『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第46話【魔力喰らいの大蜘蛛】

「魔力喰らいの大蜘蛛(マナ・ドレイン・ウィドウ)は魔力を糧に活動をする魔物(モンスター)。人の魔力を好んで吸収し、魔術師が放った魔術ですら吸収されてしまう……『魔術師封じ』とも言われているわ……」

 

 パーティDは魔術を使うメンバーが比較的多い。そのため、今回の相手は相性が最悪だ。

 

「先ずは麻痺毒で獲物を動けなくして、糸で拘束、巣に持ち帰りゆっくりと魔力を吸い尽くしていく……考えただけで恐ろしいわ」

 

 説明しているヴェルセリアの顔色がどんどん悪くなっていく。だが、現状テオドールが拘束され、今まさに魔力を奪われている。

 

「早くしないとテオドールが危ないわ……」

 

 人には一定量魔力がある。それは生命活動に必要不可欠なもので、枯渇状態が長く続くと生命維持に多大な影響を及ぼす。

 

「だが、魔術無しで戦うには厳しいぞ。なんせ剣士(ソードシーカー)のテオドールが捕まってる!」

 

「それも魔力喰らいの知恵よ……奴らは頭が良い。魔術師がいるのをわかってて、おびき寄せるために最初に攻撃手(アタッカー)を狙った……」

 

「マジかよ……」

 

「……とにかく、テオを救出しないとあの大蜘蛛は倒せない、と言うことですわね……」

 

 最悪の状況にエレノアは肩を振るわせ、青ざめている。

 

「そうなるわね……」

 

 しかし、救出するにはこの木の上に上がらなければならない。蜘蛛の巣に触れようならば、すぐに蜘蛛が襲いかかる。八方塞がりである。

 

 乾いた音が響く。ヴェルセリアが自分の頬を両手で叩いたのだ。

 

「……いつまでも怖がっていたらダメよ……」

 

 自分で自分を鼓舞するかのように呟く。そこからは今まで子供のように泣いていたのが嘘のように、いつものヴェルセリアに戻った。

 

「……ここからはスピード勝負になるわ。エレノア、私が指示を出してもいいかしら?」

 

 その瞳は先程までの恐怖に震えていた時とは違い、いつものヴェルセリアの力強さを感じる。

 

「え……? ヴェル姉様、大丈夫ですの?」

 

「魔力喰らいの生態を知っているのは私だけよ……早くテオドールを助けなきゃ」

 

 はっとした顔をしたエレノアは、ヴェルセリアが自らを奮い立たせテオドール救出に全力を尽くそうとする姿に胸を打たれた。

 

「わかりました……お任せしますわ」

 

 エレノアと目を合わせお互い頷く。

 

「早速だけどクレア、貴女は魔術を使わずに矢だけを放って」

 

「わかった」

 

 クレアは弓のつるを確認するように触れる。

 

「『ザーク』、貴方も魔術はダメよ、爪と牙で戦いなさい」

 

「へッ! それで十分だ」

 

 ザークは指先を開き、爪を確認する。

 

「シオン、今は貴方が頼りよ」

 

「……ッうし!」

 

 ヴェルセリアに頼りにされて気合が入るシオン。

 

「エレノア、貴女はテオドールの救出を。クレアはエレノアの援護をお願い」

 

「わかりましたわ!」

 

「任せな」

 

「フィオナ、貴女はエレノアがテオドールを救出後、すぐに治療を。ただ、治癒魔術を使おうとすると蜘蛛がくるわ。そこで『ザーク』、貴方がフィオナに付いて守りなさい」

 

「おい、ヴェルはどうするんだ!」

 

 沈んだ表情で、覚悟を決める。

 

「……私が囮になるわ……」

 

「え……!? ヴェルセリアさんが!? (絶対ダメ! 危険すぎる!)」

 

 フィオナが驚き、心配の眼差しを向ける。

 

「魔力喰らいを引きつけるなら、魔術師じゃないと、ね」

 

「それなら私(わたくし)がやりますわ!」

 

 エレノアはヴェルセリアに詰め寄り説得をしようとする。

 

「だめよ、エレノアはテオドール救出に集中して」

 

 エレノアはヴェルセリアに両肩を掴まれ、瞳を合わせられる。その瞳には既に覚悟が宿っていた。

 

「でも……」

 

「時間がないわ、作戦を説明するわね。最初に私が全力で(・・・)この森の蜘蛛の巣を木の枝ごと吹き飛ばすわ。魔力喰らいは私に向かってくるからシオンが抑えて、その隙にエレノアがテオドールを救出」

 

「わかった」

 

 シオンが頷きながら返事をし、エレノアも頷く。

 

「その後、フィオナが治療、テオドールを動けるようにして」

 

「は、はい!」

 

 フィオナはロッドを強く握りしめた。

 

「テオドールが参戦できるようになったら、シオンと『ザーク』も一緒に魔力喰らいを倒してちょうだい」

 

 段取りとしてはシンプルなのだが、魔力喰らいの大蜘蛛の動きは予想がつかない。

 

 そして気になる、『全力』との言葉。

 

「ヴェル姉様、全力(・・)と仰いましたけど……?」

 

 ヴェルセリアはゆっくり頷き答える。

 

「えぇ、全力(・・)よ。魔力を使い切るつもりでやるわ。ふふ、この前メガネ魔術師(スペルキャスター)に景観を壊すなって言ったばかりなのにね……だから、皆は体勢をできるだけ低くして待機よ」

 

 メガネ魔術師(スペルキャスター)とは、ローランドの事だろう。

 

 全力(・・)で魔力を使い切る、それはパーティメンバー全員がヴェルセリアの魔力の器の大きさが桁違いだと認識しているが故に、この言葉の意味を察した。

 

「ヴェル姉様、テオには当てないで下さいまし……」

 

 あまりの恐ろしさに、震える声で懇願するエレノア。

 

「任せなさい……当てないようにちゃんとするわ」

 

 胸に手を当てエレノアに向き直るヴェルセリア。さすがにウィンクをする余裕は無さそうだ。

 

「……さぁ、救出作戦と魔力喰らいの討伐を始めましょうか……!」

 

 ヴェルセリアはテオドールが見える位置に立ち、両手を天に向かって広げる。いつも使っているワンドやスタッフを持たない。敢えて、力の抑制を捨てているのだ。

 

「精霊達よ! 我が声を聞き此処へ集え!」

 

 ヴェルセリアの周りに光の粒が湧き立つ。いつもより精霊の数が多いように感じる。上の方で何か大きなものが動いたような気配がするが、続けて詠唱を紡ぐ。

 

「大気を翔ける精霊よ、我が意志の刃と成れ――」

 

 風がヴェルセリアの周囲に集まり、大気がうねり地を震わせるような低い地鳴りが響く。足元の草が渦を巻くように風が地を撫で、そこから浮き上がるように風が舞うと、猛烈な真空の刃が草地を容赦なく切り刻み無数の刃となって吹き荒れた。

 

 いつも使う魔術なのだが、ヴェルセリアが全力(・・)と言ったその威力は普段とは比べ物にならないほどであった。それはまるで、小さな嵐がここで発生しているかのようだ。

 

「――千の断裂を以て虚空を刻み、形なき銀閃よ、此(こ)の空を裂け!」

 

 地面の方から持ち上がる風の刃は、枝葉を揺らし裂いていく。厚い層になっていた蜘蛛の巣は枝と共に微塵(みじん)に切り刻まれ、少しずつ光が地面に差し込んでくる。

 

 予想していたより蜘蛛の糸が固く、ヴェルセリアは更に魔力を込める。すると、風の刃は密度を増し、大きな木の幹ごと切り倒していく。

 

 木々に囲まれた森だったのだが、最後の一閃で枝が生い茂っている上の部分が全て吹き飛ぶ。一気に人工太陽の光が降り注いだ。

 

「て、テオ!」

 

 舞い上がった枝葉は高く、エレノアが心配して声を上げる。予想以上の威力に、テオドールが巻き込まれ糸に巻かれたまま飛んでしまった。

 

「くっ……やりすぎたわ」

 

 宙を舞う枝葉の間から、テオドールが見えた。それに合わせ、ヴェルセリアが詠唱を紡ぐ。

 

「風の精霊よ、我が意のままに吹き荒れよ!」

 

 風の使役魔術でテオドールを受け止め、ふわりと降りてくる。エレノアの目の前に降ろし、涙目になったエレノアはテオドールに呼びかける。

 

「テオ! しっかり!」

 

「……っ……う……」

 

 呼びかけに反応したテオドールの意識が浮上してきた。

 

「魔力喰らいへの糸は切れているわ。魔力吸収はもうされていないから、早く糸を切って治療を!」

 

「わかりましたわ!」

 

 エレノアがナイフを使って蜘蛛の糸を切ろうとするが、その糸は固くなかなか切れない。

 

「クレア、エレノアをよろしく。フィオナ、テオドールをお願いね。『ザーク』、わかっているわね」

 

 短く指示を出し、ヴェルセリアは見上げる。魔力喰らいの大蜘蛛を探しているのだ。

 

「どこ……? どこに行ったの?」

 

 蜘蛛の巣を木の枝ごと吹き飛ばしたので、魔力喰らいの大蜘蛛は姿を隠している。

 

***

 

 同じタイミングで、パーティE『最果ての開拓者(フロンティア)』のコーデリアが木の上から警戒中に大きな声を上げる。

 

「あぁ! 多分パーティDがいる方向の森が吹き飛んだわ!」

 

「え! なに!? ヴェルセリアさん達、大暴れしてるの? いいなぁー」

 

 呑気な声で応えるイグニス、その近くでマッピング作業中のローランドが眼鏡を指先でクイッと持ち上げる。

 

「あのハイエルフ、人には景観を壊すなってうるさく言ったくせに……チッ!」

 

 手を止めずに悪態をついていた。それを聞いたリリアが、擁護するようにローランドに声をかける。

 

「なにか、そうせざるを得ない事が起きたのではないでしょうか?」

 

 リリアにそう言われ、ローランドはマッピングの手を止め少し考える。

 

「……そんな事はわかってますよ。あれだけ大口を叩いたのですから……あのハイエルフ、涼しい顔をして事を治めるんじゃないですか?」

 

 どこか師匠に似た雰囲気のヴェルセリアを、力だけは何故か信じられるような気がしているローランド。ここにいる『最果ての開拓者(フロンティア)』のメンバーは、ヴェルセリアの実力をまだ知らない。

 

***  

 

 ちょうどその頃、本部の櫓(やぐら)では森が吹き飛ぶ瞬間を見ていた人物がいた。

 

「はぁ!? 何が起こった!?」

 

 大きな声を上げたのは、ギルド職員のコルネットだった。見張りを担当しており、櫓の上で双眼鏡を使い監視をしていたタイミングだった。

 

 いきなり森の木々が吹き飛び、穴が空いたようになっている。

 

「どうした? 何があった?」

 

 櫓の下からギルド長バルガスが声をかける。

 

「えー……と、あの位置は多分パーティDだと思われるのですが……魔術だと思われる力で、いきなり森が吹き飛びました。先日もパーティDとパーティEの隣接する部分で森が燃えたり氷が降ったりと、真ん中周辺は慌ただしい動きをしています」

 

 ギルド本部では、各パーティに渡した定位核(コンパス・コア)を通して大まかな地図に照らし合わせ、位置を把握している。何かあれば駆けつけるためだ。

 

「イグニス達とヴェルセリア・エルフェインのいるパーティか……先日は新種の虫(ワーム)を討伐したと報告があったな……狼煙(のろし)は上がっていないのだな?」

 

 狼煙とは、各パーティの支給品に入っていた物で、緊急時に本部へ知らせるためのものだ。赤の煙は死亡者あり、青の煙は負傷者多数、黄の煙は緊急事態など。

 

「狼煙は上がっていません……マッピング中だからあまり景観が変わることをしないで欲しいですけど……ランクAの人達だから、それはわかっているはず。きっとやむを得ない事情だと思われます」

 

 それは命には変えられない事情、冒険者をやっていた者ならわかる事だ。

 

「ふむ……狼煙が上がったり、他に爆発などあれば知らせてくれ。引き続き監視を頼む」

 

「わかりました……しかしあの威力、人間業なのか……?」

 

 風で舞い上がった枝葉が周囲に撒き散らかされている。その量は尋常ではない。

 

「(魔術なら冒険者達の仕業だとわかる。だが、他の要因だった場合は……その時は、現地に行かねばならないな……ふっふっふ……)」

 

 何か企んでいる顔をしているバルガスを、ローワンが見ていた。

 

「(ギルド長、なーんか良くないこと考えてるなーあの顔は……)」




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