『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第53話【ザークへの嫉妬】

「温かいお風呂に入りたいですわー! ベッドでグッスリ眠りたいですわー!」

 

 探索とフィールドマッピングを開始してから23日目。パーティメンバーにも疲労が色濃く出てきている。

 束の間の休息――水浴び中、川で暴れながら突然エレノアが大声で叫んだのだった。エレノアはそろそろ限界である。

 

「……もう少しでマッピングも終わるわ」

 

 髪をとかしながらヴェルセリアは現在までに終わったマッピングをした方眼紙を思い浮かべる。

 

「本当ですの!? ヴェル姉様!」

 

「えぇ、今いるこの1区画で最後よ。後で上からこの一帯を確認をしてみたいのだけど……」

 

「長かったな……」

 

 ため息を吐くクレア。いくら経験が豊富とは言え、これまで1ヶ月近く同じ案件で時間をかけた事はあまりない。

 

 即席パーティだったにもかかわらず、行動を共にしてくればメンバーはそれぞれ打ち解けあう。

 

「街に戻ったら一番に何をしたいですか? (あと少しで終わるかな?)」

 

 フィオナが洗濯物を干しながら聞いてくる。

 

「私はやっぱり温かいお風呂ですわ!」

 

 エレノアは先程も言ったように一番にお風呂を出した。

 

「とにかくベッドで寝たいな、警戒しながらだとグッスリ眠れやしなかったからね」

 

 クレアもかなり疲れている。交代とは言え、野営での睡眠は疲れがとれない。

 

「……フィオナは何をしたいの?」

 

 風の精霊を使い、髪と洗濯物を乾かしながらヴェルセリアが聞く。

 

「私は……『リヴェリア』の中央広場にある、『フリーズ・マナ』のアイスクリームが食べたい、です。(今度は何を食べようかな)」

 

 『リヴェリア』の中央広場にはギルドと様々な店が立ち並んでいる。その中でも人気のアイスクリーム屋が『フリーズ・マナ』だ。ここは引退した魔術師(スペルキャスター)が営んでいる店で、変わったメニューが人気だ。

 

「それ、いいわね。あの店の店主、頑固なおじいさんだけど魔術について色々知っていて面白いのよね」

 

 ヴェルセリアも以前この店で、店主に話を聞きながらアイスクリームを食べていた。お気に入りのメニューは『女神の吐息』と言う名の真っ白で舌触りの良いアイスクリームだ。

 

「ヴェル姉様は何をしたいのですの?」

 

「私は……とにかくザークを洗いたいわ。いつもなら戦闘が終わる毎に洗っていたけど……ブラッシングだけじゃダメね、いつものふわふわ感が無くて……」

 

 頬に手を当て、ため息を吐く。

 

「ザークさん、愛されてますわね……」

 

 この探索中、夜寝る前に毎日ザークをブラッシングしているヴェルセリアを見ていたエレノア。やりたい事が自分の事ではなく、ザークの為にしたいと言い出しているので相当なものだと思った。

 

「どちらかと言えば、飼い主の責務みたいなものよ」

 

「責務、ですの?」

 

「ワンちゃんを飼うなら、飼い主が責任をもって可愛がらなくちゃ、ね」

 

 既に皆の前でザークはフェンリルだと知られているが、頑なにザークを犬と呼ぶ。その姿にエレノアは苦笑いをするのであった。

 その話を聞いていたクレアがずっと気になっていた事をヴェルセリアに聞く。

 

「ねぇ、ヴェルセリアはなんであの狼を可愛がるんだ? ハイエルフがそんな事してるの、初めて見たよ」

 

 ヴェルセリアは少し驚いた顔をし、そして微笑みながら答える。

 

「なぜって? 可愛いワンちゃんだからよ」

 

「そこが理解できないんだよね、ハイエルフって理由が明確じゃないと他の種族とは連まないじゃない? 儀式に使う生き物とか……って、私が言えた事でもないけど……」

 

「森エルフ(ウッドエルフ)も共存共栄でしか獣とは付き合わないものね、理解はされないと思ってるわ」

 

「しかも可愛がるレベルが人間の比じゃないから……甲斐甲斐しく世話してる姿を見てびっくりしたよ」

 

 クレアは少し呆れ気味に話し、ヴェルセリアを見る。

 

「私はそんなつもりはないのだけれど……」

 

「ヴェル姉様、周りからはそう見られてますわ」

 

「そう? 私は楽しんで世話をしてるのよ。あの子の毛がふわふわになるの、とても楽しいわ」

 

 両手を頬に当てうっとりしながら話すヴェルセリア。探索に入る前は定期的に洗い、ザークの毛に顔を埋めてモフるのが楽しみだったため、ここのところふわふわ感がなかったのが不満だったのだ。

 遠回しに言えば自分のため、ではあるがあの大きな狼を毎日洗いブラッシングをするのはかなりの労力が伴う。それを楽しんで世話をしていると本人が言っているので、改めてエレノアとクレアは呆れるのであった。

 

***

 

「ックシュン!」

 

「あれ? ザーク、風邪かい?」

 

 女性陣とは離れた所で水浴びをしているシオンが、ザークを気にかける。

 

「いや……俺の事噂してるやつがいるな」

 

 耳を立てて周囲を見回す。どう考えてもヴェルセリアだが。

 ザークは岩場の上で日向ぼっこ中であった。探索中、常に警戒をしているのでなかなか気持ちも休まらないが、この周囲はそこまで騒ついていないので少しだけゆっくりしている。

 

「自意識過剰だなぁ……しかしエルフと狼が一緒にいるって、なかなかないよな。屈従契約云々より、ザークはどうやってヴェルセリアと出会ったんだ?」

 

 水場から上がり体を拭きながらシオンが聞いてくる。

 

「それは色々あって……な」

 

 欠伸をしながら答えるザーク。あまり詳しい話をするなと命令をされているので、話すに話せない。

 

「ふ〜ん……それにしたって、あんな美人に世話されてるなんて羨ましいねぇ。なぁ? テオドール」

 

 話を振られたテオドールは水浴びを終わらせ、その逞しい体を拭いている。

 

「そうですね、ヴェルセリアさんはとても美しい方ですから。それにザークさんへのお世話には愛情を感じます」

 

「あ、愛情……!?」

 

 驚きのあまり、先程まで眠そうにしていたザークは起き上がってしまった。

 

「あれ? 世話されてる本人? はそう思ってなかったのか? ヴェルセリアも可哀そうだな。あれだけ毎日献身的に世話をしているのに」

 

 シオンは着替えながら言う。この1ヶ月近く寝食を共にしてきたので、ヴェルセリアがザークに対する世話を焼いているところをしっかり見てきていた。

 

「あれは……ヴェルが勝手にやってるだけで……」

 

 テオドールとシオンが顔を見合わせ、なんだかやるせない顔をする。

 

「ザーク……お前……もう少しヴェルセリアに対して感謝した方がいいぞ……そんな風に思ってたらバチが当たるぞ」

 

 ため息を吐きながら諭すシオン。

 

「な、なんでそこまで言われなきゃいけねぇんだよ……」

 

 耳を伏せ、何か悪い事しているかのような気持ちになるザーク。

 

「あのなぁ、ギルド内じゃヴェルセリアは有名なんだぜ? ランクAに上るまで最短と言われ、遺跡探索に1人で現れ淡々と地図を拡げていく……『遺跡探索の女神』なんて言うやつもいるくらいだ」

 

「い、遺跡探索の女神ぃ~?」

 

 初めて聞く言葉に、ザークは変な顔をする。

 

「ただでさえ元から有名だったのに、お前が『オトモ』になってからは、ドラゴン討伐最短記録を樹立してから今回の未踏域発見……そして美人とくれば、誰もが、特に男共は黙っちゃいない!」

 

 あまりの熱弁ぶりに若干引き気味なザーク。シオンに物理的にも詰め寄られる。

 

「お前の事が羨ましいなんて声、あちこちから聞こえてるんだからな! それになんだよ! お前ら見てるとしょっちゅうヴェルセリアに抱きつかれたり挙句……耳をハムハムされてたり! 羨ましいなちくしょう!」

 

 興奮気味にシオンがザークの顔の前で叫ばれ、圧倒される。

 

「ちょっ……お、落ち着けよ……抱きつかれるのは……ヴェルが勝手にしてくる事だし、耳……は魔力供給だから仕方ねぇだろ……? それにさっきの話、ヴェル本人にはそんな情報、多分入ってきてないぞ。俺も今初めて聞いた……テオドール、お前は知ってたのか?」

 

 着替え終わったテオドールに助けを求めるように聞く。テオドールは少し考えてから返事をする。

 

「……『遺跡探索の女神』に関してはここ最近小耳にはさむ程度、でしたら。ドラゴンの件はお2人に出会って以降に聞きましたね」

 

「全部最近の話じゃねーか! 内輪の話を世間一般の常識みたいに話すな!」

 

 それ見た事か、と言う風に反撃をするザーク。

 

「それじゃ、お前、ヴェルセリアの事なんとも思ってないのか? ヴェルセリアに告白してもいいんだな?」

 

「……あ? なんで、そうなる……」

 

 急に真面目なトーンになったシオンに、たじろぐザーク。

 

「知らないのか? ヴェルセリアがギルド内外で人気があるのを。今はお前が常に番犬みたいに怖い顔をして隣にいるから近付けねぇ奴が多いが、以前は常にアプローチする奴が多かったんだぞ」

 

「それは……ナンパだよな……」

 

 確かにナンパ目的で近付く男が多いのはわかっていた。人たらしのヴェルセリアなので予想はしていたが、ナンパはせずとも好意を向けている人は多かったようだ。

 

「ヴェルセリアは美人で強くてまさに高嶺の花だし……でも実際話してみたら周りをよく見て気遣いは最高だし、いつも欲しい言葉をくれる。蜘蛛を怖がる姿なんて意外で可愛いし……それに俺みたいな奴にも優しい……とにかく優しいよな……」

 

 シオンは少し頬を赤くして腕を組み、うんうんと頷きながら語る。

 

「あー……あれは博愛主義者な上に天性の人たらしだから……」

 

 事実を言うと、シオンは怒ったように反論する。

 

「そんな言い方ないだろ! あれはヴェルセリアの優しさだ! きっとそうだ!」

 

 シオンは完全に盲目状態である。このままシオンを暴走状態にしておくのも後々やりにくくなりそうだと思ったザークは、それを止める一言を放つ。

 

「熱弁してるところ悪いが……ヴェル本人に以前聞いた話だと、今は忙しいから誰とも付き合わないってよ」

 

 間違ったことは言っていない、本当の事だ。

 

「なっ! それ本当か……? 危ねぇ……告白して自爆するところだったぜ……」

 

 ガッカリするのではなく、ダメージを受けずに済んでほっとしているあたり、シオンはそこまで本気でなかったなと思うザーク。そう思っていたら、後ろから声がかかる。

 

「何が自爆しないですんだのですの?」

 

 水浴びと洗濯物を済ませた女性陣がこちらに来た。

 

「洗濯物は済んだ? 乾かすわよ」

 

 先程まで話の中心だったヴェルセリアが来て、シオンは明らかに動揺する。

 

「あ、せ、洗濯物、干し終わったぜっ」

 

「? どうかしたの?」

 

 何も知らないヴェルセリアが怪訝そうな顔を向ける。

 

「なんでもねぇよ、なぁ?」

 

 ザークが言いながらヴェルセリアに傍に行き、鼻先を近づけると慣れたようにヴェルセリアに撫でられる。ヴェルセリアは顔を近付け、ザークの首に抱きついた。

 

「日向ぼっこでもしてたの? お日様みたいな匂いがするわ」

 

 柔らかい笑顔でザークを撫で回す。シオンの方をチラリと見たザークの顔は、優越感に浸るような表情だった。

 

「……んのヤロウっ!」

 

 当てつけのような態度に腹を立てるシオンであった。




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