演歌歌手、サンドイッチ屋になる~あおばタウン商店街の出鱈目な日々~ 作:島スライスメロン
果たして演歌歌手・三山岬はそれにどう関わってしまうのか?
出鱈目な日々、今日も開店~
第二話:演歌歌手、猛省を迫られる
~異国の血を引く和と洋の混合菓子屋の兄妹!金髪蒼眼の王子と、プリンセスなギャル娘の登場〜
①~サンドイッチ屋『三山 岬』登場!~
〈ガタイのいい男〉
「もう9時だぜ!」
ある日の朝、午前9時頃。
Q州は南国、M県のとある街にある商業地区、あおばタウン商店街の一角にある
個人経営の小さな書店『文林堂』。
少し年季の入りつつあるその建物の小面から見て右横側には、
小さなプレハブ小屋がそのまま入っている。
現在そこでは、演歌歌手を自称する変わった中年男性が、
ドリンクやサンドイッチを提供する飲食店を運営しているという噂だ。
開店当初、とある女子高生が最初の客として訪れ、
その娘がSNSにあげたらしい呟きが、この周辺に住む地元の人々の間で
新しい流行を生み出したことは、記憶に新しい。
そんなプレハブ小屋の中へ、一人の男が入っていった。
少しばかりガタイがよくて、上半身には青地のTシャツ、下半身には紺色のGパン、
そして頭には赤い下地のバンダナを巻いた、顔の線が太くて輪郭の濃い男……
どうにも色男とか美丈夫とは言い難い、ちょっとむさ苦しい風貌の男、
その名を『三山 岬 (みやま みさき)』という。
年齢は35歳。独身未婚で、現在は『文林堂』の空き部屋に下宿している、
現役の演歌歌手にして新参のサンドイッチ屋である。
ひょんなことから所属する音楽事務所の社長に『文林堂』に放り込まれ、
なぜかサンドイッチ屋を開くことになった彼だが、
長年の下積み生活の中で磨いた自炊の腕が功を成して、
現在はそれなりに懐が潤いつつある身である。
本人としては、本職の演歌歌手としてもドカンと大いに名を上げたいなと思っているのだが、
悲しいかな、未だそちらの方はヒットの兆しを見せておらず、
一応CDやポスターもサンドイッチと一緒に売り込みをかけてはいるものの、
サンドイッチと比べると遥かに少ない枚数しか捌けていないのが悲しいところである
(だがこれでもサンドイッチ屋開店初週には、興味を持ってくれた中高年や
物好きそうな若者たちが、計数十枚ほど買ってくれており、
中々売上げとしては悪くなかったのは、演歌歌手としての彼の実力が
本物であることの証左であった)。
そんな彼は今朝もまた、自作のサンドイッチのために食材の下ごしらえを仕込んでおり、ある種充実した日々を送っていると言えた。
〈岬〉
「今日も暑くなりそうだな!」
季節は7月下旬に差し掛かっており、夏真っ盛りである。
小屋の外に本体を設置して、管だけ中に引き込んだスポットクーラーの冷気を浴びながら、彼は今日の天気を推測する。
天気予報によると、今日の天気は大体晴れ。ところにより雨が降るものの、そう長引くものではなさそうとのことであった。
今年は太平洋高気圧に覆われて晴れた日が多く、記録的な猛暑と
かなりの少雨になるとの専門的な予想が立てられているらしいが、
そんなことまでは岬の関知するところではなく、ただ今日は気温は高く、
客も多く来そうだという素朴な感想を述べたのみである。
だがそんな彼の思いは、とある事件によってその忙しくも充実した平穏を覆されることになるのであった……
②~鳩!イケメン!ギャル!~
【7月下旬、午前9時半ごろ、あおばタウン商店街の入り口前にて】
〈鳩〉
「ポーッ!」
〈人々〉
「なんだ?」「なんだ?」ざわざわ……
〈鳩〉
〈ポーッ!〉
その日、ちょいとばかし異様な空気を纏った、尋常ではない感じの二人の人間が、
あおばタウンに出現した。
一人は頭に紺色のサウナハットを被り、紺色の甚平を着た、若い白人の青年。
年齢は老け込み具合から推測するに凡そ20代程度と見ら、
帽子から少しはみ出す程度に短く切り揃えた美しいプラチナブロンドの髪に、
薄く青色の入った細長のサングラスが特徴的で、
顔の輪郭は顎が細く、逆三角形型をしている。
バランスがよく、帽子やサングラスをしてなお美男子だとわかる。
〈鳩〉
「ポーッ!」
そしてもう一人は、水色のジーンズ生地にラインストーンを散りばめた
キャップ帽を頭に被り、耳に派手な金魚のピアスをジャラつかせ、
腰に革製のミニスカートを履いた、若いギャルだった。
こちらも年齢は凡そ20代程度と思われ、
髪は地毛なのか、艶のある綺麗な黒髪を首元まで伸ばしており、
また目元に関しては、角が丸みを帯びたカクカクしてない、
正方形型の茶色いレンズのサングラスで覆っている。
目はパッチリとしており、卵型の顔つきは可愛らしさを感じさせる。
〈鳩〉
「ポーッ!」
片や日本文化をリスペクトした和装姿の異国人、
片やギャル文化をリスペクトしたギャルと、
少し組み合わせとしてはミスマッチ感があるものの、
されども世間を探せばそんなものは普通にあるだろう、
といった感じの連れ合いである。
だがしかし、この二人の尋常じゃない部分はそういったところではなくて、
〈鳩〉
「ポーッ!ポーッ!ポーッ!」
ところで先ほどから、やたらと鳩が出てきては、
話の流れを遮って騒がしく鳴いていることにお気づきであろうか?
これは別にあおばタウン商店街の治安の悪さとか、
頭の悪そうな感じとかを現したものでは断じて……
いや、やはり商店街の治安の悪さ、頭の悪い感じをそのまま
現したのが、この鳩の鳴き声であると言っても過言ではない。
〈鳩〉
「ポーッ!」
鳩、それは鳥である。司法界隈では留置場や拘置所から
釈放されて外に出ることを、ハトになるとかハトで帰るとか言ったり、
身体拘束されている人物が、外部と秘密の連絡や口裏合わせをすることを
ハトを飛ばすなどと形容したり、
或いは逮捕された人と外部の組織の間で、伝言や口止めを仲介する弁護士のことを
ハト弁護士略してハト弁だなどと言ったりするとかあるようだが、
そういった隠喩の言葉では断じてない。
正真正銘、鳥網ハト目・ハト科に属する鳥の、あの鳩のことである。
生態としてはまず基本草食、植物植性の食性であり、植物の種や木の実、豆、穀物などを主として捕食し、草木そのものや虫、肉などの肉質は基本的に食べないとされる。
なお地面の上にいる時は地面をつつくことがままあるが、これは地面の小石や砂を取り込んで、消化器官の一つである砂嚢に貯め込み、餌をすりつぶす為の行動とされる。
頭部は体全体に占める割合としては比較的小さく収まり、
それに比例して脳みそも小型で、より大型のカラスなどと比べると
知能面では劣る印象があるが、優秀な帰巣本能を持ち巣から凡そ500kmから
1,000kmほども離れた遠くの場所からでも、自分の巣へ正確に戻ることができるだとか。
被害対策などで巣を撤去しても、2週間から1か月ほどは戻ろうとするなどの
生息地域に関わる記憶力や思考能力はカラスと比較してもそう劣るものではなく、
伝書バトなどといった形で人類の通信網を支える畜獣としての役割を与えられ、
用いられることもあるほどである。
またその胴体は飛行するために胸骨、胸筋が発達して寸胴やビア樽の如く
ずんぐりとしており、その副次機能として水などの液体を頭部を下に向けたまま
吸引することができるのみでなく、独特の鳴き声を支える下地でもある。
更にハトは比較的群れやすいことでも知られる。
安全な場所やエサ場、飲み場を集合場所として、数羽から数十羽、
また場合によっては数百羽の規模を超えた群れを形成し、
外敵や他の群れ集団との対峙、
或いははぐれ者への迫害を行ったりする。
案外気性が荒いらしく、同種であっても安全なエリアに収まりきらずに
零れたはぐれものや、他のリーダーに率いられた群れとは
命を奪い合うほどの攻撃や抗争を行うこともある。
そして鳩は瞬時に敵の戦闘力を喪失させるほどの、
鋭利な鉤爪や嘴など強力な武器を持たぬがゆえに、
その攻撃、争いは長く時間をかけた凄惨なものになるらしい。
(なお筆者が昔、土曜日の夕方に放送されていたロボットアニメで知った情報なので、真偽は定かではないが。)
繁殖力も旺盛で、年中生殖可能で発情している。
そして雌を巡る雄同士の争いも盛んである……と、様々な鳩雑学から
鳩という生き物について多角的に解説したわけであるが、とどのつまり鳩が
一体どうしたのか、何故ずっと鳩の話なんかしているのかという件に関して、
そろそろ説明しないわけにはいくまい。
〈百羽以上の鳩の群れ〉
「「ポーッ!ポーッ!ポーッ!」」ザブーンザブーンバシャーンバシャーン
ゴゴゴゴー!!!
ザブーンザブーンバシャーンバシャーン
ゴゴゴゴー!!!
(人二人が乗れるほどの大きさの木製の宝船に、
甚平を着た白人の青年とミニスカギャルが乗り込んでいて、
その宝船を鳩が集まって出来た
海が持ち上げて、地上を航行するかのように持ち運んでいる光景)
……
多分分かりにくいと思われるので、もう少し詳しく、
今度は分かり易いように説明しよう。
まず甚平を着た白人の青年とミニスカギャルがおり、
そいつらは何故か人が二人乗れる程度の大きさの宝船に乗っている。
宝船というのは、七福神が乗っているようなやつで、
2人が乗っているのはそれよりは小さいが、4人乗りができそうな程度の大きさがある。
なお二人とも腕を組んで直立状態です。
そして鳩が数百羽いる。そいつらは喧しく鳴いており、実に騒がしい光景である。
そいつらは地上に並んで密集し、絨毯のような状態になっているのだが、
しかしその絨毯は波打つように動いて、なんと宝船を持ち上げて揺らしているのだ。
まるで海の上の船の光景である。
しかも細かいことに、波しぶきまで無意味に再現しているのだ。いや芸細かいな!
なんというか、フラッシュモブとかいうやつがあるが、
街頭などの公共の場で、通行人を装った集団が突如ダンスや演奏を行い、
終わると即座に解散するサプライズ演出っていう、あのフラッシュモブってやつを、
人間じゃなくて何故か鳩がやっている状態が今起こっている、
といえば分かり易いだろうか?何故こんなことが、というのは全く分からないが。
あまりに出鱈目な光景に、人々はその周りを避け、遠巻きに様子を伺っている。
なんならスマホを取り出して写真や動画撮影をしている者も結構いるのが見てとれる。
そんな周囲の人々のことなど視界に入れていないかのように無関心風な二人は、
商店街の入り口前で意味深な言葉を呟いた。
〈青年〉
「フフフ、ついにこの日がやってきたぞ。私達兄妹がこの商店街を支配する時がな」
〈ギャル〉
「ウチらの力、思い知らせてやるし」
〈青年〉
「では行こうか。さあ進め鳩たちよ!我々の進撃の始まりだ!」
青年の号令と共に、鳩たちが動き出す。前へ前へと進み、
それと同時に宝船が前進し始める。
ザブーンザブーンバシャーンバシャーンバシャバシャズゴゴゴゴゴ!!!
ザブーンザブーンバシャーンバシャーンバシャバシャズゴゴゴゴゴ!!!
因みにザブーンとかバシャーンとかいう音は、船に載せてある箱の中に
小豆が入っていて、それが船の揺れによって動き回って、出ている音だぞ!
③~商店街の騒ぎと演説~
あおばタウンの中心区は平成初期の都市新開発で誕生した、
今やそこそこ年季の入りつつある街である。
映画館を併設した大型商業施設を中心に、都市の機能が集約しており、
市庁舎や警察署、消防署などの公共機関や、学校などの教育機関、
公園に運動競技場、それに水族館などの娯楽施設に、
マンションやアパートなどの賃貸式住居、
それと駅やバスターミナルなどの交通機関までもがが密集している。
そんな中心区から離れた旧市街地、今から凡そ70年ほど前に
駅を中心に発展したエリアに、今のあおばタウン商店街は存在する。
戦後の復興と、経済発展の時期に大きな発展を遂げたこの商業の盛んな区域は、
先述の大型商業施設の登場をきっかけとして大掛かりな組織改革を行い、
大型商業施設との正面衝突を避けて、
件の施設が補えない細やかで丁寧な部分を補うという戦略を以て、
今日まで決定的な衰退を免れてきた。
シャッターの閉まったままのテナントはそこそこあるものの、通りには人が行きかい、活気がある。
そんなあおばタウン商店街に、最近になって出来た店があった。
平成初期に、当時の個人書店をその店主の息子が改装して作り替えた
『文林堂(ぶんりんどう)』の正面から見て右横側、
そのスペースにプレハブ小屋をそのまま入れて、別業態のテナントに変えたそこは、
店内のラジカセから演歌のメロディーが流れ、
更に店主が時折某所の武道館をぶち抜くほどの野太い美声で演歌を歌いあげるという、
ちょっと変わったサンドイッチ屋であった。
名を『文林堂軽食売り場』という。
理由は文林堂の中にある軽食の売り場だからだ。
今はもっぱらサンドイッチとドリンク(アイスティーとアイスコーヒー)だけだが、
追々何か別のメニューも増えるかもしれない。
その売り場の店員であり店主の、本職演歌歌手(を自称しているが、最近ではもっぱらサンドイッチ作りが板についてきた)の男『三山岬(35歳)』は、
その日も店前に次々と並んでくる客を捌くために、あくせくと食材を下ごしらえしていた。
その理由は、彼が10年以上にも及ぶ下積みの全国各地ドサ周り生活の中で、
地道に鍛え上げた料理の技術と知識を結集して生み出した、
新感覚(岬は『演歌系』と表現する)スイーツサンドイッチ、『綿あめ恋歌』のヒットによる。
コッペパンにコーヒーエキスを混ぜ込んだホイップクリームと秘密のスパイス、ポッピングキャンディ、それに綿あめを挟んだこの一見奇抜なパンは、
されども意外と破綻なく成立した複雑な味や食感と、
それを作る岬自身の演歌歌手としての貫禄(SNS上では『怪しい演歌歌手』などと
形容される)が奇跡的に嚙み合って、
今や商店街の新たな名物となりつつある。
〈岬〉
「ハ、ハ、ハックション!(咄嗟におしぼりで鼻と口を押さえる。)
……なんだか誰かが俺の事を噂している気がするぞ?
やっぱり『怪しい演歌歌手』って煽りはまずいよなぁ。
はあ、なんでわかってくれねえかな……」
岬が軽食売り場を開くと、岬自身の強烈なキャラクター性と、
名物サンドイッチ『綿あめ恋歌』の奇抜さから、あっという間にSNSで
情報が拡散されたが、その内容は『演歌歌手マジヤバい。めっちゃ歌うし』
『歌う演歌歌手怪しすぎ。人間スピーカーか』などと、
岬が周囲の人目も憚らずに歌う演歌を揶揄しいじり倒すものが結構多かった。
岬としては、自分はまじめに今の世間に演歌の素晴らしさを広めたいのに、
何故誰もわかってくれないんだ……と、少し気落ちしているところもあるが、
絶対演歌の良さを今の世間にわからせてやる!という負けん気のほうを
強く発揮してしまい、空回りしているところである。
悲しいかな、本人は気づいていない。
そういうわけで、今日も頑張って歌うぞ!と岬が気合を入れ始めた時だった。
〈鳩〉
「ポーッ!ポーッ!」
〈岬〉
「ん?なんだか外が騒がしいな?ちょっと様子を見るか……」
外の騒がしい様子を確認しに、岬が店の外へ出た時だった。
〈青年〉
「はーっはっは!進め鳩たち!次の十字路まで!」
〈百羽以上の鳩の群れ〉
「「ポーッ!ポーッ!ポーッ!」」ザブーンザブーンバシャーンバシャーン
バシャバシャズゴゴゴゴゴ!!!
突如として発生した、宝船を持ち上げながら進ませる大量の鳩の津波が、
岬の目の前を流れていった!
〈岬〉
「な、なんだぁ!?今日は鳩祭りか?
いやそんな祭り聞いたことないがな。一体何が起こっているんだ?
なんか若い兄ちゃんが、十字路までとか言ってたな。ちょいと見てみるか」
妙な事態に動揺しつつも、野次馬根性を刺激されて青年たちの後を追うことにした岬。
果たして一体何が始まろうとしているのか?青年たちの目的がついに明かされる。
~数分後~
【商店街中心付近の十字路】
商店街の交通の要、中心付近の十字路に、宝船に乗った青年とギャル、
それと百羽以上の鳩が陣取っている。
通行人は邪魔だなこいつら、と思いつつも、安易に触れては危険であろうこの集団から
距離を取り、動向を伺っている。
そこに丁度岬がやってきたタイミングで、青年が演説を始めた。
〈青年〉
「どうも初めまして、或いは久しぶりだな商店街の諸君。
まずは自己紹介から始めよう。
私の名は『ルカ・ヴォン・バッキンガム』!」
〈鳩たち〉
「ポーッ!」
青年がルカと名乗った瞬間、その場の鳩たちが盛り上がるかのように一斉に鳴き始めた。
〈ルカ〉
「次に!私の妹ミカ!」
〈ミカ〉
「ウチの名前は『ミカ・ヴォン・バッキンガム』!みんなよろしく~」
〈鳩たち〉
「ポーッ!」
次に少女がミカと名乗った時も、の場の鳩たちは盛り上がるかのように一斉に鳴いた。
どうやらこの二人は、鳩たちから多大な人気を誇っているようだ(大体察せたが)。
ルカとミカは話を続ける。
〈ルカ〉
「自分たちでいうのもなんだが、我々は菓子業界に今その人ありと話題中の、
新星菓子職人である!
私は『和菓子界の王子』、そしてミカは『洋菓子界のプリンセス』。
大会に出れば優勝と話題を搔っ攫い、イベントに呼ばれれば
多くのファンからの引く手数多!
そんな私たち兄妹の新しい目標は、この商店街……
あおばタウン商店街を支配し、『巨大な菓子工房』へと生まれ変わらせることだ!」
―シーン―
場の空気が固まる。
〈人々〉
「(ざわざわ……)」「(何言ってんだこいつ?)」
突拍子もない話に、ついていけない人々。どうやら本気でヤバい奴が来たと、
皆がざわつき始めた時、ルカとミカはとんでもないことをおっぱじめた。
〈ルカ〉
「こんなことを口で言われても信じられないかもしれない。
しかし私たちは本気だ!
その証拠に、今ここで菓子の実演販売を行おう!
至高の甘味をその舌で味わうがいい!」
そう言うとルカは、足元のレバーを蹴り倒した。するとなんと……
〈宝船〉
―ガッシーンガタガタガタガタ……パッターンポンポン、チャキーン!―
〈岬〉
「な、なんじゃこりゃあ?!」
なんと宝船が『変形』して、瞬く間に調理台へと変貌したのだ!
④~実演!菓子作り~
どうやら宝船はからくり仕掛けだったようである。
驚く岬たちをよそに、ルカとミカは更に奇抜な仕掛けを始める。
〈ルカ〉
「いくぞミカ!メイクアップだ!」
〈ミカ〉
「オッケーお兄ちゃん!アゲていこー!」
ルカが、
「メイクアーップ!セット!」
と叫ぶと、どこからかカーテンシーツを持って飛んできた鳩が二人の真上に滞空し、
二人の姿を隠してしまった。
そしてカーテンが上がると、そこには白い調理服姿のルカとミカが出現した。
早速調理台の前に立ったルカとミカ。
ルカが調理台の下の引き出しから木箱を取り出して蓋を開けると、
中身は黒、白、黄、橙、緑、桜色などの色とりどりのこしあんのセットだった。
〈ルカ〉
「私はいつものやつを作ろう。ミカはどうする?」
〈ミカ〉
「私は~……フフッ、今日はこれで行こ~」
そういうとミカは、小麦粉を混ぜたらしい粘液の生地種とパールシュガー、
ワッフルメーカーを調理台の中から取り出し、生地種とパールシュガーを
混ぜ合わせてからそれを焼き始めた。恐らくワッフルを作るのだろう。
一方のルカは、複数のこしあんを摘まんで組み合わせてから、
スプーンやヘラで形を整えていく。練り切りだ。
器用かつ洗練された手つきで瞬く間に形を整えると、菊の花が生まれた。
初夏から夏にかけて咲く、ほんのり桜色をした菊をモチーフにした、涼しげで繊細な形……練り切り『夏菊』である。
その色は桜色を基調とし、そこに白や緑なども組み込まれており、
幾重にも重なる花びらを細やかに表現している。
一方のミカのワッフルは、丸みがあってずっしりとした印象だ。
正直どちらも美味しそうである。
〈ルカ〉
「諸君、私たちの菓子を是非賞味してくれ!」
ルカとミカは、人々に今作った菓子を配っていく。
岬もせっかくなので頂くことにした。
〈岬〉
「どれどれ、じゃあまずは練り切りから……おお、上品な甘さが体に染みる!
そいでワッフルはと……うむ、中がしっとりして水水しいな!」
岬のルカとミカ、それぞれの菓子の評価は以上の通りであった。
まずルカの練り切り。
よく漉された複数のこしあんを組み合わせたそれは、
いい感じに上質の砂糖が溶け込んでおり、嫌な雑味やくどさがなく
すっきりとした上品な甘さが際立つ一品であった。
そしてミカのワッフル。日本でも一般的な円形のリエージュ風で、
水分が多いのか外はさっくりしながらも、中はしっとりとしており、
夏で火照る体に水水しさが染みわたる、優しい潤いを持った一品である。
こりゃクオリティ高いな、と岬が感心していると、
ルカが「そうだろうそうだろう。ところで……」と、岬に対して話を振ってきた。
〈ルカ〉
「最近この商店街で人気になっているという、サンドイッチを作る演歌歌手というのは貴方のことかな?」
〈岬〉
「おぅっ、俺の事を知っているのか!
そう、俺こそがこの商店街で今話題の美丈夫、演歌の道を歩んで幾十数年、その名も三山みさ」
〈ルカ〉
「『嘆かわしい』!!」
突然のルカの駄目だしに、岬は虚をつかれる。
〈岬〉
「き……?ん?あんだって?」
⑤~猛省を迫られる演歌歌手!そして訪れるピンチ!~
突然の駄目出しにきょとんとして、固まる岬。そんな彼にルカは言葉を続けた。
〈ルカ〉
「『嘆かわしい』と言ったのだ。
『演歌』、それは日本のわび・さびを表現する精神的な芸術!
人間の繊細複雑な情緒、哀愁、もののあはれ、愛情、喜び、歓喜といった心の模様や、
大自然の雄大な景色や厳しい気候、機敏、そういった情緒を表現するのが演歌の神髄のはず。
そんな演歌を歌う者が、サンドイッチなどというヨーロッパにかぶれた代物を作って売っているのが、私はとても嘆かわしい!
正直許せないほどだ……そこで私は、貴方を私の理想通りに『鍛え直す』ことにする!」
ルカの一方的で独善的な言い分に、岬はカチンと怒りを感じた。
〈岬〉
「いや何言ってんだ?俺がサンドイッチ作って売って何が悪いんだよ。
演歌歌手はサンドイッチ作っちゃいけないっていうのか?」
〈ルカ〉
「甘ったれるなァ!!」(喝!)〈周囲の鳩達〉「ポーッ!!」
ルカは物凄い剣幕で怒鳴り上げた(そしてそれに同調して鳩も激昂した)。
それだけでなく、更に言葉が続く。
〈ルカ〉
「例えば、仮におにぎりを作るのはまあ許されるとしよう。
おにぎりの甘い米にしょっぱい塩気、それに数々の具材、
これは実に日本的で情緒があるものだ。
だがサンドイッチ!それも中にコーヒーを混ぜたクリームと綿あめ、
それから弾けるキャンディ―だのスパイスだの、そんな非日本的なものを何故
演歌歌手が作らなければならないのか!
そんなものは邪道の極み!例えお天道様が許しても、
このルカ・ヴォン・バッキンガムが……
和菓子代官として許さん!
その見下げた根性を、私の指導で徹底的に鍛え直す!」
なんだか一方的に貶された岬は、カチンと怒りを燃やして、ルカに歯向かうことにした。
〈岬〉
「おい、なんだよ和菓子代官って!なんの役職だよ!
そもそもお前なんなんだよ、こんな道のど真ん中に陣取って交通の邪魔しやがって。
こんなの商店街への営業妨害じゃねえか!」
〈人々〉
「それもそうだな?」「面白いとは思うけど、ずっと居座られたりしたらちょっと迷惑かも?」
〈岬〉
「兄ちゃんたちには悪いけど、みんな忙しいんだ。
悪ふざけに付き合うほど暇じゃあないんだよ。じゃあな」
呆れた岬が踵を返して店に戻ろうとすると、ルカは危険な本性を現した。
〈ルカ〉
「猛省せぬならしょうがない。鳩たちよ、その甘ったれた演歌歌手殿を捕獲しろ!」
ルカの指示を受けた鳩たちは、俊敏に反応するや否や、
体のどこに隠していたのか疑わしい網やロープを翼から放出して、
瞬く間に岬を拘束した。
〈岬〉
「あっ!なんだよこれ、動けねえぞ!おい、ふざけんなよ放せよ!」
〈ルカ〉
「はっはっは!その網やロープは鳩たちの羽毛を編み合わせて作った特製のもの。
そう簡単には解くことはできないのだ!」
〈岬〉
「いや鳩の毛で作った網やロープが頑丈なわけないだろ!ああくそ、解けろ~!」
岬が網やロープを解こうと必死で暴れるのをよそに、
ルカは「よし、連れて行くぞ!」と鳩たちをけしかけて岬を鳩の絨毯の上に押し倒し、
そのまま何処かへと連れ去ろうとする。
岬は鳩たちに揉みくちゃにされて、「いて!いて!くっそ止めろテメー」などと
苦痛に悶えるしかない。果たしてこのまま誘拐されてしまうのか?
と、その時
〈?(謎の男性)〉
「ルカァー!!」
⑥~参上!謎の中高年夫婦~
白いジャケットタイプの調理衣を身にまとった金髪頭の白人男性が、
商店街の十字路に向かって駆けつけてくる。
その見た目は短く切り揃えられた髪や逆三角形型の頭部の造りも相まって、
ルカにそっくりである。ただルカよりも30歳ほどは老け込んでおり、
凡そ50代程度の年齢のようだ。
〈?(謎の女性)〉
「ミカァー!!」
そして男性の横を、白い法被姿の女性が付き添うように並走しており、
その女性の見た目はミカより20~30歳ほどは上だと思われ、
やはりミカとどことなく似通っている。
その2人はルカとミカの元へと駆け寄ると、息を切らせながらも詰め寄った。
〈謎の男性〉
「探したぞルカ。いきなりいなくなったかと思えば、この騒ぎはなんなんだ。
とりあえず一度家に戻って話を聞かせてもらうぞ」
〈謎の女性〉
「ミカ、何故こんな騒ぎを?何故ずっと帰って来なかったのよ。
私もお父さんも心配していたんだからね。さ、帰りましょう」
どうやら2人の男女はルカとミカの関係者で、
2人を何処かへと連れ帰ろうとしているようだ。
そんな人の男女に対し、ルカとミカは冷酷な反撃を行った。
〈ルカ〉
「父さん、母さん。今までありがとう。
私たちは自分たちの本当の夢に気づいたんだ」
〈ミカ〉
「ウチらは兄妹でこの街のトップに立って見せるんだ。
お母さんたちは見ててよ、ウチ兄妹らが到達した、バイブスアガる最高の力!イェェ!!」
兄妹がいきなり踊りだす!パラパラだかヒップホップだか何だか、
詳しくは分からないが、、そういった動き激しめのやつだ!
そしてそれの影響なのか、リズムに乗って体を揺らし震わせる鳩が、男性と女性に襲いかかる!
2人は手で払いながら、捕まった岬の元へ近付き、網や縄を解いてくれた。
〈謎の男性〉
「大丈夫ですか?」
〈岬〉
「どうも助かりました。あなたは?」
〈謎の男性〉
「私の名はゴウカ。そしてこちらは妻の秋華(しゅうか)です」
男性、ゴウカは自己紹介と、女性、彼の妻の秋華の紹介をする。
〈ゴウカ〉
「ルカ、ミカ、何故こんなことを……こうなれば、私も本気を出して二人を止めるしかない!」
そう言うとゴウカは、何故か腰に下げていた『木刀』を抜くと、襲い掛かる鳩達をそれで叩き落とした。
〈ゴウカ〉
「テヤァ!ハァ!……峰打ちだ」
鳩達は致命傷を避けたのか、目を回して気絶しているようだ。
〈岬〉
「えっ峰打ちとかそんな問題か?だって鳩だぜ?木刀で叩くのは可哀そうなんじゃ?」
そんな岬の腑に落ちない疑問をよそに、ゴウカは迫りくる鳩をはたいては、
ばったばったと気絶させていき、遂にルカと直接対峙し始めた。
木刀を持つゴウカに対し、ルカはいつの間にか取り出した木槌で渡り合っている。
〈ルカ〉
「ハァ!さすが父さんだ。腕は全く衰えていないようだね。
だけど、僕達には秘策がある!ミカァ!」
〈ミカ〉
「行くよ父さんマジ平安京!」モクモク~
ルカがミカを呼ぶと、ミカはいつの間にか持っていた琵琶から、真っ白な濃い霧を発生させてゴウカの視界を奪った。
〈ルカ〉
「貰った!」シュッ!
その隙にルカがゴウカの横腹を木槌で打ち付ける。
だがそれを受けたゴウカは「甘い!」と木刀でルカのサングラスを叩き割った。
―パキーン!……―
真っ二つになって地面に落下するサングラス。
そして露になるルカの素顔、それは深く蒼い海の如き瞳をしていた。
数瞬程その場の時が止まり、しかしルカとミカは即座に撤収を始める。
〈ルカ〉
「どうやら一筋縄ではいかないようだね。一旦引かせてもらうよ、さらば!」
―シュ―!―
ミカが琵琶から大量の霧を放出し、その場の視界を真っ白にする。
そしてその霧が晴れた時、その場にルカとミカ、それから大量の鳩たちはいなくなっていた。
〈岬〉
「結局何だったんだこれは?」
〈秋華〉
「ルカ、ミカ……」
〈ゴウカ〉
「……」
気落ちした様子の秋華を、ゴウカが彼女の肩に手をかけながらなだめている。
〈ゴウカ〉
「一体何が起こっているのか、私にも分からない。
だが、なにやらこの商店街に何らかの危機が迫っているようだ。
ところでそちらの方、見受けしたところ最近この辺りに開いた
サンドイッチ屋の方のようですが、貴方も何やら事件に巻き込まれているようですね。
少しウチで話を擦り合わせていきませんか?」
〈岬〉
「事件、事件か……そうっすね、一旦話を擦り合わせましょう。
なんか俺よくわからないけどあいつらに狙われているみたいだし……」
こうして岬は、ゴウカと秋華と情報交換を行うこととなった。
⑦~情報交換と、とある家族の危機~
あおばタウン商店街内。
文林堂から200mほど離れたところには、岬のサンドイッチ屋とは
対照的な、厳かなスタイルの和菓子屋のテナントが存在する。
上品な白壁に、白地の暖簾。暖簾や看板には、金色の文字で店名が綴られている。
『和・洋菓子甘味処 麗華(れいか)』。
今から凡そ25年、四半世紀ほど前に商店街の一角に現れたこの店は、
その菓子の出来栄えの良さもさることながら、そこで働く店主の、
客に大ウケするとある『特徴』により、開店当時は連日大盛況を見せていた。
25年以上もの時が経ち、全盛期の頃よりもその賑わいの程度は落ち着いてはいるものの、現在でも開店当時の質を保ちながらも少しづつ洗練されていく和菓子の品質や、店主の『特徴』により、今でも根強い人気を誇っている商店街の柱の一つである。
そんな『麗華』の入り口、ガラスの扉は今閉まり、『閉店中』の札がかけられている。
だがしかし中にある飲食スペース、四角い木のテーブルとそれを囲む4つの椅子には、
岬とゴウカ、秋華、あととりあえず連れてきた大木が座り、先ほどの事件に関することと、ルカ、ミカに関する話をしていた。
〈大木〉
「なんだか騒がしいと思ったら、まさか岬ちゃんがよく分からん騒動に巻き込まれていたとはなあ。ところであんたらは、確かこの店の女将と店主だよな?」
〈ゴウカ〉
「はい、改めまして自己紹介させて頂きます。
私はこの店、『和・洋菓子甘味処 麗華(れいか)』を経営している
店主の『鳳(おおとり)ゴウカ』。
そして女将であり妻の『鳳 秋華(おおとり しゅうか)』です」
〈秋華〉
「どうも……」
ところで、ゴウカの風貌というか、身に纏った雰囲気を一言で言い表すなら、
それは『王様』であった。
念のため強調させて頂くが、断じて殿様ではない。
東洋人、黄色人種の顔つき体つきではなくて、西洋の白色人種、
蒼い瞳に黄金めいたプラチナブロンドの髪、
彫りの深くてがっしりとした顔の輪郭に、これまた等身が高くてがっしりとした大きな体格。
威風堂々とした西洋の国の王様が、何故かその服装は白を基調とした
和菓子職人のものだが、
それはそれとしてまるで絵物語から飛び出してきたかのような人物が、
『麗華』の店主、ゴウカ氏の特徴であった。
つまりは『イケメン』『ハンサム』『色男』『美丈夫』なのである。
多少老けてはいるが、こういった色男好きな女性ならば、彼を目当てに店を訪れることもあるのだろう。
さて、ここで一旦彼のちゃんとした名を紹介しておこう。
彼の名は『鳳(おおとり)ゴウカ』。
この店の女将『鳳秋華』の元に婿養子として嫁いだ、外国人和菓子職人である。
とあるきっかけから日本に来訪し、そこで出会った和菓子に衝撃を受けて惚れ込んだ彼が、
色々な出来事を体験していく中で若かりし日の秋華に出会い、
一目惚れして入り込みアプローチを重ねた末に交際まで漕ぎ付け、
その後婿入りという形ではあるが見事に彼女と結ばれたことの詳細は、
またいずれかの機会にでも語られよう。
〈ゴウカ〉
「早速ですいませんが、一体あの子たちが何をしでかしたのか、私たちに教えていただけませんか。
私達は騒ぎを聞きつけて途中から見たので、何がったのかよく知らないのです……」
〈岬〉
「あ~じゃあまず、自己紹介させて頂きますけれど、俺の名前は三山岬。
つい最近こちらの大木さんの書店『文林堂』の方で空きスペースを間借りして、
今サンドイッチ屋をやっています。
んで早速ですけどさっきなにがあったのかっていうと……」
岬は先ほどの事件を掻い摘んで説明する。
突如として現れた鳩集団を率いる謎の兄妹、そいつらに難癖つけられて暴行され、
あわや連行寸前であったことなど。
〈岬〉
「……というわけで、俺は一方的に難癖付けられて連行されそうになったんですよ」
〈秋華〉
「はぁ~……」
〈ゴウカ〉
「まさかそんなことになっているとは。一体なぜこんなことになっているのか……」
岬の話を聞いてルカとミカのしでかしたことを知った秋華は、苦しそうに額に手を添えて溜息をついた。
〈大木〉
「さ、岬ちゃんの話は済んだようだし、今度はそちらの話を聞かせて頂こうかな?」
大木に勧められて、気を取り直したゴウカと秋華は事の次第を話始める。
それはルカとミカに関することだった。
〈ゴウカ〉
「さて、何から話すべきでしょうか……
まずあの二人、ルカとミカは私たちの息子と娘、兄妹です」
〈岬〉
「でも、あんたの名前は『鳳ゴウカ』だろ?
あの二人は苗字を確か、『ヴォン・バッキンガム』とか名乗ってはずたぜ」
〈ゴウカ〉
「それは私の結婚前の苗字ですね。
私は元々故国で『ゴウカ・ヴォン・バッキンガム』と名乗っていました。
まあ理由合って妻である秋華の家に婿入りして、今はそちらの家の苗字を使わせて頂いておりますが」
〈大木〉
「ふうむ父親の旧名を敢えて名乗っているわけか。
何故だかは分からんが、深い事情があるのかもしれねえな……話を続けてくれ」
〈ゴウカ〉
「ルカは和菓子職人を、ミカは洋菓子職人を目指して、私達と共に製菓の道を
究めんと日々鍛錬を続けていたのです。しかし1か月ほど前……」
~【1か月ほど前】~
〈ミカ〉
「あっお父さんお母さん。私のマブダチが今度キッチンカーやるって言ってんだよねー。
それでちょっと様子を見てくるね。
あ、お兄ちゃんも一緒に連れていくね?」
〈ルカ〉
「はっはっはミカ。君は本当愛くるしい妹だな。じゃあちょっと行ってくるよ、父さん、母さん」
~【その1週間後】~
〈秋華〉
「2人とも、もう1週間も戻ってきませんね。
連絡をしても『まだしばらく戻らない』なんて言ってはぐらかすし、ちょっと様子を見てこようかしら?」
〈ゴウカ〉
「そうだね。何かトラブルに巻き込まれているかもしれないし、
私たちも菓子職人の端くれ、何か力になれることもあるかもしれないし、
行ってみようか」
~~
⑧~唐突なバトル展開~
〈秋華〉
「……と、そういうことがあって、2人の行き先を以前の話を元に伺ったんですが……」
〈ゴウカ〉
「どうやら最近になって、『キッチンカー連合』を名乗る団体がその場所、市の中心区に近いところにある倉庫を所有したようで、追い返されてしまいました……」
〈岬〉
「『キッチンカー連合』?なんですかそれは?」
〈ゴウカ〉
「どうやらキッチンカー経営者たちの相互補助団体のようですが、詳細がよく分からないものでして……警察に調査を依頼はしたものの、今どういった状況なのかは……」
〈大木〉
「だが、その団体と関わっているかもしれないあんたらの子供が公の場であんな騒ぎを起こしたんだ。
警察だって本格的に動いているかもしれないぜ」
〈秋華〉
「嗚呼、もしあの二人が逮捕でもされたらと思うと、もう胸が苦しくて苦しくて……」
うううと涙ぐむ秋華。
〈岬〉
「ところであの二人のことですけど、なんだか妙な能力がありましたよね?
なんか鳩を操るとか、そういう訳の分からない超能力的なのか何なのか的な……」
〈ゴウカ〉
「ああ、そのことに関してですが……実は私と秋華には、先祖代々受け継がれるある『能力』があるのです。
鳥類を始めとした生物や、場合によっては植物までをも、
自らの放つ体臭や声、『フェロモン』によって操る能力……
私達はこれを
『魅了力(みりょうちから、フェロモンパワー)』
と呼んでいますが……」
岬はその突拍子もない話を聞いて、頭を抱えて固まった。
〈岬〉
「えっなんですかそんな、いきなり漫画とかアニメみたいな話は……」
〈ゴウカ〉
「信じられないのも無理はありませんが、実際私たちはそういった能力で
鳥類や他の生き物と友好関係を結び、森の木の実を探したり、或いは他にも
色々なことに用いてきたのですが……
ですがその力はその暴走を抑えるため、幼いころに一度封印を施し、
厳しい修練を通して心身ともに鍛え上げた、その時になってようやく
封印を解かれて自由に使えるようになるので、言っては何ですが
社会の迷惑になるような性格に、あの子供たちを育てたつもりはないのです」
〈岬〉
「いやそうはいっても実際俺は危害を加えられたわけで……
このままだと、また被害を食らいそうなのでなんとかしてもらいたいんですがね」
〈ゴウカ〉
「そうですよね、私としてもこれ以上息子と娘が人様に迷惑をお掛けするのは心苦しいので、
私自身でどうにか出来るのなら止めたいと思っています。
私はもう一度、キッチンカー連合を名乗る者たちのところへ行ってみようかと思います」
〈岬〉
「そうですか、じゃあお気をつけて……」
〈大木〉
「待ちな岬ちゃん」
〈岬〉
「えっなんすか大木さん?俺としてはもうこの件にこれ以上関わる理由はないんですけど」
大木は岬の消極的な態度に、甘いな、と一拍おいてから、こう言葉を続けた。
〈大木〉
「お前も言ってた通り、あいつらはお前のことを狙っているんだぞ。
もしゴウカ氏の身に何かがあってその兄妹を止めるやつがいなくなったら、
今度こそお前さん、あいつらに連れ去られるんじゃないのかい?
そうなる前に、ゴウカ氏と一緒にそのキッチンカー連合だかのところに乗り込んで、
どうにかしてやるのが筋ってもんじゃないのか?」
〈岬〉
「いやそうはいっても俺は一応一般人なわけで……
まあ腕っぷしには多少自慢はあるけれど、別にそれで世間を
どうこうしようってわけじゃ」
大木と岬の問答。するとそこへゴウカが案を練って参入する。
〈ゴウカ〉
「ではこうしましょう。まず私がキッチンカー連合の拠点に行きます。
貴方方はそれを後から追って、私が戻らなかったら警察かどこかに連絡する、
というのはどうでしょうか?これなら危険はそうないはずです」
大木はその案を聞くと楽しそうに笑い、便乗した。
〈大木〉
「面白い!その策、乗ったぜ!岬ちゃんもそれでいいよな?」
〈岬〉
「いやいやいやいや大木さん、あんたこの展開楽しんでるだろ!?
俺の身はどうなってもいいのかよ!?」
そんな岬の拒否反応を見た秋華が、覚悟したように名乗りを上げた
〈秋華〉
「そうですよ。無関係な方を私達家族の問題に巻き込めませんよね。ここは私が……」
〈岬〉
「えっ奥さんが!?大丈夫なんですか?」
〈秋華〉
「確かに危険かもしれませんが、でも私は母親として何もしないわけにはいかないと思うんです」
秋華の親としての悲壮な覚悟を聞いた大木は、弱気な岬に喝を入れる。
〈大木〉
「ええ?なあ岬ちゃん……この奥さんが女だてらにここまで覚悟見せてるってのに、
男のお前が一肌脱がねぇでどうする?
お前さんの演歌、こぶしってやつは、こういうときに何の役にも立たねえ木偶の技か?
男ならよ、女守るために自分の『こぶし』奮って見せろや。勿論グーパンチの方じゃねえぞ、
お前さんのどでかくて観客の心を震わせる、とっておきのこぶしの効いた自慢の演歌の方だぜ?
お前さんのあの人生の憂いを表現する魅惑のメロディ―で、この家族のピンチを心から救ってみせろやい」
大木の喝の言葉を聞いて、岬は苦しんだ。
〈岬〉
「ぐっ大木さん……なんでそんなこと言うんだよ。俺はただの演歌歌手で、サンドイッチ屋で、荒事なんざ関わりたくないんだぜ?
それなのにそんなにボロクソ言われちまったら、なんか何かしないと悪いみたいじゃねえかよ。
……あーもう分かったぜ!ちょっとだけ手伝ってやるよ!ただし、荒事には関わらねえぜ?」
〈大木〉
「フッさすが岬ちゃん、俺が見込んだ大馬鹿野郎だぜ。でっけえガタイしてやがんだ、こういう時にこそそいつを活躍させやがれ」
〈岬〉
「おいおい大馬鹿野郎って、あんたそんな風に俺のこと思ってたのかよ。ちょっとばかしショックだぜ……
で、ゴウカさん。とりあえずあんたのアイデアどおり、あんたがそのキッチンカー連合やらの拠点に乗り込んで、俺らはその後を追うってことでいいんだよな?」
〈ゴウカ〉
「ありがとうございます!早速ですが、キッチンカー連合のほうに乗り込みたいと思うのですが、準備のほうは宜しいでしょうか?」
〈大木〉
「あーじゃあ、俺は一旦店に戻って色々と準備させてもらうわ。岬ちゃんも手伝いな」
〈ゴウカ〉
「では準備が済んだら教えてください。連絡先は店の……」
かくして、謎の集団『キッチンカー連合』の元へと探りを入れに行くことになった岬たち。
果たして事件は無事解決し、この引き裂かれた家族を救うことはできるのか!?
⑨~キッチンカー連合~
【あおばタウン市内のとある倉庫内】
倉庫の中に何台ものキッチンカーが並んでいる。
そのキッチンカーに紛れ込んで、木製のからくり宝船が鎮座していた。
現在それには誰も乗り込んでおらず、持ち主のルカとミカはそことは別のところ、
宝船の隣に駐車している赤いバス型のキッチンカーの中で、若い女性と話をしていた。
〈謎の女性〉
「まさか『和菓子界の金髪蒼眼の王子』ルカ様と、
『洋菓子界のプリンセスギャル』ミカちゃんが失敗するとはね。
どうやら私の見立てが甘かったみたいだわ。
計画を見直して、立て直しましょう」
その女性は短く切り揃えた赤毛を白いカチューシャで纏めており、
溌剌そうな印象が見て取れる。
どうやら参謀役のようなことをやっているようで、タブレットとタッチペンを手に
色々と作業しているようだ。
一見すると堅物そうだが、タッチペンはウサギの意匠を取り込んだ
ピンク色で装飾のついたタイプであり、案外遊び心がありそうである。
そんな彼女の進言をしかし、ルカたちは聞いた上で話を切り替える。
〈ルカ〉
「確かに多少計画を修正する必要がありそうだ。
だが今の力で父さんたちとどの程度渡り合えるのかは大体見当がついた。
いずれ決着をつけるとして、当面の問題はやはり『魅了力』の安定性じゃないかい?」
〈ミカ〉
「生き物とか植物とか、そういったのを魅了するのは今のウチらでも出来るけど、
人に対するもんってなると、やっぱウチらだとまだまだ未熟だもんねー。
まあ、とりあえずみんなでカラオケでも言って気分アゲてかない?」
〈赤毛〉
「人の未知の能力『魅了力』。
時の権力者の中には、その能力を人間に対して発揮し、
一時代を築き上げたという者もいる……
とはいえ、それを究めるのは簡単じゃないのよねー。
何かもう一押しこれだ!ていうパンチ力が欲しいわね……」
謎の女性が腕を組んで悩み始めた時、突如として陽気で軽快な声がその場に響いた。
〈?〉
「ぬるい、ぬるいな!甘ったるくてひょろっちい菓子売ってる青二才たち!」
頭に巻いた黄色のデニムバンダナを筆頭に、全身黄色いデニムの服装で統一した全身色黒(日焼け跡)の大柄な男が現れて、ルカたちを煽った。
〈デニムバンダナ〉
「魅了力とか、そんなの唯の人間の体臭や声色だろう?そんなもんよりさ。
大自然の恵みである香辛料の燻し銀、いや芳醇な燻し金(ゴールド)な香りと、
金属を固めたゴツいスピーカーから流れる官能的(センシュアル)なメロディーこそが、
時代のトップ&ベストだぜ。
この真夏のあおばタウンを制するのはこの小生……
『漆黒の激辛アイスクリームの魔術師』、
魅惑のクルフィワーラー・『鉄観音 糖黒(てつかんのん とうこく)』さ!」
ドヤッと自信満々に答えた糖黒に対し、謎の女性は余り関心なさそうに相手する。
〈赤毛〉
「先輩、あなたこの前セミに纏わりつかれて小水まみれになってましたよね?
ばっちいんでしばらく近づかないで頂けますか?」
〈糖黒〉
「ええっそれひどくないナオちゃん?あの後ちゃんとお風呂入って洗濯して、
日干ししてしっかり乾かしたんだぜ?匂いは残ってないって大丈夫だって」
いや生理的にちょっと……と糖黒にナオと呼ばれた赤毛の女性は、
つれない態度で彼をそこはかとなく拒絶し、それに対し糖黒が
ガーンと地味にショックを受けて気落ちしていると、
その場にガタガタッ……という小さな何かが振動する音が微かに響いた。
そして、ウィーンというモーター音と共に、何かが彼らの元へと迫った。
〈謎の物体〉
―我が同胞たちよ……―
〈ナオ〉
「あら、あなたは……」
ナオ達が音のした方を向くと、そこには長さ50cm以上、高さも30~40cmほどもあると思しき、『キッチンカーを模したらしい大型ラジコン』があった。
そしてその上には何故か、ひと昔どころかもうかなり前、それこそ
四半世紀以上は前に日本や海外で流行っていた、胴体がボテッとまん丸くて、
瞳はパッチリとしていて、全身毛むくじゃらな姿が特徴的な、
『鳥型のとあるロボット玩具(名前は大人の事情から伏せさせていただく)』が鎮座しており、
その玩具からは電子的な音声が流れていた。
〈フ○ー○ー〉
―残念だったな。今回は邪魔が入ったせいで、あの商店街を支配することが出来なかった。
しかし、次こそは必ずやあそこを支配し、我々の力をこの南国(くに)に分からせてやろう。
その為に役立ちそうなものを調達してきたぞ。是非使うがいい……―
ラジコンの後部ドアが開き、中から包装紙とリボンで包装された四角い長方形型の物体が出現した。
〈ルカ〉
「面白い、中々のサプライズ演出じゃないか。
こういった真心を感じさせる良い手間が、日本人のOMOTENASI精神だね」
〈ミカ〉
「お・も・て・な・しマジバイブスアゲじゃ~ん」
ルカが包みを剥がすと、中から出てきたのは……
〈ルカ〉
「なるほど、これは面白くなりそうだ……」
謎の贈り物の正体、それは……〇〇○○○!
【つづく】
一体謎の包みの中身とは何か?
怪しげな集団『キッチンカー連合』の目的とは?
その正体は次回明かされる?次回も乞うご期待!