ドール城にシャルティアとテュリウスは戻った。
「将軍! 無事でしたか?」
戻って早々リッケからそう言われた。
「ああ。無事だ。彼女の言う転移魔法は事実だった」
「なんと……!」
リッケは驚いた表情でシャルティアを見た。それを見たシャルティアは気を良くし胸を張った。なかった。ちょっとがっかりした。
「それで、だ。彼女を普通の兵隊のように使うのは馬鹿のすることだ。故に普通とは違う兵士として雇用することになるが……構わないか?」
「問題ないでありんす。ただ──」
「ただ、なんだ?」
「わらわには命よりも大事にしなければならない物がありんす。その時は容赦なく帝国軍を辞めるでありんす。そのあとも……どうなるかはわかりんせんが」
リスクのある事だ、とテュリウスは認識した。
しかしここでじゃあやっぱいいですと言ってストームクロークやそれこそ──サルモールに行かれたら帝国は窮地に陥る。
断るという選択肢はなかった。
「わかった……その命より大切な物というのは?」
「アインズ・ウール・ゴウン、もしくはナザリックと言う地に関する事でありんす。それらに関する情報が手に入ったら最優先でわたしに欲しいでありんす」
「なるほど、善処しよう」
聞いたことない言葉だ、とテュリウスとリッケは頭を捻ったが深くは考えないことにした。
「では、今から私が言う事を復唱しなさい。名誉にかけて陛下への変わらぬ忠誠を誓います」
「名誉にかけて陛下への変わらぬ忠誠を誓います」
それから更に三言ほど繰り返す事でシャルティアは帝国軍に入隊した。
シャルティアは内心これでほっと息を吐いた。
これでより多くの情報が手に入り、ナザリックへの帰還もしやすくなる、と。
いざという時は全員殺してあとくされ無くすればいいのだから楽な物だ、と。
「では、リッケ特使の部下に君をする。リッケ。例の……尖った王冠とやらについて話してくれ。私は少し出かける」
「畏まりました、将軍」
そう言うとテュリウスは去っていった。
「では初めまして。私はリッケ。帝国軍の特使をしているわ」
「特使、でありんすか。それはどれくらいの地位でありんすかえ?」
「将軍の次の地位よ」
「なるほど、わかりんした。それで、尖った王冠というのは?」
「……ノルドに伝わる伝説の王冠よ。第一期の頃からあるとされる王冠で、それを被った者こそが真のスカイリムの王と伝わっているわ」
「なるほど、ストームクロークに奪われるわけにはいかないでありんすね」
「そうよ。そしてその王冠の在処がストームクローク側にもバレた。私たちはストームクロークより先に尖った王冠を手にしなければならない」
「なるほど。場所はどこでありんす?」
「コルバンヤンドよ。ホワイトランから北東に進んだところにあるわ」
「なるほど。そこにはいつ行くでありんす?」
「明日にでも行く予定よ。準備は今日中にしておいて」
「でしたらわたしの転移魔法でホワイトラン近くまで転移せんしょうかえ? それならより早く着くでありんすよ」
その言葉にリッケは少し考える。
転移魔法は強力なカードだ。それの切りどころを考えなければ不味いだろう。
だが一切使わないのも馬鹿のすることだ。
「ではそれで転移しましょう。再度準備しなおすことになるから……明後日には移動するわ」
「わかりんした」
「それじゃあ、鍛冶師のペイランドから鎧と武器を受け取って来て頂戴。そのあと宿舎に案内するわ」
その言葉にシャルティアはバツが悪そうな顔をした。
「あー、悪いでありんすが……支給された装備は使えないでありんす」
「何故かしら?」
帝国軍の装備を使えないと言うシャルティアに対しリッケは視線を強くした。
「わたしは実は呪われていんして、低位のアイテム……強力なマジックアイテム──付呪が施された武具でないと装備や使用が出来ないでありんすよ」
「……そんな呪い聞いたことないのだけど」
「では実戦しんよう。そのペイランドというのはどちらに?」
「城の表から進んだところよ……案内するわ」
「感謝しんす」
そう言うと二人は城を出て鍛冶屋へ向かう。
ペイランドは帝国軍が贔屓にしている鍛冶屋なだけで専属の鍛冶屋ではない。
鍛冶屋に着くとノルドの鍛冶師ペイランドが鍛冶仕事をしていた。
「ペイランド、新しい客よ」
「ん、リッケ特使か……そちらのお嬢さんが入隊するとかいうのか?」
「えぇ、その通りだけど……試してもらおうかしら」
「では、新品の剣か何かないでありんすか?」
「帝国軍に新規入隊する者には装備一式を渡すから……これでどうだ」
ペイランドは机の上から帝国軍の剣を取り出した。
「感謝しんす。ではこの剣を振るうと壊れるところを見てもらうでありんすか」
「剣を振るうと壊れる? 何を言っているんだ?」
ペイランドはきょとんとした目でシャルティアを見た。
シャルティアは二人から離れると虚空に向かって剣を振り落とした。
少し剣が動いた瞬間剣は真ん中からバギっと砕けた。
バラバラの破片となり、作り直すのも困難な状態になった。
「と、見ての通りわたしが低位の武器を使うと壊れてしまうでありんす。ただ日用品などなら問題ないでありんすが」
「な、なるほど……呪われてるのは事実のようね。ただ、その服だと問題があるから、貴方でも装備できる鎧とかは無いの?」
「ちゃんとありんす。だから仕事の時にはそれを纏うでありんすから安心しなんし」
「それならいいわ。それじゃあ、宿舎に案内するわね。今日はここに慣れる事。明日は訓練をしてもらうわ」
「畏まりんした」
■
シャルティアが帝国軍に入って一日が過ぎた。
初日は特に問題なかった。与えられた宿舎は他の兵士も多数寝る場所だったがその部屋に居るのは女の軍人だけだったからだ。
軽くソリチュードを見回って、ドール城や教会も見て回った。
そして翌日の朝。シャルティアはコルバンヤンド攻略のメンバーと顔合わせをしていた。
ドール城前の広間でシャルティアは自己紹介をする。
「この度帝国軍に入隊したシャルティア・ブラッドフォールンでありんす。以後よろしくお願いしんす」
それに対しぱちぱちと小さい拍手で返される。
シャルティア以外で十一人。リッケは含まないメンバーだ。
「ようこそ、帝国軍へ! 俺はハドバルっていうんだ。よろしくな」
「よろしくお願いしんす」
そうシャルティアはにこりと微笑んだ。
シャルティアは美人ではあるが、所詮は外見年齢十歳後半程度の幼女に近い女だ。くらっと来る事はなかった。
「それじゃあ、訓練をするわ」
そうリッケが言う事で訓練が始まった、が──
「……やりすぎたでありんすか?」
「やりすぎよ」
一応は模擬戦をしよう、と言う事になってそれぞれ模擬戦をしたが、シャルティアの圧勝で終わった。
何せレベル百近接職だ。身体能力もそれこそ城をぶん投げるぐらいは余裕で出来る怪物。敵う訳がなかった。
ただ、シャルティアに技術が無いことはこれでバレたがこんなバカみたいな身体能力をしているのなら技術無くてもお釣りがいっぱい来るだろ……という目で見られた。
「……あなたを他の兵士と同一に扱うのは馬鹿のすることね。ただ、技術の研鑽だけはしなさい。それ以外は好きにしていいわ」
「わかったでありんす……それじゃあ、わたしのメイン武器は槍なんでありんすが、出来れば槍の扱い方を知りたいでありんす」
「わかったわ。ハドバル、教えてあげて頂戴」
「わかりました、特使」
この後めちゃくちゃ訓練した。
■
翌日。武装と準備を整えた帝国軍の舞台はドール城前に居た。
シャルティアを含め兵士十二人。物資の運搬係がそのうち二人だ。
運搬係と言ってもきちんと訓練された兵士なので問題はない。
人間が移動するとなるとそれだけで水と食料を必要とする。この世界にも付呪された道具があり、それである程度は保存して運べるので問題は無い。
「では、行くでありんす──
シャルティアが魔法を唱えると楕円形の黒い鏡のような物が出現した。
「ここを通るとホワイトランの馬屋近くに転移しんす」
「ぶ、無事につくのか?」
ハドバルが恐怖を抱えながら問いかけた。
「転移事故は起こらないから安心しなんし。蠅と合体して蠅人間になるなんてことはこの魔法ではないから」
「その言い方だと他の魔法だとなるって言い方に聞こえるんだが」
シャルティアは微笑みで返した。
「答えてくれよ、おい」
「みんな、怖いのはわかるけど、行くわよ」
リッケがそういうと最初に入っていった。
「ではわたしも行くでありんす」
シャルティアも潜ると他の兵士たちも恐る恐る通っていった。
通った先はホワイトランの馬屋だ。馬車と馬小屋がある。
謎の門から出て来た帝国軍兵士たちを馬車の御者はぎょっとした目で見ている。
「ほ、ほんとに転移した……」
ハドバルが信じられない物を見る目でホワイトランを見た。
「ここからは徒歩になるから、気を引き締めていくように。行くわよ!」
リッケのその言葉に全員──シャルティア以外──気合を入れ、先へと進んでいった。
■
一日野営を挟み、一行はコルバンヤンドに辿り着いた。
その近くの雪原で斥候を放ち、今はその帰還を待っている。
「なぁ、こういう任務は……怖いと思わないか?」
ただ立っているシャルティアにハドバルという軍人が話しかけた。
「まぁ、墳墓の調査はアンデッドの巣窟でありんすが……わたしは神官でもあるので、アンデッド退散でいちころでありんすからねぇ」
「対アンデッドの魔法か、凄いな! 転移の魔法にそんな魔法まで使えるなんて……」
その言葉にシャルティアは気を良くする。
「ふふん。わたしは最強でありんすからね」
シャルティアは無い胸を張った。
そこに丁度斥候が戻って来た。
「戻ったか。どうだった?」
リッケが問いかける。
「はい。見る限りコルバンヤンドを拠点にしていた山賊はストームクロークに倒され、多数の兵士が外に居ました。内部も恐らく探索されているかと」
「そうか……では今から奇襲をかける。用意はいいな?」
「それでしたらわたしが空から奇襲をかけてきんしょうかえ?」
シャルティアがそう発言した。
「……空から? 空も飛べるというのか?」
「えぇ。この通り──
シャルティアは魔法を唱えると空に浮かび上がった。
「と、飛んだ!」
「信じられない……」
軍人たちは信じられない物を見る目をした。
飛行の魔法はこの数十年研究されているが、再開発に至った者はいない。
せいぜいが空高く飛び上がったは良いが対空も制御も出来ずそのまま落下死するぐらいだ。
「なるほど……なら先行してくれ。すぐに追う」
「畏まりんした」
シャルティアはそう返すと空を飛んで行く。
コルバンヤンドは長方形上に掘られている遺跡だ。
「では──
三重化することで三十の魔法の弾が生成され、空からストームクロークの兵士たちに襲い掛かる。
「敵襲だ!」
「空からだと?!」
そうこう叫んでいる間に弾がストームクロークの兵士たちに命中し、肉を抉っていく。
だが致命傷に至った者は少ない。いかに三重化したと言えど所詮は第一位階の魔法だ。威力もたかが知れているのだ。
と言ってもレベル五から十二程度の兵士たちにとっては当たりどころが悪ければ致命傷だ。頭部に喰らい頭蓋骨陥没で死んだのが一人居る。
しかしそれ以外の者たちも重症だ。腕の肉がえぐり取られまともに武器を振るえなくなった者が何人もいる。
「帝国軍の為に!」
そこに帝国軍の追撃が入った。
奇襲に次ぐ奇襲により兵士たちはまともに対応することも出来ず、死んでいった。
シャルティアは地上に降りる。
「では、遺跡に入るでありんすか?」
「えぇ。行きましょう」
そうして一行はコルバンヤンドに入っていった。