『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「その情報、確かなの?」
「え? ……噂程度だから確か、と言われると自信はないけど……」
ここは『マリヌス』にある冒険者ギルド本部『
「それは、どんな魔術書なの?」
会話をしていた
「え……っと、聞いた話だからね? 魔術書みたいな古い本に凄い結界が張られていたって。触ろうとするだけで怪我をするって噂よ」
「それは、何処にあるの?」
「あ……っと、確かギルドの書庫に。ただ、その本があるのは地下で、ランクA以上じゃないと入れない所なの。私達みたいな低ランクじゃ入れないから」
「ギルドの地下書庫……ありがとう」
ヴェルセリアは両肩を掴んでいた手で優しくポンポンと肩を叩き、にっこり笑って礼を言いその場を立ち去ろうとする。
「あ……地下書庫はランクA以上じゃないと入れない場所よ?」
そう言われ、振り返る。
「ご忠告ありがとう。私、ランクAだから入れるわ」
***
禁書探しを始めて早5年。
東方樹海大陸『シルヴァリア』を出たヴェルセリアは海を渡り、中央大陸『ラクリア』に移動した。そして現在は南部に位置する港湾都市『マリヌス』にいる。
ここは四方の大陸をつなぐ巨大な港街で、多種族が入り混じり、異国の珍しい品々を扱う市場や冒険者ギルドの本部がある。街から街へと情報を集める日々、この5年で『外』の世界の生き方を学んだ。
「ギルドの地下書庫……盲点だったわ」
低ランクの依頼をコツコツと熟す……なんて普通の人間がやる事を、ヴェルセリアは精霊や使役魔術を使い効率よく終わらせていた。
「ギルドに所属するなんてただ面倒な事だと思ってたけど、無駄じゃなかったわね」
気付けば、ギルドランクの上から2番目のランクAまで上げたのは今から4年前、今ではギルド関連施設にストレス無く入れるようになり『禁書』探しを続けていた。
そんな中、『誰も触れる事すら出来ない魔術書がある』と聞き、目の色を変えたのだ。
触れる事ができないとなると、それ程までに見られてはいけない事が書かれてる――まさに『禁書』と呼べる物ではないか。
「やっとそれっぽいのを見つけたわ!」
足早にその『禁書』と思われる本が所蔵されている書庫へ、ヴェルセリアは向かうのだった。
***
埃の舞う地下書庫――
薄暗く、灯りもまばらどころかほぼ無く、人を寄せ付けない雰囲気で照明魔術を使わないと見えないほどだ。
「暗い……上の階と随分違うわね」
ここはギルドで管理されている書庫で、ギルドに所属している冒険者であれば出入りが自由であった。先程ギルドにいた
「埃っぽいわ……ここ、本当に人の出入りがないのね」
上階こそ人の出入りはあるが、地下は長い間誰も足を踏み入れていない様で静まり返っていた。それもそのはず、この地下書庫に所蔵されている本は閲覧回数が少なく、上階の本棚に収まりきれなくなった本がほとんどなのだ。
だが掘り出し物もあり、積み上げられた本の中にはこの世に10冊とない貴重な物もあった。そのため、ランクA以上の冒険者のみ立ち入りを許可されている。
「へぇ……『禁書』だけじゃなく、面白そうな本もあるじゃない」
ヴェルセリアは柔らかな灯りを連れながら、乱雑に本棚に収まっている本のラベルを指でなぞり、書庫の奥へと進んでいく。
そして最深部、その場所だけは異質だった。鈍く光る石造りの台座の上に、その魔術書は浮遊していた。幾重にも絡みつく鎖のような魔力の奔流が、近付く者を拒むように空間を歪ませている。
「あからさまねぇ……」
その鈍く光る本の台座には、注意書きのメモがお札のようにいくつも貼られていた。
触れてはいけない
怪我をしたくなければ触れるな
ギルドランクS以上推奨――など。
「ここまで書くなんて……ランクS以上って、そんなに触れてほしくないのかしら」
ヴェルセリアはギルドランクこそAだが、ランクSへの昇級試験を『面倒』の一言でやりすごしていた。こと、魔術に関する事なら自分はランクS以上だと勝手に思っている。
「まぁ、生意気な本ね。そこまで書かれちゃうなら……やってしまおうかしらね」
『禁書』と思われる本に手を伸ばしてみると、鈍かった光が瞬き空気中でパチリと音を立てて弾けた。これが触れたら怪我をする理由だろう。
「ふぅん……防御結界みたいなものかしら。ならば……」
右手を差し出したが、少し考える。
「ここ、狭いからスタッフを出すのは厳しいかしらね」
愛用のスタッフは背丈を超える2
指揮者のようにワンドを振った。
シャンッ……
ワンドに装飾された鈴が涼やかに響く。普段は鳴らない装飾された鈴は、魔力を込められた時に初めて鳴り響く。
「精霊達よ 我が声を聞き此処へ集え」
紡がれる短い言葉に呼応するように、ヴェルセリアの周りには光の粒が湧き立つように取り囲む。エメラルドの瞳が魔力を帯び輝く。
ヴェルセリアはその歪みの前で静かに、感情を排した声でただ『術式』として完成された言霊を紡ぎ始める。
「久遠なる
最後の一節が静寂に溶け込むと同時に、書庫の空気が震えた。その直後、空間を打つような鋭く乾いた音が地下書庫に響き渡る。
『禁書』と思われる本に重なり合っていた幾重もの防御結界は、サラサラと砂が崩れるように空気中に溶けていった。浮いていた魔術書はゆっくりと台座に降り、静かにヴェルセリアを見ているようだ。
「簡単ね、こんなものでランクS以上だなんて……鼻で笑うわ」
魔術レベルの低さで『外』の世界に何度落胆したことか。新たな発見が乏しいのは都にいた時とあまり変わらず、この5年で得られた魔術の知識はほぼない。
「さて、早速『禁書』とやらを読ませてもらいましょうか」
革でできた表紙の本を手に取り、巻かれたブックバンドを外し開いた瞬間――
キィィイインッ
耳鳴りのような甲高い音と共に本から風が吹き荒れ、