数日後。
ウルフリックは千二百の軍勢を持ってホワイトランを攻め落としにかかった。
ホワイトランの戦力が五百なのでその倍以上の兵力差だ。
更に言えばホワイトランは帝国軍と衛兵隊の混成軍で、練度の差がある。
更に更にウルフリックは攻城兵器も持ち出し、投石器を持ってきた。
これにより有利な防衛線は難しくなるだろう。
ガルマルはホワイトラン前の平原で馬に乗ってホワイトランを見る。
「……準備が早いな」
ホワイトランを見れば、そこにはバリケードや塹壕が掘られていた。
使者がホワイトランに戻ってから作ったにしては出来が良すぎるし、早すぎる。
ならば返答を予想して準備していたのだろう、とガルマルは考える。
「いよいよだ! 奴らは我々の大義を否定し、我々の事を卑怯者、泥棒、略奪者などと言う!」
ガルマルは兵士たちの前で演説を行う。最後の指揮高揚のためだ。
「だが違う! 我々はスカイリムの民だ! 我々の心を一つにし、大義の為戦うのだ!」
その言葉に兵士たちの戦意が高まっていく。
「行くぞ! タロスの為に!」
そして、兵士たちが突撃していく。
一分ほど走ったのち──空から赤い閃光が落ちて来た。
「なんだ?!」
帝国軍の魔闘士の魔法か、とガルマルは警戒をする。
しかしその正体は、少女だった。
血にぬれたような真紅の全身鎧。顔の部分が開いた被るような形の兜は白鳥に似て、左右から鳥のような羽が生えている。
胸から肩を経由して鳥の翼をイメージしたような装飾が垂れ下がっており、腰には真紅のスカートを巻き付けている。
右手には理科で使いそうなスポイトの形に酷似した奇怪な槍を握りしめている。
シャルティアの完全武装状態であった。
「行くでありんすよぉぉぉぉ!」
シャルティアは歓喜に震え、叫びながら突撃した。
それにより人が──兵士たちが馬鹿みたいに死んでいく。
四肢が吹き飛び胴体が弾け、頭がどこかに転がっていく。
「な、なんだあの化け物は?!」
ガルマルは思わず叫んだ。
あんな化け物が居るなど、聞いていない、と。
シャルティアはその間も歓喜に震えながら暴れ続ける。
思わず逃げようとした者の背後から突撃し殺し、暴れていく。
単純な近接戦しか仕掛けていないが、そのステータス──速さによって回避も防御も許さず殺されていく。
内臓が飛び散り新鮮な臓物の臭いが戦場に充満する。
いや、戦場ではもはやなかった。単なる蹂躙劇の場でしかなかった。
「撤退! 撤退だ! まともに戦ってはならない!」
それが判断できるだけガルマルはまだ優秀な指揮官と言えるだろう。
無能な指揮官なら馬鹿みたいに突撃して死ぬだけだったろう。
しかしながら指揮官が有能であっても未来は変わらなかった。
逃げ出すストームクロークの兵士たちを逃がしはしないとばかりにシャルティアが攻め立てていく。
「アハハハハ!」
シャルティアは笑う。哂う。嗤う。
己の強大さに。敵の脆弱性に。己を創造してくださったペロロンチーノに。
そして──千二百居た兵士の九割以上は死に、残ったのは二人の兵士とガルマルだけであった。
■
「全員殺せないのはつまらないでありんすねぇ」
シャルティアはそう言いながら肩にスポイトランスを担いだ。
シャルティアは今回リッケから暴れるように指示を出されたが、全員を殺していいとは言われていない。
特にガルマル──指揮官は殺すなと厳命を受けている。
理由としては指揮官が死にすぎればストームクロークは野盗化し、殲滅が難しくなるからだ。
敵もある程度組織だって行動してもらわないと根絶が難しいのである。
最終的に残党が野盗化するのはしょうがないとしても、半分以上いきなり野盗化は困るのである。
シャルティアは堂々と血の海を歩きながらホワイトランへ歩いて行く。
それを、リッケや帝国軍、ホワイトラン衛兵たちは信じられない物を見る目で見る。
あれだけの惨劇を創り出した化け物がまだ十歳そこらの少女にしか見えず、更に殺戮をしたというのにけろっとした顔で──何なら笑顔で血と臓物に溢れた後を歩いている。
これに恐怖するなという方が無理があった。
シャルティアは途中でめんどくさくなり空を飛んでリッケの元に戻った。
リッケはホワイトランの外の門の上の壁の上に居た。
「殲滅が終わりんした」
リッケはそう言われても頭が現実に戻っていなかった。
「そ、そう、です、か。えっと、あの……ソリチュードに戻って、テュリウス将軍から指示を仰いでください」
「わかりんした。では転移魔法でソリチュードに戻るでありんすね」
「あ、はい。そうしてください」
リッケは思わず敬語になった。
この化け物相手にため口や命令口調などしようものなら次は自分が殺されるのではないかと怖かったのだ。
正直リッケはシャルティアを舐めていた。いや、常識的な強さだと思っていたのだ。
かつての英雄──それこそタイパー・セプティムなどは文字通り一騎当千の英雄でシャウトを失った後も強力な存在だった。
かつてのタロスならばシャルティアと同程度の事は出来るだろうが、逆に言えば後世に神に成り上がったような超常存在でもなければシャルティアには届かないという意味でもある。
つまりは、シャルティアは文字通り神話の住人という事になる。
「では戻るでありんす
シャルティアは転移魔法でドール城の門前に転移した。
「戻ったでありんすえ~」
シャルティアは会議室に入る。
そこではテュリウスが別の特使と何か話をしていた。
「もう戻ったのか? 向こうで不測の事態でも起こったのか?」
すぐに戻って来たシャルティアを見てテュリウスはそう疑問を抱いた。
「いえ。わたしがストームクロークを殲滅しんしたから、次の命令を受けるために戻っただけでありんす」
「……一人でやったのか?」
「えぇ。千人以上いたようでありんすが、わらわの敵ではありんせん」
そうシャルティアは無い胸を張った。
「そ、そうか……なら次は、ペイルを手にするぞ。ペイルの野営地に向かってくれ。ただリッケが居る。彼女を一旦ホワイトランから回収して、ペイルの野営地に向かってくれ」
「畏まりんした。ではさっそく行動に移るとするでありんす」
「頼んだぞ」
シャルティアはドール城から出て転移魔法でホワイトランに戻った。
ホワイトランのドラゴンズリーチ前に転移する。
ドアを開けて中に入る。
階段を上っていき、二階に上がる。
そこではバルグルーフとリッケが何か話していた。
「戻りんしたえ~」
「しゃ、シャルティアか。何かあったのか?」
バルグルーフが対応しようとした。
「いえ。今回はリッケ特使に用があるでありんす」
「私に? 何の……いえ。帰還命令ね」
「そうでありんす。わたしと一緒にペイルの野営地に向かって欲しいとテュリウス将軍が言っていんした」
「わかったわ。ただ、ここをまとめるのに一日はかかる。一日待ってもらうわよ」
「わかりんした。その間わたしはどうすれば?」
「あれだけの戦いをした後、疲れてるでしょ? 休んでていいわよ。部屋はドラゴンズリーチに用意してもらうから。いいでしょ? 首長」
「あぁ、構わないとも。ホワイトランを救ってくれた英雄だ。部屋ぐらい貸すさ」
「わかりんした。では……部屋にいるというのも暇なので、外を散歩でもしてくるでありんす」
「わかった。夜には戻ってね」
「わかりんした」
そう言うとシャルティアはドラゴンズリーチから出て行った。
■
(滅茶苦茶人殺したのに何とも思ってないな、俺)
シャルティアはそう考えた。
羽虫を潰した程度にしか思っていない。いや、むしろ好きに暴れることが出来て爽快感を感じていた。
これもシャルティアになった影響か、あるいは真祖の吸血鬼になった事だろうかとぼんやりと考えながら歩いて行く。
なんとなくで門の前の方までついていたシャルティアは何かの会話の声を聞いた。
「どうしても街に入れてくれないと?」
そういうのはレッドガードの男だ。
「今は駄目だ。戦争直後で街の治安も悪い。今この状況で余所者を入れる余裕はない」
「人を探しているだけだ人を見つけたらすぐに去ることを約束しよう」
「だとしても駄目だ。悪いが、数日後にまた来てくれ」
「そうか……なら仕方が──」
そこで男の目がシャルティアに向いた。
シャルティアは興味本位で近づいた。
「その人探し、わたしが代わりに受けてもいいでありんすよ。ただ、事情は聞くでありんすが」
流石に訳も分からずクエストを受けるわけにはいかないので聞いてみる。
「本当か? 探しているのはレッドガードの女だ。このスカイリムでは珍しいから、すぐに見つかるだろう。彼女は本名を隠しているはずだ。それと……理由は言えない。我々にも事情があるのでな」
「そうでありんすか……見つけたらどう報告したらいいでありんすか?」
「それなら……今日一日は外で待っている。明日以降はロリクステッドに来てくれ」
「わかりんした。では探してくるでありんす」
「頼んだぞ」
シャルティアはきびつを返し捜索に出た。
このクエストを受けたのは急に休日とか言われてもやることないし、時間つぶしにはいいだろうと思ったからだ。
情報収集ならまず酒場だろ、と思いシャルティアはバナード・メアに向かった。
バナード・メアは宿と酒場を兼任しているから情報収集の場としてはいいだろうという判断の元の行動だ。
外を歩いている人は少ない。外の戦争が終わった直後だからだ。殆どは家に籠っている。
人がいないと寂しいな、と思いつつシャルティアはバナード・メアに入った。
宿屋内には人がそこそこ居た。普段酒場に行かないであろう者も居た。
シャルティアはカウンターに行き店主のフルダに話しかける。
「店主。はちみつ酒を一つと……このあたりにレッドガードの女性は居るでありんすか?」
「はちみつ酒は五セプティムよ。それで、レッドガードの女性? それならうちのサーディアがそうだったはずよ」
いきなりのあたりにシャルティアは気を良くする。
フルダが棚からはちみつ酒を渡した。
「そのサーディアはどこに?」
「今は厨房に居るはずよ」
「感謝しんす」
シャルティアはノルド・はちみつ酒を受け取ると一気に飲み干し、瓶を返却。厨房に向かう。
厨房では一人のレッドガードの女が鍋を回していた。
黒髪の短髪の女だ。
「もし、そこの人。あなたがサーディアで間違いないでありんすか?」
「そうだけど、何かよう?」
「外に居る同族の方たちがこのホワイトランに居るレッドガードの女性を探しているでありんす。おんし、それに心あたりは?」
その言葉にサーディアはさーと顔色を悪くした。
「まずいわ、見つかった? ……あなた、少しついて来て」
「? いいでありんすが……」
サーディアの案内の元厨房にある二階に上がる。
そして小部屋に入るとサーディアは腰から短剣を抜いた。
「それで、あいつらの仲間だっていうの? もし私に触れようものならその指を切り落とすわよ」
サーディアは声に怒気を込めながら問いかけた。
シャルティアにとってサーディアは雑魚だ。子犬どころか蟻に威嚇された気分である。
「落ち着きなんし、わたしはただ人探しを頼まれただけでありんす」
「駄目よ、話さないで! お願い、助けて、この街で信用できる人は一人もいないんです」
シャルティアは若干イラっと来た。
人に剣を向けておきながら次には助けてと懇願。人を馬鹿にしているのか、と。
これでシャルティアの心は決めた。どんな事情があったにせよこの女をあのレッドガードの男渡そう、と。
だがここできびつを返していくと逃げられる可能性がある。まずは味方のふりをするべきだと考えた。
「まずはそちらの事情を話しなんし。事情次第では協力できるかもしれないでありんすから」
「私の本当の名前はイマン。ハンマーフェルのスーダ家の貴族なんです。私を探している連中はアリクル。アルドメリ自治領が雇った暗殺者です。私の地と引き換えにゴールドを手に入れるつもりでしょう」
(貴族令嬢が暗殺者に狙われている、と。よくある話だな)
シャルティアはそう判断する。
「なるほど。わかりんした。アリクルの連中を潰してくるでありんす」
「でしたら、この街に侵入しようとして捕まった者がいると聞きました。監獄に居るその者から情報を聞き出せるかもしれません」
「わかりんした。では行ってくるでありんす」
シャルティアはそういうと宿屋を出た。
そのまま監獄にはいかずホワイトランの外に出た。
外では帝国軍たちが戦場の片づけをしていた。
それらに対し一礼してからシャルティアは離れたところに立っているアリクルの男二人を見つけた。
「戻ったか。見つかったか?」
「えぇ。サーディアという女を見つけたでありんす。すぐ連れてくるから待っていて欲しいでありんす」
「そうか! よくやってくれた。我々はホワイトランの馬屋で待っている。そこまで連れて来てくれたらあとはこちらでどうにかしよう」
「わかりんした。では行ってくるでありんす」
シャルティアはとんぼ返りでホワイトランに戻り、雑貨屋で本を買ってからバナード・メアに入った。
時間を潰したのは早すぎると疑われるかもと思ったからだ。
宿屋内に入り、先ほどの小部屋に入る。
「どうでした? 奴らの情報を得られましたか?」
「えぇ。奴らはこの街への侵入経路を見つけたらしいでありんす。今すぐにここを離れないと危険でありんす。さ、逃げるでありんすよ」
「ここまで来たのにすべてを捨てないといけないというのですか! ……いえ。それしか方法がないというのなら仕方がありませんね」
少し準備するので待ってください、とサーディアは荷物をまとめる。
「さ、行くでありんす」
シャルティアが先導しホワイトランから出る。
そのまま外の馬屋に行くと、そこにはアリクルが居た。
「これは何?」
サーディアが少し怯えた表情を見せた。
「やっと見つけた。いつまでも民を操れると思っていたのか? いつかは終わる運命だった」
「だましたのね!」
サーディアが怒りで叫んだ。
そこにアリクルがサーディアに魔法を飛ばした。麻痺の魔法だ。対象は一定時間行動が不能になる。
「これで仕事は終わりでありんすね。あ、報酬をおくんなまし」
「あぁ、これが報酬だ。考えて使うんだな」
「ありがとうでありんす」
シャルティアは金貨が詰まった袋を受け取った。
「それで、彼女をどうするでありんす? 殺すでありんすか?」
「我々が殺しはしない。彼女にはハンマーフェルに戻り、その罪を償ってもらう。まぁ、その方法でどうなるかは知らないが」
「そうでありんすか……あぁ、出来ればでいいでありんすが、わたし帝国軍人でありんして、アインズ・ウール・ゴウン、もしくはナザリックという地について知っていたら教えて欲しいでありんすが……」
「どちらも聞いたことのない名だな」
「そうでありんすか……残念でありんす。それじゃあ、これで去るとするでありんす。では、またいつか」
「あぁ。さようなら」
こうしてシャルティアはサブクエストを完了させた。