『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「じゃあ、全部潰すしかないね!」
軽いノリで応えるイグニス、本気でこの男はやろうとしている。
「全部って……イグニス、お前は魔力感知できるんだからちゃんと見てくれ。動く物だけを壊すんだ」
「えー……面倒だなぁ……」
アルドリックに促され、イグニスは足元のタイルに剣を突き立て剣の柄に手を添える。静かに目を閉じ、魔力感知を行う。
「……右側、手前から2、5、7、10体目。左側、1、3、8、13体目が動くよ。……ん? ここじゃない所、もっと深い場所に何かいるなぁ……」
「今は手前の物だけで十分です、よくやりましたイグニス。皆聞きましたね? 手前の4体をイグニスとメイプルにお願いします。奥の4体はコーデリアと私で。リリアとアルドリックは後方で
「わかりました、皆さん気を付けてくださいね」
リリアはそう言うとアルドリックと共に下がり、周りを警戒をする。
「メイプル! どっちが早く壊せるか競争だ! 俺は右側をやるよ!」
「ニャ! ……負けにゃいニャよ~!」
イグニスとメイプルが顔を見合わせ頷くと、準備運動をするように屈伸などをする。同時に深呼吸をし、示し合わせたように勢いよく走り出した。それと同時にワンドを抜いたローランドと、弓を構えたコーデリアが詠唱に入る。
シャンッ……
「大気を翔ける精霊よ、我が意志の刃と成れ。千の断裂を以て虚空を刻み、形なき銀閃よ、
「大気を翔ける無形の猛威よ、我が意志を芯に
ローランドを取り囲むように風が吹き抜け、見えない刃が風切り音を奏でる。隣にいるコーデリアが構える矢じりにも風が集まりこちらも風切り音を上げ、ローランドと同時に放たれる。
互いの魔術が同時に唸り発動し、イグニスとメイプルを追い越していく。
『!!』
それに気が付いた2人は走る速度を上げていき、動き出す前に手前側の
『ハァッ!!』
ほぼ同時にイグニスとメイプルは
「次っ!」
イグニスは5番目の石像に向かって、石柱の上を駆け抜ける。身体に小さな雷を纏い、素早く走り抜けていくため
「ヤァッ!!」
高く飛び上がったイグニスの剣が、石像に降りかかる。石像をまるで柔らかなゼリーを切るように音もなく石柱ごと斬り落とした。
「ニャーッ!」
メイプルも石柱を蹴飛ばし、3番目の石像に向かって空中を回転しながら飛びかかる。爪を伸ばし、回転する勢いをそのままに石像の身体を真っ二つに切り裂き石柱から叩き落とす。
同時に陶器が割れるような派手な音を立て
「同時かー! この勝負は引き分けだね」
「へへ……! 次は負けないニャ!」
イグニスとメイプルはハイタッチをし、互いを認め合う。
アルドリックは
「……ここまでの仕掛けはもう無さそうだが……入口に凄そうなものがあるぞ」
構えていたシールドを下ろし、神殿の入口の前で止まるアルドリックはローランドに手を上げ来るように促す。ローランドが近付き確認すると、眼鏡を持ち上げ感嘆の声を上げた。
「ほぅ……先程の
警備装置が無くなったところで、入口の扉には幾重にも張られた強力な結界があった。その結界の造りは現在使われているものとは違い、複雑な文様の魔法陣が浮かび上がっている。
それを見たイグニスは、ローランドの隣に音もなくピタリと近付き無邪気に聞いてくる。
「俺、壊そうか?」
無邪気なのだが、その目は本気で扉を壊そうとしている。
「ちょっ! このアホーッ! まだこの建物が何なのかもわかっていないのに壊すバカがいますか!」
イグニスの本気な目を見て、ローランドも本気で怒る。放っておいたら本当に壊してしまうからだ。
「えー……だって、絶対時間かかるよね? これ」
「……えぇ、かかりますとも。ですが、忘れていませんか? 今回はギルドを挙げての探索……私達の勝手で建造物を破壊するのはダメです!」
『最果ての
「ちぇーッ! 仕方ないなぁ」
「……と言う訳で、少し時間がかかると思います……皆さんは休憩でもしていてください」
やれやれと肩をすくめ、ローランドはいつも魔獣をスケッチしているものとは別のノートを取り出し、扉の前に座り込む。過去に探索で見つけた魔法陣と見比べ共通点を探すため手をかざし、先ずは重なり合った魔法陣の数を数えていく。
「うーん……これはまた……複雑ですねぇ……」
唸りながら解析をしているが、あまりにも古い魔法陣であったため苦戦をしている。そんなローランドを手助けしようと、リリアが寄り添い1つずつ紐解いていく。
「こちらの魔法陣、似たようなものを前に見た記憶があります。ほら、『デメテラ』で……」
「どれ……なるほど……確かに似ていますね」
他のメンバーは休憩をしろと言われたので、その場で座り込んだり寝転がったりと自由にしている。
「これ、どれくらいかかるかなぁ……せっかく身体が温まってきたところなのに」
暇を持て余しているイグニスがその場で座り込み、ローランド達を見てため息を吐く。それを
「ローランドとリリアが頑張っているから、俺達は大人しく待っていよう」
丁寧に解析をしているので、遺跡などを探索する時はいつも待たされているのだ。斬り込み隊の面々は暇である。
「でも、こんにゃに複雑にゃ結界を張られちゃったら、当時こにょ建物に来てた人たちはどーやって中に入ってたニャ?」
「……言われてみればそうだよな、最後に訪れた人が閉めた、にしてはかなり手が込んでるし……」
メイプルの指摘に、コーデリアがハッとした顔で考えもしなかった事に気付いた。神殿に来る信徒が毎度あの
「通行証みたいなのがあったのかなぁ」
イグニスがポツリとテキトウに答えたが、それに喰いついたのはローランドだった。
「……それだ、それですよ! イグニス、よく気が付きましたね!」
ローランドは立ち上がり、休憩しているイグニス達に向き直る。
「信仰しているものがわかれば、ここが何の神殿かわかります。そうすれば信徒が身に着けている物がわかりますからね」
「身に付けている物?」
「信徒の
そう言われ、各々が動き出す。この神殿に祀っている対象が何なのか、建物の扉、外周などシンボルがないかよく見る。最初にこの神殿を発見した時はあまり気にせず見てきた物だったが、今一度意味を考え探してみる。
「うーん……信仰対象と思って見ると、全部がそう見えてくるな」
言った手前、イグニスもシンボルを探す。この神殿がここに建造されてからかなりの時間が経っている割には、荒らされていないため建物は比較的きれいだ。そのため装飾されたものは崩れておらず、シンボルらしき物が刻まれているのはわかりやすい。
「……多分、これ、じゃないでしょうか」
リリアが床のタイルを指さし、ある模様に注目する。それは丸に放射状に伸びる線で表されたもの、その図形がそこかしこに装飾されている。
「これは……太陽、ですかね」
ローランドが魔法陣が浮かび上がる入口の扉を見上げ、細かく彫刻された模様を観察する。扉の中心に太陽と思われるものがあった。そして太陽を信仰としているものを挙げる。
「太陽を信仰……『ヘリオス聖教』……」
『ヘリオス聖教』は、太陽を信仰しこの世界にある『教え』の中でも歴史が長く、信徒の数も多い。組織宗教の起源は、『救済の神話』の時期とも言われ、この未踏域と関係が深そうだ。
「歴史の長さを考えたら、ここにいた古代人が始めた信仰かもしれませんね。……と、言う事はここが『ヘリオス聖教』の始まりの地になるのでは!?」
興奮気味にローランドがパーティメンバーを前に語る。
『ヘリオス聖教』については、起源となる神殿の所在が不明となっていた。それが今いる場所となれば、歴史書が書き換わるレベルの大発見となる。
「え!? もしそうなら……それこそ歴史的発見に!?」
「ニャニャ! そうにゃったら『最果ての
パーティメンバーそれぞれが色めき立つ中、1人冷静だったのがイグニスだった。
「とりあえず、中に入る方法考えない? いい加減俺暇なんだけど」
その一言で、パーティメンバーがピタリと止まり落ち着く。そう、まだ中に入っていないので、この建物が何なのかがはっきりわかっていないのだ。
「ん゛、ごほん! えー……仮に『ヘリオス聖教』の神殿であった場合、信徒は常に持ち歩いている物があります」
ローランドは咳ばらいをし、マジックバッグを探る。神殿跡地などを過去に探索した際、その地を踏むのに信徒の
「これです、
人数分の
「『ヘリオス聖教』は太陽を信仰していますので、それの象徴として
「御託は良いから、行こうよ」
ローランドの説明もそこそこに、イグニスは扉の前に立つ。すると、ペンダントの
「これは……信徒のみ通れるように、
ローランドが結界の様子を見て、完全に消えるのではなく弱くなったと表現した。
「結界が何度も使えるように、でしょうか」
リリアが結界が弱くなった理由を考察する。
何度も信徒が通ったであろう扉。結界の厚さと信徒の証で容易に突破できる様子から、信徒以外を絶対に通さない事を表している。
そしてイグニスは扉に手をかけ、ゆっくりと押していく。長い時を閉ざしていた扉は重く、床を擦るような音を立てて開いた。
「わぁ……お庭だニャ」
扉の中に入るとそこは明るいアトリウム、中庭のような場所だった。中央には噴水があるが、今は水がない。石畳が敷かれ整備された中庭だが、長年手入れをされていないので敷かれた石の隙間から雑草が生えている。ただ、花壇があった場所には雑草に混じり幾種類かの花が咲いていた。
「人が居た時はさぞ立派な庭だったんだろうね」
一行は中庭の奥にある扉の前に進んでいく。扉を押し開くとそこは
更にその奥に大きな扉があり、押し開くと身廊、左右に側廊、一番奥に祭壇が見えた。身廊に入ると埃っぽく、長い間誰も足を踏み入れていない事がわかる。
天井が高く、歩くたびに靴音が響く。左右の側廊にある窓からは光が入り、身廊を明るく照らす。
祭壇の正面に大きなタペストリーが飾られ、その中心には大きな太陽と思われる絵が描かれていた。
「……『ヘリオス聖教』、で合っていたみたいですね」
「ここで古代人は祈りを捧げていたのか……」
祭壇の上には半円形の天井があり、そこには壁画があった。そこに描かれていたのは、人らしきものが何かと戦っている姿。そして祈りを捧げる人の姿だった。
「ここでの歴史を描いているのかな?」
イグニスが壁画を見上げる。近付いて壁画を見てみると、半円形の天井をぐるりと埋め尽くすように描かれていて、何かを遺そうとしているのがわかる。
「これは貴重な歴史的な建造物ですよ……よく今までこれだけ綺麗に残っていましたね」
イグニスの隣にローランドがやってきて、壁画を見上げる。
「……今まで残っていたのって、表の警備装置が働いていたからじゃないのかな……」
『…………』
イグニスのその一言で、一同黙ってしまった。
「こ、壊しちゃったニャ……」
先程思い切り石像を壊したメイプルは青ざめる。
「知らなかったとは言え、これはまずいな……」
直接石像を壊してはいないが、イグニスに魔力感知で動く石像を探させたアルドリックも責任を感じていた。
「し、至急本部に連絡しましょう! 『鳥籠』と
このまま放っておいたのではマズいと察した一行は、本部に判断を仰ぐよう準備をするのであった。
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