『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「この後どこに行くんだ?」
ザークの背に乗り途中『パープル・バレル』に立ち寄り、移動すること2日。再び賢者の学舎『リヴェリア』に到着した。
暫く世話になる宿屋に、チェックインを済ませたヴェルセリア達は『リヴェリア』の街を歩く。
「本当は先にギルドに寄りたいところだけど……確認したい事とか多いのよね」
冒険者はギルド支部がある地域に足を踏み入れたら、一度ギルドに顔を出すのが通例なのだ。だが、今のヴェルセリアはギルドに確認したい事が多い。
「うーん……やっぱり先に魔道具屋に行きましょう。ギルドには今日中に行ければいいわね」
「魔道具屋……ってどんな店なんだ?」
ヴェルセリアの隣を歩くザークが聞いてくる。
「そう言えば一緒に行った事なかったわね。それはね……とても面白いお店よ。ただ、これから行くお店の店主がちょっとクセがあるのがね……悪い人ではないけれど、ね」
『リヴェリア』の中心より少し外れた裏通りに、『
「ここよ」
外壁には蔦が絡まり、入口の扉には大きなステンドグラスが嵌めてある。扉の横にある大きな窓から店内を覗くと、何に使うのか普通の人にはわからない道具が所狭しと置かれているのが見える。魔術に精通していない者から見たら怪しげな店だ。
扉を開くとギイィ……と建て付けが悪そうな音を立てた。昼下がりの西日が差し込み、店内に置かれたポーションの瓶や魔石に反射してキラキラと幻想的な光が溢れていた。
「いらっしゃぁい〜……って、あら? 誰かと思ったらヴェルちゃんじゃなぁい」
店の奥にあるカウンターから入店と同時に、店主が手をひらひらさせヴェルセリアに声を掛ける。
「こんにちは、相変わらずかしら? ルネ」
ルネと呼ばれた『
長い茶色の髪は右肩に流す形で纏められ、前髪は片目を隠すように長い。見えているもう片方の目は垂れ目で深い青、そしてヴェルセリアよりも短い耳。彼女はハーフエルフだ。
ヴェルセリアの事を『ヴェル』、しかも『ちゃん』付けで呼ぶあたり、かなり親しいようだ。
「相変わらずよぉ〜あら? 久しぶりに来たと思ったら、何それぇ、狼?」
「犬、よ」
「またまたぁ〜さすがに犬と狼の見分けくらいはつくわよぉ」
緩い喋り方をするが、ヴェルセリアにハッキリ意見が言えるくらい親密度が高いようだ。
「……ヴェル、随分と親しげだな」
ヴェルセリアに親し気に接する態度を見て、少し拗ねたようにザークは聞く。
「まぁ、お付き合いがそこそこ長いお店だから、ね」
前回『リヴェリア』に来た時は立ち寄らなかったが、いつもなら『リヴェリア』に寄ると毎回買い物をするくらい常連だ。
「やだぁ! その狼、お喋りできちゃうのぉ!? ステキィ〜!」
ザークが喋ると皆一様に驚くのが普通だったが、ルネは驚くのとは少し違う反応をした。
「……なんかこの女、ちょっとかわ……」
「言いたいことはわかるわ」
ザークが言い終える前に被せ気味に突っ込むヴェルセリア。『変わり者』とルネに言うと後が面倒なのだ。
「それでぇ〜? 今日はいつものでいいのかしらぁ? 赤のマナ・ドロップのおまとめ品~こんなにたくさん買ってくれるの、ヴェルちゃんくらいよぉ」
赤のマナ・ドロップは魔力完全回復のため高額だ。それを大量に毎回購入するので、この店のお得意さんなのである。
「それもそうなのだけど、ちょっと相談してもいいかしら?」
「え! なになに? 恋の相談?」
カウンターを乗り出すようにして顔を突き出すルネ。恋バナが好きなようだ。
「……そう言うのはいいから……」
「やだぁ、冗談よぉ〜」
半分は本気だったのか、残念そうな顔をする。
「……今度パーティを組んで探索に行く予定があるのだけど……」
「あ〜なるほどね、それ向けの細かい魔道具の相談ねぇ。ヴェルちゃんがパーティ組むなんて……あら? もしかして、初めて?」
「そうね、初めてだわ。だから勝手が違うと思って」
「……やっと人間と関わる気になったのねぇ……」
どこかホッとしたような、優し気な眼差しでヴェルセリアを見るルネ。
「今回はそんな事を言っている場合じゃないのよ。……もしかしたら、『禁書』があるかもしれないから……」
ヴェルセリアはそう話すと小さくため息を吐く。ルネには『禁書』探しの事を伝えていたようだ。
「理由はどうあれ、パーティを組むのね。私に相談してくれるなんて嬉しいじゃなぁ~い! そういう事ならルネちゃんにお任せよぉ~! 大船に乗った気持ちで任せなさ~い!」
そう言いながらカウンターから店内に出てくる。店内のあちこちから持ってきた、お勧めの魔道具をカウンターに並べた。しかし、中には
「ルネ、これは……私向きではないわ」
カウンターに並べられた物の1つを指さし、ヴェルセリアは困った顔をする。
「あぁ~これ? プッシュダガーナイフっていうの。実はこれ、普通のナイフじゃなくて魔道具だからヴェルちゃんにピッタリだと思って」
プッシュダガーナイフを1つ手に取り、ヴェルセリアに渡してくる。
「これが……魔道具? 確かに魔石が付けられているけど……」
「そう、その魔石がポイントなのよぉ! この無色の魔石に
「へぇ……それは凄いわね。って、私ノーコンなんて言われるほど投てきは下手じゃないわよ」
「あらそぉ? 小さいから装備しやすいのもポイントね。ただ……使い捨てだから数を用意するにはまぁまぁ金額的に……ね。でもヴェルちゃん魔道具くらいしかお金かけないし、最近……大きな実入りがあったんでしょぉ~?」
何かを知っているかのように、ヴェルセリアを下から舐めるように見上げるルネ。ニタニタと笑い、商売人の目つきに変わる。ルネは未踏域発見の成果報酬の話をしているのだろう。だが、その前にドラゴン討伐での報酬もあった事をヴェルセリアは言えないでいた。
「……よく知っているわね……」
「そりゃあ、ここ『リヴェリア』ではヴェルちゃん有名人になっちゃったからねぇ。新聞にバッチリ顔と名前が載ってたからぁ~」
『歴史的発見! アルカイアで未踏域!』と大見出しに書かれた新聞を見せるルネ。新聞にはエレノアとヴェルセリアの顔と名前も掲載されていた。女性冒険者が発見したと大きく書かれているので、いかに注目されているかが窺える。
「えぇ……こんな形で広まっているの……?」
目立つ事があまり好きではないヴェルセリアは、困惑と恥ずかしさから頬が染まる。
「やだ! ヴェルちゃん照れてるの? かわいぃ~」
「な……っ!」
つんつんとヴェルセリアの頬を突くルネ。距離感があまりにも近すぎるため、ザークが2人の間に挟まり距離を取ろうとする。
「ヴェルの頬を突くな! 離れろ!」
「あらぁ? この狼、ヴェルちゃんを守ろうとしてるのぉ~? 健気でかわいいわねぇ」
「なっ! かわいいだと!?」
今にもルネに襲い掛かりそうな勢いだったので、ヴェルセリアがザークの顔を両手で包み撫でる。
「落ち着きなさい、からかってるだけだから。私は大丈夫よ」
少し逆立ったザークの毛を優しく撫で落ち着かせる。ザークが暴れる寸前に止める機会が何度もあったので、ヴェルセリアも落ち着かせるのに慣れてきた。
「ふーん、随分と飼いならされてるねぇ。君は……ヴェルちゃんのなんなのぉ? 首輪付けてるから『オトモ』契約でもしてるのかしら?」
ルネはザークに質問をする。
「俺は……ヴェルの『オトモ』だし、その……一応契約もしている」
屈従契約とは言いにくく、少し言葉を濁す。
「ふーん? そっかぁ、それならしっかりヴェルちゃんを守ってやってね。いくら強い
か弱い、と言われたがヴェルセリアにか弱いイメージが全くわかない。
「あ? あー……まぁ、そうだな。か弱い……うーん……」
「か弱いイメージがなくて悪かったわね」
腕を組み不機嫌そうにザークを睨むヴェルセリア。
「さ、そんなか弱いヴェルちゃんにはこのナイフはオススメだよぉ~」
先程勧めていたプッシュダガーナイフを再びヴェルセリアの前に置く。
「……まぁ、詠唱無しで魔術を発動できるのはいいわね。いただくわ」
「まいど~! それに、パーティで行動するなら自分の事だけじゃなく、メンバーにも気を配らなきゃいけないからねぇ。勝手が違いすぎて最初は戸惑うかもしれないわねぇ」
今まではヴェルセリアだけで探索などを行っていたため、自分のペースで進むことができた。だが、大規模探索ではパーティでの行動が確実になるため、周りへの配慮が求められる。自分さえ良ければいいなどは通じない。
「確かに……」
そんなヴェルセリアに、今度は手のひらサイズのぬいぐるみのような物を手渡す。
「今度はなに?」
「これは
「これが? 凄いわね……で? これを勧めてくると言う事は……」
「あれ? わかっちゃったかなぁ? まぁ、凄いと言う事は、ね。お値段も凄いってね。まぁ? ヴェルちゃんならこれの価値もわかるし、わかってるからこそお値段も納得できるわよねぇ」
ニタニタとルネは
「言われるがまま買うのも癪だけど、何があるかわからないわね……わかったわ、これもいただくわ」
「さっすがヴェルちゃん! 太っ腹~!」
そのあともルネが色々な品を勧めてくるが、いくつかは断り必要な物を取捨選択して買い物を終わらせた。
「ヴェルちゃんありがとねぇ~こんなにたくさん買い物してくれて! さすがウチの『お抱え魔術師様』! 毎度ありがとうございますぅ~!」
マジックバッグに詰めながら、今回の請求金額を見る。片眉を上げ、買い過ぎたと少し反省をするヴェルセリア。ただ、ルネが勧める魔道具はどれも一級品ばかりなので、買って後悔した事は一度もない。
「いや~スターリング商会が廃業になって一時はどうなるかと思ったけど、今は別の商会が頑張って面白い商品を出してくれてるからねぇ。次にヴェルちゃんがここに来てくれた時は、また面白い商品紹介するねぇ~」
スターリング商会と言われ、エレノアの顔が浮かんだ。彼女は商会の借金返済はできたのだろうか。
「(エレノアはどうしてるかしらね……)」
どの程度借金があったか具体的な金額は聞いていなかったが、未踏域発見での成果報酬が思ったよりも多かったので無事に返済できているのを祈るヴェルセリアだった。
「それじゃ、ルネ。また来るわね」
「またねぇ~ヴェルちゃん、と、狼君! ヴェルちゃんをよろしくねぇ~!」
店の前まで見送りに出たルネは、角を曲がるまで手を振り続けていた。そしてその足で冒険者ギルド『
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