『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「さすがにこれならば、会えるだろう……クックック……アーハッハッハ!」
不穏な空気を醸しながら、ギルド長バルガスが高らかに笑い声をあげる。この3日間、バルガスはヴェルセリアとニアミスを何度も繰り返して会えないままだった。なので、ギルド長という立場を利用し策を講じたのだ――
***
「先日ヴェルセリアさんが発見した『聖下都市:アルカイア』の未踏域への探索を、本格的に開始するとの事です。その際、ランクAの冒険者で編成した特別パーティを作るために人員募集をかけると……」
「なによそれ、本当なの?」
昼下がりの『マリヌス』市街地のオープンテラスで、ヴェルセリアは疑問を投げかける。その相手はギルドの受付嬢、ミラである。
「はい……今朝、飛脚にそのような書簡を出すようにと準備をしていました」
昼休みで外に出ていたミラを偶然街で見かけ、お昼に誘って食事中である。ザークの首輪も完成したので、そろそろ別の場所へ移動を考えていたヴェルセリアはギルドに行きたかったのだが、バルガスのせいで近付けずにいた。なので、ギルド内の状況を聞き出しているところに動きがあったようだ。
「人員募集以外にわかっている事は、ランクSのイグニス・ローズベルトさん率いる『最果ての
全冒険者ギルドの中でもランクSは現在5人ほどしかいない。その内の1人、イグニス・ローズベルトが参加するというのだ。わざわざランクSの冒険者に参加を打診すると言う事は、今回の未踏域の探索はギルドを挙げての重要項目と位置付けられていると思われる。
「ふぅん……そこはあまり興味ないけど、募集をかける冒険者の方に興味があるわね。私達も参加できるの?」
わざわざランクSの名前を出したのに、全く興味を示さないヴェルセリア。その足元で伏せていたザークは欠伸をする。
「それはもちろん……ですが、今回のこの対応、何かギルド長の思惑があるように感じます……」
「? それはどうして?」
お茶を飲みながら聞き返すヴェルセリア。
「ヴェルセリアさんは第一発見者ですし、そう言わせるために準備をしている気がするのです」
勘の鋭いミラは指摘をする。これはヴェルセリアをおびき出すための罠ではないかと。
「……あれだけ街中でヴェルの名前を叫んで探していたら、そう疑うのも無理はねぇな」
今まで黙っていたザークも、敵認定したバルガスに対して容赦はしない。ザークは顔を上げる。
「あのオッサンの事だ、ヴェルと同じパーティに入って一緒に探索するとか言い出しかねねぇ……」
チラリとヴェルセリアを見上げるザーク。するとヴェルセリアが自分の膝をぽんぽん叩き、顔を寄せるよう手招きする。
「……はぁ」
ため息を吐きながらヴェルセリアの膝に顔を近づけた次の瞬間――
「……ん~! 可愛い!!」
ヴェルセリアが目をキラキラとさせ、ザークの顔や頭を撫で繰り回した。
「ちょっ! ヴェル……!」
迷惑そうな顔で撫でまわされるザーク。そんな事はお構いなしで撫でるのをやめないヴェルセリアは、そのまま話を続ける。
「でも、ギルド長が現場に出るのは得策ではないでしょう? 一流の長たる者、後ろで大きく構えていなきゃ。それこそ前に出ると言うのなら、三流ね」
「そうなんですよ……。今回の大規模な探索には、他ギルド支部長も大きく関わると思いますし……場所柄『リヴェリア』にあるのでそちらの支部長が中心になって動くと思います。ギルド長の独断では動けないと思いますので、さすがにパーティには参加してこないでしょう」
ミラが言う事はかなり説得力がある。だが、支部長を集めた会議を抜け出してくるような男だ。
「……だといいがな」
撫で回されながら呟くザークは、何か嫌な予感を感じた。それはミラも同様である。
「とにかく、大規模な探索用パーティの人員募集は近々行われるのは確実です。募集期間は2週間だったと思います。『リヴェリア』へ早めに出発して、募集開始と同時に『リヴェリア』支部でエントリーするのをお勧めします」
「そうさせてもらうわ。……ミラ、色々ありがとう」
柔らかく微笑み礼を言うヴェルセリア。
「っ……! 受付嬢として、全力でヴェルセリアさんをサポートします! 安心して、出発なさってくださいッ!」
心を射抜かれたミラは頬を少し赤く染め、ギュッと胸を押さえながら応える。その姿を冷ややかな目でザークは見ていた。
「そうと決まれば出発準備をしましょう、行くわよ」
撫で回していたザークを漸く解放し、立ち上がる。
「あぁ」
ザークは撫で回されていた頭をフルフルと左右に振り、ヴェルセリアの後に付いていくのだった。
「今回はパーティを組むから、いつもと準備が違うわよ。魔道具屋に寄らないと……あ、でも品揃えを考えたら『リヴェリア』ね。その前に……『冒険者ご飯パック』をお願いしないと」
「俺は肉さえあればいくらでも動けるぞ」
「はいはい、いつものお店でお願いしましょう」
ヴェルセリアとザークは『マリヌス』を離れ、一足先に『リヴェリア』へ向かうのであった。
***
翌日のギルド本部では、朝からギルド長のバルガスがフロアで待ち構えていた。掲示板には大きく
『聖下都市:アルカイア』特別探索パーティ人員募集
と書かれた紙が貼り出されていた。
「ギルド長……これ、まだ許可出てませんよね?」
ミラが困惑しながら指摘をする。
「なぁに、細かく決まっていないだけで人員募集するのは変わらん。早く集まる方が後が楽だろう」
他のギルド支部長の確認を待たずに、バルガスは独断で動き出していた。この掲示物を見た冒険者は騒めき、中には受付嬢に詳しい話を聞きに来る者もいた。マリヌス本部では大きな話題になり、『リヴェリア』へと向かうものもいた。
しかし――
「何故だ……何故姿を現さない、ヴェルセリア・エルフェイン……」
ぶつぶつと言いながら、酒場『
掲示物を貼り出してから既に3日が経過していた。この街に居ればギルドに顔を出すと思っていたが、待てど暮らせど現れない。
また面倒な奴が来たと困り顔で鍋を振っている店主、これは話を聞いてほしいサインなんだろうと思い声をかける。
「ギルド長さん、今度はどうしたんだい?」
バルガスはガシガシと頭を掻きむしっていた手を止め、ゆっくりと店主の方に顔を上げる。
「……前に探していると言っていたエルフの女がギルドに来ないのだ……」
絶対に姿を現すと予想していたが、全く現れないのでガッカリを通り越して絶望を滲ませた顔をしているバルガス。それを見た店主は、申し訳なさそうな顔をする。
「あー……あの美人なエルフのお嬢さん、そりゃ来ませんよ」
「は!? 何故だ!?」
勢いよくカウンターを叩き、立ち上げるバルガス。店主の顔を睨みつけるように見下す。
「いやー……4日前だったかな……ウチの料理を大量に注文してマジックバッグに入れてたから、ありゃ長くどこかクエストにでも行くもんだと……なんでも、あの狼がウチの料理を大層気に入っているらしくて……へへ、よく大量注文をもらうんですよ」
いつもザークが美味いと言いながら食べているのを知っているので、店主は少し嬉しそうに話す。
ギルド周辺にある飲食店は、冒険者のために食事の大口注文を『冒険者ご飯パック』として受けている事が多い。大半の冒険者はマジックバッグを所持しているので、いつでも出来立ての味を食べられ、飲食店も儲かるなど双方にとってメリットが大きいのだ。
「何処に行くと言っていた!?」
カウンター越しに店主に詰め寄るバルガスは、かなり追い詰められている様子だ。
「さぁ……? そこまでは……あ、確か……『パープル・バレル』と『リヴェリア』に着いたら他にも美味しい食事を買わなくちゃ、みたいな事を狼と話していた、かなぁ。うん? それって本当にクエストに行くのかな?」
まるでピクニックにでも行くような事を話していたらしい。
「『パープル・バレル』に『リヴェリア』だとぉ……フッフッフ……待っていろ、私ももうすぐそちらに向かうからな……」
先程までの落胆の表情から一転、何かを企むような表情をするバルガス。
「……で、ご注文は?」
バルガスが落ち着いたところで、店主はやっと注文を聞く事ができた。
「先ずはエールだ!!」
声高にバルガスは注文をするのだった。
「……ところで、皆口を揃えてヴェルセリア・エルフェインの事を美人だというが、そんなに美人なのか?」
「え、顔も知らないんですか!?」
後ろ姿しか見たことのなかったバルガスは、ヴェルセリアの顔を知らないのだ。そのような状態で会うことはできるのだろうか。
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