『至急至急!市街地においてホロウの発生及び活性化を確認!付近の治安官は直ちに現場へ急行せよ!繰り返す!ホロウの発生及び』
その日は市街地において、違法薬物の取引現場を押さえる為の内偵をしていた。
最近勢力を増している犯罪組織ととある企業の癒着を記者にすっぱ抜かれ、治安局にタレコミがあった。
当の記者については数日前から行方不明、まぁどこかのホロウで消されたんだろう。
取引予定場所である廃ビルの下見をしていた時だった。
無線でホロウ発生の知らせを聞き、すぐさま端末で発生場所を確認すると近くにあるTOPS傘下の企業ビルの近くだった。
瞬く間に周りの空気が変化していった。
発生したホロウに飲まれたんだ…!
不味い……!周りの一般市民は対ホロウ装備なんて持ってないんだぞ!?
『先輩!!現在地は!?すぐに市民の避難誘導をしないと!』
『分かっておる!すぐにそちらに合流する故待たれよ!』
近くで待機していた青衣先輩に無線で連絡して廃ビルの外で合流すると、既に何人かの治安官はホロウ発生地点に向かって走っていた。
「こんな所でホロウが発生するなんて……」
「惚ける場合ではないぞ、黒鐵。これより先は地獄の一丁目。市民を守れるのは我らだけだ。」
そう言って青衣先輩が預けていた武器を手渡してくれた。
「…っす。了解です!」
受け取った武器はの無骨な直刀だ。反りが無く鍔もないこの刀は学生時代から使っている物で良く手に馴染む。
周りから聞こえる悲鳴が遠くなり、集中力が極限まで研ぎ澄まされる。
……いるな。エーテリアスがこっちに近づいてくる。
「先輩、付近にいる市民の避難誘導をお願いします。接近してきているエーテリアスの相手は俺がやります。」
「ふむ、良いだろう。エーテリアスの相手は任せた。一匹足りとも逃すでないぞ!」
青衣先輩は三節棍を手に悲鳴の聞こえた方へ走って行った後、人型のエーテリアス3体が異形の刃と化した腕を振り上げて迫ってきた。
迫ってくる刃を直刀で受け流し、返す刀で胴体を切り飛ばす。
一体につき一閃、計三閃でエーテリアスを消滅させる。
エーテリアスが来た方向は、やはりホロウ発生地点にあるTOPS傘下の企業ビルだな。
TOPSは色々ときな臭い噂が絶えないし、ホロウ内から持ち出された危険物を保管しててもおかしくない。
直刀を鞘に納めてビルに向けて走り出すと、さらにエーテリアスが湧いてきた。
「邪魔だ!どけぇ!!」
迫り来るエーテリアスを片端から切り捨てて企業ビルに向い、後少しでビルに辿り着くところで異変が起きた。
20階層はくだらない高層ビルが轟音を立てて崩れ去り、内部から巨大な触手が無数に飛び出てきた。
「なん…だこれは…?」
並のエーテリアスとは比べ物にならない程の存在感。その巨体は今まで相対してきたどのエーテリアスよりも凶悪で禍々しいものだった。
見られている。
眼球などあろうはずもない、眼前の巨体から視線を感じた。
或いは殺気や悪意の様なものだったのかもしれない。
巨大な無数の触手が一斉に迫ってきた。
1本1本が重機のアームよりも太い触手をギリギリのところで受け流す。
腕に来る衝撃が半端じゃない。これは、捌き切れない…!!
体内を通して地面に衝撃を逃がす筈が、ベクトル操作の許容範囲を超えた衝撃が身体の内側をズタズタにしていく。
全身の筋肉が引きちぎれ、制服を血で染めていく中、直刀が遂に甲高い音を立てて折れてしまった。
(やばい…!)
次の瞬間に眼前に迫った触手に殴打され、近くの倉庫に向かって吹き飛ばされ、倉庫のシャッターをぶち抜いて倉庫内の荷物の山を崩しながら止まった。
左手腕の感覚が無い。
見ると二の腕から先が切断されて、血が溢れ出している。
全身くまなく痛むが、最早左腕からは痛みを感じない。
「くそったれ…」
意識が飛びそうだ。止血しないとまずい。思考が纏まらず、走馬灯が脳内を駆け巡ってきた。
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うちの家系は遡ると鍛冶師だったらしい。
父は武具の製造開発をしていて、かの初代虚狩りを輩出した星見家からも依頼を受けているみたいだった。
自分には武具を作る才能は無く、もっぱら父の打った刀や槍を振り回して遊んでいた。
何か武術を学んでいた訳ではなく、ただ何となく武器を振っていると自然と振り方が身に付いていった。
父はそんな自分を見て呆れて苦笑いしていたのを今でも覚えている。
しばらくすると、父は家を空けることが多くなった。
とある研究所に招聘されていたと後に聞いた。
なんでも、父にしか加工できない素材についての知見を求められたのだとか。
父のいない寂しさを紛らわせるかのように武器を振り続けて数年後、父から手紙と荷物が届いた。
今どき古風なものだと思いながらも手紙を読むと、近況報告と共に現在研究しているとある遺物について考察を語っていた。
製造されたのはおよそ100年前、初代虚狩りが活躍していた時期。
特殊な合金を使用しており、エーテルとの高い親和性を示している。
人一人が入れそうな柩のような見た目で、恐らく何らかのコードによって解錠が可能。
中身については、当時の対ホロウ用の装備品なのではないか。
学者というか研究者気質の父がはしゃぐ姿が目に浮かんだ。
一緒に送られてきた荷物は無骨な直刀だった。銘は『開門・護摩』。
護摩って生贄とか火とか物騒な単語使じゃねとか、開門って何を開くの?とか、父のネーミングセンスは相変わらず少年心を忘れていないようだった。
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…少し意識が飛んでいたみたいだ。
何故今になって父から直刀が送られてきた当時を思い出したのか分からない。
手元ある直刀を見ると半分から先が折れ、刀身からエーテルが漏れ出していた。
漏れ出たエーテルは薄い光となって倉庫内に線を紡いでいる。
まるで何かに導くかのように。
切断された左腕をベルトで締め上げて止血し、光を辿って歩いた。
幸いにも感覚の麻痺は続いてたのか、痛みは然程感じなかった。
倉庫内を見渡すと見覚えのあるロゴがいくつか見受けられた。
どうやらホロウ発生原因と思しき企業の倉庫みたいだ。
崩れ落ちた荷物の山の中で一際異彩を放っている物があった。
人一人が入れそうな合金製の柩のようなもの。
それからエーテルが漏れ出していた。折れた直刀と同じように。
柩の中心には細い窪みがあり、丁度直刀の刀身の幅と同じくらいに見える。
………まさか。
折れた刀身を差し込むとカチりと音がなり、そのまま鍵を開けるかのように回すと、
『解錠(アンロック)起動開始(アクティベート)』
と電子音声が流れ、柩が開いた。
何故父が研究していた遺物がここにあるのか分からないがそれよりも、
開けゴマかよ、名前そのままじゃん……。
主人公
黒鐵(くろがね)