「吹雪いてるでありんすねぇ」
翌日。シャルティアはソリチュードから東に向かって空を飛んでいた。
と言っても高度は低い。少し下がるだけで地上に降りるだろう。
そしてシャルティアは一人の女を抱えていた。抱えているのはリッケ特使だ。
リッケ特使をペイルの帝国軍野営地に運ぶために空を飛んでいるのだ。
リッケ案内の元シャルティアは優雅な空の旅と洒落こんで居た。
抱えるとは言ってもリッケの脇を持ってリッケをぶらんと垂れさせながら飛んでいる。
流石のリッケにもプライドがあり、シャルティアに抱き着いて飛ぶ気にはなれなかった。
「もう少しで見えるはずよ……ほら、見えて来た。ここで降ろして」
「わかりんした」
ゆっくりとシャルティアは下降し、リッケを降ろしてから自分も降りる。
着いた場所は雪山の中だ。雪で地面が見えない。
二人は徒歩で野営地に向かって歩いて行く。
そこには多数の帝国軍人たちが居た。
そしてバリケードもあり、ある程度の防衛力はありそうだ。
見張りの一人がリッケに気づくと敬礼をした。
二人は軽く会釈してから野営地内に入る。
多数のテントがあり、奥には少しだけ豪華なテントがあった。
そこに二人は入る。
「目標はダンスタッド砦よ。斥候と共に砦を落としてもらうわ」
「わかりんした。どう攻めるでありんすか?」
「まずは貴女に先行して砦に行って貰って、そのあと貴女の転移魔法で砦内に軍人たちと転移。そのまま攻め落としてもらうわ」
「わかりんした。その砦はどこに?」
「ここよ。ここから南東にあるわ」
「わかりんした。では空を飛んで行ってくるでありんす。その後すぐ転移魔法で戻ってくるでありんすね」
「頼んだわよ」
「では行ってくるでありんす」
そう言うとシャルティアはテントを出ると
そのまま南東に向かって飛んで行く。
暫く飛んでいると砦が見える。
「あれでありんすね」
見ればその砦はストームクロークが占拠していた。
砦を攻め落とすだけならばシャルティア一人で事足りる。だが後の維持が出来ない。
シャルティアは一人──エインヘリヤルは除く──なので砦の維持がどうしてもできないのだ。それに砦から出て行った結果その間に他のストームクロークに占拠され返されました、じゃ話にならない。
だから軍人を連れるのは必要条件だ。
砦を見て転移可能だな、と判断するとシャルティアは転移魔法で野営地に戻った。
「戻ったのね」
丁度そこにはリッケが居た。
「えぇ。戻りんした。兵士を連れて転移するでありんす」
「わかったわ。既に用意しているわ。精鋭三十人を用意したわ。そのリーダーを紹介するわ。ハドバル、自己紹介して」
「ノルドの戦士、ハドバルだ。よろしく頼む。というか、まぁ一度会ってるんだがな」
そう紹介された茶髪の男の男はハドバルだ。コルバンヤンドで共に行動をした男である。
「久しぶりでありんすね、それじゃあ行くでありんすよ」
「あぁ。準備は出来てる。みんな、行くぞ!」
ハドバルの言葉に軍人たちが声を上げた。
シャルティアはフル装備に変え、魔法を唱えた。
「
ゲートに入り、ダンスタッド砦内に転移した。
突如現れた武装した少女を前にストームクロークたちは一瞬混乱する。
シャルティアが近くに居た兵士に突撃し胸をスポイトランスで貫いて殺したことで彼らは正気に戻った。
「敵襲だ!」
更に帝国軍人たちがゲートから続々と出てくる。
「帝国の奇襲だ! 奴らをソブンガルデに送ってやれ!」
ソブンガルデとは端的に言えばヴァルハラのような物で、勇敢に死んだノルドが死後行けるとされる場所だ。
シャルティアはあまりあばれすぎないように若干注意しながら戦う。
と言っても相手を一撃で殺してしまうが。
手加減をしようにも使える武具がこれしかない上、素手で戦おうとした場合モンスターであるとバレてしまうのでそれは出来ない。
なら魔法を使えばいいのでは? とそこで気づいたがもう遅い。既に殆どの兵士を殺した後だった。
「よし、これでいいな……シャルティアは野営地に戻ってくれ。あとの事は俺たちでする」
「そうでありんすか? なら頼むでありんす」
シャルティアは装備を普段着に変えた。
「それじゃあ、失礼しんす──
転移魔法でシャルティアは野営地の中に戻った。
「もう戻ったの? やるわね」
そこに丁度リッケも居て、シャルティアは褒められた。
「わらわならあの程度の砦を落とすのは余裕でありんす」
「まぁ、千の兵士を殺せるならそうよね……それじゃあ二日はここで待機よ。
「わかりんした。守るでありんすよ」
「よろしくね」
そして三日後──何も問題はなく、帝国軍はドーンスターに進軍を開始した。
■
シャルティアは今回活躍しすぎないように、と言われた。
それは帝国軍がシャルティアに頼りきりになり、戦闘技能が落ちることを懸念しての事だ。
だからシャルティアが雑に突っ込んで暴れるというのは今回は無しだ。シャルティアがホワイトランで千二百のストームクロークを殺したことである程度余裕があるのである。
ドーンスター前の平原に帝国軍に百は集まっていた。
軍隊の前でリッケが演説する。
「これからドーンスターを攻め落とすわ。目標はドーンスター首長のスカルドを降伏させる事よ」
「殺したら駄目でありんす?」
「流石に首長クラスを容赦なく殺したら相手も死兵になるから駄目よ。生かして頂戴ね」
「わかりんした」
「それじゃあみんな、行くわよ! 帝国の為に! 帝国軍の為に! ──突撃!」
帝国軍二百が突撃した。
相手側も砦を落とされたことでドーンスターに攻められる事は予想がついていたのか、ある程度バリケードはあった。
そして防衛戦力もある。ドーンスターの衛兵とストームクロークからの援軍だ。
衛兵とストームクロークの混成軍が矢を放つ。
帝国軍たちは盾で矢を防ぎながら突撃していく。シャルティアにも届いたが魔法的効果の無い攻撃なので無効化された。
先陣が敵陣と衝突した。
有利なのは帝国軍側だ。
相手の一部は衛兵という街の治安を守る者であり、戦争をする者ではないというのが一点。もう一つはストームクロークは純粋な軍人ではないというのがある。
確かにストームクロークには元帝国軍人が所属している。レイロフのように。だがその大半はタロス信仰を禁じられた事で蜂起した者たちだ。
故に戦闘経験というのは殆どなく、武装しただけの一般人がほとんどを占める。
だから、帝国軍相手に苦戦する。
と言っても数は多い上そのほとんどは元一般市民の為殺しすぎるとのちに不和を残すため容易に殲滅という選択肢が取れなくなっているが。
だからシャルティアを投入して皆殺しというのがあまりできない。ホワイトランで殺しすぎたから。
帝国軍が果敢に攻めて行き、ドーンスター側の戦線が下がっていく。
「シャルティア、詰めの一手をお願い」
シャルティアにそうリッケが命令を下した。
「わかりんした」
シャルティアが突撃した。
三人一気に吹き飛ばし、臓物をまき散らした。
「て、撤退だ!」
そう敵指揮官が叫び、ドーンスターから撤退していく。
「このまま首長の居るところまで行くわ!」
リッケがそう叫びシャルティアについてくるよう指示を出す。
ドーンスターの街中を歩く。
ドーンスターには鉄鉱山と港がある。それにより普通の村よりは発展しているが、ホワイトランやソリチュードなどと比べると見劣りする。
暫く歩くと首長の屋敷に着くが、そこは木造でとても城とは言える規模ではなく、他の家より多少豪華程度だった。
シャルティアがドアを開け、中に入る。
「帝国軍め! お前らに屈するぐらいならば死んでやる!」
そこにはドーンスター首長のスカルドが居た。
スカルドは頭髪の無い歳をとった老人の首長だ。一応銀の冠を付けている。
そして顔以外を被うのは鎧だ。右手には斧を持っている。
「私が行くわ」
リッケがそう言いスカルドに向かう。
「降伏を進めるわ。無用な血を流したくないもの」
「はん! 怯えているの間違いじゃないか? 殺してやる! 帝国の犬め!」
スカルドはそう叫びリッケに襲い掛かった。
リッケは盾で斧を受け、少し下がると剣のリーチぎりぎりで攻撃する。
スカルドは何度か攻撃するが、すぐに息が上がった。
元から政治をするものであって戦闘経験などない首長が特使にまで上り詰めた軍人に勝てる訳ない。
すぐにリッケはスカルドの首に剣を置いた。
「どうする?」
「……降伏、する」
「懸命な判断ね」
こうしてドーンスターは帝国領に変わった。