シャルティアはやっちまった、と空を仰いだ。
だが砦の中に居るので見えるのは石の天井だった。南無三。
戦闘訓練のはずが血の狂乱で暴れてしまい訓練もくそもなかった。
はぁ、とため息を吐きつつ
しょうがないので山賊の砦から金目の物を回収してからシャルティアはグレイムーア砦を出た。
■
「あれがロリクステッドかしら」
夕方。シャルティアはある村に辿り着いた。
人口もそれほど多くなさそうな村であり、畑も幾つか見える。
ただ川などは無く、井戸から生活用水を汲んでいるとわかる。
村には門や柵と言った物はない。せいぜいが畑の範囲をわかりやすくするのと家畜が逃げないように畑と家畜小屋には柵がある程度だ。
村人からシャルティアは奇異の目を向けられる。
こんなのどかな村に貴族令嬢のような恰好をした外見十歳児が居たら困惑もされるという者だ。見る限り護衛も見当たらないし。
シャルティアは近くに居た村人に話しかける。
「おんし。この村に宿屋はありんすか?」
「あ、あるが……あんたのような者を迎えるにはちと格が足りないんじゃないか……?」
「そういうのは気にしないでありんすから、どこにありんすか?」
「それならこの道を真っすぐ行って、右手に見えてくるはずだ」
「感謝しんす」
シャルティアは軽く会釈してから歩いて行く。すると宿が見えた。
正直シャルティアは疲労無効のアンデッドなので宿に泊ったりする必要は無いが、やりたいことがあるので今日は宿に泊まる。
宿屋のドアを開ける。
「いらっしゃい」
中の作りは村特有の宿の作りだ。
長い長方形の形のホールの中央には囲炉裏があり、奥にはカウンター。左右には幾つか泊まる為の部屋がある。
店主のムラルキが何で貴族令嬢っぽいのがここに……? と疑問の表情を浮かべた。
「店主。一拍したいでありんす」
そう言いながらシャルティアは見えないところからアイテムボックスを開き金貨十枚を取り出した。
ユグドラシルの金貨とこの世界の金貨は同一視されないが、アイテムボックスの容量を圧迫することはない。別々で大量に保存が可能だ。
「あいよ。一拍十セプティム、飯は別だ」
「わかったでありんす」
シャルティアはカウンターに金貨十枚を置いた。
セプティムと言うのはこの世界の通貨の名でタイパー・セプティムをさしている。
「ここから右手の部屋を使ってくれ」
「わかりんした」
シャルティアは言われた通りの部屋に向かう。
ドアを開け中に入り、後ろ手でドアを閉める。
ベッドの作りは正直わるかった。バナード・メアの方が百倍ましである。
だが村の宿など大した設備も無いだろうと諦めベッドに腰掛ける。
そしてアイテムボックスから本と紙を取り出す。
本のタイトルは『紳士のホワイトランガイド』と言う本で雑貨屋で適当に買った本だ。
もう一つの紙は日本語とこの世界の文字が書かれたあいうえお表だ。
この世界の文字は英語に酷似している。と言っても古代ノルド語や竜言語、デイドラ文字など複数の言語があるので一概には言えないが。
シャルティアはこの世界の文字を習得すべく夜の空いた時間を使って勉強に励んでいるのだ。文字はなぜか翻訳されていないので。
休息の必要が無いアンデッドだからこそ最大限の速度でシャルティアはこの世界の文字を習得しつつあった。
■
翌日。なんとなくはちみつ酒を飲んでからシャルティアは宿を出た。
そのまま街道を真っすぐ進み、ソリチュードへと向かう。
ソリチュードには道中でもう一泊する程距離がある。次に泊まる予定なのはドラゴンブリッジという村で竜を模した装飾がされた橋が特徴的なハーフィンガルの村だ。
このロリクステッドはホワイトランホールドの村であるのでまだホワイトランを出れていなかった。
地形的にロリクステッドは上の方にあるので急な坂をシャルティアは下っていく。
「ん」
その道中で山賊三人が出て来た。ノルド二人とレッドガードの女一人だ。
レッドガードとはハンマーフェルに住まう人間種の一つだ。浅黒い肌を持ち、毒や疾病に対し耐性を持っている。
「では──
シャルティアは試したい事があったので召喚してみた。
魔法陣が出現し、そこからアンデッドが出現する。
錆びついたような王冠を被っている。
血の色のマントに鎌のように曲がった刃が多数ついている全身鎧フルプレートに負のエネルギーが宿った戦鎌ウォーサイズを装備している。
鎧の隙間から負のエネルギーが黒い靄として漏れており、徐々に体力が減少するペナルティを持つアンデッド、
山賊三人は召喚されたアンデッドの外見と感じる圧から一瞬足を止めた。
この世界でもアンデッドを召喚することは可能だ。だがこれほど強力なアンデッドを召喚、使役できるとなるとそれこそ伝説の存在──虫の王マニマルコや狼の女王ポテマぐらいの者だ。
ドゥームロードが雄たけびと共に山賊三人に突撃し、一撃で殺した。
「では、
シャルティアは今度は別の召喚魔法を行使する。
それによりドゥームロードが送還された。
代わりに召喚されたのは三つ首の巨大な黒い犬のモンスター、ケルベロスだ。
竜を思わせる長い尻尾が伸びた巨大な犬の外見であり、その頭部は3つ。燃え上がるような眼光が3対存在する。
「なるほど、別の召喚魔法を同時に使う事は出来ないのね……」
シャルティアはそれを確認したくて召喚した。
それだけだったのでケルベロスを送還した。
じゃあ移動を再開しよう、と山賊から金目の物を奪ってから進み始めた。
「見るからに山賊の拠点、ね」
橋の前に来ていたシャルティアは眺めながら呟いた。
橋の向こう側には峡谷があり、そこには山賊がたむろしていた。
ざっと数えて二十人近くは居るだろう。空を飛んで無視することも出来る。
(うーん。ここは先日のやり直しと行くか)
シャルティアはそう考えると
「止まれ! ここは有料道路だ。渡りたければ二百セプティム払いな!」
峡谷の左側には木の足場があり、そこには山賊が居た。
「払う気はありんせん──死になんし」
シャルティアはそういうと跳躍。山賊の後ろに着地する。
「は?」
軽く十メートル以上ジャンプされた、というこの世界でもありえない事象を前に山賊たちは固まる。
シャルティアはスポイトランスで山賊の胸を貫いた。
そのまま血を吸い取り尽くし、殺す。
「では──蹂躙を開始しんす」
シャルティアがそう宣言すると蹂躙を始めた。
矢で攻撃してくる者たちは魔法が乗っていないので無視し、剣や斧で攻撃してくる者は回避しつつ攻撃し殺す。
山賊長も出て来たが何かする前に突撃したことで何もできず死んだ。
血の狂乱が発動する事なく、殲滅が完了した。
殲滅を終えたシャルティアは
■
「あれがドラゴンブリッジね」
暫く歩き、夕方の少し前ほどには橋の前に着いた。
地形的には深く下に川があり、その上に石の橋がある。
橋の上のアーチには石で出来たドラゴンの頭部を模した飾りがある。これがドラゴンブリッジと言う村の名の由来だ。
結構長い橋を徒歩でシャルティアは渡っていく。
時折下を覗いてうおーふけーなどと思いながら歩いて行く。
シャルティアはこの世界に来て若干興奮していた。
ゲームや漫画で飽きるほど見た異世界。それが現実のものとなり、最強の体を持っているのだ。興奮しない訳がなかった。
ただ、その興奮よりもアインズ・ウール・ゴウンの元に戻りたいという意思の方が強いが。
そして橋を渡ると其処には村がある。名をドラゴン・ブリッジだ。
規模はそこまで大きくないが、それでも帝国軍の保安機関であるペニトゥス・オクラトゥスの基地がある。
それらに用は無いのでシャルティアは宿に向かう事にする。
入って右手の川を利用した水車を使った材木所に勤務している村人に話しかける。
「もし、そこの人。この村に宿屋はあるでありんすか?」
村人はこんなところに貴族令嬢が、と驚いた顔をするがすぐに答える。
「それなら、この道を真っすぐ行くと宿屋のフォー・シールズがある。そこに泊るといい」
「感謝しんす」
シャルティアは軽く会釈すると宿屋に向かった。
■
宿屋で文字の勉強をすることで夜を過ごしたシャルティアは朝になると村を出てソリチュードに向かった。
休みなく歩く事で十時頃にソリチュードに辿り着いた。
ソリチュードは崖の上に建てられた街だ。要塞都市でもありドール城がある。
崖の上の方にはブルーパレスというこのスカイリムの政治の中心地がある。
ソリチュードには門が二つあり、一つ目の門を通ろうとしたときシャルティアは衛兵に声をかけられた。
ソリチュードの衛兵は赤茶色いマントを付けている。
「そこのあんた、ソリチュードに入る気か?」
「そうでありんすが……何か問題でも?」
衛兵はどこか言いにくそうな感じだが、覚悟を決めたのか口を開いた。
「問題、と言うか……あー、これから処刑があるんだ。お嬢ちゃんのような年頃のもんが見るもんじゃない」
「処刑? いったい誰の?」
「ロックヴィルという、ウルフリック・ストームクロークを街から逃がした門番さ……悪いことは言わないから、下の港で時間を潰してくるといい」
「注意感謝しんす。だけどもわたしはそういうのは気にしないので大丈夫でありんす」
「そうか……? まぁ、良いというならいいんだが」
じゃあどうぞ、と衛兵はどいた。
シャルティアは本物の処刑が見れるでひゃっほーと思いワクワクしながらソリチュードに入っていった。
門を通ってすぐの右手は広場になっている。
舞台のように奥の方は一段上になっており、石の舞台だ。
そこには死刑執行人と衛兵隊長がいる。
囚人は下に押さえつけられている。
広間には多数の町民が居た。
「裏切り者!」
「さっさとやれ!」
がやの声はそう言った物で、ロックヴィルに対する養護の声はなかった。
それに対しロックヴィルは叫んだ。
「裏切りではない! 彼は、ウルフリックは一騎打ちでトリグを破った! それが俺たちの、俺たちノルドのやり方だ!」
それに対し罵声が飛んで行く。
「今日、俺はソブンガルデに行く……」
そして──ロックヴィルの首は切り落とされた。
その後も死んでせいせいした、などと言った呟きと共に人込みは去っていった。
(……あんまし面白くなかったな)
サディストであるシャルティアからすれば面白い物だったはずだが、中の人がいるせいで感性が変わっているらしい。
しょうがないか、とシャルティアは「
少女が空を飛んでいる。その事実を見て人々は目を点にした。
そのまま浮かび上がり、城の方へと飛んで行く。
城には飛べばすぐに着いた。
ドール城と言うスカイリムの帝国軍の本拠地である。
入口前にシャルティアはあえてゆっくりと下降し降り立つ。
それを見た帝国軍たちは剣を抜いてシャルティアを囲んだ。
「な、何者だ?!」
「デイドラか?!」
空を飛ぶ者なんてここ数十年現れていない。だから警戒もする。
「わたしはシャルティア・ブラッドフォールン。帝国軍に入りに来た可憐な少女でありんす。ほら、ここにバルグルーフ首長からの紹介状もありんす」
シャルティアはアイテムボックスから一枚の手紙を取り出した。
「ホワイトランの首長から……? 本物か?」
「本物でありんすよ。ホワイトランでドラゴンを倒した者の一人でありんすから」
「ドラゴン? ……ヘルゲンを襲ったという?」
「それとはまた別らしいでありんすが、まぁそのドラゴンでありんす」
「……どうする?」
帝国軍兵士たちは兵士同士で何か話し合って相談する。
二分ほど待つとアルディス隊長がやってくる。
「この騒ぎはなんだ?」
「隊長! 実は……ホワイトランの首長から紹介状を貰っているという少女が入隊を志願してまして……」
「ホワイトランの首長から? ……それなら、テュリウス将軍に話を通した方が良いだろう。城の中を案内させろ」
「畏まりました」
そうしてシャルティアは兵士の一人に着いて行き、城の中に入る。
入って少し歩くと其処にはテーブルがあり、地図が広がっていた。
「いいこと? ウルフリックはホワイトランを攻める計画を立てているわ」
「奴もそこまで馬鹿ではないだろう。この盤面でホワイトランを襲うメリットは少ない」
「将軍閣下! 失礼します。ホワイトランの首長から紹介状を貰っているという入隊志願者をお連れしました」
その台詞によって話していたインペリアルの男とノルドの女二人がシャルティアを見る。
テュリウスは白髪のそこそこ歳を取っている男だ。将軍の証の鎧を纏っている。
リッケ特使は金髪碧眼の若いノルドの女だ。特使用の鋼鉄の鎧を纏っている。
「バルグルーフ首長から? 見せてみろ」
テュリウスはそう言い手を出す。
「これでありんす」
シャルティアはそう言い紹介状を渡した。
テュリウスは封を開け、中身を読む。
「ふむ。事実のようだ……これによると強力な魔術師とあるが、どれだけの魔法を使えるのかね?」
「空を飛んだり、転移するぐらいならば可能でありんす」
その言葉にテュリウスとリッケは顔をしかめた。
シャルティアはある程度己の力を晒す事に抵抗感はない。
この世界で活動するならば早かれ遅かれバレる事だし、ならとっととばらして自分の地位を高めた方が良いだろうと考えているのだ。
所詮元は一般人の彼女ではそれぐらいしか考えれない。
「馬鹿を言うな。そんなことできるわけないだろう。出来るとしたら、サイジックの僧兵ぐらいのものだ」
「なら実演して見せましょうかえ? ただ、その場合は受け入れてもらう必要があるんでありんすが」
「受け入れる? どういう意味だ?」
「わたしの転移魔法は基本他者の同意がないと転移が出来ないでありんす。強制転移は出来ないのでありんすよ」
「なるほどな、わかった。やって見せるがいい」
「なら──
転移魔法によって二人はドール城の前の広間に転移した。
「ば、馬鹿な……」
テュリウスは空を見上げ、呆然と呟いた。
突如現れた将軍と少女を前に城の門番をしていた兵士も驚きの表情を浮かべていた。
「本当に転移するだと? ……いや待て、この転移は最大何人まで可能だ?」
「先ほど使ったのなら十二人まで。更に上の魔法なら一度に五百人までなら可能でありんす。ただそれだけ転移させると魔力も尽きるでありんすが」
最大値である千人と言わなかったのは誤認させるためだ。
ある程度帝国軍で力を振るうとしても、こちらの情報全てを渡す気はない。
「な、なるほど……凄まじい力だ。その転移に条件は無いのか?距離とか」
「一度行った事のある場所なら転移可能でありんす。ただ転移阻害の魔法や結界に包まれている場所には転移できないでありんすが」
「……いや。充分だ。バルグルーフ首長が君を紹介したのも納得できる」
この世界では転移魔法は一般的ではない。
一応二百年以上前はあったが、それでも最上位の魔法扱いされている。
だからこそ、帝国の皇帝の住まう場所にだって転移魔法を阻害する結界なんてものは張られていない。
つまりは、この少女が敵に回るだけでとんでもない被害が出るという事。
それこそその気になればソリチュードの街中にストームクロークを山ほど転移させる、なんてことが可能なのだ。ほぼ敵対イコール死に近い。
「では君を……いや、礼儀として名を聞いておこう。君の名は?」
紹介状に名前は書いてあるので知ってるが礼儀としてテュリウスは聞いた。
「シャルティア・ブラッドフォールンでありんす。よろしくお願いしんす」
そうシャルティアはにっこりと微笑んだ。