『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「チェックインをお願いするわ」
ここは冒険者ギルド『
「! あ……っ! も、もしかして、未踏域の発見者、ヴェルセリア・エルフェインさん!? ですか!?」
「え、えぇ……」
説明口調な上にあまりの大きな声だったため、たじろぐヴェルセリア。そして、周りの受付嬢や冒険者がこちらを注目する。
「ご、ごめんなさい! 先日の大発見からリヴェリア支部はヴェルセリアさんとエレノアさんの話題で持ちきりなんですよ。それと、支部長からもしリヴェリア支部にヴェルセリアさんが立ち寄る事があったら、お話をしたいと聞いています」
「え……、リヴェリア支部長が私に話がある……?」
何処かで聞いたような話で、ヴェルセリアは嫌な顔をする。また支部長が戻るまで時間がかかると言い出すかと覚悟をした。
「支部長! ヴェルセリア・エルフェインさんがいらっしゃってます!」
だが、そんな心配を他所にチェックインカウンターの後ろに向かって受付嬢が声をかけると、1人の男性がこちらに向かって歩いてくる。
「そんな大きな声を出さなくても聞こえていますよ」
肩まである真っ直ぐな銀髪は整えられ、切れ長な瞳はマリンブルー、どこか余裕のある如何にも
「初めまして、リヴェリア支部長をしております、アリスター・セドリックと申します」
手を差し出されたので、とりあえず握手をするヴェルセリア。
「……初めまして、ヴェルセリア・エルフェインよ」
「ここでお話をするのはなんですから、応接室をお使いください」
受付嬢が応接室へ続く扉の方に、アリスターとヴェルセリアを促す。
「この子も連れて行っても?」
ヴェルセリアはすぐ傍にいるザークの頭を撫でる。
「構いませんよ」
リヴェリア支部のフロアから応接室へ続く廊下に通された。廊下の壁には歴代のリヴェリア支部長の肖像画が飾られている。通された応接室はソファとローテーブルがあり、奥の大きな窓からは街の中心にある広場の噴水が見えた。
「こちらに」
促されたソファに腰を掛ける。ザークもソファのすぐ隣に座る。
「改めまして、お時間をいただきありがとうございます。……バルガスから貴女の事は、最もランクSに近い
「? バルガスって……?」
「貴女が所属するマリヌス本部のギルド長ですよ……もしかして、まだバルガスと面会ができていないのですか?」
「……面会もなにも正式に申し入れをされていないわ。それに……いつ戻るかもわからない人を待つほど暇じゃないのよ、私」
皮肉たっぷりに答えるヴェルセリア。ただ連れてこいとミラが言われただけで、待つ義理もなにもない。今となってはギルド本部の受付嬢が一致団結をして、バルガスからヴェルセリアを守る動きをしている。
「それは困った、先ず最初に面会するのは俺だと豪語して会議を抜けて行ったのに……私の方が先に会ってしまいましたね」
「構わないわよ? そもそも約束もなにもしていないのだから」
「……全く、アイツは……すまない、バルガスのせっかちで思い込みの激しい所は昔から変わらないのですよ」
眉間に手を添え、頭を左右に振る。
「昔から……?」
「あぁ、バルガスとは現役時代に同じパーティメンバーだったのですよ。あの頃から色々と、メンバーが振り回されてましたからね」
やれやれと、当時を思い出したかのように少し顔をしかめる。マリヌス本部でミラを始めとした他の受付嬢を見ていれば、その苦労はよくわかる。
「しかし……」
ヴェルセリアの瞳をじっとみつめるアリスター。
「確かに貴女はランクSに近いと言われるだけある。私の現役時代よりも魔力量が桁違いに多い。さすがハイエルフと言えますかね」
ヴェルセリアのエメラルドの瞳に宿る魔力量を、一瞬で見極められた。そしてヴェルセリアの事をハイエルフと呼ぶ。
「……驚いたわ、ハイエルフを見分けられる人間がいるなんて」
「古い友人にハイエルフがいますので。魔力の特徴などよく知っていますよ」
ハイエルフとは、エルフの中でも上位種に分類され、特に魔術に長けたエルフの事だ。その数は少なく、
「ハイエルフと友人……?」
「普通のエルフですら人間とあまり親しくはなりませんからね。ハイエルフなら尚更、ですね。ですから……今回の未踏域発見の報告書を、人間と共同報告で出されていたヴェルセリアさんには驚きましたよ」
「……たまたま、一緒に発見しただけ。それに……あの子はこの世界に相応しくない子だから、借金返済の手助けを少ししただけよ」
「それはまた……なんと優しい。友人が聞いたらさぞ驚くと思いますよ」
「そういうものなの? ……私は他のエルフの事を知らないから……」
「エルフのヴェルセリアさんがエルフを知らない……? 優れた魔術を使い、魔力量も人間と比にならないのがエルフだと。だから人族、とりわけ人間に対して関心すらない印象がありますが」
アリスターはエルフを優れた種族だと褒めているつもりだが、ヴェルセリアはそれを喜ばない。
「それは偏見よ。エルフでも魔力量が人並み以下の者もいるわ。問題はそれをカバーできるだけのものを見つけ、努力ができるかどうかね。それに……私は人間が嫌いではないわ」
ヴェルセリアの同胞に魔力量で悩みを持つ者がいたのだろう。魔力量が多いから凄い、少ないから何もできない、ではなく自分にしかないものを武器にして、努力を積み重ねる事が凄いとヴェルセリアは思っているのだ。
「な……! ヴェルセリアさん、貴女は人格まで素晴らしい人なのですね」
「? そんな事を言われたのは初めてね。努力もしないで自分の力の無さを呪うくらいなら、何か別の道を見つけて努力をすべきでしょう?」
感嘆の表情を浮かべ、アリスターが拍手をする。
「なんと素晴らしい……貴女のような人に出会えて、本当に良かった」
アリスターのその表情に、少し違和感を覚えたヴェルセリア。だが、そこは言及せず話を進める。
「……大袈裟ねぇ。それで? 話したい事ってなぁに?」
本筋の話から反れていると思ったヴェルセリアは、本題に戻るよう促す。
「これは失礼、実は先日ヴェルセリアさんが発見された未踏域ですが、これから大規模な探索を行おうとしています。それに合わせてランクAの冒険者を募集するのですが、ぜひ参加をしていただきたくて……ご都合はどうでしょう?」
リヴェリア支部長直々に参加を打診されるとは思わなかったヴェルセリアは、少し困惑したが作り笑顔を向ける。
「もちろんやるわ。そのために早めに『リヴェリア』入りしたのだから」
当然ヴェルセリアは快諾した。
「既にご存知でしたか。それなら話は早いですね」
「……ヴェル、そのまま普通にその話を受けて大丈夫か?」
心配そうにザークが聞いて来る。何処かにバルガスがいるのではないかと周りを警戒する。
「細かい内容を聞かないとわからないけど……自分が見つけた場所の探索ができるなら、ある程度は目を瞑るわ」
「そちらの狼は……? 今、お話しをしましたか?」
少し驚いた様子でアリスターは聞いてくる。
「犬、よ。この子は『ザーク』。ちょっとした魔術で喋るようになっているだけよ。私の『オトモ』よ」
舌舐めずりしながらザークは立ち上がり、ヴェルセリアにピタリと寄り添う。
「『オトモ』の……」
アリスターがザークを捉える。ザークの瞳を見つめ、ヴェルセリアにやったように魔力量を見る。
「これはまた……とんでもない狼……? を『オトモ』にしていますね。これを手懐けるとは……」
アリスターは先程までの穏やかな眼差しではなく、全てを見透かすような鋭い眼光でザークを見る。その視線に気付いたザークは唸り声を上げる。
「グルゥゥゥ……」
「落ち着きなさい、大丈夫よ」
ヴェルセリアはザークの頬から下顎にかけて優しく撫でて落ち着かせる。唸るのをやめるが、視線はアリスターを捉えたまま動かない。
「おや、怖がらせてしまいましたね。大丈夫、何もしませんから」
アリスターはにこりと微笑み、ザークへの視線を外す。そして書類をいくつか出してきた。
「ではこちらに署名を。ランクAの冒険者に募集をかけ、6人で1つのパーティを作る予定です。できればそれなりの人数が集まってくれるとよいのですが」
書類には職業を書く欄をはじめ、いくつかのチェック項目があった。それを元にパーティ編成をするようだ。
「それでは、明日には正式に募集を開始できると思いますので。ヴェルセリアさんは最終準備を始めてください。2週間後、未踏域でお会いできるのを楽しみにしています」
「わかったわ。私も楽しみに準備を進めるわ、行くわよ」
「……」
ザークは最後まで視線をアリスターに向けたまま部屋を後にした。ヴェルセリア達が立ち去った部屋で、先程署名をした書類を見つめるアリスターは1人呟く。
「ヴェルセリア・エルフェイン……彼女は貴女と違って人格者ですね……」
***
ギルドを後にしたヴェルセリアは、ザークの様子がおかしいのが気になり足早に外に出ていく。ギルドの建物から外に出て、しばらく歩いたところで声をかけた。
「……」
「……大丈夫?」
「……ヴェルがいなきゃ襲い掛かっていたかもしれねぇ……あのオッサン、なんなんだ!?」
「元ランクSの
後ろから聞き覚えのある声が返事をした。振り返ると、長い金髪は毛先が巻かれ、ハーフアップにされた髪に赤いリボンを付けた若い女性と、大柄で筋肉質な逞しい青年が立っていた。
「! エレノア! テオドール! いつからいたの?」
「ちょっとだけお久しぶりですわ! ヴェル姉様! ザークさん! えーと、支部長と奥の部屋に行く時ですわ」
「先日は大変お世話になりました」
『聖下都市:アルカイア』で偶然出会い、魔獣から逃げた先で共に未踏域を発見した2人である。エレノアは親の借金返済のため
「……その恰好……
『聖下都市:アルカイア』の未踏域を一緒に発見した彼女とは、共同報告書を提出した関係で報酬を折半という形で受け取っている。
折半とは言え、それなりに大きな額であったが――
「……舐めてましたの、……元の借金が大きすぎて、利息分しか払えませんでしたの……」
エレノアは膝から崩れ落ちるように、その場でしゃがみこんでしまった。
「……それ、多分金貸しに騙されてるわよ……一度ギルドの労金に相談したらいいわ」
エレノアの背中を優しくさすりながら、適切なアドバイスをするヴェルセリアだった。
「それで、リヴェリア支部長の事、何か知っているの?」
ゆっくりと立ち上がり知っていることを話すエレノア。
「はい、
「
テオドールは
「
「……あのオッサン、危険すぎる。できれば近付きたくねぇ」
ザークは俯きながらボソリと呟く。
「珍しいわね、貴方がそんな事を言うなんて。……確かに纏っている精霊達の様子が違っていたわね」
「精霊を纏っている?」
エレノアが驚きの声を上げる。
「えぇ、見たところリヴェリア支部長は常に精霊に守られているわ。普通は呼ばないと来ない子達なのに……何か、契約をしているのかしら? それとも……」
サラリと答えるヴェルセリア。あの短い時間でそこまで見極めていた。
「……まさか、ね……もしそうなら……私と相性最悪だわ」
ヴェルセリアは苦い顔をして呟いている。
そしてザークは先程から気になる事があり、ようやくその答えがわかった。
(! そうか……そう言う事か……あの目、俺を封印した奴に似てるんだ! ……だが、封印されてた時間を考えたら……そんな訳ねぇか……)
言いようのない不快感があったが、やっと言語化できて納得したザーク。
「……何が『私の現役時代よりも魔力量が桁違いに多い』よ……あんなの嘘ね、本人はまだ現役で戦えると思っている……とんだ狸親父だわ!」
珍しく感情を露わにして怒るヴェルセリア。
「そんな事言われたのですの? ヴェル姉様が?」
「えぇ、きっとリップサービスだったんでしょうね。それに……魔力量が少ない人を、人だと思っていない感じだわ。それにエルフに対する偏見がかなりあるわ。なによ、ギルドの、長の職に就いてる人は皆変な人が多いの?」
ヴェルセリアは地団太を踏み、文句を言う。
「……何かあったんですの?」
ヴェルセリアの様子を見て少し心配するエレノアは、こそこそとザークに聞いてみる。
「あー……マリヌス本部のオッサンが……な」
今まであったバルガスの行動など、ザークは嫌そうな顔で答えた。
「……そんな事が。それは心の広いヴェル姉様でも嫌がって当然ですわ!」
自分の事のように怒ってくれるエレノアは、とてもいい子だ。
「あーッ! こんな日は美味しい物を食べないとやってられないわ! エレノア! この辺りのお店は詳しいでしょうね!?」
突然ヴェルセリアが滅多に出さない大声を上げ、エレノアに店の案内を要求する。名指しをされたエレノアは突然の事で、肩を震わせ驚いた。
「はい!? あ、も、勿論ですわ!」
「それなら美味しいご飯が食べられるお店に案内してちょうだい! 今日は私の奢りよ!」
エレノアの両肩を掴み、強引に前を歩かせる。2人の後をザークとテオドールが付いて行った。その3人と1匹を遠くから見つめる人物がいるのを、この時は誰も気付いていなかった。
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