『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。   作:ねこめがね

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第70話【大規模探索終了】

「そうか……オーレリアじゃないとわかったので、安心したぞ……ヴェルセリア・エルフェイン! お前には聞きたい事がある!」

 

 オーレリアと別人だとわかったバルガスは、先程まで怯えていた態度を一変させヴェルセリアに詰め寄る。フルネームで呼ばれたヴェルセリアは一瞬肩が跳ねたが、機嫌悪く睨むようにバルガスを見た。

 

「……なによ」

 

「お前が連れているその狼……」

 

『!』

 

 その場にいるパーティDのメンバーはヴェルセリアが恐れていた事を言われると思い、各々顔が強張る。そして、注目されたザークは唸り声を低く上げた。

 

「地下書庫にいたやつか?」

 

(あぁ……やっぱりバレてた……)

 

 ヴェルセリアは俯き下唇を噛む。それでも、まだその一言だけ。証拠が出ないならまだ憶測の域を抜けていないと思い、必死にとぼける。

 

「……何の事かしら?」

 

「地下書庫にあった封印の書、あれを触ったか?」

 

「……」

 

「ギルド長、何の話ですか?」

 

 話が見えてこないローランドが詳しく聞こうと質問をする。

 

「あぁ、ギルドの書庫に封印の書が置いてあってだな、それにはフェンリルが封印されていたんだが……」

 

「この子は大きな犬よ!」

 

 どう見ても狼だが、ヴェルセリアは犬を貫こうとする。

 

「なっ!? 嘘を吐くな! どう見ても狼だし、どう見てもフェンリルだろ!?」

 

「フェ、フェンリル!?」

 

 驚きの声を上げたのはローランドだった。

 

「この狼、フェンリルだったのですか!? どうりで……人語で喋ったり氷結魔術を使ったり……」

 

「はいはいローランド、少し黙ろうか」

 

 コーデリアがローランドの腕を掴み、引きずりながら後ろに下がらせる。

 

「すみません! すみません! 話の腰を折ってしまって……ローランドさんにはちゃんと言い聞かせますから!」

 

 リリアが頭を下げながら、コーデリアと一緒にローランドを下がらせた。

 

「ごほん! ……で、このフェンリル、地下書庫にあった封印の書から解放したのはヴェルセリア・エルフェインなのか?」

 

 ヴェルセリアの頭の中で絶体絶命の言葉が駆け巡った。ここで認めてしまえば、もしかしたらザークは取り上げられてしまうかもしれない。しかし既にザークの事はフェンリルだとバレている。ここで誤魔化しても無駄だと悟ったヴェルセリアは覚悟を決める。場合によっては――

 

「……そうよ。ただ……この本にフェンリルが封印されている事は知らなかったのよ……」

 

 そう言いながら、ザークが封印されていた封印の書をマジックバッグから取り出す。それを受け取ったバルガスは本を開き、中に書かれた署名を確認する。

 

「……確かに、セドリック家の封印の書だな」

 

「セドリック……?」

 

「あぁ、リヴェリア支部長のアリスター・セドリックの事だ。もっとも、封印したのはアリスターの祖父だがな」

 

「一体何のためにフェンリルを封印したのでしょう?」

 

 コーデリアとリリアに抑えられながら、ローランドが興味津々に聞いてくる。

 

「なんでも、守護契約を結びたかったらしいが……フェンリルが断ったから躍起になって封印をして、弱らせてから契約を……と聞いている」

 

「……そうなの?」

 

 ヴェルセリアはザークに向き直り確認をする。

 

「そー言えばそうだったかもな。もう何十年も前の話だから忘れたぞ」

 

「おぉ! 本当に喋るのだな!」

 

 バルガスは初めてザークが喋る姿を見て、子どものように明るい笑顔を向けてくる。

 

「いやー何十年も地下書庫にあったこの封印の書、誰も触れず封印も解けずで困っていた」

 

「え? 困って……?」

 

 予想外な言葉が飛び交い、困惑するヴェルセリア。

 

「あぁ、触ると怪我をするものなんて置いているのも邪魔だったからな」

 

「邪魔って……」

 

 自分が入っていた物が邪魔だと言われ、少し落ち込むザーク。

 

「当のアリスターもこの本にかけられた封印を解くことができずに断念していたくらいだ」

 

「叡聖(スペルマスター)のアリスター支部長が!? どれだけ強力な封印だったんですか!?」

 

 叡聖(スペルマスター)が如何に凄い魔術師だと知っているローランドは戦慄する。そして、それを解いたヴェルセリアを尊敬の眼差しで見た。

 

「それが忽然と消えたのは驚いたが……ちゃんとフェンリルを飼い慣らしているならそれで良し」

 

「……え……っ? 良しって……?」

 

「俺は確認がしたかっただけだ。フェンリルが野放しになっているなら討伐せにゃならんかったからな。だが、エルフの隣にいる狼は大人しい。それに最初に見かけた時、レッド・ドラゴンを倒して戻ってきた。ちゃんと飼い慣らしているなら問題無かろう?」

 

「それじゃあ……ザークは……」

 

「ん? 此奴はザークと言うのか。扱いには十分気を付けて飼ってくれ。それだけだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヴェルセリアは膝から崩れ落ちるようにその場で座り込んだ。

 

「ヴェル!」

 

 極度の緊張状態から一転、お咎め無しとなり力が抜けてしまった。ザークがヴェルセリアの顔を覗き込むと、今にも零れそうなほど瞳いっぱいに涙を溜めていた。ザークが覗き込んでいるのに気付くと、そのまま抱きつく。

 

「……よかった……ぐす……」

 

「なんだ? そのフェンリルを取り上げられると思ったのか? 今ギルドに所属している冒険者で、フェンリルを飼い慣らせる事ができる者は……封印を解いて大人しくさせているヴェルセリア・エルフェイン以外にいないだろう」

 

 バルガスに改めて名指しで言われ、ザークとは離れずに済んだとやっと安心したヴェルセリアはバルガスの方を向いた。

 

「いいのね? 後で返せって言っても返さないわよ?」

 

「寧ろ返さないでくれ……フェンリルを飼い慣らせる事なんぞ誰もできんわ」

 

 諦めのようなため息を吐きながら手をヒラヒラさせ払うバルガス。それを見て、本当にザークを返さなくて良いと確信したヴェルセリアは――

 

「……ありがとう」

 

 躊躇いながらバルガスに向かってお礼を言った。

 

「ッ!!」

 

 涙で頬が紅潮し、柔らかい笑みと潤んだ瞳で見つめられたバルガスは一瞬息が止まった。顔はバルガスが恐れるオーレリアに似ているが、目の前のエルフは全くの別人でとても素直だった。そしてギルド内やローワン、コルネットが騒ぐだけの事がある美人だ。

 

「こ、これが噂のヴェルセリア・エルフェイン……っ!」

 

 バルガスはよろめき胸を押さえ、呼吸荒く呟く。

 

「ギルド本部の噂は本当だったんだ……っ!」

 

 ローワンは噂になっていた『直接微笑みをかけられたら全員落ちる』を目の当たりにしたと、若干興奮していた。

 

「はぁ……はぁ……、確認したい事はもう1つある。あの封印を解く事ができたならランクSが妥当だと思うのだが……昇級試験に……」

 

 以前受付嬢のミラに言われたように、またランクSへの昇級試験を打診されそうになると、ヴェルセリアは即答した。

 

「それは嫌。ランクSに興味は無いわ。私は国の有事に付き合うほど暇ではないの」

 

 それを聞いたバルガスはガックリと肩を落とした。

 

「ランクSに足る人材を見つけたと思ったのに……」

 

「それは別の人を探してちょうだい。優秀な人は私以外にきっといるわ」

 

 話に決着がついたところで、コルネットが全体をまとめる。

 

「……えーっと、お疲れ様でした! 作成して下さったマップや報告書はこちらで回収します。今回の報酬は、追って皆さんの口座に振り込みますので!」

 

「ほら、ギルド長! 最後はビシッとしてください!」

 

 ローワンが最後くらいはしっかりするようしょげているバルガスに促し、締めさせる。

 

「そ、そうだな……ごほんっ! 探索ご苦労! お前達のやってきた一つひとつがやがて未来に繋がる。この地が冒険者に開放される日が今から楽しみだ! それでは……解散!!」

 

 バルガスの言葉で、未踏域の大規模探査が終了した。

 

 この探索には冒険者が30名参加し、死亡者こそ出なかったがパーティCが途中離脱をするアクシデントがあった。その他は大きな問題は無く無事に終えたと言える。

 

「あー、やっと地上に出られるなー」

 

「とにかくベッドで寝たいな!」

 

「すぐにお風呂ですわ!」

 

 それぞれが戻ったらやりたい事を思い描き、地上に向かって歩いて行く。

 

「ヴェル、やっと終わったな」

 

「えぇ、思っていた以上に色々あったけど……」

 

 ヴェルセリアにとってパーティを組んでの探索は今回が初めてだった。1人でいた時とは違い、思い通りにならない事もあったが――

 

「人とパーティを組むのって、思ったよりも愉しいものなのね」

 

 全てを終え、スッキリした顔をするヴェルセリア。しかし、その手元には謎のメッセージカードが残された。

 

(一体これは誰が用意したものなの?)

 

 魂を脅し託されたメッセージカード。渡す相手はどう考えてもヴェルセリアを指定していた。

 

(やり方がかなり強引……あの研究所で不可解な部分は同じ人がやった事?)

 

 氷漬けにされたゴーレム、ヘンリーが眠っていた一番奥の部屋を封じてた魔法陣。どちらも『時間』に関する魔術が重ねてあった。

 

(普通(・・)の魔術師(スペルキャスター)がやるにはかなり高位のもの……)

 

 時間に関わる魔術はかなり難しく、ヴェルセリアは解くことはできてもかけるのは一朝一夕でできるものではない。もし、その魔術師(スペルキャスター)が叡聖(スペルマスター)だったらどうだろうか。全ての魔術に精通し、自在に操る事ができる存在なら可能である。

 

(叡聖(スペルマスター)の知り合いなんていないのに)

 

 スッキリした顔から一転、難しい顔をするヴェルセリアをザークが覗き込む。

 

「ヴェル? 珍しく眉間に皺が寄ってるぞ」

 

「え? そんな顔してたかしら?」

 

「おう、疲れてるんじゃねーか? そんな日は飯食ってさっさと寝るに限るぞ」

 

 ザークなりの気遣いだが、自分がそうしたいと暗に言っている。

 

「そうね……宿に戻ったら……早速ザークを洗わないと、ね」

 

 難しい顔からザークに向け笑顔になる。

 

「……ゲェッ!? 先ずは飯だろ!」

 

「いいえ! この1ヵ月近くブラッシングだけだったの、もう限界よ! ただでさえ魔物との戦闘で臭うのに……すぐにお風呂よ!」

 

 賑やかな声が遠ざかり、この未踏域に再び静けさが戻る。

 

 未踏域での探索は、予想外に過去の歴史に直接触れる事ができ、古代魔術がどう発展してきたのか紐解くきっかけになる大発見があった。しかし、その裏には歴史の闇に隠れ、表では決して語られる事が無い悲しい過去があった。

 

 ヴェルセリア達が今回発見した物は、いずれ世間に公表されるであろう。その悲しい歴史を繰り返さないための教訓として。

 

『私達の願いを、今を生きる人達に託します』

 

 ヘンドリックが語った言葉が、この箱庭に響く――




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