『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「盾よ、不変の
シオンがシールドを前に出し、守りの詠唱を唱え剣を構える。それと同時にザークが遠吠えをする。
「アオオォォォォォーン!」
ザークの前に氷柱のように尖った氷の塊がいくつも出現する。
遠吠えに反応したヘルハウンドが一斉に飛び出してきた。
「っはぁ!!」
シオンは盾を前に、突くように斬りかかる。
ヘルハウンドは大きく避け、他の個体が横から突進してくるが、すかさずシオンは構え直す。
鈍い激突音とともに、重い打撃がシオンのシールドに圧し掛かる。動きが鈍くなったその個体目がけてザークは氷の塊を放つ。
「ギャンッ!」
ヘルハウンドは悲鳴のような鳴き声を上げ、追い打ちをかけるように、ザークの牙が襲う。
別の個体のヘルハウンドの口元には種火が見え、回り込むようにザークに向かっていく。それに気付いたクレアが、弓を構え詠唱を紡ぐ。
「
構えた矢に氷の魔術が宿り、冷気が漂う。狙いを定め、クレアは放物線を描くように矢を放つ。上から叩きつけるようにヘルハウンドへと突き刺さると同時に、その体内が急速に凍結し、鋭利な氷刃が内側から身体を強引に突き破った。
「キャンッ!」
悲鳴を上げヘルハウンドは絶命し、その体は空間に溶けるように消えてゆく。
「余計な事するな! 俺が倒す!」
ザークの近くにいたヘルハウンドを倒したのがクレアだったため、怒りを露わにする。
「そんな事言ってる場合じゃないだろ! 次来るぞ!」
クレアはすぐさま弓を構え、2射目を準備する。その言葉の通りヘルハウンドがまとめて近づいてくる。今度は統率の取れた動きで、前衛を作り迫ってくる。その動きを崩すために、クレアは複数の矢を放つ。
「散りな!」
ヘルハウンドの進む方向を妨害するように、矢を落としていく。進行方向を先回りする形で矢が落ち、ヘルハウンド達の動きが乱れる。
「1匹ずつ確実に倒しましょう!」
テオドールが声を上げる。その傍らでは、エレノアが詠唱を紡ぐ。
「
テオドールの持つ剣がキラキラと冷たく輝き、氷の魔術が宿る。
「テオ! 行きなさい!」
「お嬢、ありがとうございます」
テオドールがエレノアに礼を言うと同時に走り出す。剣の切っ先を地面すれすれに構え、走りながら強化魔術の詠唱を始める。
「大気を巡る迅雷よ、我が四肢に宿りて時を追い越せ。肉の檻を脱ぎ捨て、刹那を駆ける閃光と成れ。思考の先を行く拍動を
詠唱と同時にテオドールの身体を光が包む。
中央にいる、全体の指揮を取っていると思われる一回り大きな個体目がけてテオドールは剣を構えた。
掬い上げるように地面から上に向かって電光石火の如く素早い動きで斬り上げた。近付かれているのに気付かないヘルハウンドはそのまま宙を舞う。切った場所からはエレノアの魔術付与で与えられた氷の魔術が発動し、急速に凍結しながら、その肉体を容赦なく侵食していく。
「はぁッ!」
宙を舞ったヘルハウンドを今度は上から地面に向かって突き刺し、トドメを刺す。更に氷が生え、砕けるようにして空間に溶けていく。
その個体が倒された事に気付いた他のヘルハウンド達は、更に動きに乱れが出た。やはり先程テオドールが倒した個体がヘルハウンドの群れのリーダーだったようだ。
リーダーを失ったヘルハウンドの動きは先程とは違い、バラバラになっていくが逆に動きが読みづらくなる。だが隙が多くなり、群れから外れた個体に狙いを絞っていく。
「さっきと動きがまるで違うな!」
ザークが攻めていく。逃げるヘルハウンドを先回りして1匹ずつ確実に潰していく。
「数は多いけど、なんとかなりそうね」
後方でフィオナと共に全体の様子を見ているヴェルセリア。精霊を呼び、その身に纏わせているといつもとは違うノイズのような何かの声が聞こえてくる。
だれ……がい
あのば……して
……をかい……あげて
「……なに? この声は」
「ヴェルセリアさん! ……これは……(こわい……)」
墓石の周りに精霊とは違う、何かの光が舞っている。声はこの光から聞こえてくる。
「これは……死者の魂? ……そう、ヘルハウンドはこれを狙っているのね」
ヘルハウンドは冥界の番犬、死者の魂が現世にあるのなら連れて行かねばならない。
本来ならそれが自然の流れであるのだが、ヘルハウンドの数は50ほどいる。この数が来るのはおかしい。そしてこの墓地の周りに植えられたこの花、魔獣避けというよりヘルハウンドを避けるために植えられたものなのかもしれない。
「……なにか理由がありそうね」
墓地内にヘルハウンドを入れないよう、ヴェルセリアは周りを見渡す。
先程まではワンドで魔術を繰り出していたが、ヘルハウンドの数が多い。この数を相手にするにはワンドでは限界だ。
ワンドやスタッフなどのいわゆる杖は、魔力調整をするための物で、魔力消費が大きい魔術を使うならワンドよりスタッフの方が向いている。
ヴェルセリアはワンドをしまい、右手を前に出し言葉を紡ぐ。
「虚空を越えよ、鋼の魂。封印の楔を解き、今こそ
右手のブレスレットに嵌められた赤い魔石が輝き、ヴェルセリアの手にはスタッフが握られる。一回転させ地面を突く。
カッ……シャンッ!
涼やかな鈴の音と共に場の空気が変わる。エメラルドの瞳に魔力が宿り、輝く。そして詠唱を紡いでいく。
「大気に漂う滴よ、極寒の戒めを
バラバラに動き始めたヘルハウンドの中心に向けて、氷の刃が上から降り注ぐ。人工太陽の光に照らされ、落ちる氷の刃がキラキラと輝く。
何匹かのヘルハウンドに命中し、悲鳴のような声が上がった。逃れたヘルハウンドに向かってザークが鋭い爪で襲い掛かり、牙でとどめを刺しに行く。
「貴方達の邪魔をする気はなかったけど、降りかかる火の粉は払わせてもらうわ」
元の狙いはこの墓地の死者の魂だが、今はヴェルセリア達を襲い掛かってくる。それならば全力で戦うしかない。
エレノアはワンドを構え、詠唱を繰り出す。
「大気を翔ける精霊よ、我が意志の刃と成れ。千の断裂を以て虚空を刻み、形なき銀閃よ、
エレノアの周りに風が渦巻き、鋭い風切り音がする。目に見えぬ風の刃がヘルハウンドを襲う。察したヘルハウンドは、素早い動きで避けていく。
「くッ! テオ!」
「ハァッ!」
エレノアの攻撃を避けたヘルハウンドを、テオドールが薙ぎ払うようにして倒す。2人の攻撃の連携は流れるように決まる。
確実にヘルハウンドの数を減らしていくが、元の数が多いため墓地を取り囲むようにして、ジリジリと距離を詰めてくる。
「まだ数が多いな……っと!」
シオンがいる方へ、ヘルハウンドは大きく回り込み突進してくる。凄まじい勢いで突進してきたヘルハウンド達がシールドに衝突し、鈍い衝撃音が響いた。
「ぐッ……おおぉ!!」
シオンは衝撃で後退するも、シールドを押し返しその突進を真正面からねじ伏せた。だが、安心したのも束の間、シオンのシールドに別のヘルハウンドが体当たりを繰り返す。強化魔術をかけていても、ヘルハウンドの力が強くよろけてしまう。
「……っ!」
「シオン! 後ろ!」
ヴェルセリアが声を張り上げ注意をする。
「え……!?」
振り返る直前、ヘルハウンドが背後から迫る。大きく口を開けたヘルハウンドが、シオンの剣を持つ右腕に噛み付く。
「うわッ! コイツ!! ……くッ!」
腕を持って行かれそうなくらい強い力で噛み付かれ、振り解こうにも動かない。
「……っ! 行きなさい!」
ヴェルセリアは太ももに装備したベルトからプッシュダガーナイフを抜き、シオンに噛み付いているヘルハウンドに向けて投げる。ルネが言っていた通り投げる直前に魔力を込め、標的を見据えてから放つと真っ直ぐに飛んで行った。
標的に刺さると、そこから強い風が巻き起こり風の刃がヘルハウンドを容赦なく引き裂く。事前に風魔術を封じていたのだ。
あまりにも強い風だったため、シオンも軽く吹き飛ばされ、勢いよく地面を転がった。
「うわぁ!」
「……あっ! ……シオン、大丈夫……?」
準備期間中にプッシュダガーナイフの練習をしていたが、実戦で使うのは今回初めてだったため予想以上の威力が出てしまった。的に当てて練習していたが、人に噛み付いた標的に投げるとは想定していなかったので、込めた魔術は強すぎたようだ。
「あぁ……助かった……けど、俺じゃなかったら怪我してたな……」
「……ごめんなさい……まだ慣れていなくて……」
シオンは体勢を立て直し、頭を左右に振って前を見る。ザークがシオンの目の前を風のような速さで駆け抜け、火を吹こうとしているヘルハウンドに襲いかかった。
「ボーッとしてるとやられるぞ!」
「……なんだよ、ヴェルセリアだけを守るんじゃなかったのか?」
顔合わせをした時に、ザークが言っていた事をシオンは思い出していた。
「……ヴェルがお前を守ったからだ!」
「へぇ……随分と主人に忠実な狼なんだな」
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