次で最後です
三日後。
シャルティアはドール城で部隊編成をしていた。
相手は太古の時を生きる吸血鬼。並大抵の者では相手にならない。
だから帝国軍の中でも強者を選ばないといけないが、強者はいつの時代どこでだって引っ張りだこだ。
故に実際に動かせる人員はあまりいない。
そこに部屋にノックが来た。
「入りなんし」
「失礼します」
そう言いながら入って来たのはリッケ特使だ。
「将軍。ドラゴンボーン……イナル殿が来ました」
その言葉にシャルティアは頬を緩ませた。
「おぉ。でしたらすぐここに呼びなんし。話したいことがあるでありんすから」
「畏まりました」
そうして暫く待っていると部屋にドヴァーキンが入ってくる。
「久しいな、シャルティア。息災で何よりだ……そして、俺の持つアイテムが必要と手紙にあったが、何がいるんだ?」
シャルティアは少し前イナルが持つ星霜の書を目当てにイナルを呼び出していた。
と言っても手紙に素直に星霜の書を寄越せ、などとは書けないのでぼかして書いたのだ。
「それなんでありんすが……どうやらアイテムの方は必要なかったようでありんす。ですけれども……ぬしの力を借りたいでありんす」
「……シャルティアほどの強者が手を借りたい相手か。腕がなるな」
ドラゴンボーンはここ最近退屈していた。
己に届く敵はおらず、敵はもはや雑兵ばかり。その気になればシャウト一つで殺せる雑魚だ。
戦闘狂という訳ではないが、もはや戦闘がただの作業になりつつある今に不満があるのは事実だ。
だから強敵との戦いを前に興奮していた。
「相手はヴォルキハルの一族。ヴォルキハルにカチコミに行くでありんす」
「あの吸血鬼たちか! いいぞ、面白くなってきた……親玉は?」
「それはわたしが相手するでありんす」
「譲っては?」
「あげないでありんすよ。将軍であるわたしが倒す事に意味があるでありんすから」
「そうか……残念だ。いつ出発する?」
「四日後の朝出発でありんす」
「わかった。それまでは適当に依頼でもこなして待っているとしよう」
「依頼にかまけて当日居ない、なんてことはよしておくんなまし」
「はは、子供じゃないんだ、そんなへまはしないさ」
■
ヴォルキハル城襲撃の日当日。
シャルティア、セラーナ、イナルの三人はドール城前の広間に居た。
広間には帝国軍の精鋭兵二十人が居る。誰もがレベル二十代という近衛兵クラスの実力者たちだ。
三人ともフル装備。やる気満タンだ。
「では今からヴォルキハル城を襲撃しんす。相手は吸血鬼。慈悲など不要。死者を死者らしく灰に変えてやりなさい」
その言葉に帝国軍人たちが元気よく返事した。
「では行くでありんす──
転移魔法によって全員ヴォルキハル城の浜辺に転移した。
「突撃!」
シャルティアの叫びに応じ、一同突撃する。
この中で一番速いのはシャルティアだ。と言っても瞬間的な最大速度で言えば既にイナルに負けているが、ただのダッシュの速度で言えばやはりシャルティアが一番である。
だがシャルティアは他の者が遅れないようわざと速度を落とす。イナルもセラーナも落として走る。
そして橋に入るとガーゴイルの像三体が動き出し、それと同時に門からデスハウンド二匹、男女の吸血鬼が出て来た。
だが、その程度この三人の敵ではない。
サクッとガーゴイルをぶっ飛ばし、男女の吸血鬼はそれぞれイナルとシャルティアが一発ぶち込むことで灰に変えた。
ガルムルとクーシーというデスハウンドは帝国軍が処理した。
門は閉ざされている。開けるのには苦労しそうだ。
だが、シャルティアの前には無意味だ。
「
巨大な火球が飛んで行き、門に衝突し大爆発を起こす。門が残骸となった。
そのまま三人が突撃する。
「せめてものでこの雑魚共は俺が相手する! シャルティアは親玉を倒せ!」
「感謝しんす! ほらセラーナ、行くでありんすよ!」
シャルティアは左手でセラーナを抱えるとそのまま奥へ飛んで行った。
セラーナは召喚──死霊術と破壊魔法の魔法に特化しているので飛行魔法は習得していない。生涯初めての空に怯え涙目になる。
そのまま飛んで行く。
「ハルコンはどこでありんす?!」
「あ、あの殿堂に居ると思いますわ!」
舌を噛むことなくセラーナがそう叫び、セラーナの案内の元シャルティアは巨大な扉にダイナミックエントリーをぶちかました。
「……野蛮だな。最近の帝国は文明を知らぬ蛮族なのか?」
そこはモラグ・バルを祀る聖堂だった。
奥にはモラグ・バルの祠があり、血が尽きることなく湧き出している。
左右には骸骨の山と、幾つかのガーゴイルの像があった。
その前には変身した状態のハルコン卿が居た。
「愛しいセラーナよ。今でもペットを連れ歩くのが好きなのだな」
シャルティアは空気を読んで黙っておくことにした。正直戦略的にはとっととスポイトランスをぶち込むのが正しいが賢いので黙っていられるのである。
「私たちがここにいる理由はお分かりですわね」
「もちろんだとも……失望したぞセラーナ。私がお前に与えた物を投げ捨てたというのか。この吸血鬼擬きの為に」
「お父様は私達の家庭を壊してしまいましたのよ。それに他の吸血鬼も大勢殺しましたわ。あやふやな予言なんかの為に。もうたくさんですわ。家族の絆もこれまで」
そういいセラーナは構えた。
「なるほど。この少女には牙があるのだな……お前から母親の影響が毒のようにしたたっている」
その言葉にセラーナは恐怖した。
「いやでしてよ……私はお母さまとは違う。もうお父様を恐れませんわ」
ハルコンはシャルティアを見て話しかけた。
「娘を心変わりさせたのはお前の仕業のようだな……なぜおまえは戦う? 何のためにここまでする?」
シャルティアとしては正直勝てる戦いだから乗っているだけ、というのがある。
それ以外に理由を挙げるとするならば……同情だろうか。
この未来の世界で独りぼっち。家族は狂い堕ちている。帰るべき居場所がもうどこにもない。
それは、シャルティアの現状によく似ている気がするのだ。
だがここで素直に同情なんて言えば怒られるので言えない。
「わらわは偉大なる帝国の将軍。帝国に害なす者を討伐するのが仕事でありんす」
だからシャルティアは将軍としての言葉でそう言った。
「ならば私の次はヴァレリカか? それともセラーナ?」
ハルコンはくつくつと笑いながら言う。
「あら、セラーナたちはただの帝国臣民。あなたの様な害獣とは違うでありんす」
「いうではないか……だが問答も飽きて来た。いい加減アーリエルの弓を渡せ。持っているのは知っている」
「渡さないでありんす」
「ならばここで死ね!」
ハルコンはそう叫び魔法を行使した。
血の槍が三連続で飛んでくる。
シャルティアはそれを飛行で回避する。速度は速いが見切れない程ではない。
それと同時に骸の山からスケルトンが数体湧いて出てきて、ガーゴイルも出てくる。
「セラーナ! 任せるでありんすよ!」
「──はいっ!」
シャルティアはそう叫びハルコンに向かって突撃した。
ハルコンもまた異空間から刀を取り出す。
ブレイズソードに酷似した古代のマジックアイテム、己の名を冠する刀だ。
効果は吸血鬼が使った場合相手のHP、スタミナ、マジカを固定値吸収するという強力な物だ。
刀とスポイトランスが衝突する。
(聖遺物級は最低でもありそうでありんすね)
シャルティアはそう判断する。
ハルコンはアクセサリーこそ装備しているが鎧などは身に着けていない。そこが弱点になる。
シャルティアが怒涛の攻めを見せる。ハルコンは防御に手一杯だ。
ステータスではシャルティアの方が圧倒的に上。負ける道理がない。
「舐めるな!」
ハルコンは体を蝙蝠に変え後ろに移動した。
更に左手で召喚魔法を行使する。
召喚されたのはガーゴイルの最上位種、センチネルだ。それが二体。
ガーゴイル・センチネルがシャルティアに襲い掛かるが敵ではない。スポイトランスを雑に振るうだけで送還された。
しかしその数秒が欲しかった。
ハルコンは壁をぶち壊し、外に逃げたのだ。
(逃亡?)
シャルティアはそう考えながらも鎧の飛行能力でハルコンを追う。
城のすぐ外ではハルコンが待ち構えていた。当然のように背中の羽で空を飛んでいる。
「この力は外でないと使えなくてな……」
ハルコンが強力な切り札の一つを切った。
空が暗くなる。暗雲立ち込め太陽の光が届かなくなる。
これにより太陽下のペナルティは無効化される。
ごろごろと雷鳴が響く。
そして、強力な──自然の雷よりも強力な雷がシャルティアに命中した。
「なるほど、天候操作の魔法……いえ
シャルティアは雷を受け、ダメージを負っても笑顔を崩さない。
受けたダメージ量はシャルティアのHPからするとわずかだ。と言って蓄積すれば死に至るが、こんなのを数十発受けたところで死にはしない。数千単位で必要だろう。
それだけの間ただ受けるわけがない。その間にとっととハルコンをぶっ飛ばして終わりである。
シャルティアが音速を超えた速度で飛翔する。
ハルコンもまた飛行するが、せいぜいがマッハ1.4程度。シャルティアには届かない。
空中で何度も両者はぶつかり合う。その度に両者はHPが削れていくがダメージレースで有利なのはシャルティアだ。
お互いに再生能力を持つが再生能力では同等程度。それではシャルティアのHPが削られ切れる事はない。
シャルティアは空を飛びながらも何度も雷を受けるがその程度で止まる事はない。
「
シャルティアが魔法を放った。
ハルコンの体が勢いよく燃え盛る。まるで地獄の業火に焼かれているかのようだ。
超位魔法を除けば対個人最強の炎魔法だ。それをさらに
「ぐぅ……!」
ハルコンは左手で障壁の魔法を唱えた。
血の色の球体に包まれ、ハルコンは高速再生の
シャルティアがランスチャージで障壁を攻撃するも、一度では破れなかった。
だが小さいながらも罅が入る。
ハルコンはそのことに驚愕した表情を見せる。己の魔法が破られたことに対する驚愕だ。
この障壁は非常に強力な代物で、それこそ高位のドラゴンの突撃だって弾くほどには強い。
弱点として神聖属性に弱いという欠点こそあるが、それを除けば強力無比な盾である。
シャルティアが数度、スポイトランスで障壁を突く。
それにより障壁はガラスが割れるような音と共に破られ、シャルティアがハルコンに突撃する。
ハルコンは刀で防御しようとするが、その防御を貫通しシャルティアはハルコンの胸を貫いた。
「
更に止めの神聖属性の魔法。
ハルコンの体が浄化されていく。
「あぁ……セラーナ──」
そしてシャルティアはハルコンの体を縦に斬り裂き、ハルコンを灰に変えた。
シャルティアは急いで灰の中からマジックアイテムを回収し、アイテムボックスにしまった。
「それじゃあ、戻るでありんすかね」
シャルティアはそう呟くと空を飛びながらハルコンが破壊した壁に戻っていった。
「終わったのですね」
そこにはセラーナが居た。
「えぇ。もう……終わりでありんす。これからどうするでありんすか?」
「そうですわね……暫くは、あなたと共に居させてくださると助かりますわ」
「では、わらわの秘書として正式に雇といんしょう。これからの長い人生、共に居てくださると助かるでありんす」
シャルティアは若干下心を込めて言った。
最近精神がシャルティアに侵されているのか、女性を見るとウホいい女と思うようになってきた。
「助かりますわ」
そうセラーナは微笑んだ。
そこにイナルがやって来た。
「なんだ、もう終わったのか……首領の首はお前に取られたか」
そうイナルは肩を竦めた。
「他の吸血鬼たちは?」
「俺が全員殺した。中には骨があるやつもいた。久しぶりに楽しめたよ」
「それはよかったでありんす。では……ソリチュードに帰還するとするでありんすか」
こうして、悪しき吸血鬼は倒された。