『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
士官学校入学式――
全候補生が参列する中、テオドールは兄レオナールを見つける。そしてレオナールも奉仕生(1年生)の中からテオドールを見つけた。レオナールは長期休暇でも家には戻っていなかったため、顔を見るのはお互い3年振りになる。
「兄さん!」
入学式後、レオナールに駆け寄るテオドール。3年振りの兄は家を出たあの日よりも身体つきが大きくなり見違えるようだった。
「テオドール……久しぶりだな」
「兄さん、なぜ一度も家に戻って来なかったのですか?」
その問いにレオナールは一瞬考えた。今ここでテオドールに自分の思いを話してしまったら、この3年間が水の泡になるのではないかと。
「……すまなかった、一度家に戻ってしまうと気が緩むと思ってな。ずっと鍛錬をしていた」
「そう……だったのですね。兄さんの決意は凄いですね……あ、父さんも母さんも元気です。スターリング家とは良好な関係も築けています。来年兄さんが卒業したら……」
「やめてくれ!」
被せ気味に声を荒げるレオナール。それは怒りとも悲しみともとれない表情だった。突然の事だったので、テオドールは固まってしまった。
「……兄さん?」
「……すまない、騎士候補生(4年生)になり気が張っているんだ……許してくれ」
この時テオドールはただ士官学校の中での生活は大変なんだと純粋に思った。まさか、レオナールが裏切るとは知らずに。
そして1年後、レオナールが士官学校を卒業する時が来た。レオナールは首席で卒業、これでスターリング家の
しかし――
「レオナールが、聖騎士団に……?」
レオナールの卒業と聖騎士団への入団の報せを受け落胆した。レオナールは首席で卒業し、ヘイズ家の誇りとしてスターリング家に仕えると、自分の役目は果たしたとベルナールは思っていた矢先だった。
「今すぐ……今すぐレオナールを呼び戻せッ!!」
取り乱したベルナールは叫ぶのであった。
そしてそれはテオドールもすぐに知る事となる。
「今年の首席卒業はレオナール・ヘイズ先輩! テオドールの兄さんなんだろ? すごいな!」
ルームメイトのブライヤー・ホップスがレオナールを褒める。偉大な先輩の弟を目の前にし、キラキラと目を輝かせていた。
「……あぁ、兄さんは昔からすごかったからな」
テオドールは兄を褒められ、少し照れたように小さく笑った。
「それにすごいよな、あのレイクハルト大隊長から引き抜かれたらしいな!」
「……え? レイク、ハルト……大隊長? 引き抜かれた……?」
「なんだよ、聞いてないのか? 首席卒業生は聖騎士団に配属される前に名のある隊長から声がかかるんだぜ?」
テオドールは混乱していた。士官学校を卒業したら、兄レオナールはスターリング家の
気付いた時には部屋を飛び出し、レオナールのいる寮へ走っていた。
「兄さん!」
「……テオドール」
レオナールは身支度を終え、まさに士官学校を出て行こうとしていた時だった。走って探していたテオドールは息が上がり、肩を震わせていた。
「兄さん……はぁ……っ……なぜ聖騎士団へ……? スターリング家は……お嬢様は、どうするのですか!?」
珍しく声を荒げるテオドール。それに対してレオナールは冷めた瞳で答える。
「俺は、お嬢様が誕生した時からずっと疑問に思っていた。なぜヘイズ家はスターリング家の
それはヘイズ家の人間であれば当たり前の事だった。当たり前すぎて疑問にすら思わない事。
「それは……ヘイズ家の7代前の当主がスターリング家に恩義があったからだと……」
「それは知っている! だが、そんな時代遅れな話はもう十分だ!」
レオナールは肩を震わせ感情のままに大声を出す。今まで誰にも言えなかった事を吐き出すかのように。だがテオドールも引かない。今一番心配なのはエレノアの事だ。
「お嬢様はどうなるのですか!?」
「それはお前が
「っ……兄さんは、お嬢様が嫌いになったのですか……?」
「嫌いになるわけないだろ? ……俺達の、大切な妹だ」
幼い頃、共に世話をし遊んだ日々が甦る。スターリング家の広い庭で、エレノアが8歳になるまで一緒に過ごした。テオドールにとっては、兄と妹のようなエレノアと過ごした幸せな日々だった。
「ではなぜ……!」
「……たった10歳で将来を決められた俺の気持ちがわかるか……? ……生まれた順番で決まってしまうのが、一番納得できなかったんだ……」
「それは……」
それはレオナールがヘイズ家に長男として生まれた瞬間から決められた事だった。貴族として何不自由なく生活ができていたのは、スターリング家の庇護下にあったからだ。だが、次男のテオドールは聖騎士団に、なぜ長男のレオナールが
「……お前も主席で卒業してみろ。貴族の
レオナールはテオドールの横を静かに、そして確かな足取りで通り過ぎる。その表情は覚悟を決めた顔だった。テオドールはそんな兄を止めることはできなかった。だが、最後にレオナールに向けて宣言する。
「……わかりました。では、私も首席で卒業します。『貴方』と同じものを見て、最良の道を見極めます」
もう、レオナールを「兄さん」とは呼ばない。テオドールの中でこの日、兄と決別したのだった。
***
奉仕生(1年生)では教会の雑用や基礎体力作りを徹底的に叩き込まれ、テオドールは下級騎士生(2年生)に進級した。下級騎士生は基礎的な魔術や剣技の訓練が始まる。
入学する前からヘイズ家では家庭教師が付きっきりで魔術や剣技を学ばせており、当初からできる事が多かったテオドールは目立つ存在となっていった。
それと同時に首席卒業をした兄を持つ者と周りから見られ、テオドール自身は感情を持たずに淡々とこなしていく日々。
下級騎士生になり、初めての長期休暇になった。テオドールは元から聖騎士団に入る予定だったため、長期休暇はヘイズ家に戻るつもりはなかった。昨年は戻っていない、しかし状況は一変した。
父ベルナールからの手紙にはレオナールには戻るよう働きかけているとあった。一度聖騎士団に入ってしまったら、家族ですら簡単に面会はできない。恐らく聖騎士団にいる親戚筋を通して、何度も連絡をしているのだろう。
「知らなかった、あんなに頑固だったなんて……父さん、きっと無理だ。あの人の決意は固すぎる……」
レオナールが言っていた――
『……お前も主席で卒業してみろ。貴族の
あの言葉がずっとテオドールの中で引っかかっている。
「あの人は何を見て、何を感じたのだろうか」
今のテオドールにはわからなかった。
そして、父ベルナールの手紙にはこうも書いてあった。次の長期休暇には戻ってくるようにと。深いため息を吐くテオドール。今のヘイズ家はどうなっているか不安で仕方なかった。
しかし、そんな不安を上回るような事件が起きていた。
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