「あれがホワイトランね」
一時間ほど歩く事でシャルティアはホワイトランに到着した。
石の五メートルほどの壁に囲まれた要塞都市だ。上の方には木造の城がある。
時刻は夕方。空がオレンジ色になっている。
(暫くは傭兵として活動し、情報と資金の入手に努めるかね)
山賊から殺して奪った金はあるが心元ない。更なる資金は必要だろう。
飲食は不要というかできないが、休憩するための宿屋代や情報を得るための本代などは居るだろう。
そうしてはちみつ酒醸造所を通り、馬小屋を通って門にまで行く。
門の前には黄色い鎧を着た衛兵二人が立っていた。
邪魔されることなく、門を開けてシャルティアはホワイトランに入った。
(衛兵が吸血鬼の姿を見てもなにも言わない……この世界に吸血鬼は居ない、もしくは居たとしても貴重?)
情報が足りないな、と思いつつシャルティアは街中を進む。
「いくらかかろうが金は払う。だが帝国軍にはもっと剣が必要だ」
入って少し進むと入口近くに鍛冶屋があり、鍛冶屋の女鍛冶師と帝国軍の鎧を着た者が何か話していた。
「私一人じゃそんな規模の注文には答えられないわ。エオルンド・グレイ・メーンに頼んだらどう?」
「はっ。グレイ・メーンに頭を下げるくらいなら、死んだ方がマシだ」
(エオルンド、グレイ・メーン……貴族か何かか?)
シャルティアはそう考えつつ奥へと進む。
奥へ行くと其処は広間だ。幾つか屋台があり、奥には宿屋がある。
右手には錬金術師の店と雑貨屋がある。
「よぉ、そこのあんた。ホワイトランは初めてだろう?」
そうシャルティアに話しかける者がいた。
「そうでありんすが……あなたは?」
「俺はジョン・バトル・ボーン。この街で冒険者……みたいなことをしている。まぁ、山賊退治ぐらいしかしてないが。この街初めてのあんたに親切に色々教えてやろうとおもってな」
「そうでありんすか。ではお願いしんす。わたしはこの街でお金を稼ぎたいでありんすが……何かいい方法はないでありんすかえ?」
「お金には困ってなさそうに見えるが……」
シャルティアの着ている服は素人でも金がかかってそうだと一目でわかる。
だからこそジョンはどこかの貴族令嬢がお忍びで来ているのかと思ったのだ。
「実は家が没落して……家族も離れ離れになってしまいんした。そのために一人で生きていかねばならないでありんすぇ。幸い魔法の心得はありんしたから、それで食べて行こうかと……」
「それは……辛いことを聞いてしまったな、すまない。しかし魔術師か……それだと同胞団は難しそうだなぁ」
「同胞団?」
聞いたことない組織にシャルティアは警戒を強める。
「知らないのか? このスカイリムで最も名誉ある組織だ。かのイスグラモルが起こした組織だ。ジョルバスクルに拠点がある」
「そうでありんすか……魔術師だと無理という事は、戦士を重んじる組織でありんすかえ?」
「その通りだ。ここ数十年は魔術師が嫌われているだけでなく、イスグラモル事態邪悪な魔術師を倒した逸話にも事欠かないから、魔法を扱う者は入団を断られるだろう」
「そうでありんすか……では逆に魔法を扱う組織は?」
「それだと、ウィンターホールドの魔法大学だな。魔法が使えるならそこに入学できるだろう。あそこは学徒を多く募集しているし入学費用などはないはずだから、行けるはずだ。と言ってもここからだいぶ遠いがな」
(魔法大学……リスクが高いな。この世界の情報に欠ける今、行く場所じゃない)
シャルティアはそう判断した。
この世界に階位魔法は無い。そのためにこの世界独自の魔法をシャルティアが習得、使用できるのかという点には疑問が生じる。
だからこそお前なんで魔法使えるくせに魔法習得できないねん、という問題やお前の使ってる魔法変じゃねと言われない為に大学には行けない。
「まずはここら辺で地盤固めをしたいでありんすから……ここらの仕事が欲しいでありんす」
「それだと、バナード・メアに行くといい。そこの店主のフルダから仕事を貰えるはずだ。と言っても山賊退治や熊退治ぐらいの仕事しかないがな」
「そうでありんすか。それでも、仕事がある分マシでありんす。ありがとう、行ってみるでありんす」
「おう、何かあったら俺の元に来るといい、手助けぐらいはしてやれるから!」
「──ありがとう」
今のシャルティアは中の人がいる関係か人間を虫けらのようにはあまり思わない。
と言ってもその場の気分で虐殺しても何も思わない程度の精神性に変化はしているが。
そうして広間の奥に行き、宿屋に入る。
「いらっしゃい。暖かい飲み物に暖かい食べ物があるよ」
そう店主のフルダがシャルティアに対しお決まりの歓迎の言葉を言った。
シャルティアは軽く周囲を見る。
そこには鎧を着た戦士らしき女。リュートを引いている吟遊詩人らしき男。飲んだくれている鎧を着た男が居た。
店は清掃がされていて、中央に囲炉裏がある。
テーブル席などもあり、左手に厨房がある。
それらを気にせずシャルティアはカウンターに進む。
「ここで仕事を貰えると聞きんした。何か仕事をおくんなまし」
「……あんたのようなお嬢様が、仕事を?」
フルダは怪訝な目でシャルティアを見た。
シャルティアは十歳後半程度の小女に見える。更にドレスを着ているのでどこぞの貴族のお嬢様にしか見えない。
それが宿屋で仕事が欲しいなどと言う。一言で言えば怪しい。
「実は家が没落してしまいんして……家族も離れ離れ。どうにか生きていく為に仕事が必要なのでありんす」
あまり嘘は言っていない。
アインズ・ウール・ゴウンは時の流れにより至高の四十一人は去っていき、バラバラになった。それも一種の没落と言えるだろう。
「そう……あんたに紹介できるのは、こんな仕事だけよ」
そうフルダは手配書を出した。
「ヴァルトヘイム・タワーに居る山賊の頭の討伐依頼よ。受ける?」
「勿論、受け──」
そこで扉が開いた。
入って来たのはどこか異様なふいんき(なぜか変換できない)の男だった。
兜は左右から角が出ており、いかつい。
鉄の鎧に鉄の剣と盾を持ち、背中には弓と矢筒を持っている。
熟練の冒険者と言った雰囲気の男だ。
ずかずかと男がカウンターに進む。
「店主。傭兵か冒険者を探してるんだが、この宿にスカウトか治療師はいるか?」
「悪いけど、居ないよ。何の用だい?」
「ブリーク・フォール墓地を攻略することになったんだが、墓地の探索ならそれらが必要だと思ってな」
「それなら、同胞団に依頼を出したらどうだい?」
「……そこまでの金銭的余裕はない。だからここに来た」
「そうかい。けど悪いけど──」
「その話、わたしが受けるでありんす」
シャルティアはそう男に言った。
「……君が?」
「そうでありんす。ただ他者への治癒魔法は使えないでありんすが、対アンデッドの能力は持ってるから安心しなんし。他の魔法も使えるでありんすから」
これはシャルティアの勘だ。
この男は何か他の者とは違うという、シャルティアの勘。
だからこの男に関わろうと思った。これが一番手っ取り早いと思ったからだ。
「……そうか。なら頼む。店主、部屋を借りていいか?」
「一晩十ゴールド。飯は別だよ」
「わかった」
男は財布を取り出すと金貨を十枚取り出す。
この世界、銅貨や銀貨は無い。全て金貨で取引がされている。
「毎度。部屋は二階にあるから、そこを使いな」
「感謝する。それじゃあ……君の名は?」
「わたしはシャルティア・ブラッドフォールン。そういうあなたの名前は?」
「俺はイナル、戦士だ。よろしく頼む」
そうイナルは手を差し出した。
シャルティアはその手を握り返すのだった。
■
シャルティアはバナード・メアで一泊した。
一応何も頼まないのは失礼かな、と思いシャルティアはエールを頼んだがあまりおいしくはなかった。
シャルティアは特殊な吸血鬼で飲むことは出来ても食べる事は出来ない。
そして二人はホワイトランを出て、リバーウッドへと向かった。
「それで、そのブリーク・フォール墓地と言うのはどこにありんす?」
「確かリバーウッド近くの山にあるはずだ。詳しくは地元住民に聞いた方が良いだろう」
「わかったでありんす」
そうして二人は街道を歩いて行く。
ホワイトラン周辺は衛兵が見回りしているのでモンスターも山賊も出てこない。平和なものだ。
「何故、ブリーク・フォール墓地に行くか聞いてもいいでありんすかえ?」
「別にいいぞ。この依頼は王宮魔術師のファレンガーZからの依頼だ。何でも、ドラゴンに関する遺物がブリーク・フォール墓地にあるらしい。確かドラゴンストーンと言うらしい」
「それはブリーク・フォール墓地のどこにあるでありんすか?」
「……わからない。それに、本当にあるのかもわからないらしいぞ」
「……えぇ。存在が不確かな物を取りに行くでありんすか?」
「そうだ。まぁ、無いなら無いで説得するしかないな」
「しょうがないでありんすね……」
「今度はこっちの質問だ。ブラッドフォールン……シャルティアでいいか? お前はなんでこのスカイリムに居る?」
「……わたしは遠いところから来たでありんす。ナザリックと言う地に暮らしていたでありんすが、わけあってバラバラになってしまい……こうしてスカイリムの地で再起を図っているでありんす」
「そうか……辛いことを聞いたな。すまない」
「気にしないでおくんなまし。それじゃあ、村に行くでありんすよ」
「あぁ。行こう」
一時間後。
二人はリバーウッドに辿り着いた。
「まずは俺がこの村の知り合いと話そう。ついて来てくれ」
「わかったでありんす」
シャルティアとしてはこの村の住人を仕方がないとはいえ一人殺しているので若干居心地が悪い。
二人は鍛冶屋に行く。
そこでは鍛冶屋のエプロンを着たノルドの男が鍛冶仕事をしていた。
「アルヴォアさん! どうも!」
イナルがそう声をかけるとアルヴォアと呼ばれた男は鎚を置いて目を見開いた。
「イナル! なんだ、もう帰って来たのか?」
そう歓迎するような声色で問いかけた。
「あぁ。少し聞きたいことがあってな。今いいかな」
「勿論、大丈夫さ。それで何を聞きたいんだ?」
「ブリーク・フォール墓地について聞きたい。行き方や、そこに何が出るのかとか」
「ブリーク・フォール墓地に? ……うーん。ドラウグルが出るって事ぐらいしか知らないな。あぁ、だけど最近ルーカンが何か話していたから、彼に聞くといい。ほら、向かいの店だ」
「なるほど。ありがとう」
「どういたしまして、だ。墓地にはアンデッドが湧くから、気をつけろよ!」
そうして二人は手を振りながら別れ、向かいの店に入った。
「誰かがどうにかしないと!」
「駄目だ! お前を危険な目に合わせる訳にはいかない!」
何やら男と女で揉めていた。
男の方がイナルに気づいた。
「あぁ、すまない。客か」
「気にしないでくれ……何を揉めていたんだ?」
「……客に話すような事じゃないが、この店に盗賊が出たんだ。だが商品は無事だ。盗賊はある装飾品だけを盗んでいった。金の爪だ」
「金の爪?」
「竜の爪を模した物だ。まぁ、ただの飾りとして置いておいて売るつもりはなかったんだが……」
「そうか……」
「ねえ、ルーカン。この人たちに頼んだらどう?」
そう女の方──カミラが良いことを思いついたとばかりに提案を始めた。
「この……少女の方はわからないけど、この人は傭兵か冒険者みたいだから、依頼として金の爪の奪還を頼んだらどう?」
「だが、それは……」
「俺は受けてもいいぞ。シャルティアは……どうだ?」
「その盗賊がどこに行ったか次第でありんすね。ハーフィンガルに行ったとかだとさすがに無理でありんす」
「それは問題ないわ。盗賊はブリーク・フォール墓地に向かって行ったの」
「墓地に? なんでだ?」
「さぁ、盗賊の考える事はわからないわ……それで、依頼受けてくれるかしら」
「最新の荷物に金貨があったはずだ。それを渡そう」
「受けよう。ブリーク・フォール墓地には俺たちも用事があるからな。それで、墓地について教えて欲しい」
こうして依頼は成立した。
■
山道をイナルとシャルティアは登る。
イナルは鍛えた体を持って。シャルティアは百レベルのステータスと疲労無効の種族特性で問題なく登山を可能にしていた。
「ところで、ドラウグルってなんでありんす?」
シャルティアは気になっていたことを問いかけた。
話の流れからしてアンデッドの一種だと思われるが、詳細がわからない。
「ドラウグルは古代ノルドの遺跡に居るアンデッドだ。ミイラに似たアンデッドで元は優れた戦士や魔術師だったりする。外見から強さがあまりわからないから注意が必要だ」
「なるほど。気を付けるでありんす」
そうして更に進んでいくと雪道になっていく。
サクサク雪を踏みながら進んでいくと向こう側に塔が見えて来た。
そして、その前の道には二メートルほどの獣が居た。
人型。全身が白い毛に覆われている。額には三つ目の目がある。
動物としてはゴリラを獰猛な姿にした姿をイメージすればいいだろう。
(オバロのトロールとまるでちげぇ!)
シャルティアは内心そう叫んだ。
オーバーロードのトロールは三メートルほどの巨体に薄い青い肌を持つ。
断じて毛皮を持っているモンスターではない。
ただ再生能力を持つのは共通だが、この世界のトロールは酸に対する脆弱性は無いという。
「わたしが対処しんす。
シャルティアは第三位階の攻撃魔法を唱えた。
火球が飛んで行き、フロストトロールに命中し爆発する。
フロストトロールはその一撃で体全体を焼かれ死亡した。
「では行くでありんす」
「……あぁ。行こう」
更に少し進むと塔に到着する。
「おい、金目の物を出しな」
塔には山賊がたむろしていた。
小さい塔だがある程度の居住設備は整っているように見える。
「悪いが、そんなものは無い──死んでくれ」
イナルはそういうと剣を神速で抜き、男の首を跳ね飛ばした。
そのまま二人は塔の中に入る。
「英雄気取りが! 死にな!」
イナルと似た鎧を着た山賊が片手剣で攻撃をしてくる。
「
十の魔法の光弾が山賊に向かって飛び、肉ミンチに変えた。
奥にもう一人女の山賊が居る。
イナルはそれに突撃し胸を貫いて殺した。
「これでここは安全だな……ここで少し休憩しよう」
「賛成でありんす」
シャルティアは疲労しないので休憩など要らないが、人間──ノルドであるイナルには必要だ。
適当な椅子に腰かけて二人は休む。
「……シャルティア。君が居たというナザリックはどんなところだったんだ?」
ただ休憩するだけだと暇なのでイナルが話しかけた。
「そうでありんすね……至高の四十一人と呼ばれる御方たちが作り上げた巨大な拠点でありんす。そこには様々な者たちが居るでありんす」
「そうか……シャルティアにとってはいい故郷だったんだろうな」
「ええ──とても、とてもいい場所だったわ」