『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第21話【ザークはフェンリルなのかも?】

 その頃、ヴェルセリア達はドラゴンの革を手に『創作の鉄槌(クラフト・ハンマーズ)』に到着した。

 

 ガチャ……カラン

 

 工房の扉を開けると乾いたドアベルの音がした。店内は相変わらずたくさんの武器と防具がきれいに並べられている。

 

「いらっしゃい……って、この前のエルフの姐さん。どうだい、気に入る素材は手に入ったかい?」

 

 店主のハルムがで笑顔で出迎えてくれた。前回ザークの首輪を購入した際、素材を持ち込んだら新たに作ってもらう事を話していた。

 

「えぇ、やっと頼んでいた皮の(なめ)し作業が終わったわ。これでこの子の首輪を作ってくださる?」

 

 ハルムのいるカウンターに、先程受け取ったばかりのドラゴンの革を置く。解体前よりも艶が出ていて色鮮やかになっている。それを見たハルムは驚いた。

 

「これは……レッド・ドラゴン……だと?」

 

「? レッド……ドラゴン? そう言えばこの前も言ってたわね」

 

「エルフの姐さん、これは……買ったのか? いや、これを狼……犬の首輪にするって……どんな富豪だ? これ、正規の値段にしたら金貨5枚くらいするぞ……」

 

 金貨5枚は、家族持ちの家庭がかなり余裕がある生活を送れる月収分である。

 

「いいえ? これは討伐して持ち帰ったドラゴンを、ギルドにお願いして分けてもらったものよ。もちろん報酬からの支払いでね」

 

「え? これ、まさか、もしかして、姐さんが倒したのかい……?」

 

「私とこの子で、ね。何か問題でも?」

 

 レッド・ドラゴン――

 

 それはドラゴンの中でも最強最大の種類である。

 

 ギルドの依頼票にはドラゴン討伐と素材採取とだけ書いてあったが、ドラゴンの種類などは書いていなかった。ヴェルセリアは魔術には精通しているが、ドラゴンの種類に関しては一般人より知識が浅かった。まさかこの前倒したドラゴンが、最強最大の種類だったとは知らなかったのだ。

 

「……この前、ガリムが言っていたのはこれだったのか……久しぶりな大仕事だったと嬉しそうに話してたなぁ……」

 

「ガリム……?」

 

「あぁ、『砕殻の巨槌(シェル・クラッカー)』の工房長だ。俺の弟なんだ」

 

 言われてみれば、確かに見た目が似ている。

 

「そうだったのね、解体と(なめ)し作業でお世話になったわ。そしてまたお世話になると思うわ」

 

 先程ギルドにジャイアントリザードの買い取りをお願いしたので、明日にでもまた『砕殻の巨槌(シェル・クラッカー)』に持ち込まなければならない。

 

「ガリムに仕事を回してくれるなら大歓迎だ。後々こっちにも仕事が回ってくるからな」

 

「そう言っていただけるなら良かったわ。この子といると大型の魔獣を倒す機会がこれからも増えそうだから」

 

 ザークを撫でながら話す。

 

「俺はもっと暴れたいぞ」

 

 ザークはやる気満々であった。

 

 ハルムには首輪のデザインをいくつか提案され、その中から選ぶ。オーダーなので細かく指定ができ、世界でただ一つだけのオリジナルの首輪ができるのだ。

 

「それでは素材を預かるぞ。仕上がりに3日はほしい」

 

「わかったわ、お願いね」

 

 ガチャ……カラン

 

 工房の扉が静かに閉まり、ヴェルセリア達は 『創作の鉄槌(クラフト・ハンマーズ)』を後にする。

 

「さて、3日も暇になったわね」

 

 店の外に出ると少し湿った潮風がゆったりと流れてくる。 『創作の鉄槌(クラフト・ハンマーズ)』を出て少し歩いた所は高台になっていて、『マリヌス』全体を見渡せる眺めの良い場所だ。

 

「ここ最近は移動と討伐に探索と、忙しかったから少しお休みするにはちょうど良いわね」

 

 高台にあるベンチに腰を下ろし、両腕を上にあげて伸びをする。天気も良く、日向ぼっこをするにも最高の日であった。

 

「俺は別に休まなくても暴れられるぞ」

 

「……私は貴方ほど体力はないの、少しくらい休ませなさいよ」

 

 チラリとザークを見る。ザークと屈従契約してから、これだけゆっくりしたのは初めてかもしれない。

 

「……」

 

「……」

 

 お互いに黙ってしまった。色々と聞きたいことはお互いある。今までその機会を完全に逃してしまい、今更聞きにくい。

 

 それでも――

 

「……聞いてもいい?」

 

 切り出したのはヴェルセリアの方だった。

 

「……なんだ?」

 

「貴方、本当にフェンリルなの?」

 

「はぁ、何度も言ってるだろ? 俺は犬じゃなくてフェンリルだって」

 

 確かに何度も言ってはいたが、証拠となるものがなにもなくザークが自己申告するしかなかった。信じがたいものではあるが、確かにザークは他の狼とは違う。決定的に違うのは人語を操れること。しかも、かなり流暢かつ知能が高い。

 

 ヴェルセリアはかつて動物に魔術を使い、人語を喋らせていたがここまで知能が高い生き物はいなかった。どの動物も、もう少し本能に近いものであった。

 

 ただ、ヴェルセリアが気に入っていた喋る犬、あの犬だけは違った。

 

(あのワンちゃん、少しザークに似ている気がするけど……もしかして)

 

「喋る犬って、貴方以外にいるの?」

 

「……だから犬じゃ……個体にもよるが……そうそうお目にかかれるもんじゃねぇぞ?」

 

 やはり喋る動物はあまりいないようだ。

 

 魔獣や魔物で知能が高いものはいる。大体は魔力の器が大きく、強い。ある意味、喋る魔獣や魔物はイコールで強いのだ。

 

「それじゃ、フェンリルって貴方以外にいるの?」

 

「いや、今はいない。俺は突然変異種なんだ。昔はいたらしいが、今いるフェンリルは俺だけだ」

 

「……(あの子はザーク? でも……)」

 

 ペロリと舌舐めずりをする。

 

「なんか言ったか?」

 

「いえ? 何も……それより、貴方いつも名前を呼ぶと舌舐めずりするの、なんでなの?」

 

「え! き、気付いてたのか!?」

 

 耳を立て、明らかに動揺するザーク。

 

「それはまぁ、何度か見てるから。なんでなのかな? とは思ってたわ」

 

「〜うぅ……」

 

 身体を伏せて、前脚で顔を隠す。見られていたと思っていなかったので、恥ずかしがっているのだ。

 

「……恥ずかしい事だったの?」

 

「……少し……」

 

 少しと言う割にはヴェルセリアの方を向けない。そんなザークを優しく撫でる。

 

「恥ずかしいなら理由は聞かないわ。舌舐めずりする姿が可愛かったから聞いてしまったの。ごめんなさい」

 

「また俺のことを可愛いとか言う……」

 

 顔を隠したまま少し不満気にボソリと呟く。

 

「仕方ないじゃない、可愛いのだから」

 

「ヴェルだけだ、フェンリルの俺を可愛いとか言うのは……俺は畏怖の象徴なんだぞ……」

 

 フン、とため息を吐く。そんなザークをヴェルセリアは愛おし気に撫でる。

 

(ザークはあの子に似ているけど、そんなはずないわね。あの子はもう――死んでしまったのだから)

 

 かつて、ヴェルセリアは樹都『エテルナ』にいた時、魔術の研究に没頭していた。『エテルナ』に魔術学校はあったのだが、ヴェルセリアが求めるような知識が得られなかったため、飛び級をしてすぐに卒業をしてしまった。それからは引きこもるように研究を重ねていた。

 

 それは昔から同じで、1つのことが気になったら周りが見えなくなる子供だった。それは、幼い頃ヴェルセリアには友と呼べる者は無く、寂しさを紛らわせるためでもあった。

 

『別に、お友達なんていなくたって寂しくないもん。気になる事がたくさんあって忙しいわ』

 

 そうは言っても、幼い子どもには寂しいものだった。

 

 そんな中、唯一心を許せる存在が動物達だった。精霊魔術を使うと、自然と動物が集まってきたのだ。そしてその動物たちに魔術を使って喋らせていたのだ。

 

『チーチー! アソボ! アソボ!』

 

『いいわよ! きょうは なにしてあそぶ?』

 

 その中で一番のお気に入りだった、どこからか現れた喋る犬をとても可愛がっていた。

 

『またあそびにきてくれたの? うれしいわ』

 

『ワン! しかたねぇから きてやったぞ』

 

『ふふ、そんなこといって ワンちゃんだってここにくるの すきなんじゃないの?』

 

『な! おまえにともだちがいないからだろ! ……あー! なくな!』

 

 いつも動物に囲まれていたヴェルセリア。お陰で寂しさなどすっかり忘れ楽しく過ごしていた。

 

 しかし――

 

『おかしいわね なんだかきょうは いつもいるこがいないわ』

 

 ヴェルセリアがいつも遊んでいた広場に、動物が集まると薬師(くすし)達の間で噂になっていた。ちょうど薬師が薬剤の治験のために実験動物を探していたからだ。

 

『ワンちゃん〜! どこ〜?』

 

 いくら探しても見つからず、その日は暗くなるまで探した。

 

『ヴェルセリア! ……もう遅いから帰ろう』

 

 エルヴァインが迎えに来た時には、ヴェルセリアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

 

『っう……ひっ……くっ……』

 

 後から聞いた話では、ヴェルセリアが可愛がっていた動物を数匹、薬師が治験で殺してしまったというのだ。その中に喋る犬がいたかわからない。ただ、その日を境に現れなくなったのだ。そうなれば、治験の被害にあったと思うのが自然だ。

 

 どこかで無事にいてほしいと願ってはいるが、あれからゆうに100年は経っている。仮に無事であっても寿命を迎えて死んでいるだろう。

 

 だから封印の書から喋る犬が出てきた時は心が踊った。また、喋る犬と触れ合えると。ただあの時の、子どもだった頃の自分ではない。今の自分ならば守ることができる。

 

 しかしギルド長の話が出た時に、ザークを連れ戻されるのではないのかと不安になった。

 

 あの子はもういない、せめてザークは……ただ、心配するほどザークは弱くない。寧ろ守られている側だ。だからこそ――

 

 ザークに抱き着き耳元で話す。

 

「……私を守って死んだりしないでね」

 

「……あ゛? 誰に言ってやがる。俺はフェンリルだぞ、返り討ちにしてやるよ」

 

「ふふ……頼もしいわね」

 

 少しだけ、ザークがフェンリルだと信じたヴェルセリアだった。




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