『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「邪魔するぜぇ……営業再開したんだな」
店の入口いっぱいに男達が立ち塞がり、中を覗き込んでいる。
「はっ……! 貴方達は……父さん!! 母さん!!」
先程の店員が『父さん』『母さん』と呼ぶ。どうやら親子でこの店を切り盛りしているようだ。
「……何しに来た!」
店の奥から『父さん』と呼ばれた、店主らしき中年男性が出てくる。
「いやぁ~この通りを歩いてたらこの前まで閉まってたのに営業してたもんだから……挨拶がてら寄っただけだぜ?」
男達の中の1人が無遠慮に店内に入る。入口前にいる男の傍にはシルバーウルフが唸り声を上げていた。
「商売の邪魔をするなら出て行ってくれ!」
店の前の通りでは通行人や、先程ヒソヒソと話していた別の店の人達が騒めき始める。
「やっぱり来たか……」
「何あれ?」
「シルバーウルフがいるぞ!」
店が注目され、食事中のヴェルセリア達は気が気じゃない。
「……落ち着いて食事もできないわね」
そう言うと、ヴェルセリアは立ち上がった。
店内ではリーダー格の男だろうか、店主と言い合いになっている。
「アンタらが邪魔ばかりするから営業停止になったんだ!」
「はぁ? 俺らは何もしてないぜ?」
「嘘を吐くな! 俺の料理が不味いと噂を流したり、食材が手に入らなくなったり……この前の大ネズミの大量発生だって不可解な事が多すぎるんだ!」
「証拠は? 無いよなぁ? あまり言いがかりをつけるようなら……またウチのウルフが暴れちまうぜ?」
リーダー格の男がチラリとシルバーウルフを見る。しかし、先程まで唸り声を上げていたシルバーウルフが静かだ。様子がおかしいと振り返る。
「ん? ……あぁ!?」
「よしよし、いい子ね」
「クゥ~ン」
シルバーウルフは撫でまわされ、腹を見せて転がりとても気持ちよさそうにしている。
「だ、誰だ! 何をしているんだ!」
「只の客よ。機嫌が悪そうにしているワンちゃんを大人しくさせていただけよ」
ヴェルセリアは楽しそうにシルバーウルフを撫でている。
「ワンちゃん!? いや、これ狼なんだが……」
「私のワンちゃんより小さいわ。子犬ね」
更に撫で回し、シルバーウルフは幸せそうな顔をしてクンクン鳴いている。
「おいおい……ねぇちゃん、今は取り込み中なんだよ。邪魔しないでくれるか?」
リーダー格の男が店から出て、ヴェルセリアの前に来て悪態をつける。
「食事の邪魔をしてきたのはそっちじゃないかしら? 私達は朝ご飯を静かに頂いていたのよ」
「あぁ? こ〜んな不味〜い店の飯をよく食えたもんだな!」
リーダー格の男はわざとらしく不味いを強調し、取り巻きの2人の男は笑い声を上げる。それを聞いたヴェルセリアは片眉を上げ、声のトーンが一段階下がる。
「は? 貴方、舌が腐ってるのかしら? 私、こんなに美味しいご飯に出会えたのは久しぶりよ」
そう言うとヴェルセリアは立ち上がり、男を睨みつける。
「お? エルフの女か。ここらじゃ珍しいな……『
リーダー格の男は、ヴェルセリアの顔を覗き込むようにして別の店を勧めてくる。
「『
男に勧められたが、既に食べに行った事のある店な上にハッキリは言わないが不味い店だったとヴェルセリアは暗に言う。
「はぁ!? 舌が腐ってるのはどっちだぁ!? 生意気な女だな! 少しは……恐い目見ないとわからねぇか!?」
「……? なぜそこまで怒るのかしら?」
「うるせぇ!」
突然怒り出した男はヴェルセリアに掴み掛かろうとするが、その動きを察したヴェルセリアはふわりと避けた。
「あぁ!?」
あっさり避けられた事が予想外だった男は大袈裟な程驚いていた。
「少しは落ち着きなさいよ。別に貴方を貶すような話はしてないわ。勧められたお店には一度行った事があって、口に合わなかっただけの話よ?」
「ごちゃごちゃと……うるせぇ!」
再び掴み掛かろうとするが、大振りな動きで隙だらけだったため、ヴェルセリアは避けた上で足を払う。
「うわぁッ!!」
男はそのままよろめき、先程ヴェルセリアが座っていたテラス席に突っ込んでしまった。派手な音をたて、椅子とテーブルがひっくり返る。
「あぁ! 私の朝ごはんが……」
そしてそのテーブルの足元でご飯を食べていたザークに男が倒れ込む。
「ギャンッ! 痛ぇな……」
「……しゃ、喋る狼……?」
あまりにも大きな狼が喋った上に唸り声を上げているため、ザークの上に乗る形で男が固まっている。
「退けよ、邪魔だ!」
「う、うわぁ!!」
男は四つん這いになってザークから降りたが、その先にはヴェルセリアが不機嫌な顔で腕を組んで立っている。
「私の朝ごはんが台無しだわ……どうしてくれるのよ」
食事を邪魔された上にメチャクチャにされ、ここ最近の中で一番機嫌が悪いヴェルセリア。その様子を見ていたザークも立ち上がり、男を挟む形でにじり寄る。
「あ……くっ! お、覚えてろよ! 行くぞ!! お前ら!」
ヴェルセリアとザークに気圧され、リーダー格の男が足早に逃げて行った。
「あ、兄貴! 待ってくださいよ!」
捨て台詞を吐いたリーダー格の男を追って、残った男達も走り去って行った。連れられていたシルバーウルフはヴェルセリアの方を向いたまま名残惜しそうに、足を引きずりながら連れて行かれるのだった。
「……『覚えてろよ』ですって。リアルで聞く機会があるなんて……ある意味感動しちゃうわね」
クスクス笑うヴェルセリアだが、笑っている場合ではないと気が付く。朝ごはんが台無しにされたのだ。
「あー……私の朝ご飯……あんな奴らのせいでグチャグチャだわ……」
ガックリと肩を落としていた時、ザークがヴェルセリアの手に頭を擦り付けてきた。
「……何をやっているの?」
「……別に」
先程シルバーウルフを撫でていた手に臭いが付いたのを上書きするように、入念に擦り付けている。
(ヴェルから俺以外の臭いがするのはなんとなく気に入らねぇな)
「もう……わかったから……」
何度も擦り付けてくるのを制していると、店の中から店主一家が出てくる。
「大丈夫でしたか!? お怪我は?」
「私は大丈夫だけど、朝ご飯が……」
振り向いたヴェルセリアは少し泣きそうな顔をしていた。
「あ……作り直しますよ! 中にどうぞ! そちらの狼さんも!」
笑顔で店の中に招く店主は口髭を生やした男性だ。
「でも、お店の中にワンちゃんを入れたら迷惑じゃ……」
「他にお客さんいませんし……アイツらを追い払ってくれて助かりましたから!」
若い女性店員が目をキラキラさせながら店主と共に店中へと促す。
「外の片付けは私がやりますから、どうぞ中へ!」
店主の妻がヴェルセリアの両肩を背中側から押し、店主一家は満面の笑みでヴェルセリアとザークを店の中へ招き入れた。
***
ヴェルセリアは店の中に通され、カウンター席に座る。カウンターからは店主が新しく『木漏れ日の恵みセット』と『
「先程はありがとうございました……」
店主の娘が深々と頭を下げている。
「私は何もしてないわ。ただ、さっきのお兄さんが勝手に倒れただけよ」
「よく言うぜ……」
ザークは鼻で笑う。ヴェルセリアはしっかり足を引っ掛けたのだが、知らぬふりをする。あくまでもこちらは被害者だと暗に言うのだった。
「! 狼さんが喋った……っ!」
「犬、よ。魔術でお喋りができるようにしているのよ」
「そ、そうなんですか? と、言う事はお客さんは魔術師さんなのですか?」
「えぇ、私の名前はヴェルセリア、
ザークは舌舐めずりをして店主の娘に返事代わりに鼻息を漏らす。
「あ……私、ニナ・ラングレンと申します。外の片付けをしているのは母のエマです」
「おれはニナの父、マルドだ。さっきはありがとう」
鍋を振りながらヴェルセリアを笑顔で見る。
「お食事中だったのに……本当に申し訳ございません」
ニナはトレイを胸に抱え、頭を下げる。
「謝る必要は無いわ、悪いのはさっきのお兄さんよ」
「でも……」
「それより聞いてもいいかしら? ……さっきのあれは……営業妨害?」
「はっ……はい……以前から色々ありまして……」
ニナの様子から、何度も営業妨害をされているのだろう。かなり疲弊している。
「なぜ衛兵を呼ばないの?」
「衛兵を呼んでも、証拠が……ないからと、取り合ってくれないの……です」
諦めからか、肩を落とし怒りと悲しみが混ざった表情をする。
「証拠、ねぇ……えーっと、悪い噂に食材ルートの妨害、ネズミの大量発生……調べたら証拠の1つや2つ、簡単に出て来そうなものばかりね。仕事をする気がないのかしら」
「……この街はガストンの言いなりですから……」
「ガストン? 誰よそれ」
「ガストンは『
『
「……『
「そうです……納税額が多いので、多少のことは領主も見て見ぬふりをして……だから衛兵に被害を訴えた所で揉み消されるのが関の山なんです」
領主が治める地域の場合、衛兵の管理は領主が行う。そのため、領主に取り入られている者なら、庇護下に置かれ優遇されるのはよく聞く話だ。
「そう言えば、さっきのお兄さん、やたら『
「さっきの男達はガストンの息がかかっている連中でして……アイツらが嫌がらせをやってるに違いない!」
マルドは鉄板に強火で肉を焼いていく。まるで怒りの炎で焼いているようだ。
「ふぅん、なるほどね。でもどうしてこんな事に?」
「元々は父さんを『
「『禁書』、ですって!?」
『禁書』の言葉に思わず立ち上がるヴェルセリア。
「我が家に代々伝わる門外不出の……それはあらゆる食材を生かす方法が書かれた物なんだ」
立ち上がったヴェルセリアに向け、どんな『禁書』なのか軽く説明をするマルド。
「あー……ヴェル、話の流れ的に多分、それは探してるやつじゃないと思うぞ」
小声でザークが指摘をする。『禁書』と言われ、一瞬ヴェルセリアの瞳が輝いたのを見たがどう考えても探している物ではない。
「……わかっているわよ。でもまぁ……ここのお料理、とても美味しかったし?」
ヴェルセリアは小さくため息を吐き、椅子に座り直す。わかっているが、何か理由を探し考えを巡らせているようだ。
「……ヴェル、まさか……助けてやろうとか考えてるのか? 面倒な事は俺嫌だからな」
ヴェルセリアは暫く考え、パッと表情が明るくなる。
「……ねぇニナ、ここは宿屋もやっているのかしら?」
「はい! 宿もやっています! 狼さんが一緒なら、魔獣使いさん向けに全てが揃った離れがありますよ」
「それじゃ、ザークも一緒で大丈夫ね……今夜の宿は決まったわ。ニナ、部屋をお願いするわ」
「あ……ありがとうございます! 宿の方は母が切り盛りをしていますので……母さーん! お客様よ! 宿泊客!」
ニナは慌てて外を片付けている母を呼びに行ってしまった。
「ヴェル?」
「このまま嫌がらせを受けてお店が潰れたら困るわよね。ご飯と宿、両方無くなってしまったら、あぁ大変だわ」
棒読みのセリフのような言葉を紡ぐヴェルセリア。ザークにわざとらしい
「おいおい……まさか……」
「何とかしてやろうじゃない……! ……その前に」
「はい、お待たせ! 召し上がってくれ!」
作り直してくれた朝食のセットが目の前に出されたのだった。
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