橋を渡っていく。
イナルの経験から来た道を戻っていくより先に進んだ方が速く外に出れるはず、という言葉に従い二人は橋を渡って先に進んだ。
その先には二体の石像があった。
顔が鬼のようで、背中にはボロの翼を持っている石像──ではなく石像に擬態したモンスター、ガーゴイルだ。
この世界のガーゴイルは攻撃した相手のHPを固定値吸収する種族特性を持つタンクの様なモンスターだ。一気に決めないとめんどくさい相手である。
因みにアンデッドなどではないが吸血鬼の住まいによく居る。
石像化していたガーゴイル二体が本来の姿を取り戻し雄たけびを上げた。
イナルが右手のガーゴイルに突撃し首を跳ね飛ばし、シャルティアが左のガーゴイルの首をねじ切って落とした。
「つ、強いのですね」
セラーナが魔法を発動しようとした構えのままそう呟いた。
「これでもドラゴンボーンだからな」
「わたしは将軍でありんすから強さも居るでありんす」
「ドラゴンボーン? 聞いたことない言葉ですね……ただ将軍なら強いというのは納得ですわね」
さぁ先に進もう、と三人は扉を開けて奥に進んでいった。
奥は広間になっており、棺が立てかけられている。
階段を登った先にはレバーがある。
左手には鉄の柵が降りており通れないが、見る限りレバーを引く事で開く仕掛けだろう。
「同時に棺からドラウグルたちが出てきそうだな」
「ですがそうしなければ進めませんわ」
「だな」
セラーナがレバーを引くと同時に棺のドアが開き、ドラウグルたちが出てくる。
ドラウグルたちは上から五番目ほどの強さのスカージという種類のドラウグルだ。
スカージはシャウトも使ってくる強敵だ。
「フォー コラ ディーン!」
フロストブレスのシャウトをスカージの一体が使った。
シャルティアは後ろに一瞬で回り込みバックドロップを見まいし破壊した。
残るは四体。
既にイナルが二体を相手し、セラーナも冷気魔法で攻撃している。
だがセラーナの方は難しそうだ。ドラウグル──というよりアンデッドの殆どは冷気系の攻撃に対し耐性を持っているからだ。
シャルティアが高速で動き片方のドラウグルを掴み、そのまま棍棒のように振り回しもう一体とぶつけ両方とも壊した。
「さ、行くでありんすよ」
「す、すごい力ですわね……」
セラーナが人を片手でぶん回すという人知を超えた身体能力を見て引きつった笑みを見せていた。
更に進むとそこは闘技場の観戦席の様な場所だ。奥には言葉の壁もあった。
奥に居たドラウグル・デス・ロードが立ち上がった。
そして、見慣れるシャウトを行使した。
「ガーン ラ ハース!」
紫と黒が混じった衝撃波がイナルに向かって飛んで行った。
イナルは盾を構えて防御するも、衝撃波はイナルを吹き飛ばすことなくイナルに当たると同時に消滅した。
「これは……!」
使われたのは生命力吸収のシャウトだ。
相手のHP、マジカ、スタミナのすべてを秒間五ずつ三十秒間吸収するという強力なシャウトだ。
数値にして百五十も吸収される。
だがイナルはドラゴンボーン。少し吸収された程度で止まらない。
「ウルド!」
イナルは疾風の疾走の一言目だけを唱えデスロードに急接近。
そのまま近接戦を仕掛ける。
シャルティアとセラーナは周囲に居るスケルトンとドラウグルの対処だ。
と言ってもこちらは雑魚同然で一分もかからず殲滅が終わった。
それと同時にデスロードも討伐された。
「よし……あそこから出れそうだな」
イナルは言葉の壁に行きシャウトを習得してから階段を登っていき、外に出た。
「あぁ、また息を吸えるとは……素晴らしいですわ!」
そうセラーナが歓喜の声を出した。
吸血鬼はアンデッドなので呼吸が不要だが、出来ない訳ではない。
シャルティアは呼吸するのをもうやめているのであまり気持ちはわからなかった。
空を見るともう夕方で、日が沈みかけていた。
「じゃあここからドーンスターに行こう。そこで一泊してから……確かドーンスターにも船があったはずだから船でソリチュードまで行こう」
「そうでありんすね……いえ。そのまま船で送って貰った方が速くないでありんすか?」
「確かにそうだな。それじゃあそういう予定で行こう。セラーナも問題ないか?」
「えぇ。大丈夫ですわ」
では行こう、と三人は山を下りていく。
道中モンスターに遭遇することなく山を下山し、街道に出て進む。
街道は碌に整備されていないが、シャルティアはこういった整備に力を出そうかとも考えている。
ホワイトランやソリチュード、ウィンドヘルムにはどうしてもスラム街というのが出来てしまい、行き場のない者たちが居る。
ただそう言った者たちでも肉体労働なら出来るだろうから仕事を斡旋させスラム街から脱出させてはどうか、というのを内心企んでいた。まぁ、原作アインズ様のやったことをやろうとしているだけだ。
そうして太陽が完全に沈んだ頃には一行はドーンスターに辿り着いた。
「ではわたしは首長の屋敷で泊まるでありんす。宿代と食事代はこちらで持つでありんすから明日領収書……あー、料金を教えておくんなまし。払うでありんすから」
「何故だ?」
「これは既に帝国の公務の一部でありんす。だから協力者に対し経費を払うのは当然でありんすよ」
「なるほど、そう言う事なら受け取ろう」
「えぇ。では明日の朝、港で」
じゃあ、と手を振ってシャルティアは首長の屋敷に向かった。
首長の屋敷、ホワイトホールに入る。
「将軍? 何故ここに?」
丁度部屋からドーンスターの新首長の女ブリナ・メリリスが問いかけた。
ブリナは元帝国軍の特使の女で、老年の女だ。
「情報の共有と、今晩泊めて貰いたく来たでありんす」
「わかりました。どうぞこちらへ」
シャルティアは言われるがまま小部屋に入る。
座ってはちみつ酒を使用人が出す。
「では情報共有から。吸血鬼たちがここから南に行ったところにあるディムホロウ墓地というところで何かを探していんした。そのナニカは既にこちらで発見、回収済みでありんすがそれを知らぬ吸血鬼たちがまた来る可能性がありんすから警戒するように」
「わかりました」
「それと──」
幾つかの連絡事項を伝えた後、シャルティアは文字の勉強をして夜を過ごした。
習得率九割。
■
朝。シャルティアは港に来ていた。
「来たぞ」
そこにイナルとセラーナが来た。
セラーナは太陽光が眩しいのかフードを被っていた。
このフードはただ太陽光を遮るだけの物じゃない。日光化における吸血鬼のペナルティを軽減する付呪が施された代物だ。
「では、行くとするでありんすか」
三人は港にある小舟に行った。
「船主、ソリチュードの北西にある城の廃墟までお願いするでありんす」
「ハイロックとの境目にある城かい? 別にいいが、料金は高く頼むよ」
「これでどうでありんすか?」
シャルティアは懐から五百セプティム出した。
「結構。さっさと行こう」
そして三人は船に乗って進み始めた。
■
昼過ぎになって一行は城──ヴォルキハル城に辿り着いた。
「でっか」
イナルが思わずと言った感じに呟いた。
城はでかかった。ドール城の二倍以上のサイズを誇る巨大な城だ。
だが、城の外見は古びた物で、年季を感じさせる。
城に入るには橋を渡らないといけないが橋の左右にはガーゴイルの像が四つほどある。
しかもこれらはガーゴイルの上位種センチネルだ。
橋の途中でセラーナが話し出した。
「中に入る前に言っておきたいのですが……中に入って暫くは私に任せてください。でないと……大変なことになるでしょうから」
「これだけの規模の拠点を持つ相手とやり合うのは避けた方がいいでありんしょうねぇ」
シャルティアは敵の戦力がわからないうちに敵対するのは愚か者のすることだと言う。
自分はこの世界最強の存在ではないとアルドゥインとの戦いで知ってしまったから。
セラーナはどこか怯えてるようにイナルは見た。
「大丈夫か?」
イナルがそう声をかけた。
「大丈夫ですわ。心配してくださってありがとう」
そうセラーナは微笑んだ。
「中に入ったら私は暫く自分の道を進むことにいたしますわ……私は……」
セラーナは何かを言おうとしたが、黙ってしまった。
「行きましょう」
そして三人は門の前まで進む。
「そ、その顔は……セラーナ様?!」
門番がセラーナの顔を見るなり叫んだ。
門番は吸血鬼ではなく人間だった。
「も、門を開けろ! セラーナ様がお戻りだ!」
そして門が開いて行く。
「この目で見れるとは思わなかった……」
「中に父は居ますか?」
「は、はい。ハルコン卿は中に居りますが……そちらの二人は?」
「私の仲間ですわ。さ、行きましょう」
そして門を潜って中に入る。
中は玄関ホールだった。左右には椅子がある。
そして一人のハイエルフの男が立って居た。
吸血鬼らしい牙に赤い瞳の男だ。肌は雪のように白い。
「定命の者がよくもここまで……いやまて、セラーナ様?」
「えぇ。戻りましたわ。ヴィンガルモ」
「なんてこった! 主様! みんな! セラーナ様がお戻りになったぞ!」
ヴィンガルモと呼ばれたハイエルフはそう叫びながら奥のホールに進んでいった。
三人もまたヴィンガルモに続いて行く。
階段を降りていった先は広間で机が左右に一つずつある。間には長い空間がある。
そして奥には玉座が一つ置いてあった。
「長らく行方が知らなかった娘がようやく戻ったか。星霜の書は持っているのだろうな」
そう奥に立つ男が言った。
黒髪赤目の男だ。身長は高い。
セラーナの鎧と似たデザインの鎧を纏い、背中にはマントがある。
腰にはアカヴィリから渡った剣──刀に酷似したブレイズソードを差している。
星霜の書、という言葉にシャルティアは目を点にして驚いた。
実際見ればセラーナは何かの巻物を背中に背負っていた。
イナルは気づいていたが何も言わなかった。
「戻って来た娘に対する一言目がそれですの? 勿論持っていますわ」
「嬉しいに決まっているだろう。言葉にしないとわからないのか? そして……我らの殿堂に見知らぬ者を連れてきたようだが、何者だ?」
「帝国軍将軍のシャルティア・ブラッドフォールンでありんす。よしなに」
「ドラゴンボーン兼冒険者のイナルだ。吸血鬼の王よ」
「ほぉ……」
セラーナの父──ハルコンはドラゴンボーンという言葉に対し興味を抱いたように見えた。
「娘が無事に戻った事、感謝している」
そうハルコンはイナルに話しかけた。
「そのことに対し褒美を取らせねばな。星霜の書、そして我が娘に相応しい報酬となれば……私の血しかない」
「吸血鬼になれと?」
「ただの吸血鬼ではない。このスカイリムで最も古い血族にして真祖の血を受け継ぐことが出来る。最大の褒美だ」
「悪いが、定命の者を辞める気はないんだ」
「この力を見てもそう言えるか?」
ハルコンが変身した。
血が噴出し、一瞬ハルコンが黒くなる。
だが次の瞬間ハルコンは異形の姿に変わっていた。
顔は悪鬼のように歪んでいる。背中からは皮膜のついた翼が生えている。
体の色が白から石灰色に変わっている。
手には鋭い爪が付いている。
地面から数センチ浮遊しており、飛行能力を持っているとわかる。
「さぁ、選ぶが良い」
「──悪いが断らせてもらう」
「そうか……なら仕方がない。ならばお前は他の定命の者たちと同じ餌だ。だがこのことに対する褒美として殺さないでやろう……そちらの少女はどうする?」
「至高の御方以外に与する気は全くないでありんすし、わたしは将軍なので他の勢力に与する事は出来ないでありんす。お断りするでありんす」
「そうか……ならば──」
「その前に、ここ最近スカイリムで続く吸血鬼の襲撃はぬしが犯人でありんすか?」
シャルティアの問いにハルコンはくつくつと笑った。
「そうだと言ったら、どうする?」
「辞めて貰えないでありんすかね。吸血鬼と人間の全面戦争を現在する気は無いでありんす。何かしら探している物があるのなら取引をして渡すのもやぶさかではないでありんすから」
「定命の者と取引などするわけがないだろう……だが、探している物の一つは見つかった。頻度は下げよう」
(これが落としどころでありんすね)
シャルティアはそう考えた。
正直に言えば、ハルコンから感じられる力はアルドゥインは勿論シャルティアより低い。
レベルで言ったら六十レベル程度だろう。無論このレベルでもその気になればスカイリムの全戦力──シャルティアとドラゴンボーンとグレイビアードを除く──と正面切って戦った上勝てるだけの力はある。
だがシャルティアのように音速で移動出来るほどではない。
他の者たちのレベルも三十から最も高い者で五十程度とシャルティアは判断した。
この程度の集団ならフル装備の自分ならどうにか出来る。
しかしただ殺すのではつまらない。
モモンガ様に対し現地兵力を用意しておいた方が良いのでは、などと考えるため即座の殲滅はよした。
「次に会ったらその命、ないと思え」
そう言うとハルコンは二人に魔法を当てた。
強制転移の魔法だ。それにより二人は城の浅瀬まで転移させられた。
「ぬしはどうするでありんす?」
「俺はまぁ、これで終わりだと思う……と言っても吸血鬼たちが何かするなら、対処するがな」
「わたしもソリチュードに戻ってこのことを報告するでありんすかね」
そう言って二人は小舟に乗ってスカイリムに戻っていった。