『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第35話【それぞれのパーティ】

 それぞれのパーティが出発していき、本部には数人の元冒険者のギルド職員とギルド長バルガスだけが残された。手が空いている者は簡易的な櫓(やぐら)の設営準備をしている。

 

 だがバルガスは――

 

「はぁ……(俺も参加したかった……パーティDのリーダーにはヴェルセリア・エルフェインが来ると思ったのに違う奴が来るし……)」

 

 大きなため息とぶつぶつと何か呟いている。

 

「? 何か言いました?」

 

 支給品の配布所を片付けながら、ローワン・フロストボーンが聞き返す。ローワンは元冒険者のギルド職員だ。剣士(ソードシーカー)で、今回の大規模探索では職員の中でも戦える者として選抜された1人だ。

 

「いや……なんでもない」

 

 先程まで冒険者の前で語っていた力強さが感じられないほどしょげている。

 

「……ギルド長、まだ言ってるな」

 

 こそこそとコルネット・ダスカットがローワンに耳打ちをする。コルネットも元冒険者の剣士(ソードシーカー)だ。こちらもギルド職員の中から選抜された1人だ。

 

「何が?」

 

「今回の探索、ギルド長も初めは参加するって言ってたらしい」

 

「いやいや、それはダメだろ」

 

 手をパタパタと振り、笑うローワン。

 

「……って、アリスター支部長に怒られたらしい」

 

 コルネットも半分笑いながら話す。

 

「そりゃそうだろな……」

 

「で、参加は諦めたけど大規模探索の本部に参加、って事で折り合いをつけたらしい」

 

「あー……だからアリスター支部長がいないのか」

 

 本来なら、この『アルカイア』を管轄しているギルドの支部長が率先して指揮を執らねばならないが、バルガスが参加を強く希望していたと言う事でアリスターはリヴェリア支部で留守番となった。

 

「そう言えば今回、発見者の2人が参加しているんだよな」

 

「エレノアさんとヴェルセリアさんだろ? 2人ともランクAに到達するまでのスピードがやたら早かったって聞いてるぞ、特にヴェルセリアさんは」

 

「女性なのにすごいよな……おまけに美人だし」

 

 少し顔を緩ませ、腕を組みながら頷くローワン。

 

「そうそう、エレノアさんはまさにお嬢様って感じで、いつも隣に守護者(ガーディアン)のテオドールさんがいるよな。守られてるお嬢様、隙がないねぇ」

 

 顎を触りながら語るコルネットは、エレノアについてそこそこ詳しい情報を持っているようだ。

 

「ヴェルセリアさんはマジで美人だよな……スタイルもバツグンだし……いつもデカい狼連れてて、あの狼が羨ましいよ……いつも撫でられててさ。知ってるか? ギルド本部ではヴェルセリアさん推しの受付嬢が大勢いるんだってよ」

 

 ローワンはヴェルセリアを推しているようで、最近のギルド内情報も把握していた。

 

「受付嬢が? 女性にも人気があるのかよ……」

 

「なんでも、ヴェルセリアさんに直接微笑みをかけられたら全員落ちるらしいぞ」

 

 ギルド本部の受付嬢からの話であろう情報に、少し脚色がついているようだ。

 

「く~! 俺もその笑顔見てみてぇ~!」

 

 ローワンとコルネットがヴェルセリアの話で盛り上がっているその時、背後から恨めしそうな顔をしたバルガスが声をかけてくる。

 

「……ヴェルセリア・エルフェインはそんなに美人なのか……?」

 

「うわ! ギルド長! ……ヴェルセリアさんを見たことないんですか? 新聞にも載ってましたし、先程いましたけど」

 

 あれだけ有名になってしまったヴェルセリアの顔すら見たことがないのが信じられないコルネットは、先程全員の前に立っていたバルガスに煽るように言ってしまった。

 

「……新聞を読む時間すら与えられず準備をしてきたからな……それに何故か面会しようにも会えなくて……さっきも帽子で顔が見えなかった」

 

「……きっとこの探索が終わったら会えますって」

 

 少し気の毒に思ったローワンは慰めるように言った。

 

「ギルド長! ローワン! コルネット! 喋ってないで櫓の設営、手伝ってください!!」

 

「おっと! 行くぞ、コルネット!」

 

 他のギルド職員から怒号が飛び、それぞれ作業に戻って行く。

 

「はぁ……」

 

 ここまで会えないのは何かの呪いがかかっているのか? と、疑い始めたバルガスであった。

 

***

 

 それぞれのパーティが持ち場に散開していった。

 

 今回の大規模探索の目的は、この未踏域のフィールドマップ作成だ。なので、ただ森を歩くのでは目的は達成されない。

 

 定位核(コンパス・コア)と同時に支給された方眼紙に記録を取るのだ。

 

「記録を取るから止まりなさい」

 

 本部を基準とした数値が定位核(コンパス・コア)に表示され、離れた分だけ書き込む。

 

「周りの警戒を怠らぬよう、気をつけてください。クレアさんは高所からの警戒をお願いします」

 

 テオドールが指示を出す。

 

「わかったよ」

 

 クレアは軽い身のこなしで木の上に上がっていく。パーティDは始めから道のない森の中をひたすら進んでいくため、魔獣が潜んでいる可能性が高く緊張を強いられる。

 

「フィオナ、俺からあまり離れないでくれ。君が斃(たお)れたらこのパーティは全滅してしまうからな」

 

「は、……はい!」

 

「『ザーク』、周囲に異変があったらすぐに知らせなさい。ここは貴方の鼻が頼りなのよ」

 

 方眼紙に書き込みながらザークに声をかけるヴェルセリア。

 

「わかってる。ただ、俺がいるから小物は簡単に寄っては来ねぇよ」

 

 舌舐めずりをしながら、耳を立て鼻をピクピクさせ警戒するザーク。

 

 魔獣連れ専用の宿屋での事を思い出す。ザークがいると、他の宿泊客の魔獣達は近くを歩く事すらしなかった。

 

 ザークから発せられる魔力が、他の魔獣には警戒すべき対象として認識されるのだろう。

 

「小物は寄ってこねぇが……逆に強いやつは寄ってくるからな」

 

 ヴェルセリアのマッピングをする手が止まる。

 

「ちょっと……不穏な事を言わないでよ」

 

 ザークのその言葉で他のメンバーにも緊張が走る。

 

「……ここは12時間毎に陽が昇って沈むを繰り返してますわ。前回発見した時にそこは確認したので確実……ただ、陽の傾きがないので今がどれくらい時間が経っているかわかりませんので、初日は余裕をもって野営の準備をしましょう」

 

 エレノアが全員に注意喚起をする。初日は特に気をつけねばならない。

 

「それなら……集合した時より確実に光量が落ちてる。日没へ向かっていると思うよ」

 

 クレアは木の上から見上げ、確認する。その言葉を受けて、フィオナは手元の時計を見て考える。

 

「外との時間差はあまりなさそうですね。誤差1時間弱くらいでしょうか」

 

「あと、ここは外と違って極端な季節が存在してないかもしれないな、草木がやたらとデカい」

 

 シオンが周りの木々をぐるりと見て感嘆の声を上げながら言う。

 

 中央大陸『ラクリア』は北方と南方で差はあれど、四季がある。冬に明確な休眠があるため、木々の成長は一定ではない。

 

 しかしこの森は外気の影響が少ない。明確な雨など気象現象は無いが水は地上からの雨が地面に染み込み、時折上から水が落ちてくる。壁をつたって地下水となったものが流れているので、全体的に水は豊富だ。気温の変化が大きく無いので休眠がなく、1年中成長し続けるため巨木と化している。

 

「調べれば調べるほど地上とは違うわね……面白いわ」

 

 ヴェルセリアは木の幹を触りながら、地上に生えている木との差を感じる。

 

 その時――

 

 遠くで低く響く音が聞こえてきた。

 

「……始まったな」

 

 木の上からクレアは音のする方向を見ている。どこかのパーティが何かと戦闘を行っているようだ。

 

 全員の緊張が高まる。

 

***

 

「ねー、まだかかるの?」

 

 パーティE 『最果ての開拓者(フロンティア)』。イグニスが倒れた古木の上に座り、マッピング作業をしている魔術師(スペルキャスター)の男性、ローランド・オブシディアンに声をかける。

 

「イグニス、今回の目的はマッピング作業と探索ですよ。この作業を怠っては目的達成にはなりませんから」

 

 ローランドの髪はダークグレーで少し癖があるが、短めに切りそろえ清潔感がある。薄紫の瞳には眼鏡がかけられ、くいっと指先で持ち上げマッピングをする手を止めずにイグニスに答える。

 

「だって暇なんだもん。中央は一番危険な場所とか言っていた割に、随分と静かな森じゃないか。魔獣達は寝てるのかなぁ」

 

 まるで魔獣と遭遇したいと言わんばかりの台詞だ。

 

「夜行性かもしれんな……それはそれで気が休まらないが」

 

 そう静かに答えるのは守護枢(フォートレス)の男性、アルドリック・ソルフレアだ。

 

 ヘルムから覗く髪色は赤、切れ長の瞳は暗めの赤、鋭いがその奥には優しさを秘めている。大柄の身体はまるで城壁のような鉄壁の護りを表している。周囲を警戒しつつ、森の中を飛び交う鳥達の様子を見ている。

 

 自然豊かなこの森では、見かける動植物の姿形が少し違う。独自の進化を遂げたのだろう。

 

「も〜イグニスは好戦的だから困るニャ。付いていくこっちの身にもにゃってほしいニャ」

 

 イグニスの隣で語尾に「ニャ」と付けるこの女性は、格闘家(モンク)のメイプル・ペンドルトンだ。瞳はエメラルドグリーン、毛並みは茶虎の猫の獣人だ。

 

「だって体が鈍るだろ? メイプルだって少しくらいは暴れたいよな?」

 

 イグニスはメイプルの頭を猫のように撫でる。

 

「長丁場ににゃりそうな探索ニャよ? いきにゃり大物が出てきたら先が思いにゃられるニャ」

 

 やれやれと、首を振るメイプル。好戦的なのはイグニスだけのようだ。

 

「そうですよ、とにかく今回は全員が無事に探索を終える事が大事ですからね」

 

 アルドリックの後方にいる治癒師(ヒーラー)の女性、金の長めの髪は緩めの三つ編みに結い、優し気に皆を見る瞳は青、リリア・コールウェルがメイプルに賛同する。

 

 その時――

 

「! 西側のパーティで戦闘が始まったみたいよ」

 

 木の上から警戒していた射手(アーチャー)の女性、褐色肌に艶のある黒髪、金の瞳のコーデリア・エレサールがパーティメンバーに告げる。

 

「いいなぁ……俺達も戦いたいな」

 

「俺『達』じゃないだろ……頼むから、自分から魔獣に突っ込むような事はしないでくれよ、イグニス……」

 

 アルドリックは祈るような思いであった。

 

 ここにいるパーティEのメンバーは、寄せ集めではなく今一番ギルド内で有名なイグニス率いる『最果ての開拓者(フロンティア)』だ。

 

 ランクSのイグニスが在籍しているため、国からの依頼も多く普段はあまりギルドに顔を出すことはない。

 

 今回は全ギルド挙げての大規模探索なので、一番に声がかかったのだ。

 

「……でもさ、ここ、なーんかいるよね」

 

『!!』

 

 そのイグニスの言葉に全員が警戒をする。

 

 イグニスは魔獣など、敵となり得るものの気配を察知する能力がズバ抜けて高いのだ。

 

「でも……うーん残念、まだだな」

 

「まだ……?」

 

 イグニスは地面に掌を当て、地面の下を魔力感知している。

 

「うん、まだだ」

 

「……やはりこの場所は我々が任されただけの事がある場所か……」

 

 アルドリックは周囲への警戒を更に強める。ここは未開の地、何が起きるかわからない。

 

***

 

「本日はここを野営地にしましょう」

 

 テオドールが皆に声をかける。森の中、少し開けた場所を今日の野営地と決め、初日と言う事で作業を早めに終わらせた。

 

「……本日の進捗はルート番号1の地点番号4-2を作成、特に異常なし……と」

 

 エレノアが小さなメモを書いていると、フィオナが声をかける。

 

「な、何をされているのですか? (どきどき)」

 

「今日の日報ですわ」

 

 そう言うと、エレノアは支給品で配られた掌より少し大きめの魔道具『鳥籠』を手に取る。

 

「これは『鳥籠』と言って、入口を開けると……」

 

 中から小鳥サイズの梟(ふくろう)が出てきて、エレノアの指先にちょこんと乗ってくる。

 

「わぁ……かわいい」

 

「魔術で出来た梟ですわ。この子に日報を持って行ってもらうのですのよ」

 

 梟の足には小さな筒がついており、先程のメモを入れてエレノアは飛ばした。宵の口の藍色の空に梟は溶けるように羽ばたいていく。各パーティに配られた梟を通して、本部は進捗を把握するのだ。これも大事な作業の1つだ。

 

「これから毎日あの子には日報を持って行ってもらいますわ」

 

 一方、ヴェルセリアは野営地のその周りを囲むように、スタッフの先端で地面に線を大きく描いていく。

 

「……よし」

 

「ヴェルセリア、これは?」

 

 クレアが不思議そうな顔をして聞いてくる。

 

「防御結界よ。夜は交代とは言え見張りで起きてるのは大変でしょう? 少しでも皆が休めるように、ね」

 

 ヴェルセリアはスタッフを一回転させ地面を突く。

 

 カッ……シャンッ!

 

「万象を統べる理(ことわり)よ、此(こ)の空間に不可侵の境界を刻め。荒ぶる魂の咆哮を遮り、秩序なき力を静寂の檻に封じ込めよ。天を仰ぐ門、地を這(は)う鎖、あらゆる逃路(とうろ)を断絶し、我が意志の結節を以(も)て、永劫の拒絶を此処(ここ)に示さん」

 

 描いた線が眩い光を放ち、野営地を取り囲む形で防御結界が張られた。

 

「これで魔獣が出たとしても簡単には入れないわ。内側からは出れるけど、外側からは解除しない限り入れないから気を付けなさい」

 

「ヴェルセリアさん、ありがとうございます」

 

 全員の体調などを聞いて回っていたテオドールは、ヴェルセリアの元に近付き礼を言う。

 

「テオ、貴方も少しは休みなさい。気を張りすぎですわよ」

 

「お嬢も、……ありがとうございます」

 

 テオドールはリーダーとして周りに気を配り、よくやっていた事をエレノアは見逃さなかった。

 

 この2人は良いパートナーだなと、ヴェルセリアは温かい目で見ていた。

 

 照明魔術をいくつか焚き、各々マジックバックから『冒険者ご飯パック』を取り出し食事を摂る。

 

「緊張状態が長かったから、疲れたなー! 探索している時は食事が唯一の娯楽だな」

 

 シオンはアーマーを緩め、食事に手を付ける。体力を一番使う盾撃士(ストライカー)なので、食事内容はタンパク質多めな肉が中心である。

 

「これが続くとなると、思った以上に疲労が溜まりそうね」

 

 高所からの見張りばかりだったクレアは、肉と野菜が入ったバランスの良い食事と、魔力回復用のお酒を少し。

 

「この状態が続くようでしたら、休憩を増やしながら進んだ方がいいかもしれませんね(皆さんお疲れ様です)」

 

 今日の出番はほぼなかったフィオナの食事は、魔力回復を促すハーブがふんだんに使われたサラダにスープ、チーズが挟まったパン。

 

「お嬢、好き嫌いせず食べてください。何があってもすぐに動けるよう体力をつけていただかないと」

 

「テオも! しっかり食べないと倒れますわよ」

 

 エレノアとテオドールは同じメニューを一緒に食べる。それぞれが必要としているタンパク質と魔力回復を促す食材が入っている。

 

 一方、ヴェルセリア達は極端だった。

 

「うまい!」

 

 ザークは跳ねる馬蹄亭(ギャロップ・イン)のマルドに作ってもらった、特製肉マシマシ弁当を食べていた。警戒ばかりしていたので疲れていたのか、食が進む。

 

 ヴェルセリアは同じくマルドにお願いして作ってもらったオリジナルの野菜と果物弁当を食べていた。その中に肉はほぼ入っていない。

 

「ヴェル、そんなんで足りんのかよ? 肉食わねぇと体力もたねぇぞ」

 

「あら、野菜にもタンパク質が含まれている物もあるわよ?」

 

 そんな会話をしながら、束の間の休息をとるメンバー達。

 

 そんな姿を遠くから視認はできずとも、光を覗いている者がいた。

 

「1、2、3……4、5……どのパーティも野営しているな。とりあえず全滅はしていないようで安心したぞ」

 

 本部に櫓(やぐら)が立ち、上から双眼鏡で確認をしているバルガス。何かがあれば駆け付けられるよう、準備をしていた。

 

「ギルド長、各パーティから梟が来ました!」

 

 コルネットが櫓に立つバルガスに向かって声をかける。先程飛ばした日報を持った梟が本部に到着したようだ。

 

「各パーティの進捗はどうだ?」

 

「A、C、D、Eは異常なし、Bのみ魔獣との交戦があったようです」

 

「そうか、大きな問題はなさそうだな」

 

「それよりギルド長も食事にしましょうよー!」

 

 声をかけるコルネットの声が疲れている。今日は本部の設営、櫓を組んだりと、体力を使う事が多かったのでヘトヘトだった。

 

「あぁ、今行く。今夜から交代で夜の見張りもやらねばな」

 

「それ必要なんですか? 正直、どのパーティもランクAだから大丈夫だと思うんですけど……」

 

「なにを言っている! 手に負えない何かが出てくるかもしれないだろ!」

 

「……そうですか……(自分が行きたいだけじゃないのか?)」

 

 それぞれが何かを思いながら夜は更けていくのであった。




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