『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第1部 第3章 未踏域探索編
第34話【特別探索パーティー結成】


「いいですか? 貴女は何も考えずに付いて行けばいいのです。ただ、足手まといにはなってはいけないですよ……ランクAになったのですから」

 

「……はい……」

 

 2人の男女の声が暗闇に飲み込まれる。2人以外にこの部屋にはいない。

 

「大丈夫、周りは強い人で固めましたから。その代わり、大変な場所を担当してもらう事になってしまいましたが……」

 

「わ、私なんかが……っつ、務まるのでしょうか……?」

 

 緊張からか、女性は言葉を詰まらせながら不安げな声を上げる。部屋は薄暗く相手の表情は見えないが、男性は少し苛立ったような空気が伝わってくる。

 

「貴女が頑張らなくても周りがきっと助けてくれます。ですから……」

 

 ゆっくりと近付いてくる気配、薄暗い部屋をひたひたと靴音が迫ってくる。

 

 そして――顔を掴まれる。

 

「っ! ……ひっ……!」

 

「その瞳(・・・)を覗かせてもらえればいいのです」

 

***

 

『エントリーメンバーの中に、ヴェルセリア・エルフェインの名があった時は踊り出すくらい嬉しかったぞ……やっと対面できる!』

 

 バルガスは『リヴェリア』に到着した直後、大規模探索にエントリーした冒険者の名簿を見てほくそ笑んでいた。しかし、喜びも束の間――

 

 ヴェルセリアが『リヴェリア』支部にチェックインしたその日、アリスター支部長と既に面会を果たしていたと聞いて、膝から崩れ落ちた。

 

『なぜ構えていた俺ではなく、偶然居合わせたアリスターの方が先に対面できたのか……。おまけに例の狼と話をすることができたと聞いた。……羨ましい……』

 

 準備期間の間に対面をしようと画策をしていたのだが、アリスター支部長から探索への準備で色々とやらされていてそれどころではなかったのだ。

 

『組織の長としては、当然の事なのだが……雑用までさせられるとは思っていなかった……。正直ヴェルセリア・エルフェインに会わせないように仕向けられているのではないか? と疑ったくらいだ』

 

 結局、探索に出る当日まで何もアクションを起こすことができなかったのだ。面会を果たせぬまま大規模探索に行ってしまってはいつ実現するかわからない。そう思ったバルガスはアリスターに直談判をした。

 

『大規模探索の指揮を執らせてほしい!!』

 

『バルガス……ここはリヴェリアで私の……』

 

『頼む!!』

 

 何度も土下座をしてアリスターを説得し、この日を迎えたのだった――

 

***

 

『聖下都市:アルカイア』未踏域――

 

 エントリーされたランクAの冒険者が30人ほど集まり、計5つのパーティが出来上がった。

 

 【『聖下都市:アルカイア』特別探索パーティ人員募集】と出してから2週間、ギルド長バルガスはこの日を心待ちにしていた。

 

「よく集まってくれた! 皆の衆! 知っての通り俺がギルド長バルガス・アイアンハイドだ!」

 

 冒険者達からはざわついた声が上がる。ギルド長自ら指揮を執ると予想できた者は恐らくいないだろう。

 

 号令をかけた時に、集まった冒険者全員の顔を見渡す。その中に、一番遠くに大きなつばの帽子を被った女性と狼がいた。

 

 顔は見えぬが、いかにも魔術師(スペルキャスター)の装備をしている。

 

(あれだ、あれがヴェルセリア・エルフェインに違いない!)

 

「あれがバルガス……」

 

 できるだけ遠く離れたいと思ったヴェルセリアは、一番後ろに立っていた。

 

「……おかしいわね、リヴェリア支部長が来るんじゃなかったの?」

 

「大方、ギルド長がここに来たいって駄々をこねたんじゃねーの?」

 

 ザークは呆れたように鼻を鳴らす。

 

「……普通、そこまでするかしら……」

 

 ヴェルセリアはため息を吐き、遠目でバルガスを眺めた。

 

 この2週間特に何事もなく穏やかに過ごし、調べ物は捗り美味しいものも食べられた。ルネから買った新しい魔道具の下準備もでき、今日この日を最高の状態で迎えられた。

 

 ザークもその間エレノア達と一緒に簡単なギルドの依頼を受けて、運動不足にならないよう努めていた。

 

 これで暫くの間バルガスの事を気にせず探索に臨めると思った矢先だった。まさかバルガスが指揮を執るとは――だが、考えていても仕方がない。

 

「ヴェル、面倒ごとには巻き込まれたくねぇ、始まったらすぐに移動だ」

 

 嫌な予感がしていたザークは、できるだけこの場から早く移動がしたかった。

 

「わかってるわよ、とりあえずパーティメンバーの顔合わせとルート確認ね」

 

(『禁書』を探すためにこの探索に参加したけれど、この人の多さ……他の人に気付かれずに見つけられるかしら?)

 

 聞いていたとは言え、想像以上の人数が集まりヴェルセリアは少し焦っていた。この大人数が集まる中で、『禁書』を見つける事ができるのだろうか。

 

「ヴェル? どうした?」

 

「うん? 大丈夫よ」

 

 集まる際に配られた各パーティのメンバー表に目を通す。ヴェルセリアのパーティにはエレノアとテオドールも入っていたのを確認したので、どうやら暴れずに済んだようだ。

 

 そして森への侵入ルートは例のイグニスがいるパーティの隣にあたる。隣と言ってもこの広大な森では、なかなか会うこともない。

 

「皆に集まってもらった目的、今回はこのフィールドでのマップ作製である。ここは人工的な森であるから、果てが存在する。そこで5つのパーティでそれぞれ進んでもらいたい」

 

 高さも広さもあるこの未踏域は、人が住む街を2つ足した広さくらいある。エリアマッピングをするだけでも最低1ヶ月はかかると思われる。

 

「注意事項だ! このフィールドは知っての通り地下であり、残念ながら通常の方位磁石(コンパス)が役に立たない」

 

 マッピングをする際、本来なら方位磁石(コンパス)と陽の位置が重要になるのだが、この場にある陽は人工的なものである。明るさは時間で変わるのだが、位置が一切変わらないのだ。

 

「そこで、森の入口すなわち現在いるこの場所を本部とし、この位置を北とする! パーティのリーダーには、本部の位置を固定した定位核(コンパス・コア)を渡しておく。各自出発前に他の支給品と一緒に忘れずに受け取るように!」

 

 魔道具の定位核(コンパス・コア)を使う。親となる核(コア)の位置を示すアイテムで、地下迷宮など通常の方位磁石(コンパス)が役に立たない場所で使われるものだ。

 

「支給品の中にはマッピング用の方眼紙がある。この紙に各地の詳しい状況を書き込んでくれ」

 

 今回の大規模探索の大きな目的はこれだ。この未踏域に何があるのか全くわからないので、冒険者の脚で実際に回りそこで見て来た物、状況などを書き込むのだ。

 

「各員に配られた簡易地図にはそれぞれパーティ毎にルート番号が振られている。番号通り回ってくれ」

 

 この未踏域は東西南北が9K(キルム)四方となっており、1K(キルム)ずつ区切り縦横9ブロック、全体が丸いため全69ブロックで構成されている。その際、東西を横、南北を縦として1から9までの数字で表記し横縦の順に番号を組み合わせ地点番号を構成する。

 

 本部の場合、北の中央に位置するため【5-1】と表記される。

 

「東側から南下するパーティはAとする。西側から南下するパーティをBとする。この2つのパーティがこの森の側面を進み、最終的に南側で合流する。パーティABはそこでゴールとなる」

 

 人工的な森には「側面」と「果て」が存在する。なので壁側を進むパーティはわかりやすいのだ。

 

 パーティABに振られた冒険者達が騒めき、メンバーとルートを確認する。

 

「パーティABの内側を進む東側をパーティC、西側をパーティDとする。この2つは外側から円を描くように進んでいき、最終的に全て埋めればゴールとなる」

 

 パーティCとDはこの探索で一番複雑な順番で回るパーティだ。外側から埋めていき、中心となる場所が最後になる。

 

「最後、パーティEはイグニス率いる『最果ての開拓者(フロンティア)』だ! 一番危険な中央を行ってもらう。中央には目に見えて大きな木がある。あそこには只ならぬ気配がずっとあるからな……細心の注意を払うように!」

 

「……どんな魔獣達がいるかねぇ……楽しみだね」

 

 危険地帯と思われる場所に配属されたにも関わらず、にこにことイグニスが笑っていた。

 

「私たちはパーティDね。堅実にいきましょうか」

 

 ヴェルセリアはここに集まった際に配られたパーティメンバーの一覧と、ルートが書かれた簡易地図を見る。そしてこの簡易地図とは違う別の地図も出した。この地図はギルドへの報告書として提出したものとは別で、ヴェルセリアとエレノアで作成したものだ。

 

 上から見た全体を大まかに描いたもので、ある程度視認できるものは描き込んである。

 

「一度来ている場所だから、私達は少しだけ地の利があるわね」

 

 軽く地図を眺めていたら、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ヴェル姉様~!」

 

 エレノアとテオドールが走ってこちらに向かってくる。

 

「パーティ、同じでしたわね! よろしくお願いいたしますわ」

 

「ヴェルセリアさん、ザークさん、よろしくお願いいたします」

 

「よろしく。……そうね、暴れずにすんでよかったわ」

 

「あはは……それは何よりですわ……」

 

 やはり本気で暴れる気だったヴェルセリア。

 

 エレノアとテオドールに挨拶をしていると、後ろから初々しい声がかかる。

 

「あ、あの! パーティDのメンバーの方ですか? よ、よろしくお願いします!」

 

 振り返るとパーティDのメンバーになる3人が立っていた。メンバーは、治癒士(ヒーラー)、盾撃士(ストライカー)、射手(アーチャー)である。

 

「私、治癒師(ヒーラー)のフィオナ・セレスティアと申します。先日、ランクAになったばかりでして……足手まといにならないよう、頑張ります! (皆さん強そう……)」

 

 栗色の髪に瞳の色は赤茶、可愛らしい顔立ちで治癒師(ヒーラー)という職業柄いかにも癒し系な小柄な女性だ。なにやら小声で呟いており、心の声が漏れているようだ。

 

「俺は盾撃士(ストライカー)のシオン・ナイトフォール だ。ランクAになったのは1年程前、体の丈夫さとシールドの強さは自慢だから前衛は任せろ!」

 

 重厚なアーマーに大きなシールドを持ち、ヘルムから覗く髪色は銀髪。大柄だが優し気な蒼い瞳をしており、お兄さんタイプな男性だ。

 

「私は射手(アーチャー)のクレア・ベネットだ。見た通り森エルフ(ウッドエルフ)、まぁ貴方達よりずっと年上だから経験値はあると思うよ」

 

 軽装で背中には弓と矢を背負っており、髪色は茶髪、サファイアの瞳に肌の色は健康的な色をしており、ヴェルセリアとは違うエルフだ。

 

「剣士(ソードシーカー)のテオドール・ヘイズと申します。こちらのお嬢、エレノア・スターリングの守護者(ガーディアン)を務めております。よろしくお願い致します」

 

「エレノア・スターリングですわ! 魔術師(スペルキャスター)兼、秘宝探求家(トレジャーハンター)ですわ!」

 

「エレノア……さん? (きゃー! エレノアさんに、て、て、テオドールさん!!) もしかして、この未踏域を発見された方、ですか? (知ってるけど聞いてしまった……)」

 

 フィオナが小刻みに震えながら聞いてきた。声にならない声がうるさい。

 

「そうですわ! 私だけではなく、ヴェル姉様もいますわ!」

 

 エレノアはちらりとヴェルセリアに視線を送る。

 

「……ヴェルセリア・エルフェイン、魔術師(スペルキャスター)よ。エレノアと未踏域(ここ)の共同報告書を出したわ。こちらは私の『オトモ』の『ザーク』。喋れる子だから意思疎通はちゃんとできるわ」

 

「……ザークだ、基本的にヴェル以外は守らねぇからな」

 

 舌舐めずりをしながらヴェルセリアの隣で鼻息を荒くする。

 

「……本当に喋った」

 

「わぁ、不思議! お喋りできるなんて!」

 

「ヴェ、ヴェルセリア、さん……! (こんな近くで……!)発見者が2名ともうちのパーティにいるのは心強いな! それに『オトモ』の狼まで!」

 

 シオンがヴェルセリアを見て少し照れたような顔をする。ヴェルセリアの事を前から知っているようだ。

 

「犬、よ。魔術で喋らせているだけよ。私以外に懐かないから気を付けなさい。それと、名前は呼び捨てで構わないわ」

 

 畏(かしこ)まった話し方をしていたのが気になったヴェルセリア。少なくとも1ヵ月は行動を共にするので、遠慮はしてもらいたくないと思っている。

 

「へぇ……あんたが噂のハイエルフと狼」

 

 ヴェルセリアとザークを頭から足先まで見るクレア。

 

 クレアはヴェルセリアを一目見ただけでハイエルフだと見抜く。

 

「どんな噂か気になるところだけど……『外』の世界でエルフに逢えたのは久しぶりだわ! よろしくね」

 

 冒険者をしていても、あまりエルフに出会う事はない。会えたとしても、ルネのようなハーフエルフくらいなのだ。

 

 そっと手を取り微笑みを向けながら握手をするヴェルセリア。

 

「っ! ……聞いてた噂とはイメージが少し違うな」

 

 いきなり距離を詰められ、握手をされると思わなかったクレアは少し動揺する。

 

「? どんな噂だったのかしら?」

 

「もっとこう……強そうな……」

 

「まぁ、実際私は強いわよ?」

 

 胸に手を当て、ウィンクをしながら自信たっぷりに応える。

 

「あーもー……これだからハイエルフは好きになれないんだ……自信満々なところとか……人を見下してるところとか……」

 

 腕を組みトントンと足を鳴らして苛立ちを示すクレア。だがヴェルセリアはそんなクレアに対して優しい眼差しを向ける。

 

「見下してはいないけど……自信があるならいいことじゃない? 貴女だって弓が得意なのでしょう? それにとても努力をしている」

 

「あんたに何がわかるって……」

 

「その指、マメができてるわ。昨日今日できたものではなく、日々の鍛錬の成果って感じね」

 

 被せ気味に微笑みながらヴェルセリアは答える。先程の握手でクレアの手に触れた時に気が付いたのだ。

 

「……! あんた、ちょっと……変わったハイエルフだな」

 

「……? そうかしら?」

 

 クレアは少し頬を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 

 その様子を隣で見ていたザークは、またヴェルセリアの人たらしが発動したと少し呆れていた。

 

 クレアがヴェルセリアに対して『ハイエルフ』だと断言をした事で、エレノアがそっと近付き話しかける。

 

「……ヴェル姉様、ハイエルフでしたの?」

 

「あー……別に隠していた訳じゃないわ。誰も指摘しなかったから……」

 

 少しバツの悪い顔をするヴェルセリア。

 

 エレノアとテオドールは初対面ではないのにも関わらず、知らなかった事に驚いている様子だった。

 

「教えてくださればよかったのに……」

 

「教えたところでエレノアは私に対して何か変わるかしら?」

 

 エレノアは顎に手を添え少し考え、ヴェルセリアを真っすぐ見つめた。

 

「……変わりませんわね」

 

 そう答えたエレノアに、ヴェルセリアは笑顔で抱きついた。

 

「ヴェ、ヴェル姉様!?」

 

「貴女のそういう所、好きよ」

 

 その様子を見ていた他のパーティメンバーは――

 

「ハイエルフが……人間に抱きついて告白? だって!?」

 

「女子同士いいなー」

 

「(はわわ! え、エレノアさんとエルフさんが! う、美しいです!)」

 

「お嬢、お友達ができてよかったですね」

 

「……ヴェルの距離感おかしいだろ……」

 

 と、出発前から和んだ空気が流れていた。

 

「そ、それより! パーティリーダーはどなたがやりますの?」

 

 メンバー全員を見渡し、エレノアが聞いてくる。ちらりと見てきたので、察したヴェルセリアは先手を打つ。

 

「期待しているわよ、リーダー」

 

 ヴェルセリアは腕を組みにっこり笑ってエレノアをリーダーと呼ぶ。

 

「はい!? ヴェル姉様がリーダーではなくて?」

 

 はぁ、とため息を小さく吐くヴェルセリア。

 

「……支給品を受け取りに行きたくないのよ」

 

「またそんな事で……それならテオにお願いしますわ! テオなら立派にリーダーを熟(こな)せますわ」

 

「私……ですか? メンバーの皆さんの意見は聞かなくて良いのですか?」

 

 他3人の方を見るテオドール。

 

「別に私は構わない」

 

「わ、私も良いと思います! (テオドールさんがリーダー! ピッタリです!)」

 

「俺もリーダーって柄じゃないから任せるぜ」

 

「……わかりました、僭越(せんえつ)ながら私がリーダーを務めさせていただきます」

 

 テオドールが軽くお辞儀をし、拍手が起こる。

 

「時間が惜しいわ。受け取るものは受け取って出発しましょう」

 

 早くこの場を去りたかったヴェルセリアは促す。

 

「わかりました、すぐに」

 

 テオドールが本部へ定位核(コンパス・コア)と支給品を受け取りに走って行く。

 

 ヴェルセリア達のパーティDはこの6人と1匹で出発をする事になった。




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