「あの空を見て。とても……生物が住めるような世界ではなさそうですわね」
二人が転移した先は空中だった。
だが石が浮遊し階段となっているので落ちる心配はない。
そしてセラーナが言うように紫色の空をしている。
大地は荒野のようであり、生命の気配が感じられない。小動物どころか虫すらいないだろう。
階段を降りていく。
シャルティアは若干酔いそうだった。
「母はここのどこかに居ますわ」
「けどどうやって探しんしょう」
シャルティアは眷属招来の
「……地道に探すしかないですわね。ここのアンデッドたちに聞き込みでもしましょう……会話が通じるといいのですが」
階段を降り切った二人は近くに腰掛けている亡霊を見つけた。
「何故ここに俺は居るんだ……あの苦しみの後俺は一体……」
そう男の亡霊はぶつぶつと呟き続けている。
「ぬし。少し聞きたいことがありんす」
シャルティアがそう話しかけるも亡霊は返事をしない。
「駄目みたいですわね……先に進みましょう」
セラーナがため息と共にそう言い、シャルティアも諦めて先に進んだ。
少し進むと地面からアンデッドがはい出て来た。
黒い骸骨のアンデッドが四体。そのうち一体は下半身が無く上半身だけで浮遊している。
弓を持っているのがボーンマン。全身鎧を着ていて両手武器を持っているのがラスマン。上半身だけのがミストマンという高位のスケルトン型アンデッドだ。
しかし二人の敵ではない。
シャルティアが突撃し二体を破壊し、残る二体もセラーナがアイススパイクでぶち壊した。
「アンデッドに気を付けながら進みましょう」
「そうするでありんすかね」
シャルティアはアンデッド退散を温存する考えであった。アンデッドだらけのこの場所で下手に使いすぎてピンチに陥ったら困るので。
そうして少し進むと通路に一人の亡霊が居て、何か叫んでいた。
「アルヴァク! アルヴァク! どこに居るんだ! アルヴァクー!」
どうやらその亡霊は何か人を探しているようでしきりに人名を叫んでいた。
二人は無視して進もうと端の方によって進もうとしたが亡霊はシャルティアに駆け寄って来た。
「あんた、アルヴァクを探すのを手伝ってくれ! こんなところに居させたくないんだ!」
「落ち着きなんし。まずアルヴァクというのはなんでありんす?」
「俺の馬だよ。忠実で可愛い奴でこんなところまで一緒に来てくれたんだが、はぐれてしまったんだ。アルヴァクの頭蓋骨を見つけてくれ!」
そういうと亡霊はどこかに去っていった。
「……まぁ、気が向いたら探すでありんすかね」
「えぇ。まずはお母さまを見つけなければ」
そうして二人は奥へ進んでいった。
■
道中で何度かアンデッドと遭遇し、その度に倒していくと奥に巨大な砦が見えた。
あそこに何かあるかもしれない、と二人は砦に向かい、到着した。
「お母様?」
その砦への入り口は紫色の障壁によって閉ざされているが透明度が高いため向こう側が良く見える。
そして奥の錬金器具では一人の女──セラーナによく似た美しい女性が連記述をしていた。
セラーナの声に反応しその女──ヴァレリカは振り向いた。
すると目を点にして驚いた表情を浮かべた。
「神よ……まさかセラーナ?」
そう言いながらヴァレリカは近寄るが、障壁に阻まれ二人がハグをすることはなかった。
「会えてよかった! どうやったら中に入れますの? 話したいことが山ほどありますの」
「セラーナ? ここで何をしているの? あなたの父親はどこ?」
「私たちがここに居るのをお父様は知りませんわ。だから大丈夫ですわ」
「……その連れている者は何? 定命の者ではない……かといって私たちの同族という訳でもなさそうだけど」
隠すことが出来そうにないと判断したシャルティアは口を開いた。
「異なる世界から来た
「……オブリビオンの向こう側の住人か。何故こんな怪しい者を……いえ、そうね。失敗したのね。ハルコンはお告げの解読方法を見つけたのね」
「それは誤解ですわ。お父様の目的を私たちなりのやり方で阻止するために来ましたの」
「だとしても、何故余所者をここに……あなた、シャルティアといったかしら? 話しましょう」
「いいでありんすが、何を話すでありんす?」
「何故ここにセラーナを連れてきたの? 彼女の何が目的なの?」
「それはハルコンの目的を妨害……太陽の先制を辞めさせるのが目的でありんす。そのための仲間でありんす」
「そう、仲間、ね……私が何を思って彼女を封印したのかわかっていないようね」
「そりゃ言われなければ、説明されなければわからないでありんすよ。誰もが聡明という訳ではないでありんすから」
「……確かに説明不足ではあったわ。けどそうするしかなかったの……ハルコンの目的は知っているわね。それの成就には、コールドハーバーの娘が必要なの」
「コールドハーバー? 確かモラグ・バルの支配領域の事でありんすね」
コールドハーバーとはオブリビオンで最も荒廃した世界の一つで人の死体が山のように乱立しているという。
「そうよ。吸血鬼になるには実は幾つかある。一つは吸血症を最終段階まで進行させる事。ハルコンの様な真祖の吸血鬼から血を分け与えれること。そして……モラグ・バルとまぐわう事。モラグ・バルと行為をし、生き延びた娘をコールドハーバーの娘というの」
モラグ・バル──デイドラロードとのセックスなど人間が本来耐えれるものではない。
体の構造が違うし、そもそも生殖器に棘などがあるかもしれない。実物を見たことないので何とも言えないが。
それだけの相手とセックスをし生き延びられるのは相当の実力者だという事。
「……つまりは、セラーナがそうだというでありんすか?」
「そうよ。これで私があの子を封印した意味がようやくわかったかしら。あなたは私のこれまでの苦労を台無しにしようとしているのよ」
「んなもん言われなきゃわからないでありんすよ。家族なんだからよく話し合いなんし」
シャルティアがため息とともにそういうとセラーナが少し瞳に涙を浮かべていた。
だがヴァレリカは強情だった。
「この余所者が吸血鬼を名乗ったとしても、私達の苦悩を何一つ知らないのよ。どうしてあなたを任せられる?」
「その『余所者』はお母さまが何世紀もの間にしてくれたこと以上の事を、僅かな間にしてくれましたのよ!」
「よくもそんなことを! あなたが父と呼ぶ狂信者から守る為に、すべてを諦めたのよ!」
「えぇ。お父様は狂信的に……変わってしまいましたわ。それでも私のお父様なのです。そういう父親を持った娘がどんな気持ちでいるのか、どうしてわかってくれませんの?」
「あぁ、セラーナ。どうか目を覚まして……あなたの父がお告げの中にあるあなたの役割に気づいたら瞬間に恐ろしい危険にさらされるのよ」
「でしたら私を守る為に好きな物を一つ残らず取り上げたっておっしゃいますの? あのお墓に私を隠すことが最善の方法と何一つ教えもしないで、ただ黙って言うとおりにすればいいと思っていたのではなくて? お父様もお母さまも自分の道を譲らなかった。理由はそれぞれ違っていたのでしょうけど、結局は二人とも私をただの道具としか見ておりませんのよ」
そうセラーナは悲しそうに言った。
「私はもう一度家族になりたい。でも、それが可能かどうかはわからない……もしかしたら分不相応な望みなのかもしれない。だけど……」
セラーナは覚悟を決めていった。
「それでもお父様を止めなければなりませんわ。手遅れになる前に。そのためには星霜の書が必要ですのよ」
その言葉にヴァレリカは謝罪の言葉を口にする。
「ごめんさい、セラーナ。知らなかった……わからなかった。あまりに長い間、ハルコンへの憎悪に任せて疎遠になってしまった。どうか許して……星霜の書が望みなら、あなたに渡すわ」
そうヴァレリカは覚悟を決めた表情をした。
ヴァレリカはシャルティアの方を向く。
「セラーナの為に、どんな手段を使っても支援するわ。ただ……星霜の書を持っているのだけど、渡すにはこの障壁をどうにかしなければならないわ」
「この障壁はなんでありんす? 何故閉じ込められて?」
「……アイディール・マスターと取引をしようとしたの。だけど間違いだった。奴らの望みは私自身の魂だった。私の魂を得るためにこの砦に閉じ込めたの……究極の持久戦と言えるかもしれないわね」
「アンデッド相手に無謀……とは言えないでありんすね。数千年も封じられたままだと気が狂っても可笑しくないでありんすから」
「えぇ。幸いにも私は正気を保ったままでいられるわ……この障壁を解除するには三人の番人を倒す必要があるの。番人はここから東、南、西にいるわ」
「わかりんした。すぐ倒して戻ってくる出ありんす」
「ただ……ダーネヴィールというドラゴンに気を付けて。彼は私の監視者なの。番人を倒したら出てくるかもしれない」
「わかりんした。出来るだけ早く倒してくるでありんすね」
「お願いね……セラーナ、頼むわ」
ヴァレリカの言葉にセラーナは少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「はい。お母さま」
■
東に向かって二人は歩く。
暫く歩く事で塔に辿り着いた。
「階段とかなさそうでありんすね」
シャルティアが見上げながら言った。
階段もないし梯子などもない。
だが<不死の祝福>の反応からしてこの塔にアンデッドが居るのは確定している。
「あれをご覧になって。転移ポータルですわ」
セラーナが指さした先には井戸の様な物があった。
だが井戸の中は紫色の魔法陣があった。
「なるほど。乗ってみるでありんすか」
女は度胸とばかりにシャルティアが魔法陣に乗った。
すると転移し、塔の上に居た。
「おお、便利でありんすね」
固定された転移ポータルはナザリックでも貴重な品である。
遅れてセラーナも転移してきた。
二人そろって階段を登ると其処にはアンデッドが居た。
竜の骨で出来た鎧を纏い、竜の骨の両手斧を持っている。
体は黒い亡霊のように揺らめいている。
番人だ。
「はいはい、
しかしシャルティアの魔法一つで爆散し、液体だけを残して消えた。
液体の中には魂石があった。黒魂石だ。
シャルティアはもったいないので回収し、奥に見える帰還用の転移ポータルに乗って転移した。
転移した先は先ほどとは違った場所だった。
奥には謎の祭壇が見える。
「あれ、気になりません?」
セラーナが少しワクワクしたような表情で言った。
「なら行ってみるでありんすか」
そうして二人が祭壇に近づくと黒い雷が落ちた。二人には当たっていない。
それを合図に地面からアンデッドが十二体程出現した。
しかし二人の敵ではない。シャルティアがばっさばっさとなぎ倒しセラーナが冷気魔法で援護することで簡単に殲滅された。
祭壇の上には馬らしき生物の頭蓋骨があった。
シャルティアがそれを持ち上げると、どこからか亡霊が現れた。
「アルヴァク! よかった、ようやく見つかったか!」
そうアルヴァクの主は心底嬉しそうに言った。
「あんたはアルヴァクを救ってくれた。ならそれに相応しい報酬を渡すべきだ。ほら、アルヴァクを召喚すル呪文だ。アルヴァクを可愛がってやってくれよ、出来た馬だからな!」
そういうと亡霊はシャルティアから頭蓋骨を受け取り、消滅した。
「……試してみるでありんすか」
シャルティアの中には今、今までにない力を感じていた。
それを行使すると、馬が召喚された。
黒と紫が混じったよな色の骨で出来た馬だ。目には紫の炎があり、尻尾もまた炎で構成されている。
顔つきはどこかいかつく、馬の骨格には見えない。
(召喚出来たでありんすね……)
シャルティアはそう驚いた。
どうやら自分はこの世界の呪文を行使できるらしい、と驚いたのだ。
この世界における魔力、マジカは天から降り注がれる物だ。
マジカを増やすには何度も魔法を使いマジカを体になじませる必要がある。
と言ってもエルフ種のように元からマジカを多く持ち、マジカの保有量もどんどん増えていく種族もあるが、基本は繰り返し魔法を使う事で増えていく。
シャルティアはこの世界の魔法を行使してないが、それでもアルヴァクを召喚できるだけのマジカを体に貯めていたのだ。
「ではこれに乗って進みんしょうか」
「えぇ。エスコートはお願いしますわ」
そうして二人はアルヴァクに乗り、ソウル・ケルンを駆け巡った。