『禁書』を探す天才エルフ、旅のお供は犬でした。 作:ねこめがね
「……2人共、大丈夫?」
何とか2人は起き上がり、落ち着いたところで声を掛けた。無自覚だとは言え、自分のせいで倒れたのは間違いないと反省したヴェルセリアは、申し訳なさそうに2人を心配する。
「ごほん! いや、その……大丈夫です、はい……(まさか師匠そっくりなヴェルセリアさんに落とされるとは……っ!)」
少し俯き眼鏡を指で持ち上げるローランドの頬は少し赤かった。
「まさか
ただ微笑んでお礼を言っただけなのに魔術並みの破壊力である。
「えぇ……そんなつもり微塵もないのに……酷い言われようね……」
「とにかく! あまりその素敵すぎる笑顔を振りまきすぎないでくださいまし! 勘違いをする輩が後を絶ちませんわ!」
実際無自覚に笑顔を振りまいたお陰で、勘違いや落とした人数は数知れずだ。
「……そこは俺がいるから大丈夫だ」
足元にいたザークが立ち上がり、ヴェルセリアに身を寄せる。
「ザーク……」
「なんたって俺は、ヴェルの
鼻息荒く自慢げに宣言するザーク。余程ヴェルセリアに
「確かに、ザークさんがいれば大丈夫ですわね……って、ヴェル姉様! ナチュラルにザークさんをモフモフしないでくださいまし!」
「だって……エレノアが怖いんだもの」
ザークをモフりながらチラリとエレノアの方を向く。
「はっ! そ、そんなつもりはありませんわ! 申し訳ございませんわ!」
今のは完全にヴェルセリアの方が悪いが、エレノアの方が悪い事になっている。そう思わされているのは、エレノアがヴェルセリアに落とされたからだ。
「ヴェル……そのくらいにしておいてやれよ。少し呑みすぎたんじゃねーか?」
「私がこの程度で酔うと思ってるの?」
「あー……」
卓席を見ればヴェルセリアの目の前にはマナ・ベリー酒の瓶が1本空になり、2本目を吞み始めていた。いつもなら軽く5本空けるヴェルセリアなので、2本程度なら酔ったうちに入らない。だが、今はエレノアとローランドに旅の目的の話をしている最中だ。
「大事な話をしてるなら、今は呑むのをやめろよ」
ザークが真っ当なことを言う。それに驚いたヴェルセリアはザークの顔を両手で挟むようにして掴む。
「どうしちゃったの? 間違ってお酒飲んじゃった?」
「飲んでねーよ……俺がまともな事を言うのがそんなにおかしいのかよ」
ザークは呆れたように小さくため息を吐くと、ローランドが気になっていた事を聞いてきた。
「この『禁書』の話は、誰に聞いたのですか? ここまで手がかりがないとなると、存在自体が怪しいのですが……」
情報の少なさが『禁書』の存在自体を否定し始めている。
「エルヴァインからよ。私の育ての親みたいな人。あまりにも暇を持て余していた私に探してみればいいなんて言い方されて……」
「その方がこのメッセージカードを書いたとは考えられませんか?」
「それは……無いわね。エルヴァインは暇そうに見えて一応都の、『エテルナ』の
「じ、
「そうなるわね。でも、エルフ社会って長い間同じ事の繰り返しだから暇なのよ。おまけに閉鎖的な国だし」
ため息交じりに話すヴェルセリアだが、それを聞いたローランドとエレノアは驚きを隠せない。
「
エルフの大陸『シルヴァリア』の社会構造は身分制がある。それだけ国の重要ポストに就くエルヴァインは当然爵位のある、それもかなり身分の高い貴族になるはずだ。
「先程育ての親みたいな人と仰ってましたけど、ヴェル姉様はそのエルヴァインさんと一緒に暮らしていたのですの?」
「ええ、物心ついた時には一緒に暮らしていたわ」
「養子って訳では……」
「それは違うわね、ミルフォード家にお世話になっていただけよ」
「なるほど……ヴェル姉様から漂う品の良さはその方からでしたの」
以前箱入り娘の話になり、ヴェルセリアもそうではないかと指摘をしたのだが普通の家庭ですらなかったと言われた事が引っかかっていた。
「
ザークはやっぱりと、前から思っていた事が腑に落ちたように思った。
以前『パープル・バレル』での騒動で高級料理店の給仕をする際、淀みない動きをしていたヴェルセリア。生活をしていた家がそもそも上流階級だったためだと理解できた。
「? なにか間違った事言ったかしら?」
「いいえ、何も間違ってはいませんわ……」
間違ってはいないが、違う意味でのものだった。
「そんな人が嘘を吐くなんて事は無さそうですね。そしてメッセージカードの差出人は別人……それならば、やはり『禁書』は存在すると」
「まぁ、第三者がこんなメッセージをくれたのなら……『禁書』はきっとあるわね。なぜ手がかりをくれたのかはわからないけど」
謎が謎を呼び、確かな情報として難解なメッセージがある事だけが残った。
「……わかりました、この件私も協力しましょう。『禁書』の情報が手に入りましたらヴェルセリアさんに提供致します」
「
「え……協力、してくれるの……?」
「その『神をも殺せる強力な魔術』も気になりますし。もし見つけたらぜひ、教えていただきたいですね!」
相談をしただけのヴェルセリアだったが、2人が協力を買って出てくれた事が思いもよらず嬉しかった。
「2人共、ありが……」
『ま、待った!!』
ヴェルセリアがお礼を言おうとしたところで、両手を前に出して慌てて止めるエレノアとローランド。
「ふぅ……またヴェル姉様の
汗を拭う仕草をするエレノアを残念そうに見つめるヴェルセリア。
「もう! お礼も言わせてくれないのね……」
***
「皆さん、そろそろお開きにしましょうか」
頬を染め、楽し気な笑顔になった一行は賑やかに店を出ていく。
「いやー楽しかったな!」
「これでまた暫くは公僕の犬かー」
イグニスは珍しく、自分のやらなくてはいけない事を口にする。
「大規模探索でいなかった間、仕事が溜まってるだろうからな」
アルドリックもこれからの仕事に向け、気持ちを切り替えていく。
「『最果ての
フィオナはリリアの方を向き、大規模探索が終わったばかりなのにすぐ別の仕事になる事を心配する。
「それがランクSがいるパーティの仕事だから仕方ないです」
「
コーデリアはパーティDのメンバーと話せたのが楽しかったのか、名残惜しそうにする。
「まぁ、冒険者をやっている限りはまたどこかでお会いする機会もあるでしょう」
前向きにローランドが締めようとするが、イグニスは子どもが悪戯をするような笑顔を向けてくる。
「そうだね! その時はヴェルセリアさんとローランドを交代させようよ」
「ちょっ!! イグニス!!」
「俺は本気だよ?」
「イグニスー!!」
「ニャハハハ!! ローランド! イグニスを捕まえるニャー!」
自然と笑い声が溢れてくる。だが――
「俺達パーティDは解散、だな」
シオンが名残惜しそうにパーティメンバーを見渡す。この1ヵ月毎日朝起きてから夜寝るまで一緒だった、そして互いに背中を預け命を賭けて戦った戦友だ。
「そうだな、最初はどうなるかと思ったけど……なんだかんだで良いパーティだったな」
初めこそ連携が取れず戦闘中に文句の言い合いをしていたが、最終的に流れるような動きになり誰一人として犠牲者は出なかった。クレアは誰よりも皆の後ろから見守っていた。
「皆さんと一緒で本当によかったです!」
探索が始まった当初、自信無さげだったフィオナは
「このメンバーだからこそ、期待以上の発見ができて大満足ですわ!」
エレノアは目的だった場所の探索ができないと思ったが、最終的に未踏域最大の地下施設を発見し成果を上げられた。
「このメンバーでしたから乗り越えられましたね」
強敵に見舞われ一時捕らわれの身となったテオドールだったが、皆のお陰で倒すことができた。
「パーティを組む愉しさが本当の意味でわかったわ」
今まで1人で、ザークとしか一緒に探索や討伐を行ってこなかったヴェルセリアは、純粋に他の職業の者達との共闘が愉しかった。
「お、お前ら……俺を仲間だって言ってくれて……ありがと、な……」
ザークは遠慮がちに、全員の前でお礼を言う。フェンリルだとわかった時、改めて仲間だと受け入れてくれたからだ。
『…………』
そのザークの謙虚な姿に、ヴェルセリア以外の全員が
「な、なんだよ」
「……ザークが礼を言ったぞ! 明日は雨か!?」
シオンが大袈裟な程大きな声で驚いた。
「あ゛ぁ!? なんなら今氷の雨を降らそうか!?」
「じょ、冗談だって!」
ザークはシオンを追いかけ回し、後ろから肩に前脚を乗せ圧し掛かっている。そのじゃれ合う姿を見ながらエレノアがポツリと呟く。
「……これでお別れなのは寂しいですわね」
「さっきローランドも言っていたじゃない。冒険者をやっている限りはまたどこかで会えるって」
エレノアに向かってウィンクをするヴェルセリア。そう、ここで終わりではない。
「そうだな! その時は――」
「また、パーティを組みましょう」
「そうですね! いつか、また!」
――こうしてパーティDは解散した。
大規模探索で得られたものは、人それぞれ。自信、繋がり、希望、生きる喜び、そして――
「さぁ、次はどこに行こうかしら」
夜の街をヴェルセリアはザークと並びゆっくり歩いていた。あちらこちらの店からは楽し気な声が漏れ聞こえてくる。
「あのカードにあった手がかりが雑なんだよな……」
誰からのメッセージカードなのか未だにわからないが、少なくとも『禁書』を知る、そしてヴェルセリアを知る人物からの手がかり。
「そうね、雑ね。仕方ない……『マリヌス』に戻ったら、またミラに相談してみようかしら」
「ギルド本部に行くのか?」
「えぇ、もう怖がらなくて良くなったから、ね」
ギルド長バルガスとの面会を果たし、ザークの件も解決した。もう何も気にせずギルド本部に足を運べる。
「そうだな……」
「ザークは私のよ。返さなくていいって!」
一番心配していたのは、ザークと離れ離れになる事。だがそれもバルガスに名指しで飼えと言われ、これ以上の安心はない。
「俺を物みたいに……」
不満気にヴェルセリアの顔を覗き込むザークは、そのまま頭を撫でられる。
「物じゃないわ。貴方は私の――ペットよ!」
ふわりとザークの首元に抱きつき、柔らかい笑顔で歩いていく。
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どうかよろしくお願いします。
◆あとがき◆
第一部72話、完結いたしました。
ここまでお読みいただけた読者の方、本当にありがとうございます。
長編ファンタジー物としまして、気付けば30万字超えの大作になりましたね。
…当初の予定では半分の15万字だったのですが…筆が乗ったと言う事にしておきます。
前作の「未稿箱」の完結から割とすぐに「エルフと犬」の設定を練りました。あまりにも世界観がかけ離れている作品なので、ファンタジー作品は書けるのか?と思いましたが、キャラクターを愛せる自信があったので書き始めたらあっという間でしたね。
最初の設定では、ヴェルセリアはドがつくSキャラ設定だったのですが書いていく内にキャラ崩壊を起こしまして…未踏域編の、ヘルハウンド戦あたりから直したんですよね。ドSキャラってどんなものなのか、書いてる本人がわかっていなくて。ゲストキャラ程度なら良かったのですが、メインでしかも主役となると難しくて。
で、結局犬大好きなキャラへ変更となりました。最初の方のセリフで「この、バカ犬!」とか「……まったく、『誇り高き灰蒼の狼』が聞いて呆れるわ。ヘルハウンド如きで理性を飛ばさないの」みたいな少し高圧的なものが残っているのは、ドSキャラの名残ですね。
ザークに関しては大きな変化はありません。ザークは初めからでっかい犬って感じにしたかったので。
第一部の総括としまして、テーマは「世界の成り立ち」でした。ヴェルセリアが探している禁書は「世界の成り立ちの時代の物」とされていましたので、お話の中でどうしても入れたかった内容でした。
最初に考えていた内容とかなり変わりましたが…。近況ノートにも書きましたが、ゴーレム戦の辺りから途中改稿をしまして、話の流れが大幅に変わったんですよね。8000字くらい書いてたんですけど、丸ごと没に。
まだその時の文章残っているので、これはこれでまぁ面白い感じだったんですけど…最後に向かって、尻すぼみ感がどうしても否めなくて筆が止まりました。
改稿したお陰で、イグニス達の「最果ての開拓者」のメンバーも活躍できたし、自分の中ではよくまとまったと自画自賛しています。
さて、この先ですが……第二部、完成間近か…!?
第一部が完成してから、そのまま執筆は続けていまして。現在第二部がもう少しで形になりそうな感じです。そこからまたブラッシュアップしないとなんですけどね。
第二部は15万字程度を目標で進めてまして、あとがきを書いている現状12万字くらいです。
完全に第一部の話の終わりからのスタートになります。
色々と謎を残したまま終わりましたので、少しずつ回収しながら話が進むと…思い…ます。多分。
第二部公開は年内、2026年12月…中に…できたらと思っています。作品フォローをしていただけたら通知が行きますので、よろしくお願い致します。
あと、レビューをいただけたら物凄くやる気と励みになりますので!何卒よろしくお願い致します。
ここまで読んでいただき、改めましてありがとうございました!
そして…
全73話のはずが、この話は72話ですよね?あと1話、オマケとして幕間のお話が残っています。ちょっと過去のお話がありますので、そちらも覗いてもらえたら嬉しいです。