『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
そして現在――
ヴェルセリアはマルドの店に来た男達を待っていた。聞けばこの酒場に毎晩のように来ているらしい。
(早く来ないかしら……さっきから関係ない人から声をかけられて断り疲れて来ちゃったわ)
先程からナンパをしてくる輩が多く、片っ端から断るのに
「よう、マスター! いつものだ」
「っ!」
ヴェルセリアの隣に無遠慮に座ったのは、今朝のリーダー格の男だ。今日は1人のようだ。
「(い、いつもの!? 言葉一つひとつがセリフみたいで……ダメ……笑っちゃう)」
笑いを堪えるため口元を押さえ、我慢をするヴェルセリア。だが、その姿を目にした男はヴェルセリアを舐めるように見る。
「(まさかバレた?)……何かご用かしら?」
必死に笑いを堪え、笑い涙が目尻に溜まり少し潤んでいる。
「……姐ちゃん、綺麗だな」
「え……(バレた訳じゃないのね)、ありがとう……」
余裕のある笑みを浮かべ、様子を見る。しかし、男の視線はヴェルセリアを捉えたまま離さない。
「あの……何か?」
「い、いや……その、お1人ですか?」
先程と口調が明らかに違う。朝の一件からも、粗暴な男に見えるが今は格好つけているようだ。
「えぇ……連れがいたのですが、宿で寝てしまったので1人で飲みに来ましたの」
「それはまた……こんな美しい人を放っておくなんて、酷い人ですね」
明らかに格好つけている。笑い出してしまいそうだが、ここは我慢して男の茶番に付き合う。
「美しいだなんて……そんな」
「もしよろしければ、俺とお話しをしませんか?」
よくナンパをしている姿を目撃されていたので、女好きだとは思っていたがこうもあっさり引っかかってくれて好都合だった。
「ふふ……お話し相手になってくださるの?」
妖艶な笑みを浮かべると、男はまだ酒を呑んでいないのに頬を赤くする。
「お、俺で良ければ! 俺はダックス、ダックス・ローガンだ!」
「私はシャロン、シャロン・ヴィンセントよ」
偽名を名乗るそのタイミングで店主が先程頼んだ酒を差し出すと、ダックスは一気に煽った。
「あら、お酒はお強いの? ……素敵だわ」
もう一度笑みを向けると、ダックスはまた声高に酒を注文をした。
「マスター! 同じのを!!」
ヴェルセリアが微笑めば微笑むほどに、酒を煽るダックスは酔うのに時間はかからなかった。ヴェルセリアもダックスに合わせそれなりに呑んでいるのだが、全く酔った気配はない。
格好つけていたセリフが段々と砕け、酔いが回ってきた頃合いを見て本題に入る。
「……今回この街に立ち寄ったのはお酒を呑むのもあったのだけれど、『
「『
「そう、街の外では評判が良かったのに、街の中に入ったら悪い話しか聞かないの……どうしてかしら?」
「そりゃ〜……色々あってだな」
「色々? そのお話、聞かせてくださらない?」
潤んだ瞳でお願いするように上目遣いをすると、ダックスは得意げな顔をする。その顔を見逃さなかったヴェルセリアは胸元に飾られた宝石のついたブローチに軽く触れた。
「……あの店、今潰そうとしてるんだ」
「え……? 潰そうと? 一体誰が……」
「ふん、ガストンに頼まれたんだ……マルドを引き抜けないならあんな店潰しちまえって。だから、俺やその他のゴロツキに金バラまいて悪評を……」
「ガストンってどなた?」
「『
「マルド……さん、のお料理ってそんなに素晴らしいのかしら?」
「あぁ……俺ぁ、あんな噂を流したけど、本当は『
頭を抱え項垂れるダックス。元々マルドの店に何度も出入りしていたようだ。
「ガストンの金払いの良さに負けちまったんだ……」
(何この人、お金に困ってなかったら悪い人じゃなかったって事かしら?)
あまりのギャップに同情したくなってしまったヴェルセリア。だが、ここで証拠を集めなければマルドを救う事ができない。
「あんな噂って……具体的になんて言ったの?」
「ん……? えーっと……あの店の食いもんは家畜の餌以下だーとか、集団で腹壊した奴がいたーとか」
懐から、悪評が書かれたメモを取り出し見せてくれた。
「これ、ガストンからこの内容を流せって言われたんだ」
「まぁ、ひどい……」
少し大袈裟にリアクションを返す。後悔を口にしている今のダックスなら、同調すればもっと情報が引き出せそうだからだ。
「だろ……? それに……ガストンのお抱え魔術師先生に頼んで、大ネズミまで大量召喚されちまって営業停止処分を喰らったんだ……」
「そうでしたの……だからお宿の予約ができなかったのね」
心の中で拳を振り上げたヴェルセリア。まさか大ネズミの情報まで聞けるとは思わなかったからだ。
「はー……金さえあったらこんな仕事しなかったのになぁ……」
カウンターに頭を突っ伏し、ダックスは少し反省をした様子だった。それを見計らい、ヴェルセリアはそっとダックスの肩に触れる。
「……そうね、貴方は真っ当な仕事をした方がいいわ」
「シャロンさん……」
顔を上げたダックスに、ヴェルセリアは小さな声で詠唱を紡ぐ。肩に触れている指に嵌められた指輪が淡く光った。ワンドもスタッフも持てない今は、小さな魔石が付いた魔力の指輪を媒介にして魔術を使う。
「今は夜、
「は……ぐー……」
睡眠魔術をかけ、ダックスはそのままカウンターに突っ伏したまま眠りに落ちた。
「魔力は絞ったから……あと、これは頂いていくわ」
先程見せてきた悪評が書かれたメモを懐から取り出す。
「1つ目の証拠に大ネズミの件も証言取れたわね。あとはお抱え魔術師を探すだけだわ」
胸元の宝石のついたブローチに触れる。これは魔道具の『
「……これでマルドの店は助かりますか?」
酒場の店主が小声でヴェルセリアに伝える。
「えぇ、協力してくれてありがとう。お酒、美味しかったわ」
実は店主と客の一部は協力者だった。店主はダックスに出す酒をいつもより強い物に差し替え、客は席を埋め必然的にカウンターに座るように仕向けたりナンパ男を引きはがす事をやってくれたのだ。
皆が協力して、今回の証言を取る事ができた。やはり同じ街にある店同士、気に掛けていたようだ。
ヴェルセリアは協力者に会釈をして酒場を後にする。
「慣れない事をすると疲れるわね……」
店の外に出て暫く歩くとザークが建物の上から降ってきた。
「ヴェル」
「え? ザーク? どうしたの?」
「……迎えに来た。あまりに遅いからよ……」
ヴェルセリアの周りをぐるぐる回りながら、舌なめずりをする。
「あら、協力はしないんじゃなかったの?」
「協力じゃない、ただヴェルを迎えに来ただけだ」
「そう……ふふ、ありがとう」
手を伸ばしザークの顎に触れたが、見た目がいつものヴェルセリアではないため少し戸惑う。それを察したヴェルセリアは幻術を解除する。
「光と大気の精霊よ、我に纏いし朧げな幻を、あるべき
詠唱が紡がれると指輪が淡く光り、いつもの金の髪にエメラルドの瞳のヴェルセリアに戻った。
「……ヴェルに黒髪は似合わねぇよ」
「そう? いつもと違う私だっていいじゃない」
「いや……なんか……」
小声でごにょごにょ言っていたのが聞こえなかったため、ヴェルセリアはザークの顔を覗き込む。
「ん? なぁに?」
顔を覗き込んできたヴェルセリアに、ザークは目を逸らす。
「なんでもねぇよ」
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