『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「見つからない……どこに隠れたの?」
魔力喰らいの大蜘蛛が見つからない。先程吹き飛ばした枝葉と共に舞い上がったか。焦燥感が募る。
ヴェルセリアは先程の風の刃と風の使役魔術で大半の魔力を消耗していた。そうする事によって、魔力喰らいの大蜘蛛に狙われても奪われる魔力量が少なくなるためだ。せっかく魔力が空になったが、魔力喰らいの大蜘蛛を探すのに魔術を使いたい。
「仕方ない……」
腰につけたポーチから、マナ・ドロップを取り出し口に入れる。並の人間なら全回復量、ヴェルセリアにとっては少しだけ魔力を回復させ詠唱を唱える。
「目に見えぬ風の精霊たちよ、我が足下に集いて不可視の奔流を成せ。重き大地の
ヴェリセリアの身体に風がふわりと纏わりつく。地面を蹴り、高く跳躍する。先程吹き飛ばした木の切り口を足場に、高い位置で周りを確認するが――
「気をつけろ、ヴェルセリア!」
ヴェルセリアが立っている木の真下で、シオンが注意を促す。シオンも周りを警戒し、魔力喰らいの大蜘蛛を探す。
「わかっているわ……」
そんなヴェルセリア達を、低い木の影から見ているものがいる。
「……よくも私達の住処を……あのハイエルフ、許さない……!」
その姿は闇に紛れる深い紺色、複眼は青く光り……腹には紋章のような柄がある、ヴェルセリアが言った通りの見た目のマナ・ドレイン・ウィドウだった。多脚の脚を駆使し、素早い動きで距離を縮めてくる。
「あのハイエルフは最後のデザートにしてやろうか……先ずは……あの
糸を伸ばし、勢いをつけ四方からフィオナを襲う――
「やらせねぇよ」
ザークが魔力喰らいの大蜘蛛よりも先にフィオナの前に回り込み、蜘蛛の糸を鋭い爪で引き裂く。パラパラと糸は落ち、フィオナには届かなかった。
「! よくわかったな! 小賢しい狼め! ……? お前……喋れるのか!」
姿を現した魔力喰らいの大蜘蛛。その大きさは人の背丈よりも大きく、8本ある脚は金属のように鋭く重い。青い複眼はギラりと光り、狙った獲物は逃がさない。
「なにぃ……っ! この大蜘蛛、喋るぞ!」
シオンが指摘をする。魔獣や魔物で人語を喋る事ができる個体はいる。それは知能が高い証拠となり、戦闘となれば一筋縄ではいかず油断が全くできない。
「喋るのはお前だけじゃねぇ! それにお前からは
唸り声を上げながら睨みつけるザーク。
「お前だってあのハイエルフの臭いがするじゃないか! ……そうか、お前、あのハイエルフの眷属だな? 魔獣のプライドはないのか!」
一瞬で屈従契約をしている者を結び付けられる。魔力喰いの大蜘蛛は人の
「う、うるせぇ! ……こっちには事情があるんだよ!」
屈従契約の事を指摘され、一瞬出遅れる。ここで屈従契約の事をバラされるとは思いもしなかったからだ。
魔力喰らいの大蜘蛛が繰り出してくる糸を避けながらザークは距離を詰める。だが、足元には蜘蛛の糸だらけ。下手に触ることができない。
木の上からザークが対峙している姿を確認したヴェルセリアは全体の状況も把握する。
テオドールの方はエレノアとフィオナが糸を切るのに苦戦をしている。一方クレアはザークが相手にしている魔力喰らいの大蜘蛛を、弓で狙いを定めていつでも攻撃できるよう身構えている。そしてシオンはヴェルセリアの足元に立ち、いつでも守る事も戦う事もできるよう状況を見ている。パーティメンバー全てが手を抜けぬ状況だ。
「先ずはテオドールをなんとかしないと……エレノア! そっちの状況は!?」
「ヴェル……姉様! 大蜘蛛の糸が、固すぎて……全く歯が立ちませんの!」
予想以上に蜘蛛の糸が固い。ヴェルセリアの全力風魔術で切れたが、人の手、特に女性の手では難しい。
「そんな物で切れるものか! 私の糸は鋼並みよ! ……さっきから私の事を大蜘蛛大蜘蛛って……私にはネティシアって名前があるのよ!」
魔力喰らいの大蜘蛛は、ネティシアと名乗った。名がある
「ふふふ……久しぶりな人間……っ! どちらも
ヴェルセリアによって枝葉を切られた木の上を軽やかに飛び越え、糸を使い不規則な動きを見せる。その動きにザークは付いていくのがやっとだった。
「……っのやろう!」
予想外の動きをされ、何度も踵を返すザーク。クレアもネティシアに矢の照準を合わせ、いつでも攻撃できるようにしているがあまりの不規則な動きに矢を放つことができない。ザークは動きの裏をかかれ少し離れたその一瞬、粘着質な糸がフィオナを襲う。
「まずい!」
ザークが全力で駆け抜ける。テオドールの糸を、エレノアと一緒に切ろうとしているフィオナに向かって糸が伸びていく――
「やべぇッ!!」
「ザークさん!」
ザークはフィオナを庇い粘着質な蜘蛛の糸に巻かれ、身動きが取れなくなる。暴れるが、その糸は余計に絡み更に動きが制限されていく。その糸はネティシアに繋がっており、その糸から魔力が吸い出されていく。
「ザーク!!」
一部始終を見ていたヴェルセリアは、悲鳴のような声でザークを呼んだ。
「ダメだ、ヴェル……俺を呼ぶな……今、魔力供給したら……」
糸からは青白い光の粒が、ネティシアに向かって流れていく。段々と力が入らなくなり、ザークの動きが鈍くなる。
攻撃の要が一つ失われ、状況は厳しい。
「……っく! 魔力喰らい! こっちよ!」
ヴェルセリアは囮になろうとネティシアの気を引こうとするが、相手は頭がいい。
「はん! こっちに
その言葉にエレノアとフィオナはビクリと肩を震わせる。今まで相手にしていたザークを地に縛り付け、更に魔力を吸収。完全に向こうのペースである。
余裕からか、ヴェルセリアには見向きもしない。
「私もいるぞ! 大蜘蛛!」
狙われたエレノア達から気を逸らすために、クレアはわざとらしく声を上げる。ザークが動けなくなった今、クレアが2人を守らなければならない。
フィオナとエレノアの陰から、ネティシアに向かってクレアが矢を放つ。
「! 甘いね!」
小馬鹿にするかのように、無駄な動きを入れながら縦横無尽に動き回る。放たれた矢はネティシアがいた後ろの木の幹に刺さる。巨体とは思えないほど身軽に避けたのだ。
「へぇ……
四方に糸を張り、クレアの真横に近付き、まじまじと観察をする。人を食糧としか見えていない。
「く……ッ! 魔術がこうも使えないのはやりにくいな! シオン! 援護を!」
クレアは大きく跳び退き距離を取る。決定打どころか、当てることすら難しい相手をどうにか止めねばならない。
シオンは盾と剣を構え、3人の前に出る。今、まともに戦えるのがシオンしかいない。
臨戦体制に入ったシオンはジリジリと距離を詰める。
「大した魔力が無いやつはお呼びじゃないんだよ……ッ!」
「くっ! この……!」
盾で防ぎ、耐える。が、その糸の打撃がいちいち重たい。
シオンが相手にしている隙に、ヴェルセリアはエレノア達に駆け寄る。
「ヴェル姉様!」
蜘蛛の糸に苦戦をしているエレノアが涙目になっている。何度も切りつけたのがわかるくらい、ナイフが刃こぼれを起こしていた。
「……なんて固い糸……!」
近くにザークも倒れているが、そちらの蜘蛛の糸はネティシアに繋がっているため触れることすらできない。
「くそ……っ!」
蛛の糸を解こうとザークは必死に暴れるが、抗うたびに魔力を吸い上げられて全身から力が抜けていく。凄まじい勢いでエネルギーを奪われ、視界が急速に霞んで意識が飛びそうになる。このままだと命に関わる――
その直後、鼓膜を震わせる激しい激突音が響き渡った。
「うわぁ!」
ザークが窮地に陥るその裏で、シオンにもまた致命的な危機が迫っていた。蜘蛛の糸でできた鞭による苛烈な一撃を受け、シオンの身体が宙を舞い吹き飛ばされる。エレノアたちの目の前へと、叩きつけられるように倒れ込んだ。
「シオンさん!」
フィオナが悲鳴のような声で叫ぶ。弄ぶように鞭状にした糸をしならせてるネティシアも、シオンを倒し見下す。
「いい加減飽きてきたわぁ……あんた達も私の食糧におなり!」
その声と共に、大量の子蜘蛛がゾァ……と地を這ってくる。
「ひぃ……っ! いや……ぁ……」
顔面蒼白。小さな悲鳴を上げるヴェルセリア。見渡す限りの地面に子蜘蛛が覆い尽くす――
「さぁ子供達、食事の準備だよ! あぁ、ハイエルフには用があるから、手を出すんじゃないよ!」
ネティシアの長い足を一本前に出したその時、一斉に子蜘蛛がエレノア達に襲いかかった。
その言葉の通り、ヴェルセリアにだけ子蜘蛛は避けて通り過ぎて行く。
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