現オラリオにおいて、最強の冒険者として、その座に座っていたフレイヤ・ファミリア団長【猛者】オッタル。彼が倒された。その事実はまたたく間にオラリオ中に知れ渡る事となる。
そして、それで喜ぶのは闇派閥の者たちだ。
「【猛者】が倒れたぞ!!」
「かつての大神の眷属にして、今は闇派閥の使徒!!クジョウノ・白夜が最強の冒険者を討ち取った!!!」
オッタル敗北で、闇派閥が歓喜し、オラリオ中が絶望する。そんな折、更なら絶望の知らせがオラリオを襲う。
「【
「こちらもかつての大神の眷属が敵を討ち取ったぞ!!ゼオン・アストラ万歳!!」
「「「「「万歳ッ!!!」」」」」
ロキ・ファミリア幹部であるリヴェリアとガレスの敗北。オッタル敗北の後に、知れ渡るその事実はあまりにもフィンたちには重たい知らせだった。
「クソッ!!」
第一級冒険者が簡単に落ちたのだ。オラリオにおいての最高戦力と言っても過言ではない者たちが、かつての英雄たちによって、簡単に倒された。
オラリオに混乱が広がる中、一柱の神は燃えゆくオラリオを見ながら、静かに微笑んだ。
──────『ああ、【
邪神は笑う。
──────『我が身を顧みず、挺身し続けた正義の女神。故に見つけるのに時間がかかってしまった』
深い闇が、広がる。
──────『正義を司る君だけは真っ先に葬り、この地を混沌に染めたかったんだが…』
紡がれていく言葉。
──────『
拍手の音が響く。
──────『そして、見届けろ。生贄に選ばれなかった以上、これより始まる邪悪を』
闇が揺れる。
──────『正義を司る君が、最後まで────』
都市が震えた。今から始まる真の邪悪。開演するのだ。
『ひとーつ』
光の柱が天に突き刺さる。それは神の送還だ。
『ふたーつ』
二本目の光の柱。それが意味するのは先程同様に神の送還が行われたと言うことだ。連続での神の送還に、オラリオにいる者たちは驚いているが、まだまだ始まりに過ぎない。
『みーっつ』
『よーっつ』
『いつーっつ』
『むーっつ』
『ななぁーつ』
『やーっつ』
「「……」」
半壊した寺院の屋根の上で、燃え盛る都市と神の送還を眺めている、かつての英雄たち。ゼオンと白夜は、その光景をじっと見ていた。
「壮観だな」
「ああ。だが、所詮これは数多くいる神々。その中の数柱が天に還っただけに過ぎない。くだらない光景だ」
『九つ───』
合計九つの光の柱。一斉に起こった神々の送還。あまりにも多過ぎる数に、神々と冒険者、住民たちは茫然自失となる。
『頃合いだ』
全ての黒幕である邪神は、次なる行動に出る。
『聞け、オラリオ。聞け、
邪神の言葉は、とてもドス黒く、高慢で悪逆。ボロボロの冒険者たちに深い絶望を与える。
『我が名はエレボス─』
都市北西、古い歴史を持つ大寺院。全てを見下ろせる屋上。彼の隣には、過去の英雄たちが立っている。
『原初の幽冥にして、地上世界の神なり!!』
エレボスの言葉が響くと共に、悪である闇派閥から大きな歓声が上がる。
そして、その一方で人々は心の底から恐れた。
『冒険者は蹂躙された!他ならない強大な力によって!!』
黒き刀が照らされる。神の右に控える剣士の得物。
『神々は多く還った!』
銀の槍が照らされる。神の左に控える治療師の得物。
『貴様らが巨正をもって、混沌を退けようというのなら、我等もまた巨悪をもって、秩序を壊す!!──故に告げよう。今の貴様等にぴったりの言葉を─脆き者よ、汝の名は【正義】なり』
─────『滅べ、オラリオ──我等こそが【絶対悪】!』
響き渡る悪の宣言。秩序を壊す混沌の笑い。今日この日、オラリオは、英雄の都は────敗北した。
■
【大抗争】が始まった日の夜。オラリオにおいて最も長い夜だったと、それを経験した者たちは思う事だろう。
破壊と慟哭。恐怖と絶望。秩序が崩れ、混乱が生じる。街は燃え、血が流れ、数多の命が無惨に散った。
後に【死の七日間】と呼ばれる、オラリオ最大の悪夢の始まり…。都市に深刻な傷を与えた【絶対悪】───邪神エレボス、かつての英雄【
「【絶対悪】に怯えろ」
「弱き者は死ぬ。それが現実だ」
「消えろ、オラリオ」
その言葉を残し、エレボスたちは去っていく。後に【死の七日間】と呼ばれる、オラリオ最大の悪夢の始まりだ。
その日、オラリオは最も長い夜を迎え、昏い朝を迎える事となる。
『急げッ!!まだ、生存者がいる!!』
『誰か!!手を貸してッ!!』
『治療師をッ!!怪我人が大量にいるんだッ!!』
『早く!!命がッ!!』
次から次へと助けを求める声が、都市の中から多く叫ばれる。それはまさしく人々の悲鳴。残酷な現実。火を食い止める魔法の使い手も、傷を治す癒し手の数も圧倒的に足りない。
「アミッドさんッ!!更に10人運ばれて来ましたッ!!」
大型テントを用いた緊急野外病院を設けているディアンケヒト・ファミリアだが、多くの負傷者と治療師不足で、捌ききれていない状態となっている。
「アミッド、これ以上は入らないぞッ!!」
「アミッドさんッ、精神力回復薬が無くなりましたッ!!治療師たちはこれ以上魔法の使用が出来ませんッ!!」
「くっ…、これ以上の受け入れは困難ッ!!外での治療を施します!!魔法が使えなくても私たちは治療師です!!包帯や回復薬など、極限まで節約して人々を助けます!!」
「「「「「はい!!」」」」」
アミッドの指示のもと、ディアンケヒト・ファミリア団員たちは行動を開始していく。ディアンケヒト・ファミリア団長セリカ・スターヴァルがこの場にいない今、彼女に認められているアミッドが緊急で指揮を執っていた。
「……ここも何処まで保つか…」
(……団長は今一体何処にいるのですか…。無事なのですか…。セリカ団長…)
アミッドはこの場にいない、自身が最も尊敬する団長の事を心配する。彼女は親愛なる団長が、力も心も自身より強いと分かっている。だが、それでも何か嫌な予感がしていた。
「私一人では、手に負えない…」
(団長……)
それから数十分後、まだまだ怪我人が多く運ばれて来ており、アミッドたちに休む暇は訪れていない。
次々と緊急野外病院に運ばれて来る一般市民や冒険者たち。その中に、アストレア・ファミリア団員たちもいた。
「ここの責任者は何処にいるのッ?」
アストレア・ファミリア団長アリーゼ・ローヴェルが動揺しながらも、この場所の責任者を探していた。
実質的に、この緊急野外病院のまとめ役はディアンケヒト・ファミリアとなっている。それを踏まえると、責任者は神ディアンケヒトとファミリア団長セリカの代わりを努めているアミッドだ。
「どうしましたか?」
「あなたは?」
「一応、ここの責任者になりますね。ディアンケヒト・ファミリア団員アミッド・テアサナーレです。今は団長が留守にしているので、ここの指揮を執っています」
「そ、そう。あなたのような子供が責任者とはビックリね…」
「ムッ!…子供ではありません!!立派なレディです!!」
自分はもう歴とした十二歳児、レディなのだと、アミッドは主張する。今でこそ身長は低いが、これからグーンッ!!と伸びる予定を彼女は設計していた。
「そうね、あなたはレディよね!!ごめんなさい!!」
「うッ!」
あまりにも素直なアリーゼの謝罪に、アミッドはとても惨めな気持ちになるのであった。
「……ごほんッ!!それでどのような用件ですか?」
「……伝えなければならない事があるの。あなた達ディアンケヒト・ファミリアに…」
「伝えたいこと?それは一体???」
「落ち着いて、聞いてね。実は────」
アリーゼの口から出された言葉。それを聞いたアミッドは、あまりの話の内容に動揺し、手に持っていた自身が愛用している聖銀の
「そんなッ!嘘ッ!!団長が死んだなんてッ!!!そんなのッ!!」
「………」
「嘘ですよねッ!!嘘だと言ってくださいッ!!」
「…ごめんなさい」
アミッドの目からは涙が溢れ出ている。その涙は止まることを知らず、視界をぐちゃぐちゃに歪めていく。
「団長…、セリカ団長ッ!!う…あ、あああぁ…ッ!!!!」
アミッドの放つ慟哭。彼女の顔を覆った止まることのない溢れる涙は、その現実を受け入れていく準備、もしくは否定する準備だろう。
□
都市内で闇派閥が拠点とする場所の一つでは、ヴァレッタ・グレーテが嬉しそうにしている。無論、理由は都市が混乱の渦の中にあり、自分たち闇派閥が勝利したからだ。
「ヒャハハハハッ!!やったぜ!!これで私等が勝てる!!フィンの奴を今度こそ殺せる!!さぁ、オラリオ!!混沌の中で歪め!!」
下劣な言葉をあげるヴァレッタ。そんな彼女に対して、この場の誰も否定も肯定もしない。極限まで神を信仰して、闇派閥の操り人形に成り果てている者ばかりだ。彼等は命令があるまで、常に沈黙を貫いていた。
「煩い。あまりにも雑音過ぎる」
「ああ??」
沈黙する者たちがいる中で、一人だけヴァレッタに対して、不愉快そうに言葉を発する者がいた。
「チッ!!てめぇか!!治療師様よォ!!」
ヴァレッタの前に現れたのは、リヴェリアとガレスを簡単に倒した元ゼウス・ファミリア幹部ゼオン・アストラだ。
「叫ばずにはいられないのか?…まぁ、興奮状態だから無理もないか。治療師としては、もう少し落ち着くことを強く勧める」
「うるせぇ!!」
「そんなに叫ぶと傷口が開くぞ」
ゼオンはヴァレッタの腹から流れ出ている血を見て、その言葉を口に出した。
ヴァレッタはセリカから受けた傷が未だに回復してはいない。その理由は回復薬が全く効いていないからだ。
「その傷口、
「黙れッ!!殺されたいのかッ!!」
「殺す?お前如きがオレを殺すと言うのか?」
ギロッ!!とゼオンはヴァレッタを睨む。それを受けたヴァレッタは、身体が硬直して動けない。圧倒的強者から向けられた殺気。恐怖という感情が彼女を縛っている。
「お前は弱い。オレよりも遥かにな…。分かったのなら、煩い戯言を口に出すな」
「……ッ!!」
(これが【
ヴァレッタは今一度、自分たち闇派閥がどれほど強力な味方を得たのかを改めて理解した。
「悪かった。…理解した」
「ならば、見逃してやる。それと、お前にはまだやってもらう事が多くある。故に、治してやる。─『天の星々、数多の命の光の加護─“ノヴァ・セレスティア”』」
ゼオンの魔法を受けて、ヴァレッタが受けた呪詛と傷が跡形もなく消えていく。
「ひゅー、流石は歴代最高の治療師様だぁ。あのバカ女から受けた呪詛と傷がこうも簡単に消えるとはなぁ」
「バカ女?そいつはどうした?」
「ヒャハハハハハッ!!気になるか!!死んだよ!!ディアンケヒト・ファミリア団長セリカ・スターヴァルは仲間を助けようとして、跡形もなく消し飛びッ!!死んだのさッ!!」
「……そうか」
(そう簡単にアイツが死んだとは思えないな…。──何しろ、アイツはオレが認めた治療師なのだから)