隣に越してきた心の声ダダ洩れ系美少女が、毎日毒入りの手料理を振舞ってくる件 作:なっくる@2作品書籍化
「ほらほら、涼くん! こっちです!」
私鉄の駅に続く駅前通りを、ぱたぱたと走るひよりさん。
愛嬌満点の走りっぷりに、転ばないか心配になる。
(どうしてこうなったんだっけ?)
ひよりさんの『敵』について調べるため、私立探偵をしている親友に依頼をしようと早朝にアパートを出た僕。
「おはようございます、涼くん! いいお天気ですね!」
玄関のドアを開けると、そこにひよりさんがいた。
「えへへ。いつもより朝ごはんを作る音が早かったので、どこかに出かけるのかな~と思いまして」
ぱちんと両手を合わせ、じっと上目遣い。
ああもう、可愛いな。
お隣さんに生活リズムを把握されている。そのことに気付く間もなく視界が可愛さで占有される。
「わたし、今からあの……ピクニックに行くんですけど。よかったら……一緒に行きませんかっ?」
こてん、と可愛く小首をかしげたひよりさんからのお誘い。
「……うん、ぜひご一緒させて」
こんなの、断れるわけないよね。
「7時20分発の準急に乗れば、終点でバスに乗り継げます。急ぎましょうっ!」
スキップしながら歩く、ゴキゲンなひよりさんは私服姿。
フリルの付いた薄ピンクのカットソーに、白いショートパンツ。
すらっと伸びる健康的な美脚の足元は、少々ごついトレッキング用のスニーカー。
何より今日はいつもの眼鏡じゃなくてコンタクトだ。眼鏡を外したひよりさんは少し大人っぽい印象で、それもまた可愛い。
「今から行く『山』は、ふもとに更衣室もありますから! ちゃんと着替えますよっ」
ひよりさんが背負っているのは、登山用とおぼしき大きなバックパック。
彼女のピクニックは、少し本格的な山登りらしい。
「僕も久々に山登りセットを引っ張り出したよ」
僕の服装はスポーティなトレーナーと丈夫なチノパンに足元は登山ブーツ。
もう十年近く前になるのか。野食が趣味の両親と食材の調達にしょっちゅう出かけていた。
「刺激的で神経に効くやつ……こほん、美味しい食材を探して涼くんちでアフターパーティ、楽しみですね!」
うん、神経毒は危ないからやめとこうねひよりさん。
上手く彼女を誘導しつつ、美味しい野食材で晩ごはん……って、これって完璧な休日デートなのでは?
(うっ、いまさらながらに緊張して来た)
何しろデートなんてXX年ぶりな僕である。
「あっ、このミントおにぎり! 結構美味しいんですよ……混ぜた劇物に気付きにくくなりますし」
相変わらず危険なセリフを漏らすひよりさんと昼ご飯のお弁当を見繕い、僕たちは終点行きの準急に乗り込むのだった。
*** ***
「んん~、空気が美味しいですっ!」
準急に乗って1時間。1日三本しかないという路線バスに揺られる事1時間半。
僕たちは山あいの小さな集落に到着していた。
「ここはパパの古い知り合いの方が所有している山で、なんでも採り放題なんですよ!」
「それはすごいね」
広葉樹がうっそうと茂る里山に向けて、細い獣道が伸びる。その傍らにはプレハブ式の更衣室が置かれている。
ひよりさんは、すでに上下ジャージに着替え済。
首元には防寒用のタオルを巻いて、腰には登山用ステッキ。
キュートで完璧な山ガールスタイルだ。
「よし、じゃあ行こうか」
「はいっ! まずはきのこですかね。びりびり来るやつはあるかなぁ」
「美味しいものにしようね」
「は~いっ」
ちゃんと見張っておかないと、とんでもないきのこを採取しかねない。
僕は僅かに緊張しながら、ひよりさんの後に続くのだった。
*** ***
「あっ! 大きなきのこ! あれはどうですか?」
よく手入れされた森を歩く事10分ほど。
さっそくひよりさんがきのこを発見した。
落ち葉の陰からひょこっと、マフィンのような色をした笠が覗いている。
「……あれはオオワライタケだね。食べると興奮したり幻覚を見たりするって言われているよ」
「ふむふむ……興味深くはありますが、致命傷を与えることは出来なさそうですね」
(漏れてる漏れてる!)
周囲に誰もいないせいか、ひよりさんの独白のキレも鋭い。
「あっ、それならアレは?」
ひよりさんが指さしたのは、真っ赤なサンゴのような形をした奇妙なきのこ。
「!? それはカエンタケ! 触っちゃダメ!」
やたらに毒キノコを発見しまくるひよりさんをフォローしながら、緊張感のあるきのこ狩りは続くのだった。
*** ***
「ふぅ、難しいですね」
1時間ほどきのこ狩りに勤しんだ後、僕たちは見晴らしの良い斜面に座ってお弁当を食べていた。
斜面の先には小川が流れ、涼やかなせせらぎの音がここまで聞こえてくる。
「……こういうこと、結構していたの?」
リラックスした彼女の雰囲気に、過去のことを聞き出せるかもしれない。
そう思った僕は、さりげなく話を振る。
「あはは、本格的に始めたのは1年ほど前なんですけど……まだ慣れなくて」
苦笑するひよりさん。
確かに、彼女が身に着けている装備は本格的だが、斜面の歩き方とかきのこの採り方とか、ぎこちなさが感じられる。
「わたしの両親は……医学系の研究者だったんです。自然由来の素材を探しによくフィールドワークに出ていて……わたしは虫や変な生き物が苦手で、いつもお留守番していたんですけど」
「なるほど」
彼女の両親は野外系医療クラスタだったのか。どこか自分の両親と似ていて、思わず口元が緩む。
僕も初めて野山に連れ出された時は、虫が怖くてずっと両親の後ろに隠れてたっけ。
「はぁ、上手くいかないなぁ。ネットで調べるだけじゃ限界だし、自分で採りに行ってもよく分からないし……電気ウナギの時みたいに『お友達』に頼むとお金かかっちゃうし」
ぽふん
空を見上げながら、バックパックに寝ころぶひよりさん。
これは恐らく彼女の独白。というかその『お友達』についてもっと詳しく……絶対カタギじゃない気がする。
(むむむ)
このままひよりさんに『食材調達』をやらせていると、良くない事になりそうだ。なら。
「……じつは、そこの川に珍しいカエルがいるらしいんだ」
「えっ?」
「肉は食用になるんだけど、内臓の一部に毒があって……」
「!! ぜひ捕まえて帰りましょう!」
僕の言葉に、跳ね起きるひよりさん。
そう、ひよりさんの食材採取を僕が手伝えばいい。
(そこまで毒性の強い種ではないし、僕の胃なら耐えきれるはず)
僕の安全の為にも、こっちの方が都合がいい。
……毎回食材調達デートが出来るじゃん。なんて下心はないよ、信じて?
「えへへ、涼くんのお陰で毒料理のレパートリーが増えちゃうな♪」
(うん、だから漏れてるね)
「よしっ、そうと決まったら!」
ばばっ
気合を入れ、羽織っていたジャージを脱ぐひよりさん。
下に着ていたのは、薄手で半袖の白いシャツ。
「わわっ、ひよりさん!? その恰好じゃ……」
水に濡れたら透けてしまう。
ただでさえひよりさんは、かなりスタイルがいいのだ。
形の良いふくらみが、薄手のシャツを押し上げている。
「大丈夫ですっ! ちゃんと着替えはありますのでっ!」
「……ひよりさんはここで待ってて。僕が獲ってくるから」
手伝うというひよりさんをなだめ、小川に向かう。
「ふぅ」
素直でどこか危なっかしい彼女を支えなければ。
僕は改めてそう思うのだった。