『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

2 / 7
第2話【地下書庫に封印されしもの】

「その情報、確かなの?」

 

「え? ……噂程度だから確か、と言われると自信はないけど……」

 

 ここは『マリヌス』にある冒険者ギルド本部『星極の羅針盤(アストラル・コンパス)』。ヴェルセリアは若い女性の魔術師(スペルキャスター)達が話していた内容に反応した。

 

「それは、どんな魔術書なの?」

 

 会話をしていた魔術師(スペルキャスター)に詰め寄り話を聞く。

 

「え……っと、聞いた話だからね? 魔術書みたいな古い本に凄い結界が張られていたって。触ろうとするだけで怪我をするって噂よ」

 

「それは、何処にあるの?」

 

 魔術師(スペルキャスター)の両肩を掴み、更に詰め寄るヴェルセリア。圧が凄い。

 

「あ……っと、確かギルドの書庫に。ただ、その本があるのは地下で、ランクA以上じゃないと入れない所なの。私達みたいな低ランクじゃ入れないから」

 

「ギルドの地下書庫……ありがとう」

 

 ヴェルセリアは両肩を掴んでいた手で優しくポンポンと肩を叩き、にっこり笑って礼を言いその場を立ち去ろうとする。

 

「あ……地下書庫はランクA以上じゃないと入れない場所よ?」

 

 そう言われ、振り返る。

 

「ご忠告ありがとう。私、ランクAだから入れるわ」

 

***

 

 禁書探しを始めて早5年。

 

 東方樹海大陸『シルヴァリア』を出たヴェルセリアは海を渡り、中央大陸『ラクリア』に移動した。そして現在は南部に位置する港湾都市『マリヌス』にいる。

 

 ここは四方の大陸をつなぐ巨大な港街で、多種族が入り混じり、異国の珍しい品々を扱う市場や冒険者ギルドの本部がある。街から街へと情報を集める日々、この5年で『外』の世界の生き方を学んだ。

 

「ギルドの地下書庫……盲点だったわ」

 

 中央大陸(ラクリア)に渡り初めて遺跡に『禁書』と思われるものがあると聞き入ろうとするが、そこは冒険者ギルドで管理された場所であった。冒険者ギルドに登録し、ランクをBまで上げなければ遺跡に入れないと言われ、渋々ギルドに所属した。

 

 低ランクの依頼をコツコツと熟す……なんて普通の人間がやる事を、ヴェルセリアは精霊や使役魔術を使い効率よく終わらせていた。

 

「ギルドに所属するなんてただ面倒な事だと思ってたけど、無駄じゃなかったわね」

 

 気付けば、ギルドランクの上から2番目のランクAまで上げたのは今から4年前、今ではギルド関連施設にストレス無く入れるようになり『禁書』探しを続けていた。

 

 そんな中、『誰も触れる事すら出来ない魔術書がある』と聞き、目の色を変えたのだ。

 

 触れる事ができないとなると、それ程までに見られてはいけない事が書かれてる――まさに『禁書』と呼べる物ではないか。

 

「やっとそれっぽいのを見つけたわ!」

 

 足早にその『禁書』と思われる本が所蔵されている書庫へ、ヴェルセリアは向かうのだった。

 

***

 

 埃の舞う地下書庫――

 

 薄暗く、灯りもまばらどころかほぼ無く、人を寄せ付けない雰囲気で照明魔術を使わないと見えないほどだ。

 

「暗い……上の階と随分違うわね」

 

 ここはギルドで管理されている書庫で、ギルドに所属している冒険者であれば出入りが自由であった。先程ギルドにいた魔術師(スペルキャスター)が言っていた通り、地下書庫に関してはランクA以上でなければ入ることが許されない。

 

「埃っぽいわ……ここ、本当に人の出入りがないのね」

 

 上階こそ人の出入りはあるが、地下は長い間誰も足を踏み入れていない様で静まり返っていた。それもそのはず、この地下書庫に所蔵されている本は閲覧回数が少なく、上階の本棚に収まりきれなくなった本がほとんどなのだ。

 

 だが掘り出し物もあり、積み上げられた本の中にはこの世に10冊とない貴重な物もあった。そのため、ランクA以上の冒険者のみ立ち入りを許可されている。

 

「へぇ……『禁書』だけじゃなく、面白そうな本もあるじゃない」

 

 ヴェルセリアは柔らかな灯りを連れながら、乱雑に本棚に収まっている本のラベルを指でなぞり、書庫の奥へと進んでいく。

 

 そして最深部、その場所だけは異質だった。鈍く光る石造りの台座の上に、その魔術書は浮遊していた。幾重にも絡みつく鎖のような魔力の奔流が、近付く者を拒むように空間を歪ませている。

 

「あからさまねぇ……」

 

 その鈍く光る本の台座には、注意書きのメモがお札のようにいくつも貼られていた。

 

 触れてはいけない

 怪我をしたくなければ触れるな

 ギルドランクS以上推奨――など。

 

「ここまで書くなんて……ランクS以上って、そんなに触れてほしくないのかしら」

 

 ヴェルセリアはギルドランクこそAだが、ランクSへの昇級試験を『面倒』の一言でやりすごしていた。こと、魔術に関する事なら自分はランクS以上だと勝手に思っている。

 

「まぁ、生意気な本ね。そこまで書かれちゃうなら……やってしまおうかしらね」

 

 『禁書』と思われる本に手を伸ばしてみると、鈍かった光が瞬き空気中でパチリと音を立てて弾けた。これが触れたら怪我をする理由だろう。

 

「ふぅん……防御結界みたいなものかしら。ならば……」

 

 右手を差し出したが、少し考える。

 

「ここ、狭いからスタッフを出すのは厳しいかしらね」

 

 愛用のスタッフは背丈を超える2M(メルト)ほどの長さがあるため、屋外でなければ使い辛い。仕方なく腰に下げてある魔術用のワンドを抜く。

 

 指揮者のようにワンドを振った。

 

 シャンッ……

 

 ワンドに装飾された鈴が涼やかに響く。普段は鳴らない装飾された鈴は、魔力を込められた時に初めて鳴り響く。

 

「精霊達よ 我が声を聞き此処へ集え」

 

 紡がれる短い言葉に呼応するように、ヴェルセリアの周りには光の粒が湧き立つように取り囲む。エメラルドの瞳が魔力を帯び輝く。

 

 ヴェルセリアはその歪みの前で静かに、感情を排した声でただ『術式』として完成された言霊を紡ぎ始める。

 

「久遠なる(ことわり)を刻みし精霊よ、我が求めに応えよ。(それ)は知恵を拒む壁か、真理を隠す(とばり)か。古き盟約の鎖は今、我が意志の焔によって断たれ、閉ざされし知恵の檻は、あるべき姿へと還らん」

 

 最後の一節が静寂に溶け込むと同時に、書庫の空気が震えた。その直後、空間を打つような鋭く乾いた音が地下書庫に響き渡る。

 

 『禁書』と思われる本に重なり合っていた幾重もの防御結界は、サラサラと砂が崩れるように空気中に溶けていった。浮いていた魔術書はゆっくりと台座に降り、静かにヴェルセリアを見ているようだ。

 

「簡単ね、こんなものでランクS以上だなんて……鼻で笑うわ」

 

 魔術レベルの低さで『外』の世界に何度落胆したことか。新たな発見が乏しいのは都にいた時とあまり変わらず、この5年で得られた魔術の知識はほぼない。

 

「さて、早速『禁書』とやらを読ませてもらいましょうか」

 

 革でできた表紙の本を手に取り、巻かれたブックバンドを外し開いた瞬間――

 

 キィィイインッ

 

 耳鳴りのような甲高い音と共に本から風が吹き荒れ、何か(・・)が出てこようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。