無力にしたのは事実だが、無効化ではない。単純にお前の魔法を吸収しただけだ」
「リヴェリア、下がれッ!!!」
リヴェリアの後退を指示したガレスは、勢い良く男に斧を振り下ろす。
だが、それは銀の槍によって防がれてしまう。
「ドワーフ、力が足りないぞ」
男はいとも簡単に斧を弾き返し、ガラ空きとなったガレスの胴体にドンッ!!と拳をめり込ませた。
「ガハッ!!」
血を吐き、地面に倒れるガレス。辛うじて意識は残っているが、それでも満身創痍の状態。
「ガレスッ!!!?」
「八年前から変わっていないな。魔法頼みのハイエルフ、力任せのドワーフ」
その言葉に、その声に、その威圧に、その力に…。リヴェリアとガレスの背中にとてつもない重いものが被さる。それ即ち絶望というものに他ならない。
「八年間も何をしていた?」
男の被るフードが取れ、その素顔があらわとなる。
黒髪に、黄金の瞳、美しい素顔、リヴェリアとガレスはその顔を見て、声が重なる。
「「【
「久しいな、弱き者たちよ」
「神時代以降、数多の眷属の中でも才能に愛された男の一人ッ!!【静寂】に次ぐ才能の持ち主ッ!!」
「生きていたのか、
燃えゆくオラリオに、その伝説の名が発せられた。
「見ての通りだ」
「ゼウス・ファミリアのお前が、何故オラリオを襲う!!特にお前は治療師として、数多の命を救って来たはずだ!!
「ふっ…、救った命をオレがどのように使おうと、それはオレの自由。このように消そうとも、何の問題も無い。そうだろう?」
「ふざけるな!!貴様がどれほどの者たちを救って来たとしても、命を奪う道理などあるものか!!」
ゼオンの言葉に、リヴェリアは怒りを覚えた。彼女の表情は、いつもの冷静を保てていない。それ程までに、ゼオンの言葉は強烈なものだった。
「秩序?道徳?倫理?正義?悪?──この世に正解など無い」
その言葉を最後に、ゼオンはリヴェリアとガレスを倒すため、その足を前へと進めた。
既に満身創痍のガレスは、最早リヴェリアの盾となる事しか出来ない。そして、そのリヴェリアもまた劣勢の状態。何とか詠唱しようと試みるが、ゼオンの前では謳う事すら叶わない。もう、時間の問題なのだ。
「弱過ぎるな、これが今のオラリオの限界か…」
戦闘の時間は、一分も無かっただろう。ゼオンの足元には、ハイエルフとドワーフが無様に転がっていた。
────リヴェリアとガレスは倒された。