シャルティアは残る二つの道を通り、そこでもペラギウスの問題を解決した。
気にしていたワバジャックのエネルギーは尽きる気配がなく、シャルティアはこの世界の杖はエネルギー無限なのか? と疑問を抱いていた。
実際はこの領域内限定での無限だ。
だがこの世界の杖は誰でも使える代わりにエネルギー量が決まっている。
杖のエネルギーを百とし、一般人は二十。魔術師なら十。精鋭なら五消費するという形で使われる。
そして消耗したエネルギーは魂石で補充が可能となる。つまり壊れない限り何度でも利用可能なのだ。
そしてシェオゴラスの元に戻る。
「戻りんした。ペラギウス? の心を直しんしたよ」
「直した、は少し違わないか? それだと物を直したことになる。治療の方が正確だろう」
「ならそれで」
「まぁ、別にいいが……さて、これでようやく我々は家路につけるわけか──いや、お前はまだだったな」
「……まだわたしはここに囚われていると?」
「違うな。お前の本当の家はまだ来ていない。だから、お前はまだ帰れないのだ」
「──あなたどこまで知っているでありんすか?」
これだけの敵相手に敵対は愚者のすることだ。
だが、ナザリックやアインズ・ウール・ゴウンに関する事ならば敵対してでも情報を得たいという気持ちがシャルティアにはあった。
「さぁ? それは知らん」
「は?」
「すべてはアカトシュの思うがままに、だ。あるいは星霜の書の、な」
「星霜の書?」
「すべてをワシが教えてはつまらん。少しは自分の足で情報を得るんだな。あぁ、それとワバジャックは記念にやろう」
「返すでありんす」
「返さなくて結構! それじゃあ元気でな! またあったらお前の主にイチゴのタルトをご馳走しよう! 一期一会のトゥルットゥー!」
それによりシャルティアは視界が切り替わった。
「……戻って来たようね」
しかしこんなところでシェオゴラスに会うなど、想定外にもほどがあった。
後で街の雑貨屋に行きデイドラについての本を買おう。そう決心した。
■
休日が休日じゃなくなった翌日。
シャルティアは会議室でテュリウスと話していた。
「シャルティア。君にはこの文書をバルグルーフ首長に渡してきて欲しい」
「文書、でありんすか? 内容を聞いても?」
「内容はウルフリックがホワイトランを襲撃する準備をしている、と言う物だ。出来る限り早く届けて欲しい。勿論返事も早く貰ってくれ。そして首長にだけ見せるように」
「畏まりんした。では転移魔法でサクッと行ってくるでありんす」
「あぁ。頼んだ」
そしてシャルティアは文書を受け取り、転移魔法でホワイトランまで転移した。
ホワイトランの門の前にシャルティアは転移した。
流石にドラゴンズリーチ内に直接転移する程馬鹿ではない。
そのまま徒歩でホワイトランを歩いて行く。
階段を上ると其処にはギルダーグリーンがある。
このギルダーグリーンは今は枯れかけているが昔は力強く咲いていた綺麗な木だ。
近くにはタロスの像があり、その下ではタロス信者が熱心に何か叫んでいた。
それを無視して階段を上がっていき、ドラゴンズリーチまで登る。
そして両開きの木製のドアを開け中に入り、階段を少し登って奥の玉座まで行く。
「おや、シャルティアじゃないか。もうホワイトランに戻って来たのか?」
シャルティアの移動速度は速い。ただの徒歩だとしても一般人より速いし、更に言えば夜宿屋で休んでいたとしても途中の休憩や食事などをしないので1.5倍ほど早くソリチュードについていた。
だからもう戻ってきていることにバルグルーフは少し驚いていた。
しかしイリレスからシャルティアは空を飛べると聞いていたので空を飛んできたのだろう、と思っているが。
「久しぶり……というほどでもないでありんすね。テュリウス将軍から文書を預かって来たでありんす」
そう言いながらシャルティアはアイテムボックスから文書を取り出した。
「テュリウスから? また奴の軍をホワイトランに入れろとか言うのだろう。見せてみろ」
「はい、どうぞ」
シャルティアは文書を手渡した。
バルグルーフはそれを無造作に読んでいく。
「これは……面白いな。プロベンタス、見てくれ」
「それは首長にのみ見せるように言われたでありんすが……」
「馬鹿言うな、プロベンタスは俺の目だ」
「まぁ、ならいいでありんす」
その後、会議が続く。
そして結論を決めたのかバルグルーフが口を開いた。
「よし、シャルティア。この斧をウルフリックに渡してきてくれ」
「斧を? 文書などではなく?」
「あぁ。ノルドの文化で、斧を受け取るなら味方。受け取らないなら敵、というのがあるんだ。これはその最終通告のような物だ」
「では帝国への返事は後でという事で?」
「いや、こちらから部下を送ることで返事をする。こちらも戦争で手が足りないからな。シャルティアにやってもらいたいんだ」
「別に構いんせんよ」
「ありがとう」
シャルティアはバルグルーフから斧を受け取った。
「それじゃあ、ウルフリックの居るところに行くでありんすが……えぇと、ウィンドヘルム、でありんしたか。そこにはどう行けば?」
「ホワイトランから東に行くとある。スカイリム最古の都市とも言うな。道中には気をつけろ。まだドラゴンが居るからな」
「わかりんした。では行ってくるでありんす」
そう言うとシャルティアは礼をしてからドラゴンズリーチを去った。
宮殿から出たシャルティアは
そのままウィンドヘルムに向かって飛んで行った。伝言を伝えるのは早い方が良いだろう、という思いから。
ホワイトランが見えなくなってきたころには吸血鬼の種族
一応景色は見て覚えた方が良いだろうと思い見ていく。百レベルは伊達ではなく景色も優れた動体視力で見ていく事が出来た。
そして十分ほど飛ぶ事で都市を見つけた。
川の近くに建てられている都市だ。橋を渡った先に都市がある。
石造りの街だ。壁もある。川の近くという事で防衛力も高いだろう。
シャルティアは橋の上、街へ入る為の門の前に降りた。
空から人が降りて来た、という事に門番の衛兵が信じられない物を見る目でシャルティアを見た。
「もし、そこの人。わたしはホワイトランのバルグルーフ首長から伝言を預かっているでありんすが、ウルフリック首長はいずこに?」
「ほ、ホワイトランの首長からの伝言?」
その言葉に衛兵は若干混乱する。こんな少女が伝言役なのか? と。
だが空を飛んできたことから異様さはわかる。こんな少女が嘘をつく理由もないだろう、と。
「わかった。首長は街の奥の王の宮殿に居る」
「感謝しんす」
そしてシャルティアは門を潜って街中に入っていった。
(古臭い都市だな)
どこかかびた気配がしそうな都市だ、とシャルティアは人目見て思った。
趣があると言えばいいだろうが、逆を言えば古臭い都市だ。
道を真っすぐ進んでいく。
広間、市場は別のところにあるようで通ることはなく奥の王の宮殿に辿り着いた。
「止まれ、宮殿に何の用だ?」
そこで衛兵から声をかけられた。
「ホワイトランのバルグルーフ首長から伝言を預かっているでありんす。通しておくんなまし」
「ホワイトランの首長から? わかった。俺が案内しよう。ついて来い」
「……感謝しんす」
シャルティアは上から目線に若干イラっと来たが大人なので黙っていた。
宮殿前の巨大な扉を開けて中に入り、宮殿内に入る。
そこはホールだ。長い机が二つあり、奥には玉座がある。
少し奥に進み二つ目の右手の通路に入る。
少し進むと其処は会議室でウルフリック・ストームクロークとその腹心ガルマル・ストーンフィストが何か話していた。
ウルフリックは金髪碧眼の四十代程の男だ。鍛えた筋肉を持っている。
ガルマルは何故か熊のはく製のような鎧を着た男だ。背中には両手斧を背負っている。
「衛兵、少女を連れるなどどうした?」
ガルマルがシャルティアを見て問いかけた。
「は、この少女がホワイトランの首長からの伝言を預かっているという事でお連れしました」
「おお、そうかホワイトランの首長からか。首長に伝えてくれ」
シャルティアはウルフリックに近づくとアイテムボックスから斧を取り出した。
「今どこから……いや、その前にそれが伝言なのか?」
「えぇ。バルグルーフ首長はこれを渡せば理解してくれる、と言っていんした」
長い沈黙が流れた。
「なんだ、これは……いや、そうか。斧は送り主に返して構わん。これから忙しくなるのでな」
「そうでありんすか……あぁ、それと一つ聞きたいのでありんすが、いいかえ?」
「なんだ? 言ってみろ」
「なんで反乱を起こしたでありんすか?」
シャルティアもこの世界に来てそこそこ経っている。
反乱の主題はタロス信仰を禁じた帝国からの離反だ。だが、経緯を知ればまだ耐えればよかったのでは、と思わなくもない。
ウルフリックが大々的に反乱を起こす前までは家で密かに祈りを捧げるぐらいは許されていたのだ。しかし反乱によってそれも取り締まられるようになった。
更に言えば帝国はサルモールをまだ敵とみなしている。友好国ではないのだ。
だからこそ、帝国は戦力を求め、シャルティアという危険物を受け入れた。
より多くの戦力をもってしてサルモールを打倒す為に。
だからこの反乱は無意味に近い。ウルフリックは帝国を倒したら次はサルモールだ、とでも思っているのだろうが帝国が仮に倒されれば元気いっぱいのサルモールと戦う事になってしまうのだ。
無論帝国がウルフリック程度の反乱で倒されることはない。だが戦力の低下は免れないだろう。
そうなればまたサルモールが戦争を起こし、帝国は最悪滅亡し、タロス信仰が無くなってしまう。
それを考えれない程ウルフリックは愚かなのか? とシャルティアは考える。
自分程度の浅知恵ではわからない何かがあるのだろうか、とも思うが。
「弱り切った帝国を打倒し、タロスの信仰を取り戻すためだ」
「……そうでありんすか。ありがとう。では、失礼しんす」
そう言うとシャルティアは徒歩で宮殿を出た後、人気のないところで転移魔法でホワイトランに戻った。
■
「戻ったでありんすよー」
ドラゴンズリーチに戻ったシャルティアは玉座に座るバルグルーフに話しかけた。
「もう戻って来たのか? ……空を飛んだとしても速すぎないか?」
バルグルーフはイリレスからシャルティアが空を飛べる、と聞いている。だからある程度速く戻る事は想定していた。
「そりゃ転移魔法で帰って来たでありんすからね。それと返事はこれでありんす」
そう言いながらシャルティアは斧を手渡した。
「転移魔法……そんな力も使えるのか。なるほど。そして返事は予想通り、か」
バルグルーフは苦い顔をした。
これによりウルフリックによるホワイトランの侵攻は決まった。
「よし、シャルティアはすぐソリチュードに戻った方が良い。援軍を連れてきてくれ」
「わかりんした。それじゃあ、行ってくるでありんす──
転移魔法でシャルティアはドール城前に転移した。
帝国軍人が驚いた表情を浮かべるが気にも留めずシャルティアはドール城の扉を開けて中に入る。
しかし外に異様に人がいるな、とシャルティアは少し疑問を抱いた。
「ただいまでありんす~」
そう軽く言いながら会議室に入ると其処にはテュリウスが居た。
「戻ったか。早速で悪いが、帝国軍四百をホワイトランに転移させて欲しい」
「もう返事が来たでありんすか?」
「いや、まだだが君が来た事で返事の予想はついている。事は一刻を争う。すぐに行動してくれ。ドール城前に人は配置している」
「わかりんした。ホワイトランの外にゲートを開くでありんす」
「頼んだぞ」
そう言うとシャルティアとテュリウスは外に出る。
「全員傾聴! これからこのシャルティアの転移魔法でホワイトランに転移する! そこで戦闘準備を行う。覚悟を決めろ! 相手が元同胞だからと言って手加減するなよ!」
テュリウスがそう叫ぶ。
「ではシャルティア。頼んだ」
「わかりんした──
シャルティアがゲートを開いた。
「さぁ、ここを潜るんだ」
テュリウスの言葉に軍人たちは怯えることなく転移していく。
リッケ特使も転移し、最後にリッケとシャルティアが転移した。
流石の帝国軍人たちも一部の者──ハドバルなどのコルバンヤンドで転移を経験した者以外少し動揺していた。
いかに将軍から転移魔法を使われると言われていも実際に経験すれば多少は動揺するものだ。
「ではシャルティアついて来て。他の者たちはここで待機よ」
「わかりんした」
二人はホワイトランの街中に入る。
そのまま広場を通ってドラゴンズリーチに行く。
道中タロス信者が何か演説をしておりそれを見てリッケは眉を潜めたが何も言わなかった。
ドラゴンズリーチに入り、玉座に向かう。
「リッケ特使か。もう来たのか?」
「えぇ。彼女の転移魔法ですぐに来れたわ。既に帝国軍四百がホワイトランの外壁の外で待機している」
「それはありがたい! 寝床は流石に用意できないが、食事は手配しよう」
「助かります。すぐにでもバリケードを設置し、ウルフリックの軍勢に備えます」
「あぁ。こちらもすぐに衛兵隊を呼ぼう。イリレスにも頼まなければな」
「すぐに動こう」
そうしてホワイトランは中立地帯から帝国側に着き、対ストームクロール戦の準備を始めた。