ストック無くなりました
翌日の朝。
ドール城の会議室にシャルティア、セラーナ、リッケ、そしてデキソンが居た。
「星霜の書……よし、読んでみよう」
「お願いしますわ」
デキソンがセラーナから星霜の書を受け取り、開いた。
縦に開いている。
「見えるぞ……巨大な弓が見える。この武器には見覚えがある! アーリエルの弓だ!」
アーリエルとはアカトシュの別名の事で、スノーエルフ達の呼称だ。
「声が囁く……『夜の子供たちの中からドレッド・ロードが現れる』戦いの時代。ドラゴンたちが人間の国に舞い戻る時、闇と光が混ざり、夜と昼は一つになる」
(例の予言の事ね)
シャルティアは星霜の書に書かれているなら事実であり未来の事か、と顔を苦くした。
星霜の書とはこの世界の過去未来現在すべてが書かれたアカシックレコードのような物だ。
勝手に増えたり減ったりどっか飛んで行ったりする代物だが強力なマジックアイテムでもあり相応の実力を持つ者なら限定的な過去改変すら可能にする超級のアイテムだ。
「声がかすれて言葉が歪み始めている……でもちょっと待った。まだ続きがある……弓の力の秘密はどこか別のところに書かれている。他の書に記録された予言の続きがあるようだ」
更にデキソンは読んでいく。
「見えてきたぞ……所の一つにはドラゴンに関する古の秘密が含まれ、もう一つには古き血が持つ力の事が記されている……駄目だ。声がかすれてもう読めない」
デキソンは書を閉じると椅子に座って息を吐いた。
デキソンは疲労困憊と言った感じで汗もかいていた。
「予言を知るには残る二つの書が必要だ」
星霜の書を読み解くというのはそれだけで重労働だ。何せ神々ですら制御できない代物をただの定命の者が読もうというのだから。
更には解読を続ければ失明するという厄介な代物である。
「つまりは、もう一つの星霜の書が居るという訳ですのね」
セラーナがそう言った。
「ドラゴンに関する書なら覚えがあるでありんす。確かイナル……ドラゴンボーンが所持していたはずでありんす」
「でしたら配達人を使いドラゴンボーンに連絡を取りましょう」
リッケがそう提案した。
「えぇ。すぐ手配を。もう一つの方は……心当たり無いでありんすねぇ」
シャルティアがうーんと頭を捻る。
そこにセラーナが口を開いた。
「もしかしたら……母が持っているかもしれません」
「ぬしの母君でありんすか? どこに居るでありんす?」
「それが……私を棺に入れた後、どこに行ったかはわかりません。生きているとは思うのですが……最後に会った時はどこか安全な場所に行くと言っていました。父が決して探さないような場所へ行くと」
「恐らくはハルコン達も探している相手。それを今動かせる人員で探しても見つかるとは思いんせんね……」
「……どこに居るのでしょうか、お母さま」
セラーナが悲しそうに呟いた。
そこにリッケが口を挟む。
「生きていると仮定し、捜索しましょう。吸血鬼がタムリエルを侵略するとなれば帝国も関係ありますから。そして……生きているならば隠れているはずです。最も見つかりにくいところに」
「となるとタムリエルの反対側……エルスウェーアでありんしょうか」
エルスウェーアとはカジートの故郷の事で、そのほとんどが砂漠である。
麻薬であるムーンシュガーの生産地でもある。
「いえ。自分が真っ先に探し、そして二度と探さない場所……つまり敵のハルコンの居る場所その物です」
その言葉にセラーナが納得したような声を出した。
「きっとそうですわ! お城には中庭があって、母がその庭園の世話をするのを良く手伝いましたわ。うちの薬の材料は全てそこで採っておりましたの。母曰く、父はその場所が大嫌いだったようですわ。ちょっと……和やかすぎるから」
「しかし中庭を探索するのは危険ではありんせん?」
「その通りですわ。でも母は卑怯者ではございませんの。つまり……そこへ行っても母に会えるとは思わないのですけど、調べる価値はありそうですわ」
「正面から行ってぶっ飛ばす訳にはいきんせんし、どうするでありんす?」
「騒ぎを起こさずに中庭に行く方法はありましてよ。島の北側に放棄された入江がありますの。前の所有者たちが白に荷物を持ち込む時に使っていた場所なのでですけど……そこから行けるはずですわ」
「わかりんした。ではすぐ向かいんしょう」
「えぇ。準備は出来ておりますわ」
二人は転移魔法でヴォルキハル城の入江に転移した。
すぐに転移したのは今が朝という吸血鬼が寝ている時間だからだ。
この世界の吸血鬼はアンデッドなので睡眠も無効化するが、寝た場合一時的にバフを得られるのだ。棺で寝ると十パーセントの魔法耐性を得られる。効果は八時間だ。
「アンデッドが多いでありんすね」
「侵入を警戒しているのでしょう。ですが放置して長いはず……倒しても問題はありませんわ」
「そう言う事ならとっとと殺るでありんすか」
島の入江、というか港は大型の船が一隻ほど入れそうな作りになっている。
そしてそこにはスケルトンの上位種が四体ほど警備していた。
シャルティアが突撃しスケルトンを蹴り砕く。
セラーナもスケルトンに対しアイススパイクで攻撃し、すぐに倒す。
この世界にスケルトンは冷気に対し二十五パーセントの耐性しか持っていない。ユグドラシルのように完全耐性を持っていないのだ。だから冷気魔法が通じる。
すぐに殲滅し終えた二人は奥にある扉を開け中に入っていった。
中は薄暗い下水道のようだが、糞尿の臭いはあまりせずどちらかというと死臭──血や肉の腐った臭いの方が強い。
デスハウンドが出たのでシャルティアが踏みつぶし殺し、奥に進むと頭髪がない女の吸血鬼が短剣片手に襲ってきた。
ただし雑魚だったのですぐシャルティアが首を跳ね飛ばし殺し、灰に変えた。
余談だがこの世界の吸血鬼の灰は錬金術の材料にしてポーションが作れる。
更に奥に進んでいき、フロストバイトスパイダーを殺してレバーを引く事ではね橋を降ろし先に進み、階段を登っていく。
そしてドアを開ける。
ドアを開けた先は中庭だった。結構な広さを持つ。
左右には大きな扉があるが、右側の方は瓦礫で塞がれている。
「あぁ……なんてことかしら……」
セラーナが悲しそうに呟いた。
「ここで一体何がありましたの?」
周囲を良く見れば花が置かれていたであろう場所には小さな瓦礫があり、雑草がぼうぼうに生えている。
中央には日時計ならぬ月時計がある。
「何もかもが破壊されていますわ……この場所全体がまるで……死んでいるようですのよ。何世紀もの間、誰も足を踏み入れてなかったように見えますわ」
セラーナがそう言いながら瓦礫の扉に向かって歩いて行く。
「以前ここは城の大広間に通じておりましたのよ。どうやら父が封印したようですわね」
「封印……というよりは臭いものに蓋をしただけに見えるでありんすが」
「そう……かもしれませんわね」
セラーナはシャルティアの言葉を否定できなかった。
ハルコンにとって自身の妻ヴァレリカは消し去りたい過去なのかもしれない。
「夕食の後、よく中庭を散歩しておりましたわ」
そう言いながら今度は庭園の方に進んでいく。
庭園も花は枯れ雑草がほとんどを占めている。
「ここは母の庭園でしたのよ。そうですわね……名人が何百年も手掛けた物がどれほど美しくなるか想像がつきまして?」
「寿命の無い吸血鬼だからこその強みでありんすね。見て見たかったでありんす」
「そう言ってもらえると嬉しいですわ」
そうセラーナは微笑んだ。
そして最後に月時計に戻る。
「お待ちになって。この月時計は何かおかしいですわ。クレストが幾つか無くなっていますし、時計自体も傾いていますわ」
「経年劣化ではなくて?」
「いえ。これ自体付呪を施されたマジックアイテムだったはず。そう簡単に壊れませんわ……何か意味があるのかも」
「でしたら、まずは欠けたクレストを探すでありんすか」
「そうしましょう。嵌め直せば、何かわかるかもしれませんわ」
そうして二人で手分けしてクレストを探す。
クレストは各地に散らばっていたが、壊れては居なかった。
すぐに見つかり、シャルティアはセラーナに言われるがままクレストを嵌める。
すると月時計が回転し始め、ギミックが作動する。
下に収納されていき、階段が産み出された。
「賢明ですわ、お母さま。とても……行きましょう。この先に母に繋がる何かがあるはずですわ」
「ここから先は一層警戒して進みんしょう」
そうして二人は階段を降り、扉を開けてヴォルキハル城の地下を進んでいく。
だがすぐに階段に出くわし階段を登っている。もはやセラーナにとってもどこを進んでいるのかわからない。
そうして進んでいくと今度はガーゴイルに出くわした。
シャルティアが前衛をし、セラーナが後衛でアイススパイクの魔法を放つことで簡単に倒せた。
死体から宝石類を取ってからシャルティアはガーゴイルが守っていた鎖を引き、先への道を開く。
それを何度か繰り返す事で頂上らしき部屋に辿り着いた。
その部屋にはガーゴイルが五体程いるが、先へ続く扉などは見当たらない。分岐路もなかったのでここが終着点のはずだ。
「そんなはずは……」
セラーナがここで終わりな頭がない、と考えるが何かを探す前にガーゴイルたちが襲ってきた。
「全員死になんし
ガーゴイルたちは内側から破裂し死んだ。死体は欠片も残らなかった。
「お強いのですね……けどありがとうございます」
「気にしなくていいでありんすよ。ここに何か手掛かりがあるといいでありんすが……」
そうして二人は探索を開始する。
シャルティアが棚を漁るとそこには吸血鬼の王族の鎧があった。マジカ回復速度を百五十パーセント増加する鎧だ。防御力も相応に高い。
何かに使えそうだったのでアイテムボックスにしまっておいた。
「ありましたわ!」
丁度そこでセラーナが壁にあるろうそく台を回した。
それによりギミックが作動し暖炉が上に収納されていき、階段が現れた。
「先へ進みましょう」
逸るセラーナが先に進んでいく。
長い階段を登ると、そこは何かの研究室のようだった。
中央にはソブンガルデの門に似た円環があり、壁には本棚がある。
円環の前にはテーブルがあり、ドラゴンの骨さえあった。
「ここで終わり……? いえ。そんなはずはありません。何かあるはずですわ」
「と言ってもここに星霜の書は無いようでありんすが……」
「恐らく母の逃亡先か何かがここに記されているはずですわ。日記か何か見つかればいいのですけど……」
「なら本棚を漁るとするでありんすか」
二人して本棚の左右の端から本を取っていく。
そのほとんどが錬金術や死霊術に関する本だ。
「ん」
シャルティアはその本棚から一つ他の本より小さい赤い本を見つけた。
手に取り開く。
日記を読む。日記にはソウル・ケルンという場所にヴァレリカが転移した、と書かれていた。
「この日記を見つけんした。ぬしが読むべきでありんす」
そう言いシャルティアは日記をセラーナに渡した。セラーナは「ありがとう」とほほ笑んだ。
そしてセラーナが読む。
「なるほど……この日記にはソウル・ケルンについて書かれていますわ。そこへの転移門を開いたというのですね。流石はお母さま」
セラーナは感心し、素直に褒めた。
「そのソウル・ケルンとはなんでありんす?」
シャルティアはこの世界で勉学し、デイドラや政治について勉強している。だがそのシャルティアでも聞いたことない言葉だった。
「……魂石に魂を封じ、その魂の魔力を使って付呪をするのは知っていますわよね」
「当然でありんす。魂石は特殊な鉱石で人間以外の魂を封じ込めることが出来る鉱石でありんす」
スカイリムではブラックリーチという場所で採掘が可能な石だ。
「えぇ。その消費された魂の行きつく場所、それがソウル・ケルンですわ。そして……強力なアンデッド蠢く場所でもあります。死霊術師たちはこぞってソウル・ケルンと取引をしようとしていますわ。まぁそのほとんどは逆に魂を取られるだけで終わるのですけど」
「ソウル・ケルンと取引? 支配者が居るでありんすか?」
「えぇ。その名はアイディール・マスター。一人とも複数とも言われる者で、実態は不明ですわ」
「ふぅん……デイドラロードクラスと思った方がいいでありんしょうか」
「恐らくは。母はアイディール・マスターと取引をしようとしていたらしいですが……失敗に終わったようですわね。ですがそれでもソウル・ケルンへの転移は成功した……」
セラーナが日記を読み進めていく。
すると嘆いたような声を出した。
「あぁ、なんてこと……ソウル・ケルンへの転移には母の血が必要ですわ……他の材料はともかく、この血だけは……」
血というのはこの世界でも重要な魔法的意味を持つ。他人の血で代用できるような物ではない。
「ぬしはそのヴァレリカの娘でありんしょう? ならぬしの血でも代用できるんじゃありんせん?」
その言葉にセラーナはくすりと笑った。
「あら、いいかもしれませんね。何もせず待ちぼうけるより、駄目で元々ですわ。母なら転移の材料の予備を残しているはず。材料は丁寧にひいた骨の粉。浄化された虚無の塩。魂石の破片ですわ。探しましょう」
「じゃあわたしは上の方を探すでありんすね」
シャルティアはそう言い階段を登った。
二階があるのだ。と言ってもロフトがあるだけだが。
二人して五分ほど探すと材料が見つかった。
門を開くための装置に二人は集まる。
「では、材料を入れますわよ」
そう言いセラーナが材料を入れて行き、最後に己の血を短剣で切って入れた。
そして、門が開く。
「あぁ……! 母は本当に成し遂げたのですね……tねソウル・ケルンに通じる転移門を作り上げたのですね。信じられませんわ」
門はソブンガルデへの門に似ていた。
渦巻き石が浮遊し、階段となる。
紫色の光が見える。
「さぁ、行きましょう」
そうして二人は門を通っていった。