『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第22話【お揃いの首輪とブレスレット】

 とにかく『何もしない』を徹底した3日間だった。

 

 『ジャイアントリザード』を素材解体工房『砕殻の巨槌(シェル・クラッカー)』へ持ち込み、ヴェルセリアはザークのブラッシングを入念に行い、美味しい物を食べ、時折首輪が早くできないかそわそわしたり、道端でミラに会えばギルド長バルガスが戻ってきているのを教えてもらい、気を付けながら散歩をしていた。

 

 そして、3日後――

 

 約束の日になり 『創作の鉄槌(クラフト・ハンマーズ)』に出向いて行った。

 

「首輪、できあがったぞ」

 

 店内に入ると、ハルムが待ってましたと言わんばかりに待機していた。レッド・ドラゴンの革で作られた、ザーク専用の首輪がカウンターに置かれていた。レッド・ドラゴンを表す紅い革、艶やかな仕上がりにヴェルセリアは思わず声が漏れる。

 

「綺麗……素晴らしい仕上がりだわ」

 

「当然だ! こんな高級素材で作れるチャンスはなかなかないからな。気合い入れて作らせてもらったぞ。……それと」

 

 差し出されたのは、レッド・ドラゴンの革でできた首輪と同型の細身のブレスレットだった。

 

「素材が少し余ったから、おお……犬の飼い主さん用にお揃いのブレスレットを作った。弟の工房がまた世話になったらしいからな、こっちはサービスだ。火属性の加護も少しは受けられるぞ」

 

 こちらもザーク用と同等の艶めきがあり、装備というよりファッションアイテムのようだ。

 

「お揃い! ……ありがとう! 大事にするわ」

 

 受け取ったヴェルセリアは感激し、ハルムにあの『柔らかい笑み』を向ける。

 

「!」

 

 それを受けたハルムはこそこそとザークに話しかける。

 

「……ザークって言ったか? お前の飼い主、しっかり守ってやれよ。ありゃ天性の人たらしだ。俺が妻子持ちじゃなかったら簡単に落ちてたぞ」

 

「……やっぱりな……」

 

「? 何を話しているの?」

 

『なんでもないぞ』

 

 ハルムとザークは口を揃えるのであった。

 

 ザーク専用の首輪ができあがり、お揃いのブレスレットを着け上機嫌のヴェルセリア。ニコニコしながら酒場『酔いどれの灯台(ティプシー・ビーコン)』で食事をしていた。

 

「ワンちゃんとお揃いだなんて……! 最高だわ!」

 

 何度もブレスレットとザークの首輪を眺め、ウットリしている。ザークはその横で、床に置かれた皿からご飯を食べながら返事をする。

 

「そんなに嬉しいもんかねぇ」

 

「当り前よ! こんな普通(・・)な事ができるなんて!」

 

 少し呆れ気味にヴェルセリアを見上げるザーク。

 

「普通って……」

 

 ヴェルセリアにとって、飼い犬との普通(・・)と呼べる事ができるのが何よりも嬉しかったのだ。エルフは動物を飼うのではなく、使役するものとしていた。仮に飼うとなっても、何かの目的のためでしかない。森エルフ(ウッドエルフ)はまた違い、自然と共存する考えであるため飼うという概念ではない。

 

 動物と対等より、もっと近い関係でいたかったヴェルセリアにとって、『シルヴァリア』ではそれが実現できなかったのだ。

 

「……『外』の世界に出てきて、本当によかったわ……『エテルナ』にいたら、こんな事できなかったと思うわ」

 

「ヴェルが住んでいた世界は窮屈だったのか?」

 

「考え方が偏りすぎていたのよ。だから、『外』の人族がとても羨ましいわ。私からしたら、自由で楽しそうな人が多い印象よ」

 

「……この前からヴェルの身の上話を聞いてると、よくわからん苦労してるんだな」

 

「そう……なのかしら、狭い世界にいたからそれすらもわからないわ。でも……」

 

 エメラルドの瞳が少し魔力を帯び輝く。そして――

 

「今はザークと居られて、とても楽しいわ」

 

 向けられる柔らかな微笑み、そして名を呼ばれる。

 

「……!」

 

 思わず固まる。いつも名を呼ばれたら舌舐めずりをするのに、それすら忘れていた。自分だけに向けられた微笑みを受けて、何も感じないほどザークの感情は死んではいなかった。

 

「……? どうしたの? 固まってるわよ」

 

「な、なんでもねぇよ!」

 

 皿に残っていたご飯を慌てて口に入れる。

 

 普段、魔力供給以外では名前をなかなか呼ばないヴェルセリアが、会話の中で名前を呼んだ。おまけにあのキラースマイル付きで。

 

(俺、思ったより単純だったんだ)

 

 簡単に言えば、ザークは落ちてしまっていた。そしてご飯を食べながら、頭の中がグルグルしていた。

 

(考えてみたら好きにならない方がおかしいんだ)

 

 ギルドの案件中はそれこそ無茶な命令をするが、普段はとにかく優しく大事にされている。押しつけのような世話も、今となっては悪くはない。極めつけは先程の笑顔と――

 

『今はザークと居られて、とても楽しいわ』

 

「! ゲホッ!」

 

 思い出して(むせ)てしまった。

 

「大丈夫?」

 

 ヴェルセリアが心配そうに背中をさすり、その時目が合う。

 

「だ、大丈夫だ……」

 

 まともに顔が見れず、思わず顔を逸らしてしまった。

 

 なによりもヴェルセリアは美人である。元々美人に見つめられるだけでも気恥ずかしいのに、意識してしまった今は普通に見る事すらできなくなっていた。

 

(これ、どうするんだ? どうすれば……)

 

 グルグルと混乱するが、よく考えてみると一緒に生活をしているのはザークだ。

 

 ・ヴェルセリアは特定の人物と付き合ってはいない。

 

 ・ザークとは屈従契約で根本的に離れられない。

 

 ・現状、ザークは大事にされている。

 

 ・ヴェルセリアはザークと一緒にいて楽しい。

 

「……なんだ、簡単な話だ」

 

 ・ザークもヴェルセリアと一緒にいて嬉しい。

 

 それでいい、それがいい。と、勝手に自己解決に至った。今自分は、一番美味しいポジションにいる事に気付いてしまった。見上げるとヴェルセリアもこちらに気付き、笑顔を向けてくる。

 

「……へへ……」

 

 この笑顔の主を独り占めできている優越感に浸る。

 

「? 随分ご機嫌ね。食べ終わった? さ、宿に戻りましょう」

 

「……あぁ」

 

 ザークの足取りが、いつもより軽やかだったのは言うまでもない。

 

 そしてヴェルセリア達が『酔いどれの灯台(ティプシー・ビーコン)』を後にした直後、バルガスが店に入って来る。その足取りは吸い込まれるようにカウンター席へ着席した。

 

「いらっしゃい! お、ギルド長さん! ……なんか疲れてます?」

 

 普段からバルガスはここの店を利用しているのだろう、店主が声をかける。

 

「あぁ……3日前から人と狼を探しているのだが、全く見つからなくてな……」

 

 カウンターに頬杖をつき、ぐったりとしている。ミラに促され港の方を中心に探していたのだが、行く先々で色々な人に声をかけられ人探しどころではなかったのだ。あれから3日、噂は聞くが本人達に会えずにいた。

 

「人と狼? そりゃ冒険者ですか?」

 

 鍋を振りながら会話を続ける店主。

 

「あぁ……エルフの女と灰蒼の狼だ……見なかったか?」

 

「あー……さっき出て行ったお客さんかな? すごい美人のエルフと喋る狼ですか?」

 

「! それだ! どこに行った!?」

 

 バルガスはカウンターを叩き、勢いよく立ち上がる。

 

「さぁ? でもついさっきお勘定済ませて出て行ったから近くにいるかもしれないですよ……って」

 

 話を聞き終わる前にバルガスは店の前に出て道を見渡すが、この夕方の時間帯は人で溢れかえっている。いくら目立つ狼を連れているとはいえ、簡単には見つからない。

 

「っく! いつになったら会えるんだ……ヴェルセリア・エルフェイン……!」

 

 ビクッ

 

「……何か聞こえなかった……?」

 

 耳の良いエルフのヴェルセリアは、バルガスの叫ぶ声が届いていた。もちろんザークにも。

 

「……いや? さっさと帰ろうぜ」

 

 ヴェルセリアの名前を街中でフルネームで叫ぶ男を、ザークは改めて敵認定した。絶対にヴェルセリアに会わせない、と受付嬢と同じく心に誓うのであった。

 

「ヴェルセリア・エルフェイン……! 何処にいるんだーッ!」




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