『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第6話【瑠璃の湖畔で優雅なティータイム】

「なぁ、目的地ってのはどれくらいかかるんだ?」

 

 ギルドを後にしたヴェルセリア達は賑わう街で人々が行き交う中、乗合馬車のターミナルに向かっていた。乗合馬車のターミナルは、乗り継いで遠出をする人も多く、朝早くから列ができている。

 

「そうね、『瑠璃の湖畔(ラピス・ショア)』はこの街を出て2つほど山を越えた先にある湖の周辺と聞いているわ。その手前の街で乗り継いで……片道3日……でも討伐対象のせいで通れなくなってる可能性もあるから、5日はかかると思った方がいいわね」

 

 目的地の方向を指さし、遠くに見える山、さらにその奥に山が見えた。

 

「5日!? しかも片道!」

 

 移動だけで長時間かかるとわかり、ザークは大きな声を上げる。

 

「仕方ないじゃない、山を越えて乗り継ぎもするし……5日と言うのも順調に行っての話よ」

 

「……こんな距離、俺が走った方が早いな……おい! 俺の背中に乗せてやる!」

 

「……は? 貴方、何を言っているの?」

 

 いきなり何を言い出すかと思えば、馬車で5日もかかる距離を走るとなどと言うこの犬。さすがに冗談だと思ったのだが――

 

「さっさとしろよ! 日が暮れちまう!」

 

 尻尾をブンブン振り回し、まだ朝だというのに日が暮れると急かす。

 

「ちょっ……もう……」

 

 強引に促されるまま、ヴェルセリアはザークの背中に跨った。

 

「いいか、振り落とされねぇよう、しっかりしがみつけよ!」

 

「え……と、こう?」

 

「もっとだ!」

 

 ギュッと抱きつく形でしがみつくヴェルセリア。その瞬間――ザークは建物の壁から壁を蹴り上げ、昇っていく。

 

 建物の屋根や屋上を伝い、街の外へと向かう。風のような速さにヴェルセリアは目を開けられない。

 

 一度街を出たところでスピードを緩め、街道を確認する。

 

「この道で、山を2つ越えて湖に向かえばいいんだよな?」

 

「え、えぇ」

 

 スピードを緩めた時にヴェルセリアは顔を上げたが、道を確認したザークは先程よりもスピードを上げる。

 

「ひ……ッ! きゃあぁぁぁ!」

 

「……喋ると舌噛むぞ」

 

 走りやすくなった街道沿いを、駆け抜けていく。あまりの速さにすれ違う荷馬車や人はザークを認識できないまま、突風だけが吹き抜けていく。

 

 最短ルートを真っすぐ抜けて行き、途中方向を確認し森を抜け川を越え道なき道を進んだ。

 

 ――出発してから数時間後、目的地の湖に到着した。

 

「ふー……ここだな」

 

 達成感と久しぶりに全力で走り抜けた爽快感で、ザークはとても満足気であった。

 

 なんとか振り落とされないようしがみついていたヴェルセリアは、その場でプルプルと突っ伏している。

 

「はぁ……はぁ……、この、バカ犬! 加減というものを知らないの!?」

 

「普段から馬車なんて温いのに乗って移動なんかしてるからだろ」

 

 ザークは悪びれる事もせず、後ろ足で頭を掻く。

 

「はぁ……はぁ……とりあえず、近くにドラゴンがいる気配がないみたいだから……はぁ……一休みするわよ……」

 

 まだ息が整わないヴェルセリアは、マジックバッグから色々出す。敷物を広げ、さながらピクニックのようだ。

 

 マジックバッグの中は時が止まっているので、お茶が入ったポットが入れたてのように温かい。

 

「はぁ……貴方も疲れたでしょう? お水とミルク、どちらがいいかしら?」

 

 お茶をカップに注ぎながら、ヴェルセリアはザークに聞く。その姿はカフェでティータイムを楽しんでいるようだ。

 

「おいおい……これからドラゴン討伐なんだよな……?」

 

「だからこそ、よ。全力で挑まないと怪我をするわ。こちらにいらっしゃい、食事にするわよ」

 

 ドラゴン討伐というかなり大きな案件なのだが、怪我だけで済むと思っているあたりに自信が窺える。

 

 とても討伐に来たようには見えないが、ヴェルセリアが最速でランクを上げられた理由はここにある。どんな時でもどんな場所でもペースを乱さず、常に最高の状態で挑む。これは並みの冒険者にはできない事である。

 

「昨日オルソンに頼んで食事を作ってもらったのよ」

 

 オルソンとは、『碧い錨亭(アズール・アンカー)』の料理人で、マリンダの夫である。

 

「……肉はあるか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

 ヴェルセリアはにっこり笑い、マジックバッグから木箱を取り出す。木箱に入っていたのはザーク用に用意したものだった。

 

「炙りハーブチキンと厚切り塩豚のグリルですって。大麦パンと燻製チーズもあるわよ」

 

「ちーず?」

 

「牛や山羊などのミルクから作られたものよ」

 

 ザークは差し出されたチーズを警戒しながら匂いを嗅ぐ。

 

「……独特な匂いがするが……嫌じゃない」

 

「食べてみなさい。美味しいわよ」

 

 ヴェルセリアに促され、少しだけ齧ってみる。

 

「……! 癖があるが……美味いな!」

 

「気に入ったみたいでよかったわ」

 

 ザークは用意された食事を貪るように食べていく。それを見て、ヴェルセリアも自分の食事を摂るのだった。

 

 時刻はお昼を少し過ぎたところ、雲一つない晴天、一番高い位置に陽が昇り切った。ゆっくりと食事を摂り、周囲の索敵を鳥の目を使い済ませた。ひと段落がつき、気持ちの良い風が吹き抜ける。

 

 そして――

 

 ピクリ

 

 ザークの耳が立ち、鼻をピクピクとさせ空気を感じる。

 

 お茶を飲んでいたヴェルセリアも手を止め、立ち上がる。

 

(この女、この空気がわかるのか……)

 

 先程まで鳥のさえずりが聞こえていたが、周囲の森は水を打ったかのように静かだ。

 

「……食後の運動、ってところか」

 

 ザークは身体を伸ばし、準備運動をするよう身体を動かし始める。

 

「せっかく気持ちの良い風が出てきて、お昼寝にぴったりなのに」

 

 ため息を吐きながらカップのお茶を飲み干し、ヴェルセリアは出していた物全てを片付ける。

 

 そして同時に同じ方向を見、1人と1匹の目つきが険しくなる。

 

「グオォォォォォォォーッ!! 誰だ! 我の縄張りに足を踏み入れたのは! ……狼……それにこれは……エルフか!?」

 

 羽音と共にドラゴンが近づいてくる。ドラゴンの大きさは約10M(メルト)ほど、皮膚を覆うのは固く赤い鱗、まわりには取り巻きのようにワイバーンが数十匹飛び交っている。

 

 縄張りに入った者を威嚇するように、大きな鳴き声を上げ、低空飛行をする。あまりにも低く飛ぶため真上を通過する際、ドラゴンの羽ばたきで嵐のような風が吹き荒れ、枝葉が舞い視界も悪くなる。

 

「くッ! 思ったよりも大きいわね……それより、あのドラゴン喋るのね。これから倒さなきゃいけないのにやりにくいわ」

 

 呑気にドラゴンを観察するヴェルセリア。上級のドラゴンになると、知能が高く人語で喋ることができる。

 

 通過したドラゴンは旋回して、再びこちらに向かって飛んでくる。それを確認するとヴェルセリアは右手を前に出し、言葉を紡ぐ。

 

「虚空を越えよ、鋼の魂。封印の楔を解き、今こそ真姿(ますがた)()の手へ!」

 

 右手のブレスレットに嵌められた赤い魔石が輝き、ヴェルセリアの手には一瞬にして背丈を超える2M(メルト)程ある、装飾された魔術用の杖――スタッフが握られていた。

 

 一回転させ地面を突く。

 

 カッ……シャンッ!

 

 涼やかな鈴の音と共に場の空気が変わる。

 

「精霊達よ! 我が声を聞き此処へ集え!」

 

 紡がれる短い言葉に呼応するように、ヴェルセリアの周りには光の粒が湧き立つように取り囲む。ヴェルセリアのエメラルドの瞳が、魔力を帯び妖艶に輝いた。

 

「『ザーク』」

 

 魔力を込めて初めて名を呼ぶ。名を聞かれて答えるようなものとは違い、ザークに向けて発せられた名は今までで一番の魔力供給がされた。

 

(魔力が、力が、(みなぎ)ってくる……この女……)

 

 ザークは舌舐めずりをし、頭を左右に振る。

 

「貴方の実力、見せてごらんなさい」

 

 魔力で輝きを増したエメラルドの瞳を細め、挑発的な視線をザークに送る。

 

「はッ! 俺の力を見たら主従関係が逆転するぞ?」

 

「言ったわね? もし使えない犬ならまた封印するわよ? 私の場合、封印したのを忘れて次に解放されるのは……1000年後かもしれないわね」

 

「……それは嫌だな……」

 

「そう思うなら存分に暴れてきなさい。それと……言い忘れていたけど、私が死んだら貴方も死ぬわよ。死にたくないなら死ぬ気で私を守りなさい」

 

 討伐を始める直前に大事な話をサラリと伝えるヴェルセリア。それを聞いたザークは渋い顔をするのだった。

 

「はぁ!? ……クソッ……アオォォォーン!!」

 

 ザークは宣戦布告の遠吠えをあげる。




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