翌日。ダンジョンアタック後という事で小隊には休みが与えられた。
人間は疲労する生き物だ。ダンジョンと言うどこから敵が襲ってくるかわからない状態で戦闘を続ければ肉体も心も消耗する。
だがシャルティアはけろっとしており、休みと言われても……という感じだったのでしょうがないので散策にでた。
ドール城の宿舎を出てブルーパレスへのメインストリートを真っすぐと進んでいく。
道中の右手には吟遊詩人の大学がある。
そして歩いていると、妙な男に絡まれた。
「なぁ、そこのあんた、人助けをしてるんだろ? そうだろ?」
「急になんでありんすか」
シャルティアはいきなり話しかけて来た男に対し冷静に対処する。
男は何か急いでるようにも見えた。
「俺の主は俺を、国を見捨てた! だがそれを責める事は出来ない。だが、流石に戻って貰わないと困る! あんたには俺の主にあって主を説得してきて欲しいんだ」
めんどくせぇ。素直にシャルティアはそう思った。
「悪いでありんすがわたしは予定がありんすから──」
「そう言わずに! ほら、ペラギウスの翼に主は居る! そこに行くための鍵を渡そう!」
そう言うと男は懐から換骨を取り出した。
(骨?!)
シャルティアは骨を出されたことに混乱してしまい思わず受け取ってしまった。
「ペラギウスの翼はブルーパレスにある。確か女中のウナが清掃に入ってるから、彼女に鍵を貰うといい」
「いやそんなこと言われてもいかないでありんすが」
「なぁ頼むよ! 俺の主の乱心を止めてくれ!」
そうは言われてもめんどくせぇ、という思いが強い。
しかしこのスカイリムで名声を高めるならこういった依頼も受けた方が良いか、とため息を吐いた。
「はいはいわかったでありんす。受けるでありんすよ」
「本当か! 助かる! 俺の主を国に返してくれ!」
そう言うと男は去っていった。
「それじゃあ、行くでありんすかね」
シャルティアはアイテムボックスに換骨をしまうとブルーパレスに向かって歩き出した。
「これでいいのでしょうか──シェオゴラス様」
ブルーパレスは宮殿であり、名の通り青い屋根と塔がある。
勿論衛兵が居るが、ブルーパレスも一般開放されている為入るのに問題はない。
扉を通り中に入ると其処はホールだ。
更に進むことで階段がある。
(さて、まずはウナとかいうのを探すか)
シャルティアはそう考え近くに居た衛兵に話しかける。
「もし、そこの衛兵。ウナと言う女中を探しているでありんすが、どこに居るかわかるでありんすか?」
「ウナ? それだったら今は厨房に居るはずだ」
「厨房でありんすね。厨房はどう行けばいいでありんすか?」
「それならここから左に行けばすぐ厨房だ」
「なるほど、感謝しんす」
そう言うとシャルティアは左側に進む。
そこには食堂と併設されたキッチンがあった。
そして椅子にノルドの女中、ウナが座っていた。
「そこの者、ウナであっていんすか?」
「あなたは?」
「わたしは……まぁ、帝国の軍人でありんす。ただ今日は非番でありんすが。ちょっと聞きたいのだけど、ペラギウスの翼に入りたいのだけど、鍵を貸してもらえんかえ?」
「ペラギウスの翼? 駄目よ、あそこは清掃が行き届いてないし、エルディが毎年蜘蛛退治をするほどよ。それに……亡霊を見たっていう人もいる」
断られた事で別に行かなくてもいいかななんて思いかけるが気を取り直し頼んでみる。
「どうしても行かないといけないでありんすが……駄目でありんすかね?」
「どうしてもというのなら……ただ何があっても保証はしないわよ。ほら、これが鍵よ」
そういうとウナは鍵を渡した。
「感謝しんす。あとで返すでありんすから。それでペラギウスの翼はどこに?」
「ホールの右手側よ」
「ありがとう」
そう言うとシャルティアは戻っていった。
そしてペラギウスの翼の鍵を開け、中に入る。
「……確かに清掃が行き届いてないでありんすね」
そこは埃っぽかった。更には蜘蛛の巣も張ってある。
「ここに主とやらが居るでありんすか……?」
割とこの時点で疑っていた。
居たとするならば話に聞く亡霊か。しかし<不死の祝福>に反応は無い。
仕方が無いので奥に進み、階段を上がっていく。
魔法の服なので埃や蜘蛛の巣で汚れることが無いのが救いか。
そうして階段を上って廊下を歩いていると、突如視界が変わった。
「は?」
そこは薄い霧に包まれた場所だった。
奥には長机があり、机の上には豪勢な料理とチーズが置いてある。
そして玉座が一つと向かい側に椅子が一つ。
玉座には老人が座っている。
白髪。右半分が紫、左側が赤色と言う奇妙な服を着ている。
向かい側にはノルドの初老の男が座っている。
(転移の罠?! まずい、ここから離れなければ!)
シャルティアはそう考え転移魔法を唱える。
「
魔法は問題なく発動した。
楕円の半球状の黒い門が開かれる。
そこを通り、ソリチュードのドール城前に転移しようとする。だが──
「え?」
転移しなかった。
転移門を素通りし、変わらぬ地面が見える。
(ありえない、ゲートは第九位階、それに転移失敗率ゼロの魔法だぞ!)
更に言えば転移阻害がされているナザリック内でもある程度使える魔法でもある。それが無効化されたのだ。
「ペリーペリー、もっと紅茶を」
そこに老人の声がした。
変な服を着た老人が話し出したのだ。
そして、その声でシャルティアは警戒を強めた。
──あの老人は強い。
最低でも自分と同格……いや、下手したらそれ以上だろう。
戦って勝てるイメージが無かった。ナザリック最強の守護者である自分が。
しかしすぐに攻撃してくる様子はなかった。何か男と話している。
「いや、それは出来ない。少しも引っかからない。それに、やることがたくさんあってな……」
男ははぁ、とため息を吐いてから続けた。
「ものすごい数の不快な奴らを相手にするんだ。反対ばかりする者、愚か者、中傷する者。いいか。死刑執行人はもう三日も寝てないんだ」
「お前は自分に厳しすぎるぞ、親愛なるペラギウス。狂乱の中で人を殺めた者よ。お前がいなかったら人民は何をしたらよいのだ? 舞うか? 歌うか? 笑うか? 長生きして?」
こほん、と老人は咳払いをした。
「お前は最高のセプティム王だったぞ。いやまぁ、マーティンの次に最高か。だが奴は竜神になったからな。卑怯な奴さ……」
「あぁ、そうだ。お前の言う通り。以前に数えきれないほど何度も……」
「クルック、そうおっしゃるのであれば……お暇させていただきましょうか。ごきげんよう。ごきげんよう!」
何だこの老人。シャルティアは狂人で見る目で見た。
するとペラギウスと呼ばれた男に召喚魔法のエフェクトがかかる。それによりペラギウスはどこかへ消えた。
「あー、そこの老人。少し話したいでありんすが……」
「おぉ! モラグバルにモラグバル(威圧)されずに吸血鬼に至った者、いや造られた者と言った方が良いか? とにかくご機嫌麗しゅうございますな!」
その言葉にシャルティアは警戒を強め、装備を戦闘モードに変え、スポイトランスを構えた。
「おおっと、そう警戒するな。ワシはお前に害をなさん、ワシはな。だがワシ以外のガイキチ共は何をしでかすかわからんぞ? これからはクエストを吟味して受けるんだな!」
「おんし、何者でありんす?」
「狂乱のデイドラの王子、シェオゴラスである! 以後、お見知りおきを」
シェオゴラス──そのビックネームを前にシャルティアは更に警戒をした。
この世界にはデイドラロードと呼ばれる、端的に言えば邪神が居る。
世界の創世に関わらなかったとされるが、正確には違う。
エイドラたちが協力してニルンを創り出したのに対し、デイドラロード達は単独で世界の創造をしたのだ。
しかし一人で作ったからか何かが足りない世界となったのがオブリビオンだ。
オブリビオンにはデイドラロードの眷属に近い存在であるデイドラたちが住まう。言ってしまえば魔界のような物だ。
そしてシェオゴラスとは狂気を司るデイドラロードであり、その格は上から数えた方が速いぐらいには──強い。
なるほど、自分では勝てない相手だとシャルティアは冷や汗を流す。相手はワールドエネミーか、そうでなくとも百レベルレイドボスに近い存在だ。ザイトルクワエのような雑魚とは違う。
ここで決死の覚悟を持って挑んだとしても、奥の手を切ったとしても勝てる相手ではない。
相手が攻撃してこない。それにシャルティアは一途の望みをかける。
「シェオゴラス、ね。それじゃあここは一体どこでありんすか?」
「ペラギウスの心の中だよ、間抜け」
「心の中……精神世界、と言うことでありんすか。それじゃあ──あなたはわたしに何をさせたいのでありんすか?」
わざわざ転移のトラップを仕掛け、更によくわからない男──デルヴェニンにここに行くよう言わせた。
何か裏があると考えて当然である。
「ふむ、二つあるが、一つは既に達成した。もう一つは、ペラギウスを救ってやってくれ」
「救う? 精神世界という事は何かしらの問題を解決しろと? ──いやそれ以外に何かありんすね」
シャルティアはそう考える。
これが罠でない方が可笑しいのだ。裏があると考えて当然である。
「ピンポンピンポーン。だけど言わない、乙女だから。そして心を解決するには……ワバジャック! どうだ! こいつは驚いただろ!」
気づけばシャルティアの左手には一つの杖が装備されていた。
三つの顔がくっついた杖だ。泣いている顔、怒っている顔、笑っている顔の三つがくっついている。
「……これをどう使えと?」
「そのままの意味さ。ペラギウスの心の問題に対し使ってやるといい」
「それをすればここから出すと?」
「いぐざくとりー、さぁ、頑張れ頑張れ♡」
どうやら直接害を与える気はないようだ、とシャルティアは判断した。
こちらの正体を見抜いて来たことから警戒はしないといけないだろう。
シャルティアは考える。ここからどうするか、と。
ここでこの老人、シェオゴラスに襲い掛かっても勝率はゼロに近い。
ナザリックの守護者たちが揃っていればまだ勝ち目はあったが単独だとまず勝てないだろう。
だから襲うというのは無しだ。ならばここからの脱出手段を考える必要がある。
このシェオゴラスがこちらを見抜いて来たことに対しては正直どうしようもない。相手は邪神なのだから。
だから最優先はここからの脱出と決めた。
「ではこれを使って脱出しろ、と」
「その通りさ、偽乳」
「それは今は関係ないでありんしょう! ──あぁ、それと、ある男から伝言を受けているでありんす。国に帰って来て欲しい、と」
「茶会が終わったら帰るさ。あとは……まぁ、好きにしよう」
「それじゃあ、行ってくるでありんす」
「ばーいびー」
そしてシャルティアは三つの道のうちの一つに進んだ。
「あぁ、それは良い選択だ。まぁ私にとってはな。皆が必死になってお前を狙おうというのは非常に面白いではないか。お前にとっては……そうでもなかろうが」
霧の中道を進んでいくとそんな声が聞こえてくる。シェオゴラスの声だ。
「よいか、ペラギウスの母親は……何というか……"独特"だったのだ。まぁ大したことではないが。セプティム家の者としては普通だからな」
更に進むと闘技場に着いた。
「あの女は恐怖を包丁のように振り回したのだ! あるいは包丁を振り回して人々を怯えさせたのか? その部分がいつもはっきりしない……」
観客席が向かい合うようにあり、間の下ではデイドラ同士が戦っている。
炎のアトロナックというデイドラの一種だ。
溶岩が美しい女の形をしている。すらっとした体形だ。
それが二体、炎の魔法を打ち合っている。
向こう側の観客席にはペラギウスらしき男と護衛の全身鎧を着た男が二人。
「あぁ、だが彼女は息子をしっかりと教育したのだ。ペラギウスは幼いときに周りが危険だらけと知った。いつ
「これを使え、ていうことでありんしょうが……」
これが
すると問題なく使え、赤い光が片方のアトロナックに当たった。
それにより炎のアトロナックは氷のアトロナックに変わった。
氷のアトロナックは氷で出来たい我が五つほど集まり人型をしているデイドラの一種だ。
それが炎のアトロナックと戦う。
氷は炎に弱い。
二分ほど戦うのを待つが、何も変わらない。お互い攻撃し合っている。
「これではない……とすると……」
シェオゴラスの台詞から正解を考える。
シャルティアはペラギウスの護衛らしき者にワバジャックを当てた。
結果護衛は乱心し他の護衛と殺し合いを始めた。
「ほお! お前にはわからないと思っていたぞ!」
シェオゴラスの歓喜の声が響いた。
「これを後二回、でありんすかね」
先は長そうだ、とシャルティアはため息を吐いた。