『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第69話【未踏域からの帰還】

「皆さん、おはようございます。これから本部に向かい、探索終了の報告に向かいます」

 

 朝、身支度を全て済ませたパーティメンバーの前にテオドールが全員に声をかける。

 

「忘れ物はありませんか? もうここには戻りませんよ?」

 

 ローランドが引率の先生のように全員を見て注意をする。

 

「ローランド! 私達は子どもじゃにゃいニャ! 遠足じゃにゃいニャ!」

 

 他のパーティがいる手前、子ども扱いをされているのが恥ずかしいメイプルは大袈裟なくらいに文句を言っている。

 

「そう言ってますけど……お気に入りのタオルを忘れたと取りに戻ったのはいつの話ですか!?」

 

「……えーっと……1週間前……かニャ……あれは洗濯して干したにょを忘れただけニャ」

 

「ほら! 気を抜かず身の回りの手荷物を確認してください!」

 

「……向こうのパーティはいつもこうなのかしら」

 

 随分と賑やかな雰囲気の『最果ての開拓者(フロンティア)』をヴェルセリアはザークの頭を撫でながら見ていた。

 

「『最果ての開拓者(フロンティア)』さんは近寄りがたい雰囲気がありましたけど、皆さんとても楽しそうだし良い方ばかりでしたね(リリアさんやコーデリアさん、メイプルさんと話せて楽しかったな)」

 

 昨日一日『最果ての開拓者(フロンティア)』の女性達と話をしていたフィオナは、楽しかった事を振り返った。

 

「……そうね、私も……楽しかったわ」

 

 ヴェルセリアも、昨日はエレノアとローランドを交え魔術に関して色々話せた事がとても楽しかったようだ。

 

「なになに? 俺はもっとヴェルセリアさんと話したいな」

 

 イグニスが音もなくヴェルセリアの真隣に近付き、話しかけてくる。

 

「……貴方とは話す事は何もないわ」

 

 視線を合わせずにバッサリと言い切る。よほど話したくないようだ。

 

「えー! ローランドとはいっぱいお喋りしてたのにーずるいなぁ」

 

「ローランドは魔術師(スペルキャスター)だからよ。貴方とは共通する話題がないわ」

 

「そんな事ないよ。だって……レッド・ドラゴンを倒したんだろ?」

 

「それはそうだけど……あれはほとんどザークが倒したようなものよ?」

 

「へぇ……狼君が……」

 

 そう言うと、イグニスはヴェルセリアの隣にいたザークを鋭い瞳で見た。

 

「……っ! お前のその目が嫌なんだよ……こっち見んな!」

 

 唸り声を上げながらイグニスを睨むザーク。初めて会った時もこの目で見られ、圧倒された事が昨日のように思い出された。

 

「えー……そんなに嫌わないでくれよ」

 

「だったらザークの事、そんな目で見ないで」

 

「別に睨んでる訳じゃないんだけどな……」

 

 前髪をかき上げながら小さくため息を吐くイグニス。無自覚で魔獣や魔物をその鋭い目で見るために、必要以上に挑発をしてしまい大変な目に遭うのは『最果ての開拓者(フロンティア)』の他メンバーだ。ローランドにはよく言われるのだが、無自覚なためなかなか直せない。

 

「イグニス! 遊んでないで支度を!」

 

「はーい……」

 

 ローランドに促され、渋々ヴェルセリアから離れるイグニス。

 

 いよいよ本部に向けて出発となる。

 

「皆さん、本部の方に向かいましょう」

 

 テオドールを先頭に、本部に向かって歩き出す。暫く歩いてからヴェルセリアがボソリと誰に言うわけでもなく呟いた。

 

「……やっぱり私、行かなきゃダメかしら……」

 

「ちょっ! ヴェル姉様! 全員揃って行かなければダメですわよ!」

 

 しっかり聞いていたエレノアが咎める。

 

「だって……」

 

「お気持ちはわかりますが、いい加減観念なさってくださいまし!」

 

「はぁ……嫌だなぁ……」

 

 ため息を吐きながら隣を歩いていたザークの首に抱きつきながらずるずる歩くヴェルセリア。駄々をこねている子どものようだ。

 

「……ヴェル姉様は普段頼り甲斐のあるお姉様ですのに、何か苦手なものがあると急にお子様みたいになりますわね」

 

(そこが可愛いと思うんだけどな)

 

 口が裂けてもそんな事は言えないが、時々見せる甘える姿が本来のヴェルセリアなのではないかと最近思うようになったザーク。探索中はあまりモフる事はして来なかったが、普段ヴェルセリアといる時は無遠慮にザークの豊かな毛に顔を埋めて暫く動かない。

 

(初めてモフられた時は何をされているかわかっていなかったが……)

 

 顔を埋めたヴェルセリアは子どものように嬉しそうにしていた。何がそこまで良いのか未だにわからないが、気付けばヴェルセリアが喜んでいるならそれでいいと思うようになった。

 

 あと少しで元の生活に戻る。そうすれば、またモフるようになると期待していた。そう、ザークは期待していた。ヴェルセリアが喜んでいる顔が見られるからだ。

 

(ヴェルの喜んでる顔、あの時と同じ顔なんだ)

 

『今はザークと居られて、とても楽しいわ』

 

 あの表情は自分だけが見られる特別なものだとわかっているから。

 

 だが――この後確実にギルド長バルガスに会う。ヴェルセリアを血眼になって追いかけていた奴だ。ミラが最初にヴェルセリアとバルガスを会わせようとしていたきっかけは、書庫にあった本即ち封印の書だ。

 

(もし、俺が封印の書に入っていたフェンリルだとバレたら?)

 

 ヴェルセリアを追いかけている理由がザークであるなら、引き離される可能性が高い。

 

(……嫌だ、ヴェルと離れるなんて今更考えられない)

 

 昨日のヘンリーとの戦闘で、ヴェルセリアが斃(たお)れる疑似体験をした。ザークはあれ程までに誰かの為に怒りの感情を持った事があっただろうか。否、あれが初めてだった。自分自身、あれ程怒れると思っていなかった。それだけ、ザークの中でヴェルセリアの存在が大きくなっていたのだ。

 

(もし、俺達が離れ離れになるのなら――)

 

 ザークはバルガスを襲う事も厭(いと)わない覚悟が決まっていた。

 

「はぁ……」

 

 深いため息を吐くヴェルセリアも、同じ考えだった。

 

(もしザークが取り上げられたりしたら……暴れてやるわ)

 

 2人の眼光が鋭くなった事に誰も気付かない。1人と1匹は森を歩く。静かなる覚悟の刃を懐に忍ばせて。

 

「ヴェル、もう少しで着くぞ」

 

「えぇ……」

 

 本部の櫓(やぐら)とテントが見えてきた。そこには既にバルガスが仁王立ちをして出迎えていた。

 

「『最果ての開拓者(フロンティア)』、全員揃いました」

 

「パーティD、全員揃いました」

 

「うむ、ご苦労! 全員無事か?」

 

「無事にゃのが不思議にゃくらいだったニャ……」

 

 誰もが思った事をメイプルが代表して漏らす。パーティメンバーそれぞれが、この1ヵ月を振り返り盛大なため息を吐いた。その様子から、この探索が一筋縄で行かなかった事を物語っている。

 

 バルガスはパーティDの全員の顔を見渡し、後ろを向いている大きなつばの帽子を被った女性に気付く。

 

(あれは……ヴェルセリア・エルフェイン!!)

 

 ついに対面できると、バルガスは大きな声で一同に向かって話す。

 

「探索が始まる時は参加者全員に向けて話していたが、今なら時間も取れるな!」

 

「ギルド長……なにを……?」

 

 ローワンがまた変な事を言い出したと、不安げな顔をバルガスに向ける。

 

「頑張った冒険者を一人ひとり労いたいではないか! 顔を見せてくれ!」

 

 明らかに前を向いていないヴェルセリアに向かって言っている。

 

「……ヴェル姉様、ギルド長があぁ言ってますけど」

 

「……えぇ……」

 

 エレノアに促され、渋々ヴェルセリアは帽子を脱ぎ振り返る。

 

(いよいよヴェルセリア・エルフェインの顔が見られる!)

 

 そう思い、初めてヴェルセリアの顔を見たバルガスは――腰を抜かしていた。

 

「お、お、お、お……オーレリア!?」

 

 ヴェルセリアは周りをキョロキョロするが、明らかに自分に向かって言っている。

 

「え? オーレリア? 誰の事よ」

 

「オーレリア? ギルド長、もしかしてオーレリア・フレイムをご存知なのですか?」

 

 ローランドが腰を抜かしたバルガスに近付き、手を差し伸べて起き上がらせる。

 

「ローランド、お前オーレリアを知っているのか?」

 

「知っているも何も、私の師匠ですよ。寧ろギルド長の方こそご存知だったとは……」

 

「お前の師匠だとぉ!? あの女、人に物を教える事が出来たのか!? あの人間嫌いのハイエルフが!?」

 

「……ギルド長にそう言われる師匠ってどんな人なんですか……」

 

「勝手に盛り上がらないでもらいたわね。誰よオーレリアって」

 

 勝手に驚かれ、勝手に話が展開し始めて面白くないヴェルセリアは腕を組み不機嫌さを醸し出す。それに気付いたローランドが説明をする。

 

「前にも話しましたが、貴女にとてもよく似た私の師匠のハイエルフですよ。ギルド長が知っている人と同一人物……でしょうね、多分」

 

「仮にもギルド長を務める元ランクSの人間が腰を抜かす程の人って……どれだけ恐ろしい人ですの?」

 

「……余程でしょうね」

 

 一歩引いた場所でやり取りを見ていたエレノアは、最高ランクに上りつめ現ギルド長の男が怯える姿を見て戦慄する。それはテオドールも同じだった。

 

「オーレリアは……美人なのだが……それはもう人間嫌いで口は悪く、寝起きで山をぶち抜く恐ろしい魔術師(スペルキャスター)だ……」

 

「寝起きで……って、ギルド長と師匠はどういう関係だったのですか? 師匠には家族が……」

 

「あー……勘違いしないでくれ! 現役だった頃アリスターと出会う前に、何度かパーティを組んだ事がある関係だ、それ以上の関係はない! ……はッ! アリスターの奴……ヴェルセリア・エルフェインがオーレリアにそっくりだとわかっていたから……だから会わせないように雑用を押し付けてた訳か……」

 

「アリスター支部長が? ……師匠を紹介して下さったのもアリスター支部長でしたね。あと、ギルド長、間違っていますよ。師匠は魔術師(スペルキャスター)ではなく、叡聖(スペルマスター)ですから!」

 

 鼻息荒く、師匠の凄さをアピールするローランド。

 

「はぁ!? ならなぜランクAだったんだ!」

 

「……王立魔術アカデミーの学長から聞いたのですが、面倒なことをやりたくないから魔術師(スペルキャスター)と名乗っていたと……」

 

「(どこかで聞いたような話だな)」

 

 ザークはボソリと呟いた。

 

「はぁ、そのオーレリアって人はどんな人なのか何となくわかったわ……そんなに見た目が私と似てるのかしら?」

 

「それはもう、他人の空似で片付けるには……初めて顔を合わせた時に驚きましたから」

 

 ローランドもヴェルセリアと対面した時に、腰は抜かさないにしても青ざめていた。

 

「ふぅん、叡聖(スペルマスター)のハイエルフ、ね。一度会ってみたいわ」

 

「いやいやいやいや……やめた方がいいですよ! 一度機嫌を損ねると大変な人ですから!」

 

 あまりにも必死に止めようとするローランドに、ヴェルセリアは引いていた。ただ、師弟関係だったローランドが言う事なので、気難しい人物だと改めて思った。

 

「……随分な言われようね。少し気の毒になって来たわ」




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