『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
時は遡り3日前――
「イグニス!! そこを勝手に弄らないでください!!」
神殿内部を探索中の『最果ての
パーティCの離脱により、アルドリックとリリアが応援に出かけ現在この場にいるメンバーはイグニス、ローランド、コーデリア、メイプルの4人。この4人で神殿内を隅から隅まで探索を行う事になった。案の定、イグニスは気になるところがあれば勝手に触りローランドの怒号が飛ぶ状態だ。
「あぁ……早くアルドリックとリリア、戻ってきて……!」
頭を抱えながらコーデリアは祈る思いでメイプルを止める。メイプルもまたイグニス同様、気になるところを見つけては触ろうとしてコーデリアに止められている。
「あーもーつまんにゃーい!」
聖堂の真ん中でひっくり返り、手足をバタつかせて暴れているのはメイプルだ。元々同じ場所に留まるのが苦手な上に、気になるところを触ろうとして怒られる。建物の探索は、メイプルにとってストレスでしかないのだ。その近くでは、イグニスが仏頂面でベンチに腰かけている。先程ローランドに怒られたばかりであった。
ローランドとコーデリアは同時に深いため息を吐く。
「ローランド……この2人に建物内の探索は無理だ……どうする?」
「仕方ありませんね……2人には外で有り余る体力を発散してきてもらいましょうか」
「発散……?」
「防御結界を解きます。そうすればあの2人も暇と言っている時間もなくなるでしょう」
「え……それ、大丈夫なのか?」
「若干の不安はありますが……このまま建物内の探索をさせるよりはお互い良いと思いますよ?」
コーデリアは腕を組み、現状の2人の様子と外の防御結界を解いたリスクを天秤にかける。
「……うーん……防御結界を解くって……本当に大丈夫なのか?」
「解くと言えば、2人も必死になるでしょう。暇でなくなる上に建物も守られる。……まぁ、建物への被害が無い事を祈りますけど……」
「そこなんだよな……ローランド、防御結界の範囲を建物ギリギリにすることはできるか?」
「それならできますよ」
「じゃ、それをやってくれ。それと、建物内の警戒は大丈夫か?」
「幸い、この建物内には魔物の類は侵入した形跡もありませんし、
「わかった、ナイフで頑張るよ……」
コーデリアはそう言いながら、腰に下げていたナイフを取り出す。
「そうと決まれば……イグニス! メイプル! お2人には外の警備をお願いします!」
***
そして時は戻り現在――
アルドリックとリリアも戻り、建物の探索も大詰めを迎えようとしていた。あれからイグニスとメイプルは建物の外で魔獣や魔物が近付かないように名目上見回りをしている。ただ、暇を持て余している2人は見回りと称して競争をしていた。
「イグニスー! こっちだニャ!!」
「待てよメイプル!」
既に2人で遊んでいた。イグニスに至っては装備を外し、軽装になっている。そんな2人をアルドリックは神殿の入口で座り込み、見張っていた。
「少しは真面目に見回りをしてもらいたいんだが……」
その時だった。神殿の真西側で土煙が上がり破裂音がした。
「な……ッ!」
アルドリックが立ち上がり様子を見る。
「ねぇ、
イグニスが土煙が上がる上空ではなく、真っ直ぐ森の先を見据える。
「この方向って……ヴェルセリアさん達のパーティが担当してた区域だよね?」
イグニスは森の先を指をさし、メイプルとアルドリックに確認をするように声をかける。
「そうだニャ! 前に
アルドリックは簡易地図を取り出し、ルート番号と地点番号を確認する。場所的に神殿から2区画、つまり2
「俺達も最後の地点だから、パーティDもタイミング的にルート番号の最後、3-5にいる可能性が高そうだな」
同時刻、建物内で探索をしていたローランド達はある物を発見する。
***
「ここは……」
神殿内の探索が全て終わり、その他の部屋を見ていたローランド達。この神殿は信徒達の憩いの場でもあった事を裏付けるように、たくさんの部屋があった。
荒らされていない分だけ、当時の面影がそのまま残っている。今は神殿内にあった治療院だった場所を調べている。
「治療院を兼ねた場所だったみたいですね」
リリアが部屋にあった棚などを見て、当時の薬を発見する。そのほか、診察用の簡易ベッドや椅子、壁には人体の構造について詳しくかかれた絵が色褪せてはいるが貼られていた。
「しかし……古代人の治療院は、当たり前ですが今とはかなり違いますね」
ローランドが部屋に残されたままの器具などを見て不思議な顔をする。見た事のない形をしていたのだ。
「そりゃ古代人の時代と今じゃ違うんじゃないのか?」
コーデリアはあまり深く考えずに答える。
「古代人が使っていた物が、今の時代に続いている感じがしないのですよ。なんと言いますか……全くの別物のような……」
「そう言えばそうですね、薬棚の薬品、普段私達が使っている物とは形状が違いますね。それに……魔石類が1つもありません」
リリアが棚にある薬瓶を手に取り、1つ1つ見ている。治療院では、魔石を使った治療も行うため診察室には必ずと言っていいほど魔石があるはずなのだが、ここの部屋では見当たらない。
「魔石を使わずに、医師の魔力だけで治療をしていたのでしょうかね?」
ローランドが不思議そうな顔をして部屋を見て回る。すると、隣の部屋へと繋がる扉を開けたコーデリアが驚きの声を上げる。
「暗い! なんだここ! ……変な椅子? がある……」
「どうしたのです?」
照明魔術を焚き、ローランドは隣の部屋を覗き込む。すると、窓のない部屋の中央に椅子らしき物があるのだが、見た事のない形状をしていた。
「これは椅子……? それにしてはバックレストは大きいのにフットレストが無い……アンバランスですね。それに左右に伸びるこれは?」
そしてその部屋は先程の診察室とは違い、部屋が寒々しい。壁の素材が他の部屋と違い、金属でできている。
「ここは何の部屋なんでしょうか……」
その部屋の奥に扉があり、リリアが通り抜けると廊下に出た。その向かい側には別の部屋があり、扉を開けると今度はガラス張りになっている。
「この部屋も変な造りです。それに……この小さなベッドは……? あ! もしかして揺りかご?」
小さなベッド、即ちベビーベッドがたくさん置いてあった。その数20程で、足元には車輪が付いている。
「ここは産院も兼ねた治療院だったのかもしれませんね。それにしても数が多いですけど……。古代人は子だくさんだったのでしょうか?」
ガラス張りになった向こう側には椅子やソファが置いてあるのが見えた。
「もしかして……生まれた赤ちゃんを向こう側から見る事ができる部屋、なのか?」
後ろから付いてきたローランドに質問をするように、投げかけるコーデリア。
「子は宝ですからね、生まれた子を皆で愛でていたのかもしれませんね。と言う事は、ここは
基本的に貴族は医師が出向いて自宅出産になるので、生まれたての赤子を人に見せる事は事情がないかぎりあり得ないのだ。
「ローランド! コーデリア! 来てください!」
リリアが2人を慌てて呼ぶ。何かを発見したようだ。
「どうしました?」
声がする方へ向かうと、先程の
「ここ……なにか引き摺った後があります。もしかして、隠し扉かもしれません」
壁側に大きな棚が置いてあるのだが、床に棚と同じ幅の傷がついていた。遺跡探索をよくする冒険者は隠し扉などを探すのは基本中の基本なので、リリアもすぐに見つける事ができた。
「コーデリア、リリア、同時に押しますよ。……せーのっ!」
3人で棚を力いっぱい押してみると、思ったよりも軽く動いていく。棚の荷物はフェイクだったようだ。棚をずらしてみると、そこには見た事もない扉らしきものが現れた。
「これは……」
今までこの神殿内を探索してきた中で、初めて見る形の扉だった。それは金属でできており、ドアノブもない。扉の左側の壁には、ボタンのようなものがある。ローランドが扉に近付き手を触れた時だった。
「!!」
「……? ローランド? どうしました?」
「……イグニス達を呼び戻しましょう。この扉の……下……? かなり深い場所に
ローランドの表情がいつになく険しくなる。それを見たコーデリアはイグニス達を呼び戻すために走り出した。
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