『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「エレノアさん……テオドールさんとどこではぐれたかわかりますか?」
前の方を歩いていたフィオナがエレノアに駆け寄り聞く。
「わからないですわ……さっきまで後ろを歩く気配はありましたの」
「とにかく、探しに行かないと……(一体どこへ……)」
フィオナは周りを見渡し、不安げな表情をする。
「探しに……行かないと……でも、また戻るの……?」
ザークの背中でガタガタと震えるヴェルセリア。この状態のヴェルセリアは何かあった時に動けない。ましてや、蜘蛛が苦手なのにまた蜘蛛の巣が張り巡らされた場所に戻るなど難しい。
「ヴェル姉様、ザークさんとここで待っていてくださいまし。テオは
「……ダメよ、凄く嫌な予感がするわ……あれだけ蜘蛛の巣が張るなんて、異常な事よ。早くテオドールを探さないと……」
嫌な予感はよく当たる、とヴェルセリア自身思っていた。だからこそ、無理をしてでも戻らねばらないない。
「ヴェルセリア、無理はするなよ」
クレアが心配そうに声をかける。
「わかってるわ……『ザーク』、私の傍から絶対に離れないで……」
ザークの背中に添えられたヴェルセリアの手は小刻みに震えている。こんなヴェルセリアを見たことがないザークは、完全に守りに入らないと危ないと舌舐めずりをしながら思った。
一行は来た道を戻りながらテオドールを探す。
「テオー!」
「テオドールさーん!」
「どこだー! いるなら返事しろー!」
道中、周りを見回しながら探すが手掛かりすら見つからない。何処へ行ってしまったのか。
「テオ……どこに……」
「埒が明かないな……」
「もっと奥の方にいるのかもしれないね」
奥の方、となるとまた蜘蛛の巣が大量に張り巡らされたあの場所。ヴェルセリアがまた泣きそうな顔になる。
「『ザーク』、テオドールの匂いを辿って探しなさい。……早くこの場から離れたいわ……」
ザークは舌舐めずりをしながら、ため息を吐く。
「仕方ねぇな……エレノア、テオドールの匂いがする物あるか?」
いつもなら、「犬じゃねぇ!」と悪態をつきながら言い合いをするところだが、ここまで弱ったヴェルセリア相手にそれはできなかった。早くテオドールを見つけ、この場から離れてやらねばとザークなりの優しさであった。
エレノアからテオドールのハンカチを借り、ザークが匂いを辿る。
ザークがテオドールを探している間、ヴェルセリアはフィオナが手を繋いで一緒にいる。その繋いだ手は、未だに小刻みに震えている。
スンスンと匂いを辿ると、やはり先程までいた蜘蛛の巣が多かった場所の方に戻っている。
「真っ直ぐさっきの場所に戻っているな……」
ブレる事なく真っ直ぐ匂いが続いている。まるで誘い込まれているように、明らかにさっきの場所に
「テオがいない今、
どう考えても異常事態が起きている。戦闘になるのは必至だ。エレノアが硬い表情で皆に指示を出す。
「……エレノアさん、大丈夫ですか?」
フィオナが心配する。エレノアの表情は少し暗いが、絶望をしている顔ではない。
「……大丈夫、テオならきっと、大丈夫ですわ」
「……そうね、テオドールならきっと大丈夫よ。エレノアの
ガタガタ震えながらフィオナに縋り付いて話す今のヴェルセリアにはあまり説得力は無いが、エレノアを元気付けたいという意思は感じる。
「ヴェル姉様、ありがとうございます……皆様にはご迷惑をお掛けしますわ……」
深々と頭を下げるエレノア。だが、皆の反応は軽い物だった。
「んなもん迷惑でもなんでもないぞ。困った時はお互い様、当たり前だろ?」
シオンが前に立ち、周りを警戒しながら進む。他のメンバーも頷きながら、
「もう少し私達を頼れよ」
「きっとすぐに見つかりますよ」
と、エレノアを元気付けるのであった。
そして、先程引き返した場所に戻ってきた。相変わらず薄暗く、蜘蛛の巣が頭上に張り巡らされている。
「うぅ……」
今にも泣き出しそうなヴェルセリア。フィオナの手をぎゅっと強く握る。
「ダメだ、ここで匂いが途切れてる」
ザークがテオドールの匂いを辿ってきたが、どうやらここが終着点らしい。
「……凄く、物凄く嫌な予感がするわ……」
「……?」
ヴェルセリアが震えながら小さく呟く。チラリと上を見れば、枝葉に広がる蜘蛛の巣。巣の張り方があまりにも厚く、光をほぼ通さない。
その時、蜘蛛の巣の上の方で何かが通り過ぎた。
「? 何か、上の方で動きませんでした?」
フィオナが気が付く。もちろんヴェルセリアも。
「っ!!」
ヴェルセリアは悲鳴を上げるのを、口元を手で覆い必死に我慢している。今大きな音を出したら、その動いたものに襲われる可能性が高い。
「皆さん、警戒を……!」
エレノアが小声で注意を促し、一行に緊張が走る。そして身構えていたが、特に何も起きない。ふう、とそれぞれがため息を吐く。
「ヴェル、さっき言っていた嫌な予感ってのはなんだ?」
ザークが先程ヴェルセリアが言っていた事が気になるようだ。
「……私、蜘蛛が苦手になった理由は、見た目とかだけじゃないのよ……苦手を克服するために相手の生態を詳しく知った方がいいって言われて……調べれば調べるほど絶望しかないから苦手になったのよ……」
ただ蜘蛛が苦手で片付けるのではなく、克服するために相手を知り尽くす。ヴェルセリアらしいが、それでさらに苦手になっているあたり、完全に墓穴を掘ってしまっている。その時の状況を思い出し、ヴェルセリアの顔がどんどん青ざめてくる。
ゴクリ、と、傍で聞いていたフィオナは緊張する。
「それはどういう事ですか? 絶望するほどって……」
「それは……全く魔術が効かない……それどころか、人の魔術や魔力を糧にしている種類がいるって知ったから……」
「人の魔術や魔力を……ですの!?」
ヴェルセリアは静かに頷く。
「だから、そんな蜘蛛に絶対に会いたくないって思ったのよ……」
しん……と、静まり返る。
あのヴェルセリアが絶望する程の
「……で、でも、今ここにいるのがそれとは限らない、よな?」
シオンが少しでも気を紛らわせようと言うが――
「わからないわ……でも、もし、それだった場合、特徴は……複眼は青く光り、その体は深い紺色……その腹には紋章のような柄がある……うぅ……言ってて気持ち悪い……」
ヴェルセリアは更に詳しい情報を皆に伝えた。
「と、とにかく蜘蛛型の魔物がいる可能性が高そうなので、気をつけましょう!」
エレノアが沈んだ空気を変えようと明るい声をかける。
その時だった。
「……? あ! あれ! テオドールじゃないか!?」
クレアが上の方を指差し、大きな声で言う。
指をさした先を全員で見ると、枝葉にかかる蜘蛛の巣の隙間からかなり高い場所に糸でぐるぐる巻きになったテオドールが見えた。
「! テオ!! テオ!!」
エレノアが呼びかける。が、反応がない。
「……気を失ってるみたいですね」
フィオナが様子を見て判断する。
「あぁ……テオ……」
エレノアがガクガクと、肩を振るわせる。なんとか見つかったが、その状況は明らかに
ヴェルセリアが恐る恐る上を見て、周りを確認する。
「……っ」
「だいぶ高い位置にいるな……どうやって下ろす?」
シオンがテオドールの救出方法を模索する。全員が上を向き考えるが、何よりも蜘蛛の巣が邪魔である。
「森が燃えない程度に炎で蜘蛛の巣を破壊……ですかね」
フィオナが提案する。
「それが手っ取り早いな」
救出方法が固まりそうになった時、ヴェルセリアが声を上げる。
「……ダメよ……」
「景観が変わるからか? でも仕方ないじゃ……」
「違うわ!」
シオンが意見しようと話しかけたところでヴェルセリアが被せ気味に言い放つ。語気が強く、圧倒する。その顔は青ざめていた。
「違う……最悪な事態よ……テオドールをよく見て! 巻かれた蜘蛛の糸が薄ら光っている……あの糸はテオドールの魔力を吸収しているわ……」
よく見ればテオドールを拘束している蜘蛛の糸は、青白い光の粒が移動している。
「と、言うことは……この蜘蛛の正体は……」
フィオナが口元を押さえ、震える。そしてヴェルセリアが静かに、その正体を明かした。
「マナ・ドレイン・ウィドウ……魔力喰らいの大蜘蛛よ……」
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