隣に越してきた心の声ダダ洩れ系美少女が、毎日毒入りの手料理を振舞ってくる件 作:なっくる@2作品書籍化
――― 日時を今日に戻して、午後八時半。
じゃ~っ
「おおぅ……ようやく終わった」
もちづき……っと、ひよりさんが帰った後、ベニテンエキスを排出し終えた僕は
のろのろとトイレからリビングに移動する。
「彼女について、分かっている事をおさらいしよう」
いつもは鍵を掛けている机の引き出しから、一冊のメモ帳を取り出す。
ひよりさんに出会って二週間ほど。
彼女の『独白』をまとめた通称ひよりさんメモである。
……キモいって言わないで。僕の命に関わる事でもあるのだ。
「望月ひより、私立藤が丘学園に通う高校3年生」
さすがにこれは偽装ではない。彼女が身に着けているベルト付きの珍しい白セーラー制服も、ナイチンゲールの意匠を取り入れた校章もまぎれなく本物だ。
「出身地は中部地方かな」
これもほぼ間違いないだろう。僅かに感じる中京方言のイントネーションと濃いめの味付けを好むところがその理由だ。
「既に両親を喪っていて……両親の敵《カタキ》がいる」
事件か事故か。この事は何度も彼女の独白で聞いている。
「で、その敵はこの街にいる……のだと思う」
これは僕の推測。
だけど、高校3年生になって出身地から遠く離れたこの街の学園に編入するという行動から、確度は高いと考えている。
「復讐の手段は、料理」
毒を盛った料理を敵に食べさせる。
ひよりさんの最終目的がこれだ。
どうやって相手に近づくのか、どうやって相手を油断させて料理を食べさせるのか。
疑問は尽きないけど、彼女なりに考えた精一杯の手段なのかもしれない。
「当面の方針は……」
メモ帳の最後の頁に赤ペンで書き込む。
「ひよりさんの料理に耐え、毒料理を完成させない」
ひよりさんはかなりの慎重派だ。
確実に相手を仕留めることが出来、相手に気付かせない完璧な毒料理が完成しない限り、敵に挑まないはずだ。
「そして、ひよりさんの敵を探し出す」
まともに話が出来る人間とは思えないが、さりげなく警告を送ったり悪事を暴いて警察に通報したり。
ひよりさんが仕掛ける前になんとかできればベストだ。
「やっぱりさ」
おせっかいかもしれないが、朗らかで、可愛らしいひよりさんが手を汚す所を見たくない。
何より、復讐は……何も生まなかった。
「よしっ!」
文字に起こすことで、頭の中が整理できた。
まず、僕の取ることが出来る手段は。
「ひとまず、アイツに相談してみよう」
僕の唯一と言っていい親友は、私立探偵だ。
この街にいるだろうターゲットを探すのに、これほど頼りになる人間もいないだろう。
「明日は土曜日だし、早起きしていくか」
生活パターンの読めない親友は、だいたい早朝に活動している。
毒の分解で疲労した身体を癒すためにも、早寝早起きである。
「むふ。僕が何とかしてみるからね。おやすみ、ひよりさん」
脳裏に、彼女の笑顔が浮かぶ。何とはなしに漏れた言葉の声色は、我ながらキモかった。
――― 同時刻、ひよりの部屋
「ふふっ、涼くん今日もいっぱい食べてくれたなぁ♪」
鍋を洗いながら、鼻歌を歌うひより。
「涼くんがいてくれて、本当に助かっちゃう」
1年ほど前から毒入り料理を練習しているひより。
「自分で試すわけにはいかないし」
どれだけ「毒(と思われるモノ)」を入れればいいのか。
味見してぶっ倒れたら目的を果たせないし、化学的な毒物を準備すれば絶対に足がつく。
「涼くん、自分で胃腸が丈夫だって言ってたもんね」
毒入り料理の実験台として、これほど適任な人がお隣さんだなんて。
運命的な出会いを感じているひよりである。
「……きちんとお礼をしないと」
念願の復讐を遂げた時、自分は無事では済まないだろう。
パパとママが遺してくれた電子口座の番号と暗証番号。自分に何かあった時、即座に涼くんに送られるようスマートウォッチの設定を変更しておく。
「それに……」
明らかに美味しくないだろう毒料理の失敗作を、文句も言わずに食べてくれる。
しかも、優しい笑みを浮かべながら。なんていいひとなのだろう。
「ううっ、ダメだよひより。わたしにはそんな資格はないんだから」
高鳴り始めた胸を、無理やり押さえつける。
「……でも、少しだけなら」
ターゲットに近づけるのは、最速でも学園を卒業してから。
それまでは、少しくらい青春ごっこをしてもいいんじゃない? 今までこんなに苦労したんだから。
そう囁く天使(?)の声に負けそうになる。
ひよりはいそいそとお気に入りのパジャマに着替えると。
ささっ
涼くんの部屋がある方の壁に、そっと耳を当てる。
「むふっ」
思わず漏らした声は、正直キモかった。