『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
第30話【スターリング家の守護者】
それは、テオドールがエレノアに出会った頃からの話。
エレノアが誕生した翌月、ヘイズ家の面々はスターリング家に挨拶に出向くのであった。その場にはテオドールの他、父親のベルナール、母親のフローラ、兄のレオナールがいた。
「お嬢様の御誕生、おめでとうございます。ヘイズ家一同、ご挨拶に参りました」
「おぉ、ベルナール来たか。その子かな? エレノアの
その子と言われたのはテオドールではなく、兄のレオナールだった。当時10歳、ヘイズ家はこの年齢で将来が決められていた。
「アリステア様、初めまして。レオナール・ヘイズと申します。この度はご息女エレノア様の御誕生、おめでとうございます」
レオナールは何度も練習をしたであろう挨拶を、淀みなく述べる。
「丁寧な挨拶をありがとう。ささ、エレノアを見ておくれ。可愛いだろ?」
娘が誕生してエレノアの父アリステアはデレデレであった。レオナールを手招きして呼ぶ。この時テオドール(当時7歳)はヘイズ家の家族として同席しているだけだった。
スターリング家との繋がりは深く、ヘイズ家の長男は必ず
「レオナール、お前がもっと大きくなったらエレノアお嬢様の
それからと言うもの、父ベルナールと顔を合わせる度に言われるようになる。だが、レオナールの意識はあまり高くはなかった。
「なぜヘイズ家はスターリング家に仕えなくてはならないのか」
当然幼子は疑問に思う。
(俺の将来は俺が決めたい……)
レオナールは心の中で常に思っていた。
ヘイズ家の長男は代々スターリング家の
ヘイズ家を名乗る次男家もそうであった。そのため、ヘイズ家親族は幼い頃から剣技を学び、士官学校入学まで腕を磨くのであった。
「俺は聖騎士団に入って
レオナールの秘かなる夢が芽生えていた。ただ、それは決められた道を少しでも変えたいと思う小さな抵抗だった。それを父ベルナールに伝える事は叶わない。ただ生まれた順番が先だっただけ、そんな事を言えば勘当されると幼心にわかっていたからだ。
そう思う気持ちとは裏腹に、エレノアと触れ合わせるために、家庭教師の指導がない日はスターリング家へ足を運ばされた。本来なら長男だけが行くのだが、レオナールの強い希望でテオドールの同席を許可してもらっていた。それは、テオドールにスターリング家に仕えさせるための思惑があったからだ。
「お嬢様、お上手です!」
エレノアが1歳を過ぎた辺りから遊び相手として触れ合う事を許された。よちよち歩きのエレノアを支えながら相手をするレオナール。そしてテオドールも。
「お嬢様、こちらです!」
兄と共にエレノアの相手をしていた。傍から見ていたら仲良く遊んでいるのだが、レオナールの内心は穏やかなものではなかった。
「あと7年で士官学校に入学となる。それまでに剣技を磨き、他を圧倒しなければ
日々の鍛錬で自分で自分を追い込む。そんな兄の変化をテオドールも察していた。この頃はまだ、兄がスターリング家に仕えるために鍛錬をしているだけだと純粋に思っていた。なので――
「兄さん! 剣技の稽古、一緒にやろう!」
一緒になって鍛錬を重ねていた。そしてレオナールもテオドールが強くなればスターリング家に仕えるように仕向ける事ができると、黒い感情を抱きながら共に稽古をしていた。
そして7年後――
「レオナール、立派になって戻ってくるんだ」
「はい、父さん」
レオナールは士官学校に入学をした。全寮制のため、長期休暇以外は戻って来れない。
「テオドール、お嬢様を暫く頼んだ」
「お嬢様の事は任せて、兄さん」
あれからスターリング家への訪問は定期的に行われており、エレノアも8歳になった。レオナールが士官学校に在学中は長期休暇以外は戻らないため、その間テオドールに任される事になった。
この時テオドールは15歳、あと3年で同じ士官学校に入学となる。
レオナールがスターリング家に来なくなり、テオドールがエレノアの相手を1人で受け持つようになると同時にエレノアのお転婆ぶりは凄まじかった。
「テオ! こっちですわ!」
「お嬢様! 降りてください!」
木登りは毎度のこと、魔術の稽古中に小屋を燃やすなどありとあらゆる事をやった。その度にテオドールは目配り不足として怒られていた。
「テオドール! お嬢様をしっかり見なくてはダメだ! 怪我でもされたらどうするんだ!」
父ベルナールがテオドールを叱るのだが、エレノアが毎度間に挟まる。
「テオは悪くありませんわ!」
しかし相手はスターリング家の御息女。
「お嬢様、これはテオドールの責任です。あちらにお茶の準備が整っておりますので……」
エレノアは侍女に連れて行かれ、残されたテオドールは謝るしかない。
「……申し訳ございません……」
反発する気持ちもあるのだが、そもそも自分がちゃんとエレノアを見ていなかったのが悪いと思い、頭を下げる。責任感が強かったのだ。今思えは、この頃から謝り癖がついていた。
エレノアは魔術の才があり、幼い頃から付与魔術についてテオドールと一緒に鍛錬を行なっていた。と、言うのもスターリング家は魔道具を卸す商家、魔術にも長けていた。
「武器に魔術付与を行えば、きっと簡単に強くなれますわ!」
「お嬢様、いくら武器が強くても扱う人間が弱ければ難しいと思います」
子供の戯言と片付けずに真剣に向き合う、今の2人の姿がこの頃からあった。
スターリング家とヘイズ家の関係はテオドールのお陰で良好であった。そんな日々は過ぎ、ついにテオドールも士官学校へ入学する時期になった。
「テオドール、お前は士官学校卒業後は聖騎士団へ配属される事になる。エレノアお嬢様はレオナールに任せる事になるが……アイツめ、一度も長期休暇に戻らずに……スターリング家との関係はテオドールが保ってくれたというのに……」
レオナールは士官学校入学後、一度も戻ってきていなかった。テオドールもそれを察してか、エレノアの相手をしっかりと務めていた。
そして父ベルナールはこの3年間エレノアの相手をしていたテオドールを高く評価していた。お転婆なエレノアを大きな怪我なく世話ができ、相性も悪くなかった。だがスターリング家の
「……わかっています、後は兄さんにお任せします」
それはテオドールもわかっていた。自分は次男で聖騎士団に行かねばならない。なので、士官学校入学直前に最期の挨拶をしにスターリング家に出向いたのだった。
「テオドール、レオナールが居ない間エレノアが世話になった。正直お前が
「……ありがとうございます。そのお言葉だけで十分でございます」
エレノアの父アリステアもテオドールを評価していた。そしてエレノアも。
「テオ! ……もう会う事はできませんの?」
「お嬢様……テオドールは聖騎士団に入ります。陰ながらお嬢様をお守りします。あとは兄レオナールにお任せください」
テオドールはエレノアの前に跪き、そっと手を取る。
エレノアはテオドールを本当の兄のように慕っていた。聖騎士団に入団してしまうと家族でも会う事はなかなか許されない。主従関係なら尚更だ。
今生の別れと幼いながらに理解をしていたエレノアは、人目を
「兄さん、後は任せました」
そう思い、テオドールは兄がいる士官学校の門を潜るのだった。
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