『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「生きている物の気配は感じない……だが、さっきのゴーレムと同じものだと思う魔力の欠片を感じるな」
ヴェルセリアが発見した建物がある場所に移動した一行。息をひそめて索敵を行っていた時のザークの言葉がそれであった。
「……動く気配は今のところないが……」
見えない場所に先程と同じゴーレムの物と思われる魔力が漂っている。離れている時には感じなかったが、この距離まで近付くと漂う魔力に
「さっき、上から見ていた時に前に踏み出した瞬間破裂音がしたのよ。もしかしたら距離が関係しているのかもしれないわ」
基本的に警備装置の役割をしているものは、外敵となる物が一定の距離に近付いた時、動き出すよう設定されている。『最果ての
「しかし見える範囲にはゴーレムはいないな。なんでさっきの奴は1体だけ動いていたんだろう?」
シオンがシールドを前に警戒しながら聞いてくる。確かに見える範囲にゴーレムはいない。
「うーん……1体だけ外にいたのかしら? 外の警備のために?」
ヴェルセリアのその言葉に、建物の周囲を観察してみる。確かに、建物のすぐ脇の部分に大きな穴があった。
「あの穴からさっきのゴーレムが出てきたのか?」
ザークがヴェルセリアに向き直り確認する。
「多分、ね。時間が経ち過ぎて埋まってたのかしら。……あまり変化のないこの場所で? うーん……」
あまり納得のできていないヴェルセリアは唸りながら考えるが、検証しようにもそのゴーレムは倒してしまった。
「まぁ、建物を見つけるのに派手な動きをしてくれたから助かったわ」
「そうですわ! そうでなければ簡単に建物まで辿り着けませんでしたわ」
「そうね。それと……あの建物、高さがない。ゴーレムを使って守るにしては小さすぎる。と言う事は……地下があると考えて良さそうね」
ヴェルセリアの表情が段々と明るくなってくる。思ったよりも探索し甲斐のある建物のようだ。その隣にいるエレノアも同じような表情を浮かべている。
「テオ! これからどうしますの? このまま観察してても進みませんわよ!」
痺れを切らせたエレノアがテオドールに指示を仰ぐ。少し急かし気味だ。
「そうですね……ゴーレムの正確な数がわかれば対処がしやすいのですが、生き物ではないゴーレムを感知するのは私にはできませんので……」
「それなら私が視るわ」
ヴェルセリアが地面に両の掌をつき、魔力感知を行う。癖のある魔力が漂っていたので掴みやすいと思ったのだが――
「……1、2、3……4、5……さっきと同じ大きさのゴーレムが5体」
「さっきと同じサイズが5……楽ではなさそうだな」
「あら? まだ何かいる……ひっ!! ……え? ……なによ、これ……」
魔力感知を行ったヴェルセリアは小さく悲鳴のような声を上げる。ゴーレムの魔力感知を行っていたはずなのだが、それとは別の
「ヴェル? どうした?」
「ゴーレムとは別に、かなり深い場所に……何か、生き物? 魔獣? ……が……いるわ」
ヴェルセリアは自分の肩を両手で抱くようにして、怯えている。その肩は小刻みに震えている。ヴェルセリアの様子を見て只事ではないと察したエレノアは、テオドールに向き直る。
「テオ、生き物なら感知できるかしら?」
「……やってみます」
エレノアに指示され、テオドールは剣を抜き地面に突き立て静かに瞳を閉じる。メンバー全員がテオドールを注目し、息をのむ。
相手を探る魔力感知は魔力量が多ければできるのではなく、集中力と微細な魔力のコントロールが求められる。ヴェルセリアの場合は魔力を持つ全てを魔力感知ができ、テオドールの場合は生物の感知に特化された
イグニスも元は
因みにシオンは、
「これは……感じた事のない生き物ですね。……人とも違う、魔物とも違う……ヴェルセリアさんが怯えるのも無理はないですね」
「人とも魔物とも違う? そんな奴いるのか?」
魔獣のザークが聞くくらいだ、そんな生き物は
「……あの、私、聞いた事があります……」
小さく手を挙げて切り出したのはフィオナだった。
「確か、古代の技術で人と魔物を融合させた『
血の気が引くような、冷たく重い空気が流れる。ただでさえ、『人』と『魔物』というかけ離れた生物を『融合』というおぞましい言葉で結んだ上に、『生物兵器』と重ねるように人としての倫理観が瓦解した内容だ。
「フィオナ、それはどこで聞いた話なの? 私ここに来る前の準備期間中にリヴェリアの書庫で古代の文明や魔術に関する事を調べていたけれど、そんな恐ろしい技術の話は出てこなかったわ」
先程まで明るい表情で建物の探索を楽しみにしていたヴェルセリアだったが、今は少し青ざめながらフィオナに聞く。
「……父から聞きました。私の父は、王立魔術研究所に勤めてまして……普段は寡黙で仕事の話は一切しないのですが、お酒が入ると……表に話せない内容ほど話してしまう事がありまして……」
フィオナは少し恥ずかしそうに経緯を話す。それに反応したのはエレノアだった。
「王立魔術研究所……ですって? 『アクアス』にある?」
「そうです、父は一応、所長をしていまして……」
「えぇ!?」
「エレノア、それはなに?」
「王立魔術研究所は、『アクアス』にある王立の研究所ですわ。古代から最先端まで、様々な魔術に関する事を研究する施設なのですが……こんな事をフィオナの前で言うのもなんですが……貴族階級の人間の天下り先、と申しましょうか……予算をつぎ込んでいる割に、新しい魔術の研究の成果はこのところ聞こえてきませんわ」
「まぁ、そうでしょうね。この大陸に渡ってから新しい魔術なんて出逢えたことないもの」
「そうですわね……ヴェル姉様の魔術の方が見た事ないものが多いですし……」
腕を組み、頷くエレノアは深くため息を吐く。
「ん? って事は……フィオナは物凄いお嬢様ってことか!?」
少し間を置き、シオンが思いついたようにフィオナに向き直る。ここで言っている貴族階級とは、爵位のある誰が見ても貴族と呼べる名家の事だ。
「あ! その! ……そこはあまり突っ込まないでください……私も兄も、それが嫌で研究所には入らなかったので……天下り先と言うのも理解しています……」
「へぇ、フィオナにお兄さんがいるのか」
暗い表情をするフィオナにクレアが優しく問いかける。
「……はい! 兄は『アクアス』で聖騎士団に所属しています。とても優しくて自慢の兄です。なかなか会えないので手紙を出しているのですが、ここの探索に入ってしまったので今頃手紙が来なくて心配しているかもしれませんね」
重苦しい話の中で、フィオナの兄の話題になり少しだけ場の空気が和む。ただ、聖騎士団のワードが出たので、エレノアがテオドールを心配してチラリと見る。
「お嬢? どうされました?」
「……なんでもありませんわ」
エレノアが心配するほど、テオドールの気持ちは聖騎士団の方に向いていないようだ。少しホッとしたエレノアだった。
「それで、その『
ヴェルセリアはフィオナに更に詳しく聞こうとする。
「ごめんなさい、詳しい事はわからないです……ただ、古代人は恐ろしい研究をしていた事だけは、魔術研究所の上層の人間には伝わっています」
「そう……もしかしたら、あの建物はその当時の研究施設なのかもしれないわね。……待って、もしその古代人の研究施設だとしたら、生き物の気配がするのはどういう事?」
『…………』
その場にいる全員が固まる。古代人、と簡単に言っているがここは『聖下都市:アルカイア』だ。それこそ『救済の神話』と呼ばれる頃からある場所だ。それは今から1200年程前の事である。その途方もない時間を生きていられる者が、この地下にいると言う事になる。
「とんでもない化け物がいる可能性があるな……」
ゴクリと、シオンの咽頭が下がる。それはその場にいる皆がそうだった。
建物を見つめるヴェルセリアは先程までの探索への高揚感が薄れ、恐怖心の方が勝っていた。だが――
「この大規模探索ではここにある全てを詳しく調べるのが目的です。もちろんあの建物も調べなければなりませんが……皆さん大丈夫ですか?」
テオドールがパーティメンバーの戸惑いの空気を読み、背中を押すように今回の目的を口にした。何もせずこの場に留まるわけにはいかない。
「えぇ、大丈夫よ。あの建物が何であろうと調べなければ探索は終わらないわ」
全員が頷き、未踏域最後の探索が始まる――
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