『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「しかし、この狼……大変興味があるのですが……」
ローランドがザークを舐めるように見る。
「なんだコイツ……気持ち悪ぃな……」
ザークは唸り声を上げながらローランドを睨みつける。そしてザークの隣では腕を組み、不機嫌極まりない表情のヴェルセリアが立っていた。
「なんと! 人語を話す事ができるのですね! ますます興味深い……」
ローランドはザークに近付き、更にジロジロと観察をする。
「クレアとの話はいい感じにまとまったみたいだけど、私との話は終わってないわよ……それにこの子は私のよ、勝手に観察しないでもらえるかしら?」
ザークを背に回して少しでも見えないようにする。そして、じわじわと静かな怒りのオーラを放つ。
ヴェルセリアの話とは、ワンドを使わずに森に炎を放った事だ。
「だから、あれは……はぁ、これだからハイエルフは……」
説明しようにも、目の前のヴェルセリアは怒りの感情を剥き出しで取り付く島もない状態だ。
「さっきはエルフと言って今度はハイエルフ? なに? まさかここで人種差別する気?」
そして更に怒りに触れてしまったようだ。ヴェルセリアはローランドを睨みつけ、眼光が鋭くなる。
ローランドはメガネを持ち上げ、ヴェルセリアに向き直る。
「人種差別をするつもりは毛頭ありませんよ。ただ、私の師匠はハイエルフだったので――」
『コラァ! この馬鹿弟子! 森を感情で焼くなって何度言えばわかるんだ! 今度はお前を焼いてやろうか!?』
「――と、大変厳しい方でした。……昔同じような事を言われたのを思い出しただけです……あ、思い出しただけで頭痛が……」
眉間に皺を寄せ、指先でトントン突つく。余程嫌な思い出なのだろう。
「それに……なぜか貴女は師匠によく似ている。そのエメラルドの瞳なんてそっくりだ……」
ローランドは嫌な顔をしてヴェルセリアをチラリと見る。
「ハイエルフでエメラルドの瞳は珍しいな。ほとんどのハイエルフはアクアマリンかサファイアの青系だよ。それでなくても私含めた
そう答えたのはクレアだった。エルフという人種をよく知る人物からの言葉なだけに、信ぴょう性が高い。
「もしかして……ローランドの師匠はヴェルセリアの親戚なのかもしれないな」
クレアは悪戯っぽい笑顔でヴェルセリアを見る。だが、言われたヴェルセリアの表情は明るくはない。
「……私の親戚なんていないし、周りの人は皆青の瞳だったわ。他人の空似よ。それにしても……貴方の師匠はよく見ているわね。炎魔術は己の力をそのまま表すもの、力を誇示する魔術師はド三流よ」
その言葉を聞いたローランドは膝をついて項垂れる。
『もし力を誇示するためだけに魔術を使うようなら、お前はド三流の
「ド三流……師匠と全く同じ事を……ハイエルフは皆こんな人ばかりなのか……」
どうやらローランドの師匠はヴェルセリアに似た人らしい。思い出して何やら落ち込んでいるようだ。
「心外ね、そう思われる自分に非があると思わない訳? これ以上話しても無駄ね。それと、マッピング中なのだから地形や景観を大幅に変えるような事はしないことね」
腕を組み、ローランドを見下すヴェルセリア。この口喧嘩はヴェルセリアの勝利のようだ。
「それと、もう一つ……」
ヴェルセリアは足下に視線を落としイグニスの方を向き、指をさす。
「貴方達、パーティメンバーでしょう! いい加減この全裸男をなんとかしなさい! 目障りだわ!」
先程から全裸のまま剣を持って立っているイグニス。
「えー? 俺?」
他人事のように、何故指をさされているのか全く理解できていない。大人しく話を聞いていただけなのだが、とにかく
「俺は別に気にしないのに。ヴェルセリアさんは気にするんだ?」
「っ! 当たり前よ! とにかく……その格好を何とかしなさい!」
こちらのパーティではエレノアはテオドールの後ろに隠れ、フィオナはさっきからそっぽを向いて見ないように努めている。クレアは、元々パーティメンバーだった事もあり、普通にしている。
ハッとした様子で、アルドリックがタオルを差し出した。指摘されるまで何も思ってなかったようなので、普段からこうなのだろう。
「イグニス、とりあえずこれを。水浴びが終わったなら着替えてくれ」
「……わかったよ」
渋々タオルを受け取ったイグニスは、大人しく腰にタオルを巻いた。
コーデリアが手を叩く。
「はい! とりあえずここは私達の担当区域じゃないわよ! イグニスが着替えたら移動しましょう!」
このグダグダな空気を、なんとかまとめてくれたようだ。『最果ての
「大変ご迷惑をおかけしました……」
リリアは深々と頭を下げ、元来た道へと皆を誘導する。
「あぁ……あの狼、もっと観察したかった……」
「はいはい、これ以上迷惑かけないで!」
ローランドが名残惜しそうにザークの方に手を伸ばし、コーデリアとメイプルに押される形で連れて行かれた。その間、ザークは睨みつけて唸り声を上げ、ヴェルセリアも不機嫌さを醸し出しながらローランドを睨みつけている。
「じゃあね、ヴェルセリアさん。今度はリヴェリアでお茶でも飲みながらお話ししよう?」
装備を整えたイグニスがヴェルセリアに近付き、にっこりしながら誘う。
「……私をお茶に誘うなんて100年早いわ」
腕を組み、フンッとそっぽを向くヴェルセリア。寄り添うザークも唸り声を上げている。
「そんなぁ、エルフジョークはキツいなぁ」
「ほら! イグニスさん、行きますよ! お騒がせして申し訳ございません……」
リリアがイグニスの背中を押して無理やり連れていく。
ガヤガヤと賑やかに『最果ての
「……騒がしい連中だったな……」
ザークが呆れたように言い放った。
「本当、自分が世界の中心だと思っているような人が多いパーティだったわ」
主語がかなり大きいが、おそらくイグニスとローランドの事を言っているのだろう。ここにも自分が世界の中心だと思っていそうな人がいると思い、ザークがヴェルセリアをチラリと見る。
「……なによ」
「別になにも」
ザークはサッと顔を逸らす。ヴェルセリアはザークの顔を両手で鷲掴みにし、くしゃくしゃと撫で回した。
「しかし……クレアがイグニスさんのパーティメンバーだったなんて。経験値はあるって言うのも……本当だったんだな……」
あまりにも重たい話だったので、少し落ち込むシオン。冒険者をしていれば、目の前で人が亡くなるのは珍しい事ではない。それでも、親しい人が亡くなるのは決して慣れることはない。
「……まぁ、ね。だから、今回の探索では誰も死なないでほしいと一番に思っているんだ」
クレアの言葉がこの場にいる誰よりも重い。
「大丈夫よ、前衛はシオンがいるし、後衛に私がいる。前衛と後衛、ちゃんと機能していれば、ね」
胸に手を当て、ウィンクをする。不安を払拭するかのように、ヴェルセリアが自信たっぷりに応えるのだった。
「……これだからハイエルフは……」
その言葉とは裏腹に、クレアは少し笑顔を浮かべた。初日に会った時とは違い、今はその自信が安心に繋がる。
「そうだな、俺が死ぬ気で守り抜くから安心しろ!」
シールドを地面に勢いよく突き立て鳴らすシオン。
「私もいますわ! テオもザークさんも!」
エレノアは元気よく声を上げる。それにつられるように、テオドールも続く。
「できるだけ全体を見るようにしますので、皆さんにはご協力をお願いします」
やれやれと、それに乗っかる形でザークも付き合う。
「俺はヴェルしか守らねぇけど、ヴェルがお前らを守ってるからな」
「私も……! 守られてばかりじゃなく、皆さんを支えますから! (頑張らなきゃ!)」
フィオナは守られる側だが、少しでも役に立ちたいと決意を込めて皆の前で宣言する。
「みんな……ありがとな」
少し泣きそうな、でも皆の前で気丈に振る舞うクレアは照れたように笑うのだった。
即席で作られた探索用のパーティであったが、皆がまとまり良いチームになれたと誰もが思った。
大規模探索はまだ始まったばかり、協力無しでは無事に終える事はできない。パーティメンバーの気持ちが今一つになり、これから待ち受ける困難にも立ち向かえるはずだ。
だが、この森には一筋縄では倒せない脅威が隠れている事に、気付く者はまだいない――
お気に召しましたら、感想、評価、お気に入り登録頂けると嬉しいです。
どうかよろしくお願いします。