『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第15話【ムニュ・ド・エルヴェン】

「こちらが今夜のディナーを調理するシェフですわ」

 

「……セレブリアン・リーフと申します」

 

 ガストンの前に紹介したのは幻術でエルフの姿にしたマルドだ。口髭を剃らせた上で髪色と耳、人相も変化させたので誰もマルドだと気付かない。

 

「ガストン・モルガンだ。ほう……エルフのシェフですか、エルフの舌を唸らせていた腕をぜひ披露してもらいたいものだ」

 

 ガストンは変装したマルドに手を差し出し、握手を交わした。

 

「今夜は希少食材を使ったコース料理を頂けると聞いて楽しみにしていたよ」

 

「こちらはバサラド・グレイフォックスさん、お望み通りうちのVIP客だよ。VIP客の中でも、一番の美食家ですぞ」

 

「モルガン氏、それは(いささ)か言い過ぎですよ」

 

 バサラドと紹介された男は、『パープル・バレル』の商会長だ。ヴェルセリアとマルドに握手を交わしながら、照れたようにガストンに投げかける。

 

「またまたご謙遜を」

 

 ヴェルセリアは招かれた客を見て胸を撫で下ろす。

 

(予定通りね)

 

 シモンからの情報通りであった。ある程度のVIP客は把握していたが、その中でもバサラド・グレイフォックスは『パープル・バレル』の領主オーギュスト・ヴァンダルの友人だ。領主に近い人物が来たのなら、嫌がらせの証拠を見せて口添えしてもらえる可能性がある。

 

「さて、どんなコース料理が出てくるのか、楽しみですな」

 

「ぜひご期待ください」

 

 ヴェルセリアは2人に上品な笑みを向け、マルドに目配(めくば)せをする。

 

「で、ではお食事の最終準備をしてまいりますので、厨房をお借りします」

 

「あぁ、好きに使ってくれ!」

 

 期待の眼差しをマルドに向けるガストン、この後どんな事が起こるのか予想すらしていない。

 

***

 

 暫くして厨房とホールを繋ぐ扉が開かれる。

 

「お待たせ致しました。題して『ムニュ・ド・エルヴェン 〜エルフの大陸からの恵み〜』でございます」

 

 ヴェルセリアが変装をしたヒューとロイを引き連れ、食事を運んできた。

 

「アミューズから、翡翠の甲殻(アヴァロン・ブロッコリー)のガスパチョでございます」

 

 料理名をヴェルセリアが告げ、ヒューとロイが給仕する。ショットグラスに入れられた冷製スープを静かにガストンとバサラドの前に置いた。

 

「ほう……翡翠の甲殻(アヴァロン・ブロッコリー)が荒く残り、見た目がキラキラとしているな」

 

「それに敢えて食感も残している。一口なのが惜しいですね」

 

 一口前菜の評価は高そうだ。直ぐに次の料理を運ぶ準備をする。

 

「オードブル、『雲海の旅人(スカイ・アンチョビ)のブルスケッタ 〜エルフの香草を纏わせて〜』でございます」

 

 『雲海の旅人(スカイ・アンチョビ)』と『妖精の蕃茄(フェアリー・トマト)』を、焼いたパンに乗せたブルスケッタが運ばれてきた。凝縮された塩気とハーブの香りが鼻から抜けていく。

 

「うーん、この『雲海の旅人(スカイ・アンチョビ)』の塩気がいいですな!」

 

「『妖精の蕃茄(フェアリー・トマト)』が甘く、塩気と合って美味しいですね。そしてパンも美味しい」

 

 ホールと厨房を繋ぐ扉の向こうで、ブルスケッタに使われたパンを褒められブルーノが握り拳を突き上げ喜んでいた。

 

「 スープ、『精霊のため息(アルヴ・ルート)の黄金ポタージュ』でございます」

 

 土壌の精霊の力が宿った人参の『精霊のため息(アルヴ・ルート)』を、じっくりと時間をかけてペーストにした濃厚なポタージュ。一口すするごとに、大地の温かみとバターのような深いコクが身体に染み渡る一品だ。

 

「優しい味だ……『精霊のため息(アルヴ・ルート)』? の持つ味なのか?」

 

「温かみがありコクがありますね」

 

 2人はここまでの料理を概ね高評価している。次からはメイン料理に入るので、ヴェルセリア、ヒュー、ロイは少し緊張する。

 

「ポアソン、『銀嶺の洗礼(レイピア・サーモン)』のポアレ『翡翠の甲殻(アヴァロン・ブロッコリー)』のソースでございます」

 

 バター香る『銀嶺の洗礼(レイピア・サーモン)』のポアレ、ブロッコリーとパセリの色どりのよいソースと共に目でも楽しめる一品だ。

 

「これは……脂まで美味い!」

 

「『翡翠の甲殻(アヴァロン・ブロッコリー)』の食感も残っていて合いますね」

 

 バサラドは美食家と言われるだけあり、細かな事まで気付く。

 

「ソルベ、『月梢の雫(シルヴァ・ラディッシュ)』の冷涼ソルベでございます」

 

 メインのお肉料理を前に、ほのかに発光する白い根菜のすり下ろしを使った冷たいソルベで口を清める。ピリッとした高貴な辛みと清涼感が、これまでの魚の脂をさっぱりと洗い流していく。

 

「先程のポアレの脂がサッパリするな」

 

「お口直しにピッタリですね」

 

 メインディッシュの前に2人の口直しもできた。いよいよ、勝負の時だ。

 

「ヴィアンド、熟成『木漏れ日の影(アンブラ・ヴェイル)』のロースト 『千年の誓い(エターナル・エルダ)』の芳醇なキャラメリゼソースでございます」

 

 本日のメインディッシュ。じっくりと赤身の旨味を閉じ込めた『木漏れ日の影(アンブラ・ヴェイル)』に、『至高の林檎(エターナル・エルダ)』を贅沢に煮詰めた黄金色のソースを合わせた。圧倒的な肉の力強さを、林檎の神聖な甘みと酸味が包み込む、まさに宮廷クラスの極上の一皿だ。

 

「おぉ! これこそメインディッシュと呼ぶに相応しい!」

 

「えぇ、これは肉が持つ本来の力強さが引き出された逸品! ソースがまた甘苦くよく合いますね」

 

 2人の反応は上々だった。上機嫌で食べ進めているのを見て、ヴェルセリアは胸を撫で下ろす。

 

「デセール、『千年の誓い(エターナル・エルダ)』の薄焼きタルトと、ハニーミルクアイスでございます」

 

 エターナル・エルダの果肉を極薄にスライスして美しく重ねた焼きタルト。オーブンで熱を入れられた林檎はさらに香りを放ち、濃厚なハニーミルクアイスと共に、身体の内側から若々しさが満ちてくるような極上の余韻を残してコースを締めくくる。

 

「ほう……これはまた上品なタルトですな」

 

「先程の『木漏れ日の影(アンブラ・ヴェイル)』に使われたソースとはまた違い、今度は香り高く舌と鼻で楽しめますね。アイスとの相性も良い」

 

 全ての食事を出し終え、ヴェルセリアの緊張が少しだけ解れる。だが、ここからが本番だ。

 

「食後はコーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」

 

「私はコーヒーだ。グレイフォックス氏はどうされます?」

 

「それでは、私は紅茶で」

 

「かしこまりました」

 

 厨房に戻って来ると、ヒューとロイはグッタリしていた。

 

「き、緊張した……」

 

「こんなに緊張したのは店をオープンさせた時以来だ……」

 

「お疲れ様、あと少しよ」

 

 食後の飲み物を取りに来たヴェルセリアがヒューとロイを労い、颯爽と通りすぎる。

 

「ヴェルセリアさんってスゲェな。なんで給仕の事とかこんなに詳しいんだ?」

 

「だな、爵位無しとは言え貴族相手に堂々としてたしな」

 

『……一体何者なんだろう……』

 

 ヒューとロイが声を揃え、ヴェルセリアが給仕を指導をしてくれていた時の事を思い出していた。




次回から毎日1話ずつ(7時頃)の更新になります。

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