隣に越してきた心の声ダダ洩れ系美少女が、毎日毒入りの手料理を振舞ってくる件 作:なっくる@2作品書籍化
「はぁ~、お腹すいた」
翌日、珍しく仕事が多忙で昼飯を食う暇もなかった僕は、ふらふらと自宅アパートに向けて歩みを進めていた。
時刻はもう18時半。初夏の太陽も傾き始める時間だ。
「んっ?」
アパート入り口の横にあるクリーンステーションの前に、制服姿の望月さんが立っている。
左手にはゴミ袋、右手には小さなタッパー。
とりあえず、挨拶することにしよう。挨拶は近所付き合いの基本である。
「こんばんは、望月さん」
「あ、こんばんは。涼太郎さん」
「明日は燃えるゴミの日だから、ごみ捨て?」
「はいっ。このアパートはいつでもごみを捨てられるので、助かりますね♪」
「確かに」
望月さんとたわいのない会話を交わしながら、気になるのは彼女が左手に持ったゴミ袋である。
ばすん!
なんか動いたぞ。
昨日、彼女が叫んでいたセリフが気になる。食材、放電……。
とはいえ、女子高校生のプライベートである。尋ねるのは何かのハラスメントになるだろう。
「えっと、そちらのタッパーは?」
むりやり、意識をゴミ袋から切り替える。
タッパーに入っているのは、綺麗にカットされたサンドウィッチ。
白いパンの間にレタスとチーズ、そして見たことのないゼラチン状の物体が挟まっている。
意外に肉厚で、ピータンの煮凝りのようにプルプルだ。
ふわり
ジューシーないい匂いが僕の鼻をくすぐる。
「あっ、これは……ちょっと失敗作で」
「ん? 捨てちゃうの?」
なんと勿体ない。とても美味しそうなのに。
「じゃ、一つ貰うね」
いつもなら、絶対そんな行動はしなかっただろう。
その時の僕はお腹がペコペコで、栄養不足で頭が回っていなかった。
ひょいっ
「え、ええっ?」
僕はタッパーからサンドウィッチをひと切れつまみだすと……。
ぱくっ
躊躇なく頬張った。
ぐにゅっ、ばちばちばちっ
思ったより歯ごたえがしっかりとしていて、変わった刺激がある。
まるで、冬にセーターが放つ静電気の一撃を数倍にしたような……でも、悪くない。
ぱくぱく、ごくんっ
沁み出てくる肉汁を楽しみながら、一気に呑み込む。
「ふう、なかなか珍味かも」
ぱちぱちとした謎の刺激が食道を降りて行き、ぽやっとしていた僕の意識をぶん殴る。
「…………はっ!?」
次の瞬間、栄養を摂取した脳が一気に覚醒する。
(や、やばい!)
とんでもなくキモい行動をしてしまった。
女の子が失敗作だからと捨てようとしていた料理を、無理やり食べるなんて。
「あ、あの。望月さん?」
ああもう、通報されてもおかしくない。何とかハラスメント侮辱罪的な罪状で。
恐る恐る望月さんに声をかける。
「……え?」
思わず声が漏れてしまう。
そこにいたのは、ゴミを見るような目をした望月さんではなく……。
「あ……これを、美味しそうに食べてくれるなんて」
眼鏡の奥の赤い瞳がうるんでいる。
桜色の唇は、綺麗な三日月形を描いていて。
「う、嬉しい」
え、なんか……喜ばれてる?
ぱさっ
状況を理解する暇もないまま、望月さんは手に持っていたゴミ袋とタッパーを地面に降ろすと。
だきっ
「!?!?!?」
「涼太郎さん、いえ、涼くん! これから毎日、わたしの手料理を……食べてくださいっ!」
プロポーズの言葉だと誤解してしまいそうなセリフと共に、思いっきり抱き着いてきたのだった。