『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第5話【討伐兼素材採取の依頼受注】

「どの依頼にしようかしら……」

 

 ここは『マリヌス』にある冒険者ギルド本部『星極の羅針盤(アストラル・コンパス)』。朝から依頼を受注、報告などをするたくさんの冒険者達が行き交う。

 

 今日は『禁書』探しを一旦中断し、ザークの首輪の材料を取りに行く。ヴェルセリアは依頼掲示板の前で、素材採取の依頼がないか探している。

 

「うーん……久しぶりの討伐だから気を引き締めないと」

 

 普段のヴェルセリアは遺跡などの探索ばかり行っているため、今日は気合を入れた装備に身を包んでいた。

 

 大きめなツバがいかにも魔術師(スペルキャスター)だとわかる帽子、星空のような輝きのローブ、露出は少ないが胸が豊かだとわかるオープンショルダーのハイネック、ウエストがキュッと締まったロングスカートは動きやすさ重視で深めに入ったスリットが目を引く。

 

 右手首には大きめの赤い魔石が付いたブレスレット、エルフ特有の長い耳にはシンプルなドロップ型の青い宝石のピアス。

 

 そして彼女の美貌である。目立ちたくないと言う割に、目立たない方がおかしいくらいだ。

 

 ヴェルセリアに振り返る冒険者も多い中、さらにその側にいるザークを見てそれぞれを驚きながら通り過ぎる。

 

「すげー美人……と、犬……と言うか、あれ狼種だよな」

 

「首輪が付いてるからあのエルフの?」

 

 その度にザークは尻尾をブンッと振り払っていた。ヴェルセリアの隣で座っているが、大きいので存在感がありすぎるのだ。

 

「なぁ、まだかよ」

 

 ザークが暇を持て余してヴェルセリアに声をかけるが、その声を聞いた周りの冒険者達が驚く。

 

「あの狼、喋ったぞ! 聞き間違いじゃないよな?」

 

「あぁ、喋ったよな!?」

 

 その声を聞いたヴェルセリアは被っている帽子のつばを両手で押さえ、笑いを堪えていた。

 

「ふふ……っ!」

 

 ザークは下からヴェルセリアを覗くと、ヴェルセリアもザークを見下ろしていた。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 目が合いギョッとして思わず声をかけてしまった。そのままヴェルセリアはザークの頭を撫で、ニコニコしている。

 

(……犬を連れている人の気持ちってこんな感じなのね)

 

 犬好きなヴェルセリアはいつかやってみたかった事の1つに、『街中で犬を連れ歩く』と言う事ができたので嬉しかったのだ。周りの冒険者は犬(狼)が喋った事に驚いているが、ヴェルセリアの中では『あの犬かわいい』と言われているように脳内変換されている。

 

(あぁ……私、思ったよりも動物に飢えていたのね……)

 

 ヴェルセリアは『禁書』探しをし始めてから、こんなに動物に触れる時間が取れたのは初めてだった。

 

 ただ、浮かれてザークの名前を呼ぶと過剰に魔力供給がされてしまうので呼ぶに呼べない。

 

 まだこの犬にどんな力があるのかわからないため、下手に魔力供給をする訳にはいかないのだ。特に街中では。

 

「さて、と。討伐兼素材採取の依頼は……」

 

 おそらくはこの犬は強い。それに見合う素材が欲しい。と、なると――

 

「やるとしたら、これかしら」

 

 依頼掲示板にある、ランクA以上の討伐兼素材採取の依頼は『ドラゴン討伐』。

 

「やっと決まったか?」

 

 場所は『瑠璃の湖畔(ラピス・ショア)』、大型のドラゴンを討伐しその素材を持ち帰るのが依頼の内容だ。

 

「えぇ……討伐報酬が金貨300枚、素材買取報酬が金貨300枚……高額だからこれは高難易度の討伐ね」

 

 貨幣価値として金貨5枚ほどで、家族持ちの家庭がかなり余裕がある生活を送れる月収分である。

 

 依頼が発注されてから既に数ヶ月、誰もその依頼を受けていない。人的被害が出る前に討伐をするよう、重要案件として印が付いていた。

 

 ヴェルセリアは掲示板から依頼票を剥がした。

 

「高難易度のドラゴン討伐だけど、付いて来られるかしら?」

 

 ザークを見下ろし、頭を撫でるついでに魔力感知をする。魔獣使い(ビーストテイマー)が連れている魔獣も精霊を纏い、精霊魔術を使う。ザークは魔力を持つ犬、何かしら魔術を使うだろうと思い探る。

 

 掌に魔力を集中し、魔力の流れを読んでみる。

 

「ハッ! 誰に言ってるんだ? 返り討ちにしてやる」

 

 大口を叩いているザークからは冷たく、キラキラと輝く魔力の流れをヴェルセリアは感じた。だが、何かが違う。魔獣ならば、精霊と『共存』と言う名の生まれながらの『契約』を結んでおり、精霊を常に纏った状態なのだが――ザークからは人族と同じような魔力の流れを感じる。

 

「(いやそんなはずは……気のせいかしら)……氷……この子は氷属性なのね」

 

「……お前、そんなのでわかるのか?」

 

「わかるわよ? それより……私を呼ぶ時はご主人様かヴェルセリアって呼びなさい。名前が呼びにくいなら、心を込めてヴェル、でもいいわよ?」

 

 鼻先をちょんちょん触りながら指摘する。

 

 ご主人様と名前呼び、かなり譲歩しているのだがザークは気付かない。ただ、屈従契約が気に入らないのだ。

 

「ハッ! 嫌なこった。なんで俺が……」

 

「……反抗期ねぇ」

 

 ヴェルセリアは頬に手を当て深くため息を吐く。

 

「俺は子どもじゃねぇ!」

 

「はいはい、行くわよ」

 

 手をひらひらさせ軽くあしらい、カウンターへ向かう。仕方なくザークはヴェルセリアの後を付いていく。

 

「この依頼、やるわ」

 

 掲示板から剥がした依頼票とヴェルセリアのギルドカードを受付カウンターに出す。

 

「こんにちは、ヴェルセリアさん。こちらで受け付けますね」

 

 受付嬢のミラ・ステラが対応する。シニヨンスタイルで長い黒髪を後ろにまとめ、切れ長な瞳は透き通るような蒼。ミラとはこのギルド本部を拠点にするようになってからお世話になっている受付嬢で、いつも相談に乗ってもらっている。

 

「こちらの依頼……珍しいですね、討伐と素材採取ですか」

 

 いつもなら遺跡探索が多いヴェルセリア。ミラも探索案件を勧めることが多いのだが、討伐に素材採取とヴェルセリアらしくない依頼を持ってきたので声をかけてしまった。

 

「えぇ、作りたい物があるので素材が欲しいのよ」

 

「お1人で行かれるのですか? この依頼の討伐対象はかなり凶暴で、お1人では難しいかと。パーティを組む事を強くお勧めしますが」

 

「必要ないわ」

 

「え……ヴェルセリアさん、本当に大丈夫ですか!? ドラゴン討伐ですよ!?」

 

 ミラが血相を変えカウンターに身を乗り出し、必死に1人で行こうとするのを止めようとする。しかし、ヴェルセリアは涼しい顔をして応える。

 

「この子がいるから大丈夫よ」

 

 カウンターのギリギリの所に耳が見える。ミラはカウンターに身を乗り出したそのままに、下を確認するとヴェルセリアの隣に犬より大きなものがいた。

 

「これは……狼を飼いはじめたのですか?」

 

「犬よ」

 

 ヴェルセリアは被せ気味に言う。

 

「……犬、ですね。しかし、その……犬を連れていくだけで大丈夫ですか?」

 

「多分大丈夫よ。ミラは私がどんな魔術師(スペルキャスター)か知ってるでしょう?」

 

 ミラはヴェルセリアがランクSへの昇級試験の打診を受けていた事を知っている。ランクSに近いと言うだけで、その強さが窺える。

 

「……わかりました、ではその狼……いえ、犬を『オトモ』登録されますか?」

 

 ギルドでは人族(エルフ・獣人含む)の冒険者登録されている者と一緒に、人外は『オトモ』として登録ができる。主に魔獣使い(ビーストテイマー)がそれだ。

 

「……そうね、登録するわ」

 

「ではこちらに記入をお願いします」

 

 ヴェルセリアは差し出された紙に情報を記入をする。その間にミラはカウンターを出てザークの元に行く。

 

「『オトモ』の足形を取らせてもらいますね」

 

 『オトモ』の情報として足形の提出がある。足形で『オトモ』の情報がある程度わかるためである。踏めば足形が取れる紙を床に置き、ミラがザークの足に触れようとした時、ザークが喋った。

 

「……これを踏めばいいのか?」

 

「え!? ヴェルセリアさん、この子お話が……?」

 

 満面の笑みを浮かべたヴェルセリアが見下ろす。

 

「そうよ、ちょっとした魔術で、ね」

 

 ペンをくるくる回しながら少し得意げに答える。

 

 ミラの驚いた声に、周りの冒険者もザワザワと騒ぎ出す。目立つのは嫌だと言っていたヴェルセリアだが、自分ではなくザークに注目が集まっているので温かい目で見ていた。

 

 当のザークは一言喋っただけで注目を浴びるので、そこまで悪い気はしていない。寧ろもっと見ろと調子に乗ってやろうと思っていたくらいだ。

 

「……余計なことは話さない、わかってるわね?」

 

「……」

 

 小声でヴェルセリアは言う。屈従の紋章が僅かに光り、ザークを黙らせる。

 

「これで登録は終わりです。『オトモ』の首輪にはこちらの(チャーム)を付けてください」

 

 『オトモ』登録の記入とザークの足形を取り終わり、(チャーム)と言われたギルドの紋章が入ったコイン型のチャームを受け取る。タリスマンと一緒に首輪に通す。

 

「依頼の受け付けも完了です。では、お気をつけて」

 

「ミラ、この『瑠璃の湖畔(ラピス・ショア)』方面 に向かう乗り合い馬車はあるかしら? すぐに向かいたいのだけれど」

 

 地図を出し、依頼の場所を確認する。あまり聞き慣れない場所なので、行き方がわからないのだ。

 

「そうですね、そのまま向かうのは難しいです。5番乗り場の馬車で終点まで乗り、別の便に乗り継いで行く形になります」

 

「そう、ありがとう」

 

 お礼を言うと、ヴェルセリアとザークがその場を後にする。

 

 入れ替わる形でフロアにギルド長のバルガス・アイアンハイドが入ってくる。筋骨隆々で赤髪、金の瞳に左頬には数々の修羅場を潜り抜けた事を思わせる傷、顎には豊かな髭が生えている。

 

 先程ザークが喋った事によりフロア全体がざわついていた。

 

「騒がしいな……何かあったか?」

 

「ギルド長、お疲れ様です。これは……その、喋る犬、と言うか狼がいまして……」

 

 ヴェルセリアが頑なに犬というので、ミラが迷った言い方をしてしまった。

 

「喋る犬? 狼? どっちだ?」

 

「飼い主は頑なに犬と言ってましたが、あれはどう見ても狼かと」

 

 少し困り顔でミラが話す。受付嬢をしていて日々魔獣使い(ビーストテイマー)を見る機会が多いので、さすがに犬と狼の違いはわかる。

 

「さっき出て行ったエルフの女が連れていた奴か? 女のランクは?」

 

 振り返るがヴェルセリア達は既にギルドを後にしていて姿はない。

 

「ヴェルセリア・エルフェインさん、ランクAの魔術師(スペルキャスター)です。最速と目される速さでランクAになった方です。喋る狼は魔術を使っていると仰ってましたが……」

 

「確かにエルフならそれをやるかもしれんが……喋る狼……」

 

 エルフは自然のものと対話をする、バルガスにもそう認識されていた。

 

 顎の髭を弄りながら唸るバルガスは、喋る狼に心当たりがあるようだ。

 

「何か気になる事でも?」

 

「いや、なに……数日前、地下書庫にあった封印の書が無くなってな。あれにはフェンリルが封印されていたと先代のギルド長から聞いていた。フェンリルは灰蒼の毛並み、人語を話し、氷属性の魔術を操る……いや、封印を解くのは先ず無理だろう」

 

 あの封印の書の周りにあった注意書きには、推奨ランクS以上となっていた。全ギルド支部を探しても、現役でランクSの冒険者は片手ほどしか存在しない。そしてここ『マリヌス』に現役のランクSの魔術師(スペルキャスター)はいない。故に誰もあの封印の書に手を出せなかったのだ。

 

「考えすぎか……」

 

「あ……ヴェルセリアさんには、ランクSへの昇級試験への打診は行なっていました。ただ、断られましたけど」

 

 過去に断られた理由が『面倒』の一言だったという事は、ミラは言えなかった。

 

「ふむ……エルフの女はいつ頃戻ってくる予定だ?」

 

「最短で15日でしょうか……ドラゴン討伐を1人でやると仰ってました……『オトモ』を連れているとは言え、かなり無理があると思いますが……」

 

 最短とはパーティで臨んで移動と討伐、素材回収をした場合の話である。

 

「何ぃ!? ドラゴン討伐を1人でだと!? そんな事できるのか!? ……いや、物理的に無理だろうな……途中離脱で戻ってくるだろう。戻ってきたら報告してくれ」

 

「わかりました」

 

 知らぬ間にギルド長バルガスに目をつけられていたとは気付かないヴェルセリア。1人と1匹はドラゴン討伐へと向かうのであった。




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