『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「はぁ……魔獣同室専用の宿、最っ高ね……」
両手を頬に当て、ウットリとした表情をするヴェルセリア。今は朝、宿泊者専用のラウンジで食事中である。そこはこの宿に泊まっている魔獣連れの、主に冒険者が食事を摂っていた。
フェネックフォックスやサーチ・ドッグなど、小型の魔獣がそこかしこにいてヴェルセリアの目を癒していた。
ただ――
「貴方がいると他の魔獣達が怯えてるわね……近くを通りすぎる事すらしないわ……」
ザークが傍にいる事で魔獣達は本能的に強者を感じ取り、完全に委縮してしまっていた。なので端の席で食事をしている。
「仕方ねぇだろ、俺フェンリルなんだから……」
食べながら小声で言うザーク。
「強すぎるのも色々問題があるわね……」
最近ザークは本当にフェンリルなのかも? と思い始めていたヴェルセリアは、他者(魔獣)の反応を見てますます思うのであった。
ため息を吐きながらお茶を飲む。その時、ラウンジの入口から手を振りながら声をかける人物がいた。
「ヴェル姉様!」
「ヴェルセリアさん、ザークさん、おはようございます」
「エレノア、テオドール、よくここがわかったわね」
「魔獣も泊まれる宿は限られてますから、すぐにわかりましたわ。……少しお話しがあるのですが……よろしいですか?」
周りを見渡し、少し気まずそうにしている。あまり聞かれたくない話なのだろう。
「わかったわ、部屋に行きましょう」
3人と1匹はヴェルセリア達が宿泊している部屋へ移動した。
「昨日は……大丈夫でしたか?」
昨日とは、酒場でランクSのイグニスから突然話しかけられた事である。
「大丈夫よ、この子に迎えに来てもらったし、癒してもらったから」
「え? 癒して……?」
ベッドの上で転がっているザークをギュッと抱きしめ、フワフワな毛に顔を埋め幸せそうな顔をしている。
(え!? 待って待って! ヴェル姉様って普段ザークさんにそんな事を!? ギャップ萌えですわ!)
エレノアは頬に両手を当てて、見た事のないヴェルセリアの姿を凝視していた。そして漸く絞り出した台詞は――
「ヴェ、ヴェル姉様……余程ストレスだったのですね……」
これだった。
そして気になる。あまりにも無抵抗でされるがままのザークの姿に、つい先日までとはかなりの違いがある。
「……ザークさん、なんだか……」
「何も言うな……」
エレノアが言いかけたところで被せ気味にザークが止める。これ以上聞いてはいけないと察し、何も言えなくなる。
そして顔を埋めたままヴェルセリアが聞いてくる。
「それで? 話ってなぁに?」
「そ、そうでしたわ! 朝一で『アルカイア』の探索パーティへの参加をエントリーして来ましたわ」
胸に手を当て、自慢げに話すエレノア。そして静かに、テオドールが続ける。
「もう1つ、昨夜ザークさんがヴェルセリアさんを追いかけた後、イグニスさんから情報収集してきました」
参加を打診されていたイグニスは、ギルド長バルガスから現段階での詳細を聞いていたと言うのだ。
聞いた話によると、例のヴェルセリア達が発見した森をいくつかのパーティで入口を始点に調査探索を行い、それぞれマッピングしながら進めていく。
全ての参加者はランクAとは言え力の差が出るため、中央の方から強いメンバーで構成するとの事。必然的にイグニスが配置されるのは中央になる。
「ちなみに、
鼻息を荒くしているエレノアの方を、チラリと向くヴェルセリア。
「同じパーティだといいわね……仮に違ったら説明を求めるわ、場合によっては……ふふ」
不敵な笑みを浮かべ、意にそぐわないパーティ編成だった場合は暴れるつもりであった。
「暴れるつもりか? ヴェルが言うと冗談に聞こえねぇんだよな……」
「私はいつでも本気よ? ……6人でパーティを組むなら、あと3人知らない人が来るのね。この子は数に入らないから」
ザークはあくまでヴェルセリアの『オトモ』なので、パーティの頭数にはならない。
パーティメンバーも気になるが、そろそろあの男が来そうで憂鬱だ。
「……そろそろ、来るわよね……」
ため息を吐きながら呟く。
「誰がですの?」
「ギルド長……」
追いかけまわされていると、昨日ザークから聞いていたのでエレノアも変な緊張感を持つ。
「流石にギルド長とは言え、一冒険者に対して直接何かをすると言う事はないと思われます。それに大規模探索を控えているのであれば、ギルド長もそれなりに忙しいはずです」
冷静に分析するテオドール。
「そ、そうですわ! ヴェル姉様! まずは探索に向けて準備をしましょう! 出発までまだ時間はありますし、簡単な依頼を受ける事もできますわ」
なんとかヴェルセリアの気を紛らわせようと必死に提案をするエレノア。ヴェルセリアは少し考え、答える。
「……せっかく『リヴェリア』に来ているのだから、私は書庫に籠るわ。エレノア達はどうするの?」
「そうですわね……2週間弱ありますから、小さめの依頼を受けますわ」
「そう、そうしたらこの子をレンタルしてくれると助かるわ」
「はぁ!?」
突然のレンタル発言に不意打ちを喰らうザーク。
「え!? ザークさんを!?」
「書庫にこの子は連れて行けないし……運動不足になっちゃうでしょう? それに私と一緒にいると目立つからギルド長に見つかる可能性も高くなるし……ギルドの方を通せば大丈夫だから、後で手続きをしに行きましょう」
「ヴェル! 勝手に決めるなよ!」
「仕方ないじゃない、書庫に魔獣は連れて行けないのだから。エレノアとテオドールの言うとおりにして、ね」
ザークの頭を優しく撫でながら言い聞かせる。
「ヴェル姉様、
託児所発言にザークは――
「俺は子供じゃねぇ!」
と、噛みつくのであった。
「お礼に食事を奢るから、よろしくね。夕飯までにはギルドに戻って来なさい」
まるで母親が子供に言い聞かせるようにエレノアとテオドールに伝える。
***
ギルドで手続きをし、早速2人と1匹で繋ぎの依頼を受ける事になった。冒険者ギルド『
「ギルドってのはどこもこんなに人がいるもんなのか?」
ザークは周りをキョロキョロしながら、エレノアに聞く。
「そうですわね、『リヴェリア』はいつもこのくらいは常にいますわ。でも、地方の支部では建物がそもそも小さくて、人も依頼内容も少ないですわ」
エレノアは色々な地域のギルド支部に足を運んでいるようだ。
「どの依頼にしますか? ヴェルセリアさんが夕飯時には戻るように言っていましたので、あまり遠出するものや複雑な依頼は避けた方が良いかと」
テオドールが依頼票の貼られた掲示板の前で、依頼内容を見ている。
「……そうだな、せっかくだからお前ら2人の実力が知りたい。何か討伐するやつはないか?」
「
「この前は、特に男、お前はほとんど戦ってなかったからな。……でもお前からは強者の匂いがする」
ザークの目がギラリとする。そして2人を名前で呼ばない。まだザークは認めていないからだ。
「強者……ですか。お嬢を守るのが私の役目ですから、弱いとは言いませんが」
滲み出る強者の風格。ザークは納得した顔で――
「だったらお前の実力が見られる依頼を探してくれ」
鼻息を荒くしてテオドールを急かす。掲示板にあった依頼票で、討伐案件はいくつか貼り出されている。
「……これはどうでしょう?」
『廃村に住み着いたゴブリン小隊の掃討』、依頼内容は近隣の廃村を拠点にし始めたゴブリン(5〜8体)を
「上等だ、これで決まりだな」
「えぇ……? ゴブリンですの……?」
嫌そうな顔をするエレノアを尻目に、ザークは依頼票を勝手に剥がしてテオドールに押し付ける。
「お前だって強いだろ? 何たって俺の獲物を横取りしたんだからな。んな顔するなよ」
以前ジャイアントリザードのトドメをエレノアに横取りされたのを、未だに根に持っているザーク。
「あれは……!」
エレノアは言い訳をしようとするのだが、そんな事はお構いなしでザークは尻尾をブンブン振り回しながら、受付カウンターの方へ先陣を切って歩くのであった。
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