『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第54話【フォレスト・ゴーレム掃討戦】

「ところで、一度この辺りを上から確認をしたいのだけれどいいかしら?」

 

「上からですか?」

 

 洗濯物に風の精霊魔術をかけながら、ヴェルセリアは先程話していた、マッピングの進捗を上空から確認をしたいとテオドールに相談する。

 

「残すところあと1区画、今いるこの一帯だけなのよ。ここさえ埋まれば私達の担当区域は終わりよ」

 

「そうですね、全体を確認するのも大事ですから」

 

 他のパーティメンバーも頷く。異論はないようだ。

 

「それじゃ、早速確認してくるわ」

 

 洗濯物が乾いたのを確認すると、ヴェルセリアは準備にかかる。

 

 ワンドを抜き、指揮者のように振った。

 

 シャンッ……

 

 ワンドに装飾された鈴が涼やかに響く。

 

「精霊達よ! 我が声を聞き此処へ集え!」

 

 ヴェルセリアの周りに光の粒が湧き立つ。

 

「目に見えぬ風の精霊たちよ、我が足下に集いて不可視の奔流を成せ。重き大地の枷(かせ)を解き放ち、天翔ける翼の如き浮力を与えよ。風の道筋を駆け、遙かなる高みへと我が身を運び給え」

 

 ヴェルセリアの体を包むように風を纏う。そして連続で詠唱をする。

 

「大気を揺らす不可視の精霊よ、集いて我が足下の礎(いしずえ)となれ。移ろいゆく風に凝固の契りを結び、天上の道、一時の静止を以(も)て我が進路を拓(ひら)け」

 

 半透明な足場が、空中にいくつもの階段状になって現れる。

 

「行ってくるわね」

 

「ヴェル姉様、お気をつけて!」

 

 エレノアに笑顔で応え、跳躍をする。ヴェルセリアはふわりと高く舞い上がり、透明な足場を軽い足取りで昇ってゆく。

 

 作った足場の一番高い場所に到達し、定位核(コンパス・コア)と今までマッピングをしてきた方眼紙を見て、現在の場所を確認する。そして埋まっていない場所の目星をつける。

 

「あとこの一区画が終わっていないのね。……あの場所、何かありそうね」

 

 見下ろしたその先に、木が茂った中ポッカリと穴が空いたかのような少しだけ開けた場所があった。マッピングのされていない最後の場所はその周辺である。

 

「あれは……」

 

 よく見ると建物のようだ。遺跡なのか、ここからではよくわからない。

 

「建物かしら? ……もしかしてあの場所に『禁書』があるかもしれないっ!」

 

 そう思い、一歩足場を前に出た時だった。辺り一帯で地響きのような低い音がする。

 

「? 何かしら?」

 

 建物の近くから土煙が上がっている。遠目でははっきりわからないが、何か大きなものが動いているように見える。

 

 そう思った瞬間――

 

 何かが爆発したような破裂音が響く。

 

「……え? 何が起きているの?」

 

 同じ頃、櫓(やぐら)の上から監視をしていたバルガスがその異常事態にいち早く気付く。

 

「な……ッ! 爆発!? いや、あれは土煙か? それに上空に人影……? あれは……装備からして魔術師(スペルキャスター)か? は! もしや……ヴェルセリア・エルフェインか!?」

 

 バルガスが騒いでいるのを、櫓の足元にいたローワンが気付いて声をかける。

 

「ギルド長! 何かありましたか?」

 

 櫓の梯子(はしご)を滑るようにしてバルガスが降りてくる。

 

「異常事態発生だ! 俺も出るぞ!」

 

 降りてくるなり、バルガスは自分の装備を手に取る。

 

「はぁ!? 何を言っているんですか! ダメですよ!」

 

「かなりの爆発だ! 放ってはおけないだろ!」

 

 少し大袈裟に言うバルガス。この1ヶ月近く、本部に縛り付けられ身動きが取れなかったため、理由をつけて現場に行きたくてウズウズしていたのだ。

 

「ダメですって! ギルド長は本部に留まって下さい! それにまたアリスター支部長に怒られますよ!」

 

 コルネットからも留まるよう怒鳴られているが、聞こえてないふりをして、バルガスは身体強化魔術を詠唱する。

 

「大気を巡る迅雷よ、我が四肢に宿りて時を追い越せ。肉の檻を脱ぎ捨て、刹那を駆ける閃光と成れ。思考の先を行く拍動を以(も)て、万象を置き去りにせん!」

 

 バルガスの身体を光が包む。パーティDがいると思われる方向に、文字通り光の速さで走り出してしまった。

 

「あぁ! ギルド長〜!」

 

 行ってしまったと項垂れるコルネット、その隣にいたローワンが覚悟を決めた顔をする。

 

「コルネット! 俺、ギルド長を連れ戻しに行ってくる! 本部を頼んだぞ!」

 

「ろ、ローワン! ……ギルド長を……引き摺ってでも連れ戻してくれッ!!」

 

 ローワンはバルガスと同様に身体強化魔術をかけ、バルガスの後を追うのであった。

 

***

 

「なんだ!? さっきの爆発は! 近いぞ!」

 

 バサバサと、森の鳥達が一斉に飛び立った。ザークは耳を立て、周囲を警戒する。地平から見ても森に土煙が上がるのが見える。

 

「何かが……動き出したのかしら? ……なにか、急に魔力が湧き出すような……」

 

 エレノアは周囲の空気に漂う魔力を感じる。言いようのない、得体の知れない何かが動き出した感覚が襲う。

 

「ヴェルは? 無事か?」

 

 足場のある上を見上げると、ヴェルセリアが降りてくるところだった。

 

「ヴェル! 何があったかわかるか?」

 

 ヴェルセリアはふわりと着地をする。

 

「土煙が上がったと思ったら、爆発みたいなものが起きたわ。魔力が複雑に編み上がる感覚がする……あれは一体……」

 

 そう説明している間、爆発があった反対方向から勢いよく何かが走って近付く気配がする。

 

「無事かーーーーー!!!」

 

 バルガスが勢いよく茂みを掻き分け飛び出してきた。

 

『えぇ!! ぎ、ギルド長!?』

 

 予想外の人物がここにいる事に、パーティDのメンバーが皆一様に驚きの声を上げる。

 

(見つけたぞ! パーティD!! そしてあの帽子を被った人物がヴェルセリア・エルフェインか!)

 

 バルガスがヴェルセリアの後ろ姿を捉えた。驚いたヴェルセリアが振り返ろうとしたその時だった。爆発があった方向、ヴェルセリアの後ろから何か岩のようなものが飛んできた。

 

「ガッ!! ……う……」

 

 岩はバルガスの腹に命中する。ヴェルセリアの後ろ姿しか見えてなかったバルガスは完全に不意打ちを喰らい、その場で気絶をしてしまった。

 

 飛んできた岩には蔓(つる)が巻き付いており、ズルズルと飛んできた方向に戻っていく。

 

「ギルド長! しっかり! ……あーだめだこりゃ、完全にのびてる……」

 

 シオンがバルガスの様子を診るが、大事には至らずとも完全に気絶をしてしまっている。

 

「それより今のは……?」

 

 クレアが岩が引きずられていった方向を見る。

 

「み、皆さん警戒を! 直ちに攻撃態勢をとって下さい!」

 

 テオドールが指示を出す。全員が示し合わせたように動き出す。すると、岩が蔓に巻き取られ引きずられた茂みから、枝葉を踏み潰すような重々しい音を鳴らす大きな影が近付く。そこから現れたのは蔓や古木や岩が絡み合った、人型の大きな物体だった。

 

「これは……森林の巨像(フォレスト・ゴーレム)!!」

 

 ヴェルセリアはその巨体を見た瞬間、その正体を口にしていた。

 

「森林の巨像(フォレスト・ゴーレム)?」

 

「石や岩だけじゃなく、古木や蔓なども材料として構成されたゴーレムよ。今ではすっかり見る事も少なくなった、失われし魔術(レガシー・アーツ)ね」

 

「失われし魔術(レガシー・アーツ)と言う事は……術師はいない……って事ですの?」

 

 エレノアが周囲を見回す。だがパーティメンバーとのびているバルガス以外に人影はない。

 

「えぇ、遺跡にいるゴーレムの大半は昔、術師によって命令を刻まれたもの……今もずっとその命令が生きているのよ」

 

「と、言う事は……」

 

 考察している最中、再びゴーレムがいる側と反対側の茂みから、何かが近付く気配を感じる。

 

「! 今度はなんだ!?」

 

 クレアが弓を構え、振り返ると――

 

「うわ! ストップ! ギルド職員のローワンです! ギルド長を止めに……って、のびてるじゃないですか! おまけになんかお取込み中でしたか!」

 

 バルガスを追ってきたローワンがタイミング悪く現れた。だが、ヴェルセリア達にとってはバルガスが邪魔だったので好都合であった。

 

「そこのギルド長をなんとかしてくれ! こっちはそれどころじゃないんだ!」

 

 シオンはシールドを構えながらローワンに向かって大声を張り上げる。

 

「わ、わかりました! 大変ご迷惑をおかけしましたー! ギルド長! 起きてください! あぁもう! なにやっているんですかー!」

 

 ズルズルとバルガスの脚を引きずりながら後退していった。バルガスとローワンがある程度離れた所で、パーティメンバー全員はゴーレムに集中する。

 

「……で、これはどう倒せばいいんだ?」

 

 ザークは唸り声を上げながらヴェルセリアに聞く。

 

「核(コア)を破壊すれば止まるはずよ」

 

「どこに核(コア)が?」

 

 ヴェルセリアは人差し指を顎に当て少し考え、出した答えは単純だった。

 

「……先ずは一度全体を破壊してみるのはどうかしら?」

 

「簡単に言いますけど……」

 

 フィオナがゴーレムを見て、諦めそうになる。巨大なゴーレムの素材は岩や倒木、蔓などが絡み合っている。これを破壊するとなれば、どれだけの攻撃を当てればいいのか想像がつかない。そう思った時、自信満々な声が飛んでくる。

 

「先ずはその絡んだ蔓を燃やしますわ!」

 

 エレノアがワンドを構え、先手を取る。

 

 シャンッ……

 

 ワンドを飾る鈴が涼やかに鳴る。レイピアを構えるようにワンドを前に突き出すと、滑らかに詠唱を始めた。

 

「わが身に流れる魔力と魂。その力、顕現せよ!」

 

 エレノアの前に顔より二回り大きい炎の玉が出現し、ゴーレムに向かって飛んでいく。ゴーレムは炎に包まれ、石や岩以外の蔓や古木が燃えていくが、熱さや痛みを感じないゴーレムは、そのまま前進してくる。

 

 ヴェルセリアは右手を前に出し詠唱を紡いだ。

 

「虚空を越えよ、鋼の魂。封印の楔を解き、今こそ真姿(ますがた)を此(こ)の手へ!」

 

 右手にスタッフが握られる。

 

「クレア! ゴーレムを破壊するわ、貴女の鷹の目で核(コア)を探して!」

 

「ふ……わかったよ!」

 

 クレアは軽い身のこなしで、木の高い場所へ飛び移る。それを確認したヴェルセリアは、スタッフを一回転させ地面を突く。

 

 カッ……シャンッ!

 

 エメラルドの瞳が魔力を帯び輝く。スタッフを両手で持ち、静かに詠唱をする。

 

「万象の核に刻まれし、不変なる律動(リズム)を視認せよ。静止せる岩塊の裡(うち)に、我が魔力を以て共鳴の楔(くさび)を打たん。増幅せし波動は絆を断ち、強固なる実存を内より瓦解せしめよ」

 

 ゴーレムが小刻みに震えだし、岩に細かく亀裂が走る。岩の持つ「固有振動数」に合わせて魔術で振動を送り込み、共鳴現象によって内側から粉砕していく。前進していた動きがゆっくりになり、繋ぎ合わせていた箇所から崩れ始めていく。それでもゴーレムは前進するが、動くたびに内側から砕け原型がなくなっていった。

 

「やったか……?」

 

 ザークが前に出て確認しようとする、が。

 

「ッ! 下がって下さい!」

 

 テオドールが何かに気が付き、声を張り上げる。ゴーレムがいた場所の足元から、蔓が勢いよく伸びてくる。それと同時に砕けた岩と石が蔓に巻き取られ同じような形を作り上げていく。

 

「これは……再生!?」

 

「クレア! そこから核(コア)は見えなかったか!?」

 

 木の高い位置にいたクレアに、シオンがシールドで蔓を弾きながら確認をする。

 

 クレアは目を凝らし、再生を始めた砕けたゴーレムの残骸から核(コア)を探す。

 

「どこだ……っ」

 

 弓を構え、再生を始めたゴーレムの欠片の中から探し出す。その中で1つだけ魔力を湛え、異彩を放っている塊を見つけた。

 

「……見えた……っ!」

 

 クレアは弓を構えたまま詠唱を紡ぐ。

 

「大気を翔ける無形の猛威よ、我が意志を芯に此(こ)の矢へ集え。唸りを上げる螺旋の風を纏(まと)い、因果の速度を追い越さん。放たれし一陣の凶牙(きょうが)、遮るもの全てを穿(うが)ちて突き抜けよ」

 

 矢じりに風魔術が宿り、核(コア)に狙いを定め矢を放つ――

 

 再生するより早く、クレアの放った矢が核(コア)を砕く。その瞬間、糸が切れたマリオネットのようにゴーレムの身体を構成していた岩や古木などがその場でバラバラと崩れていく。

 

「やったな!」

 

 シオンがクレアに向けて腕を上げて賞賛し、クレアも親指を立ててそれに応える。

 

 ヴェルセリアはバラバラになったゴーレムに近付き、その一部を手に取る。

 

「上から見ていた時の爆発のようなものは、このゴーレムが動き出したからかしら」

 

 ゴーレムの一部を見ると何か模様のような物が刻まれていた。先程砕いてしまったので、模様は途中で切れてしまい判別はつかないが小さな魔法陣のようなものに見えなくもない。

 

「このゴーレムはどこから現れたのですかね?」

 

 ゴーレムの欠片を見ていたヴェルセリアに寄り添い、フィオナが質問をする。

 

「さっき上から見た時、この先に何かがあったわ。建物……なのかしら。そこから土煙が上がったから……」

 

「そこに何かありそうですね」

 

 テオドールも話に加わり、この後の事を決める。

 

「まずはこの周辺の索敵を行って、この他にゴーレムがいないか確認しましょう」

 

「そうね、このゴーレムは何かを守るために設置したものなら、他にいてもおかしくないわ」

 

 ヴェルセリアは言いながら内心心躍っていた。この担当区域では遺跡などの探索する場所がないと思っていたからだ。ほぼ中央にあった神殿らしき建物の探索を行いたかったが、担当区域ではなかったのでガッカリしていた。だが、最後の最後で面白そうな場所を見つける事ができ、早く行きたくて仕方がない。

 

「ふふ……ツキが回ってきたわね」

 

 エレノアに目配せをし、にっこり微笑むヴェルセリア。それに気付いたエレノアがこちらに来る。

 

「ヴェル姉様……何かありました、よね?」

 

 こそこそとエレノアは耳打ちをする。期待に胸を膨らませ、瞳が輝いていた。

 

「えぇ、建物っぽい物がこの先にあるわ。さっきのゴーレムはそこから来たみたいだから……期待しましょう」

 

「ほ、本当ですの!? ~っ!」

 

 それを聞いたエレノアは小さな握りこぶしを作り、期待に満ちた笑顔になる。エレノアも中央の神殿を探索するためにこの大規模探索に参加したので、消化不良だったのだ。

 

「それでは皆さん、この先に建物があるそうなので警戒しつつ向かいたいと思います」

 

 テオドールが全員に声掛けをする。マッピング最後の区画は、期待と不安をそれぞれが抱えながら進めていく。

 果たして、無事に終える事ができるのだろうか。




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