隣に越してきた心の声ダダ洩れ系美少女が、毎日毒入りの手料理を振舞ってくる件 作:なっくる@2作品書籍化
――― 2週間前。自宅アパート
ぴんぽ~ん!
日曜日の昼下がり。
ニコ○コで深夜アニメを見ていた僕の耳に、量産品のインターホンの呼び出し音が届く。
「荷物はさっき受け取ったばかりだし、今日はユーバーも頼んでいない」
僕のようなインドアぼっちリーマンを訪ねてくるのは宅配業者くらいのものだ。
「もしかして、宗教の勧誘かな?」
少し警戒しながら、インターホンのモニターをオンにする。
「え?」
『あ、あの。本日隣に引っ越して来まして。ご挨拶に伺いました』
解像度の低いモニターでもはっきりとわかる。
赤いフレームの眼鏡をかけた、超絶美少女。
手には有名洋菓子店の菓子折りを持っていて、この辺では見たことのない赤いブレザー制服に身を包んでいる。
「あ、はい! いま開けます!」
可愛い女子高生が隣に引っ越してくる……まるでアニメかラノベのような展開にテンションの上がった僕は、急いで解錠ボタンを押した。
*** ***
「改めまして。本日お隣に引っ越してまいりました。騒がしくして申し訳ありません」
「いえいえ、ご丁寧にありがとうございます」
扉を開けるなり、深々と一礼した少女から菓子折りを受け取る。
ふわり、とフローラルな香りが辺りに漂う。
うお、女子が使っているめっちゃいいシャンプー(推定)の香り!
代り映えのしないアパートの廊下が、一気に華やぐ。
「近くの私立藤が丘学園に編入することになりまして。この時期の引っ越しになったんです」
季節は5月。この時期に高校生が独り暮らしを始めるなんて……そう考えていたら、少女自ら状況を説明してくれた。
「そうなんですね。藤が丘学園は名門だから……凄いなぁ! もしかして医学部を目指しているとか? 優秀なんですね」
藤が丘学園は普通科だけじゃなく、看護科や特進コースもある中高一貫学園。少し離れた場所には大学もあり、偏差値も日本トップクラスの学園だ。
「い、いえ。わたしには
「?」
学園の話になると、なぜか下を向いてしまう少女。しまった、初対面の女の子にふさわしい話題じゃなかった。
「すいません、ぶしつけなことを言って。僕の名前は山田涼太郎。一応この街で生まれ育ったので、分からないことがあれば何でも聞いてください」
それに、初対面の男と長々話すのも嫌だろう。
そう考えた僕は、テンプレ自己紹介を述べて会話を終わらせることにした。
「あ、はい。頼らせていただきます。涼太郎さん」
なんと、少女は僕のことを下の名前で呼んでくれた。
しかも笑みを浮かべながら、である。
くそう、勘違いしそうになるじゃないか。だけど勘違いダメ、絶対である。彼女はただのお隣さん。僕は分別のできるオタクなのだ。
「えっと、わたしの名前は……」
続いて名乗ろうとして、なぜか言いよどむ少女。
視線がせわしなく周囲を見て。
「あ、望月。望月……ひよりです」
靴箱の上に置きっぱなしになっていた通販で買ったマンガ。
そのタイトルを見た彼女は、そう名乗ったのだった。
*** ***
「う~ん、もしかして偽名……なのかな?」
お隣に越してきた美少女、望月さんから貰った菓子折りをダイニングテーブルに置いた僕は、彼女が見ていたマンガのタイトルを確認する。
ドカ食い気絶部所属の女の子が主人公のグルメマンガで、望月とは主人公の名字だ。
「ひよりって名前も結構珍しいし……」
いかにもその場で考えました、感のある名前だ。
「うう、もしかして僕のぼっちオタクオーラでキモがらせてしまったとか」
スーパーに出かけたばかりだったので、変な格好はしていなかった……はず。
もうすぐ27歳になるとはいえ、地毛がほんの少し茶色い僕はお酒を買うときたまに止められるくらい童顔だ。
背も低めなので威圧感は全くないと自負している。
「それとも学歴厨っぽい言動が良くなかったとか……」
何しろ美少女と話すなんて十年以上ぶり。オタトークをしなかった分、僕にしてはマシだったかもしれない。
「絶対引かれたよね……」
管理会社から警告を食らうかもしれない。むしろ望月さんがこのアパートを出て行ってしまうかも。いいとこの子っぽかったし。
「はぁ~」
ため息をつきながら、カウンターキッチンに立つ。
こういう時は料理をして心を落ち着かせるのだ。
「今日は簡単に、パスタでいいか」
冷蔵庫から挽肉と香味野菜、ワインを取り出す。
「ふんふん♪」
三口コンロに備え付けのオーブン。オシャレなカウンターキッチンからは広いリビングが見える。
一人暮らしには少々贅沢な1LDKのアパートだが、料理をしやすくて気に入っている。
「望月さんは料理とかしないんだろうなぁ」
高校生でこのレベルの部屋に住める子なのだ。毎食ユーバーとかね。
がっしゃ~~んっ!
「……ん?」
そう思った瞬間、けたたましい音が僕の耳に届く。
このアパートは防音がしっかりしているとはいえ、さすがに完全防音ではない。
まるで棚からボウルをまとめて落としたような轟音。
もしかして、望月さんも料理中なのだろうか。
『きゃあああっ!? せっかく苦労して手に入れた食材が! あいたっ! こんなところで放電しないでくださいっ!』
「……んんっ?」
続けて、望月さんとおぼしき女性の声がかすかに聞こえた。
食材?放電?聞き間違いだろうか。
「ま、まあペットかもしれないし」
放電するペットが何なのか想像もつかなかったが。
むりやり自分を納得させた僕は、料理に没頭するのだった。